抄録
無意識的に観察した他者の行動と同じ行動をとってしまう同調傾向は,他者の心的理解(Gallese & Goldman 1998)や向社会行動の促進(Chartrand & Bargh 1999)など,ヒトの社会生活で重要な役割を果たすことが知られている。近年,ヒトと同様にヒト以外の霊長類も他者のあくびを観察するとそれが伝染することが報告されているが(Anderson, Myowa-Yamakoshi & Matsuzawa 2004),自分が別の行動をしている際に他者への同調傾向がどのように影響を与えるのかについてはまだよくわかっていない。
そこで本研究ではチンパンジーを対象に,見本合わせ課題を用いて自分が行う行動が他者の行動観察によってどのように影響をうけるのかについて調べた。まず単純な見本合わせ課題を訓練した後,テスト試行では見本刺激を触った後比較刺激の提示前に,他個体(もしくは非生物)が正解刺激(もしくは不正解刺激)を選択している映像を提示し,その後比較刺激を選択させた。映像の観察がいかに正解刺激の選択に干渉/促進の影響をあたえるかを調べるために,テスト試行での正答率と反応時間を分析した。
その結果,チンパンジーは他者の行動の運動方向ではなく選択した刺激そのものにより影響を受けることがわかった。またその効果は,非生物の動きよりも,同種他個体の動きを観察した方が大きいことが示された。これらの結果から,チンパンジーはあくびなどの単純な行動だけでなく,刺激選択行動といった目的志向的な行動を観察した際にも同調傾向が見られ,かつその影響は行動の方向よりも目的により大きな影響をうけることが示唆される。さらに,観察対象が生物的な刺激により強い影響をうける可能性が示唆された。