抄録
アシルアミノ酸塩の諸物性における対イオンの影響について, キラリティーの効果が現れる現象を中心にまとめた。まずアシルアミノ酸塩のクラフト温度に対する, アミノ酸側鎖と対イオンのサイズの影響について検討した。アシルフェニルアラニンを除くと, これらのサイズが増大するにつれアシルアミノ酸塩のクラフト温度は低下することがわかった。アシルアミノ酸塩のクラフト温度は, 光学活性体とラセミ体問で異なる結果を与えるが, 対イオンのイオンサイズが大きくなるにつれ, 水和固体中での優勢相互作用が, ヘテロキラルからホモキラルへとシフトすることがわかった。つぎに光学活性塩基を対イオンとした, ジアステレオマー型アシルアミノ酸塩の状態図について検討した。ジアステレオマー塩の形成によるキラル分割には, 結晶中でホモキラルが優性になる必要があるが, ここでも対イオンとアミノ酸側鎖の大きさが影響を与えることがわかった。さらに一部のアシルフェニルアラニン塩において, ミセル形成以前の低濃度において大きな会合体の成長を確認した。この会合体成長はカリウムイオンを対イオンとする場合のみ起こる現象であり, またアシルフェニルアラニンのラセミ体の系ではこのような会合体成長は見られないことが分かった。