主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
ヒトiPS細胞由来心筋細胞の創薬応用に向けて、昨今、分化心筋細胞を成熟化する技術が注目されている。成熟化技術の一つに、微弱電流を分化心筋に印加して人工的に活動電位を惹起する手法があるが、その成熟化過程を調節する分子機構はほとんど分かっていない。そこで、我々は、分化心筋の細胞特性に対する定電圧刺激の影響を分子レベルで理解することを目的とし、シート状に播種した市販ヒトiPS細胞由来心筋細胞に対して人工的な微弱電流を印加し電気的および形態的性質を解析した。方法は、市販ヒトiPS細胞由来心筋細胞 (iCell-cardiomyocytes2, CDI Fujifilm) をフィブロネクチンでコートした基材上に播種して2次元高密度シートを形成し、細胞シート直上に設置したカーボン電極で定電圧ペーシング刺激(3 V/cm、1 ms、1 Hz)を持続的に印加した群と非刺激control群の性質を比較した。はじめに倒立顕微鏡にて自律拍動する細胞を観察した。さらに、電気刺激開始1週間後の細胞については、35mmディッシュに再播種し、パッチクランプ法により活動電位を測定した。機能解析後は、α-actinin抗体を用いた免疫染色によりサルコメアの構造を解析した。結果、拍動数の解析において、ペーシング刺激群は非刺激control群と比べて変化はなかった。また、1週間の電気刺激により、活動電位の最大拡張期電位もしくは静止電位が7.3 mV深くなり、活動電位幅 (APD50) は33%延長したが (非刺激群 n = 16, 刺激群 n = 26)、サルコメア形態では明らかな変化はなかった。以上より、ヒトiPS細胞由来分化心筋細胞の持続的電気刺激による成熟化の過程では、電気的性質が形態的性質に先んじて変化することを示した。今後は、電気的もしくは形態的性質の変化を特徴づける成熟化因子を解析・同定することにより、心筋成熟化過程の分子的背景の理解に結びつけたい。