抄録
本研究は,倉橋惣三の保育理論における「相互的生活」とは何かを明らかにするものである。1914〜1953年の倉橋の著述を分析した結果,(1)相互的生活は子どもの友達への欲求を満たすために必要である,(2)相互的生活とは対等で交渉的な子ども同士の生活である,(3)相互的生活による教育では個性が尊重され教育の対象が群とされる,(4)相互的生活による教育ではおのずと沸き起こる子どもの心もちに価値を置く,(5)相互的生活により関係の中で生きる人間の下地が耕されるという五つの考えが明らかになった。よって,倉橋の相互的生活論は,槇山栄次や城戸幡太郎の共同性養成を目的とする教育論とは異なる,関係論的視点による教育論だと考察された。