2025 年 25 巻 2 号 p. 59-65
本論文は,平安時代の宮廷で用いられていた高度な染色技術の解明を目的とした研究の現状を報告する。古代の染織品は,現代においてもその鮮やかな色彩を保っており,その技術は失われたと考えられている。特に,延喜式に記載された「韓紅」と「黄櫨染」の2つの染色について解説する。韓紅はベニバナを用いた鮮やかなピンク色である。ベニバナは先行研究が比較的多くある。それらと江戸時代の染色法を参考に古代の染色技術の探索はある程度進んでいる。しかし,小麦ふすまの役割や染色における温度の影響など,未解明な点も残されている。黄櫨染は,ハゼとスオウを用いた黄褐色であり,延喜式に記載されている大量のスオウの使用量や,染色方法など,多くの謎に包まれており,筆者もまだ実質的な研究発表ができていない。古代の染色技術は,未だ明らかにされていない点が多く残っている。今後,さらなる実験と文献調査を進めることで,古代の染師たちがどのようにこれらの美しい色彩を作り出したのか,その謎を解き明かしていきたい。