日本顎口腔機能学会雑誌
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原著論文
口腔への味溶液刺激がもたらす随意性嚥下への効果
畠山 文中村 由紀真柄 仁辻村 恭憲谷口 裕重堀 一浩井上 誠
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2014 年 20 巻 2 号 p. 106-114

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抄録
味覚刺激が嚥下運動にどのような変化を与えるかについて調べることを目的として,異なる濃度の塩味またはうま味溶液を口腔内に微量注入した時の随意性嚥下運動を記録した.健常成人29名を対象として,出来るだけ早く繰り返し嚥下するよう指示し,その際に咽頭または口腔への溶液刺激(0.2mL/min)を与えた.咽頭への溶液刺激は蒸留水または0.3 M NaCl溶液とし,口腔への溶液刺激は蒸留水または3種類のNaイオン濃度(6 mM,40 mM,240 mM)のうま味溶液(モル濃度比2対1のグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウム混合溶液),うま味溶液と同濃度のNaイオンを含むNaCl溶液とした.測定開始後4から9回目までの各嚥下間の平均時間を嚥下間隔時間として各条件間で比較した.NaCl溶液,蒸留水いずれの咽頭刺激においても嚥下間隔時間の顕著な個人差が認められた.NaCl溶液刺激時の嚥下間隔時間は蒸留水よりも有意に長く,咽頭の水受容器による嚥下反射誘発促進効果,NaCl溶液による水受容器応答の抑制が確認された.さらにNaCl溶液刺激時の嚥下間隔時間が長い被験者ほど蒸留水刺激による随意性嚥下の促進効果が高かった.一方,口腔への溶液刺激では,うま味溶液刺激時のみ蒸留水に対して有意な短縮を認めた.随意性嚥下能力の高い順から上位群,中位群,下位群ごとに嚥下間隔時間の変化を調べたところ,上位群,下位群では各溶液の濃度の違いによる有意な差は認められなかったのに対して,中位群のみ溶液濃度が高くなるに従って嚥下間隔時間の短縮を認めた.以上の結果は,中位群におけるうま味成分がもつ随意性嚥下への促進効果を示唆するものである.随意性嚥下誘発能力の個人差をもとに,末梢入力に対する嚥下運動誘発の時間間隔を比較したところ,咽頭刺激時とは異なっていたことから,口腔への味覚刺激がもつ嚥下中枢への効果は単なる加重効果として捉えられず,その効果の作用機序の理解に向けてはさらなる議論が必要である.
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© 2014 日本顎口腔機能学会
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