運動疫学研究
Online ISSN : 2434-2017
Print ISSN : 1347-5827
総説
労働衛生と体力科学
松尾 知明
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2015 年 17 巻 2 号 p. 81-89

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抄録

本邦の体力科学研究は労働衛生との繋がりの中で発展してきた一面があるが,最近は“労働者の体力”を主要テーマに掲げる研究は少ない。しかし,現在の我が国が抱える重要課題の1つ“少子高齢化・人口減少”の問題を考えるにあたり,労働衛生と体力科学の繋がりを再認識することは重要である。習慣的な運動実践が身体に好影響を及ぼすことを分かっていても,現代に生きる忙しい労働者にとって,その実践は難しい。その一方で,職務時間の大部分を座位で過ごすような働き方をする人は増えている。どのようなアプローチが可能だろうか。労働衛生としては特殊な例であるが,宇宙飛行士の健康リスク軽減策は,生活習慣病対策を考えるうえで参考になる。多忙な宇宙飛行士が他の時間を削ってまで運動時間を確保するのはなぜか。体力低下が彼らの生命を脅かすためである。体力低下が健康や生命を脅かすリスクとなるのは,宇宙飛行士に限った話ではない。宇宙飛行士に職務として認められている“職場での運動”を,我が国の企業などに拡げることはできないだろうか。多くの労働者が長い時間を過ごす職場を“健康増進の拠点”にできれば,各企業だけでなく,国力の観点からも,意義ある取り組みとなる可能性がある。「長く,元気に働くこと」 を目指す社会に,体力科学が果たすべき役割は大きい。

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© 2015 日本運動疫学会
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