理科教育学研究
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原著論文
近年の理科教育における自然災害の取扱いの現状と課題
―平成に発生した自然災害と学習指導要領改訂等から捉えた理科教育への影響―
佐藤 真太郎藤岡 達也
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2020 年 60 巻 3 号 p. 569-577

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抄録

近年,理科教育としても頻発する自然災害に対して無視することができず,様々な取組が見られる。本稿では,平成以降の自然災害の発生を受け,理科教育界ではどのような対応がされたのかを分析し,その現状と今後の方向性を探った。その結果,以下のことが明らかになった。平成10年告示学習指導要領は,学習内容の全体的な精選により,実質的には自然現象を取扱う時間が減った。平成20年告示学習指導要領では,理科教育における自然災害の取扱いを,人間生活との関わりの中でも捉えるように拡大した。これはOECD・PISA2000年調査以降の科学的リテラシーを育成する視点の定着,国連防災世界会議やUN/DESDなどの国際的な動向が影響している。平成29年告示学習指導要領では,理科教育と防災教育との関連性に一層の充実が見られる。また,カリキュラム・マネジメント的な視点で「災害」を捉える見方が明確化された。これらの分析・考察から3つの課題が見える。一つは,理科教育の中で扱う自然災害に関連した内容が,人間生活との関連性を重視するため,従来,社会科で学習していた「災害を防ぐ社会の仕組み」などの内容と重複する部分が増え,理科と社会における自然災害の取扱いの連動性が求められる点である。二つ目は,文部科学省内において,教科を取扱う部局と学校安全(災害安全)を取扱う部局が異なっているため,教育現場において,理科や社会などの教科による学習内容と災害安全とが繋がっていない現状の改善である。三つ目は,日本の貢献が考えられる国際的な動向から国連の「持続可能な社会を築く」という目的の中で,防災教育はESDとも強い関連があり,理科教育の内容・方法を中心とした取組はSDGsとも大きく関わる。理科教育学においてもこれらの課題に取り組むことが,今後の日本国内における自然災害の防災教育を前進させるために必要である。

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© 2020 日本理科教育学会
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