抄録
ケニヤ共和国を南北に走る東部大地溝帯の東のへりに位置するナカリ地域からは大型類人猿Nakalipithecus nakayamaiを含む後期中新世の動植物化石が多数採集されてきた。日本隊の調査によってナカリ動物相には少なくとも2種の非オナガザル上科小型狭鼻猿が含まれていることがわかっていたが,2008年の野外調査によって,さらにそれら2種とは別の小型狭鼻猿が採集された。
ナカリにおいては,ナカリ累層下部層の最上部と上部層が化石を産出している。従来,下部層と上部層からそれぞれ1種ずつ小型狭鼻猿が見つかっていた。上部層では,Nakalipithecusの模式標本が採集されたNA39地点から小型狭鼻猿の下顎片が1個見つかっていた。2008年にNA39地点で実施した発掘によって小型狭鼻猿の下顎遊離歯2個を発見したが,これらはサイズ・形態の両面で従来ナカリから産出した小型狭鼻猿とは異なるものであった。
新たにNA39地点で発見されたのは,下顎第一・第二大臼歯である。M1は咬耗が大幅に進んでおり,M2もかなりすり減っている。従来NA39地点から知られていた小型狭鼻猿とくらべると,大臼歯のサイズが大きく,歯冠が比較的近遠心に長く幅が狭いなど,明らかに別種である。
歯冠が比較的長いという点では,下部層(NA3地点)から知られていたもう1種の小型狭鼻猿に似るが,後者は2008年の新標本に比較してサイズが小さく,また咬合面の稜線の発達がよいという点で異なっている。
2008年の発見によって,ナカリ動物相には少なくとも3種の非オナガザル上科小型狭鼻猿が含まれていることになり,大型類人猿や旧世界ザル類と合わせて,当時のナカリの霊長類相の多様性が非常に豊かであったことを示唆する。