抄録
急性上行大動脈解離の心嚢内破裂による急死は時に遭遇するが,その破裂急死時の心電図を捉えることはめずらしい.本症例は手術直前に急死した1例の心電図経過を捉えたものである.症例は38歳,生来健康の自覚にて受診歴のない男性.突然の背部痛が出現し,緊急入院となる.患者は長身で心基部から心尖部にかけてto and fro murmur3/6度を聴取,血圧に左右差はなく両側大腿動脈も触知した.心電図は洞頻脈,ST・T変化あり.胸部X線写真では大動脈の拡大を認めた.WBC14,100/mm3,CK20IU/dl,CRP0.2mg/dl.尿所見は異常なし.超音波検査ならびに造影X線CTにて,大動脈弁逆流を合併した解離性大動脈瘤DeBakey I型と診断した.その翌日手術と決定するも,手術室入室2時間前の早朝5時50分に急変.モニターでは洞調律から接合部調律を経て1,2分後には完全房室ブロックとなり,その後すぐに心停止へ移行した.蘇生を試みるも効果なかった.病理解剖では心タンポナーデと,腎動脈レベルまでの解離があり,また,房室結節付近に血腫を認めた.急死時の心電図経過を捉えることができたので,文献的考察を含め報告する.