オレオサイエンス
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総合論文
網膜機能におけるドコサヘキサエン酸 (DHA) の役割
小林 哲幸
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2006 年 6 巻 2 号 p. 77-83

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抄録

n-3系列脂肪酸のDHAは, 脳や神経組織のほか, 網膜に豊富に存在する。n-3欠乏食の摂取によってDHAが減少すると, 視覚機能に障害がでることが, 実験動物やヒトの胎仔 (児) で観察されてきた。では, どのようにDHAは網膜の構造や機能に関わっているのであろうか?n-3脂肪酸欠乏のラット由来の桿体外節では, Gタンパク質共役受容体を介する視覚のシグナル伝達系の感受性が低下していることが, 最近の研究によって示された。n-3脂肪酸欠乏膜では, リン脂質の脂肪酸鎖が高度に整列して自由度が低くなっていることも示唆された。したがって, DHAは膜の物性を最適化して, 膜結合受容体の活性化とその後のシグナル伝達を促進していると考えられる。また, DHAはロドプシンの再生にも役立っていると思われる。一方, DHAから作られる神経防御因子がヒト網膜色素上皮細胞から単離され, 10, 17S-ドコサトリエン (Neuroprotectin D1) と同定された。結論として, n-3系列脂肪酸は視覚シグナル伝達においてたいへん重要な機能を果たしており, さらには, 網膜色素変性などの網膜疾患を防ぐ作用も期待されている。

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© 2006 公益社団法人 日本油化学会
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