2024 年 24 巻 3 号 p. 93-100
環状分子が機械的な結合によって拘束されたインターロック化合物の一種であるカテナンは,環の運動性の高さに由来する特異な性質を生み出すナノ材料として注目を集めている。カテナンは,環状分子の前駆体を特異的な非共有結合によって組織化する「鋳型合成法」によって効率的に合成できる。一方で筆者らは環構造そのものが単一分子ではなく,数百の分子からなる集合体からできた「ナノカテナン」の作製を実現し,その鎖構造を原子間力顕微鏡により直接観察することに成功した。ナノカテナンは,環状分子集合体の表面で次の集合体の核形成が促進される二次核形成によって形成が可能になる。本稿では,このナノカテナンの発見の経緯と二次核形成の存在を決定づけた実験,さらにナノリングの内径を狭めることによるナノカテナンの連結数の制御等について紹介する。ナノカテナンの創成は,従来のナノテクノロジーでは困難であったナノスケールとマイクロスケールの間にあるメゾスケール領域での構造制御が可能であることを物語っている。