2026 年 26 巻 10 号 p. 397-402
トリアシルグリセロール(TAG)は食用油脂の主成分であり,その物性,栄養特性および代謝挙動は脂肪酸組成だけでなく,グリセロール骨格上の結合位置にも大きく依存する。従来,GCや逆相HPLCはTAG分子種分析に広く利用されてきたが,位置異性体や鏡像異性体に関する情報を得ることは困難であった。筆者らは2011年に,多糖誘導体系キラル固定相(CHIRALCEL OD-RHカラム)を用いたキラルリサイクルHPLC法を開発し,食用油脂に含まれる長鎖脂肪酸から構成されるTAG鏡像異性体の直接分離を初めて達成した。その後,本手法はパーム油,乳脂肪,海洋脂質および卵黄脂質へ応用され,天然油脂における特徴的な位置異性体および鏡像異性体組成が明らかとなった。その後,CHIRALPAK IF-3カラムの導入により,リサイクル操作を必要とせずに位置異性体と鏡像異性体を同時分離できるようになり,TAG異性体分析の適用範囲は大きく拡大した。近年は,チェコおよびフィンランドの研究グループによる体系的な研究も実施されるようになり,TAG鏡像異性体の分離挙動に関する理解も大きく進展した。本総説では,TAG異性体分析の歴史を概説するとともに,2011年以降のキラルHPLCによるTAG鏡像異性体分析の進歩,天然油脂への応用および今後の展望について解説する。