日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-1
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一般口演
BRAF阻害薬vemurafenibによる皮脂産生の二方向制御にはMAPK経路の活性化が関与する
*小岩井 利一佐藤 隆
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抄録

【目的】分子標的薬であるvemurafenibはMAPK経路のBRAFを阻害することで抗腫瘍活性を示すが、副作用としてざ瘡様皮疹や乾皮症などの皮膚障害を引き起こす。ざ瘡様皮疹や乾皮症は皮脂腺機能異常に起因することから、これら副作用は皮脂腺への薬物の影響によるものと推察される。本研究は、ヒト皮脂腺代替モデルのハムスター脂腺細胞においてvemurafenibによる皮脂産生調節を細胞内情報伝達経路の観点から検討した。【方法】ハムスター脂腺細胞における皮脂産生はNile Red染色法、脂肪滴形成はOil Red O染色法、皮脂産生調節酵素のSCD-1とDGAT-1および脂肪滴形成因子のperilipin 1の発現はRT-PCR法、ERKのリン酸化はウエスタンブロット法により解析した。【結果】Vemurafenibは恒常的な皮脂産生を抑制したが、既知の皮脂産生促進因子であるinsulinにより促進された皮脂産生を増強した。また、insulinにより増加したSCD-1、DGAT-1およびperilipin 1遺伝子発現もvemurafenibにより増強した。逆に、同促進因子の5α-dihydrotestosterone (5α-DHT)またはprogesterone (P4)により増加した皮脂産生とSCD-1およびperilipin 1遺伝子発現はvemurafenibにより抑制された。一方、vemurafenibはERKのリン酸化を促進した。そのリン酸化はinsulin存在下ではvemurafenibにより不変または増加する傾向を示し、5α-DHTとP4存在下では有意に増強した。また、MEK阻害剤のU0126はinsulinとvemurafenibにより増加した皮脂産生を減少させ、5α-DHTまたはP4とvemurafenibにより減少した皮脂産生を増加させた。【考察】脂腺細胞においてvemurafenibは皮脂産生促進因子に応じて皮脂産生を増加または減少させることが示唆された。さらに、その二方向制御はvemurafenib誘導性ERKリン酸化レベルに依存することが判明した。したがって、vemurafenibによるERKリン酸化促進がざ瘡様皮疹や乾皮症といったその薬剤誘発性皮膚障害の発症に関与する可能性が示唆される。

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