2025 年 25 巻 9 号 p. 389-396
スフィンゴ脂質は,真核生物の細胞膜構成成分であり,細胞の分化,増殖,アポトーシスなどの生命現象に関与するシグナル分子として働くことが知られている。しかしながら,食品成分としての知見は限定的であり,その栄養学的意義については注目されてこなかった。近年,スフィンゴ脂質の健康機能性が明らかにされてきており,脂質代謝調節を介した生活習慣病に対する効果,下部消化管のがんや炎症に対する効果,認知や運動機能に対する効果などが報告されている。現在,食品に含まれるスフィンゴ脂質を素材化したものが,「食品セラミド」として注目されてきており,とくに皮膚への効果が期待され,特定保健用食品や機能性表示食品にも応用されている。一方で,スフィンゴ脂質の化学構造やその組成は,生物種によって大きく異なるため,我々は様々な化学構造のスフィンゴ脂質を日常的に食品から摂取していることになる。したがって,食品成分としてのスフィンゴ脂質のさらなる理解のためには,その詳細な分子構造と含有量や組成,消化管吸収機構,食品機能性とその作用メカニズムなどを包括的に理解することが必要である。