抄録
2-n-Octyl-4-isothiazolin-3-one(OIT)は接触性皮膚炎の症例が国内外で報告されているisothiazolinone系抗菌剤(防腐剤)である。Kawakami らはポリビニルアルコールタオルで高濃度のOITを検出している(Journal of Environmental Science and Health, 2014)。今回、OITがZn2+依存性細胞毒性を示すことをラット胸腺細胞で見出したので報告する。実験には8―12週齢ラットから調製した胸腺細胞浮遊液を用いた。OITの細胞毒性に関係すると考えられる細胞膜・細胞内動態変化については蛍光プローブ(propidium iodide、FluoZin-3-AM、5-chloromethylfluorescein diacetate、annexin V-FITC)を用いてフローサイトメーターで計測し、以下の結果を得た。尚、OITの細胞処理時間は1時間とした。(1)OITは1―3µMでは細胞生存率には影響を与えなかったが、細胞内Zn2+濃度を時間・用量依存性に上昇させた。(2)細胞外Zn2+除去条件ではOITによる細胞内Zn2+濃度上昇は強く抑制された。(3)OITによる細胞内Zn2+濃度変化は細胞内外Zn2+濃度勾配に依存した。(4)OITによる細胞内Zn2+濃度上昇は冷温下(2―4ºC)では著明に抑制された。(5)ZnCl2(1µM以上)とOIT(0.3µM以上)の組み合わせを細胞に適用すると細胞内非タンパクチオール量は著明に低下した。(6)ZnCl2とOITの併用による細胞内非タンパクチオール量低下はZn2+キレート剤により抑制された。(7)ZnCl2(3µM)とOIT(0.3µM)の併用では正常性細胞は減少し、annexin V陽性生細胞(細胞膜表面でphosphatidylserineが露出した細胞/アポトーシス初期生細胞)が増加した。(8)ZnCl2とOITの併用によるannexin V陽性生細胞の増加もZn2+キレート剤により抑制された。以上の実験結果から、OITは「サブマイクロモル濃度で温度感受性Zn2+透過経路が関与するZn2+依存性細胞毒性を誘発する」ことが示唆された。細胞内Zn2+については多様な生理的機能が知られているので、細胞内Zn2+恒常性に影響を与えるOITは他細胞でも細胞毒性を示す可能性が考えられる。