抄録
生体系では, 多数の分子・高分子が非共有結合的な相互作用によって組織化しており, 同種あるいは異種の分子や原子団 (官能基) が集合・配列化すると同時にそれらが動的かつ協同的に働くことにより, 単独の分子が持ち得ない高次の機能を発生せしめている。意図した順序や間隔で分子を並べることができれば, bottom-up型のナノテクノロジーへの大きな貢献が見込まれる。天然の光合成システムでは適切な間隔と配向でポルフィリン類縁体が空間配置することで, 高効率な光エネルギー移動を可能にしている。従って, 蛍光性クロモフォアをエネルギー順位の順で空間的に配置させれば, 天然の光合成システムに倣った人工光合成システムのモデルが構築できると考えられる。DNAは相補的水素結合による高い認識能と結合能を有し, そのシーケンスを変化させることにより容易に結合基の組み合わせ (binding donor, binding acceptor) を調製できるので, 分子と分子をプログラマブルに配列化させる「分子のり (molecular glue) 」として, 自己組織的にナノメータースケールの分子組織体を構築するのに極めて有効である。筆者らは, こうしたDNAの特性を利用してクロモフォアモデルとして芳香族化合物をコアとして2本のoligo-DNA鎖を逆方向に伸長したoligo-DNAdimerを用いて一次元の多重会合体を構築することに成功した。また, 末端を蛍光性クロモフオアで修飾した10残基oligo-DNAと30-40残基のマトリックスDNAを用いることにより, シーケンシャルなクロモフォア・アレイを構築し, そのクロモフォア問での多段階の光エネルギー移動が起こることも確認した。こうしたoligo-DNAとクロモフォアからなる分子組織体は, 人工光合成システムのモデルとしての光エネルギーの伝達・変換システムの構築やナノメータースケールの機能分子組織体構築に有用であろうと考えられる。