オレオサイエンス
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特集総合論文
マレーシアパームオイル産業での環境改善と地球温暖化防止戦略の中のCDM
白井 義人
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2006 年 6 巻 10 号 p. 525-533

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抄録
現在, マレーシアは世界最大のパームオイル産油国である。パームオイルの需要も今後とも増え続けると予想される。パームオイル産業は食用油を生産するばかりでなく, 空房 (EFB) やパームオイル廃液 (POME) をはじめとする膨大な量のバイオマスが副生される。一般に, POMEは広大な嫌気性処理池 (ラグーン) で処理されているが, ここからは大量のメタンが, 効果的に利用されることなく大気に放出されている。メタンは地球温暖化ガスである。そのため, メタンの大気への放出は削減されねばならない。京都議定書では, クリーン開発メカニズム (CDM) と呼ばれる, 先進工業国と開発途上国が共同して途上国での温暖化ガス削減事業が奨励されている。パームオイルのプランテーションはもともと大きな炭酸ガスの吸収源であるが, それに加え, パームオイル産業の廃液処理を近代的なメタン発酵システムを導入することにより, さらに多くの地球温暖化ガスの削減が期待できる。他方, 地球温暖化ガス削減戦略の一環として, 化石資源への依存性を低減させる意味から, 日本政府はバイオマスの導入に注目している。マレーシアでは経済成長に伴い, 熱帯雨林の開発によるパームプランテーションの開発はもはや経済的に成立しなくなりつつある。将来的なパームオイルの需要増加に応えるため, パームオイル産業は他の産業との連携が重要である。CDMにより広大なラグーンを用いた廃液処理システムを近大的なメタン発酵システムに換えると, 広大なラグーン跡地が利用可能になる。CDMにより, メタンを発電に利用することができるし, このエネルギーはパームオイル産業から副生されるバイオマスから, エタノールやポリ乳酸, 有機酸といった高付加価値な製品を製造する際に利用可能である。このような環境保全戦略はパームオイルを生産できる赤道周辺の開発途上国の貧困からの脱出に応用可能となるのではないだろうか。
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© 2006 公益社団法人 日本油化学会
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