コンクリートは最も重要な構造材料の一つであり,繰返し荷重の作用を受けるのが通例である。最大荷重と疲労寿命の関係については数多くの実験的研究によって長い間研究されているが,繰返し荷重による損傷機構あるいは損傷過程については未解明な部分がほとんどと言えるのが現状である。本論文は,疲労損傷のメカニズムを考察し,その損傷過程を表現し得る理論モデルを構築するための一つの考え方を示そうとするものである。疲労損傷過程を3つの段階に分類して,各段階の損傷機構を破壊力学的視点から考察する。さらに損傷モデルに基づいた変形理論曲線を求め,実験結果と比較検討する。3つに分類された損傷過程の第1段階は,クラック発生過程であり,大きな粗骨材や乾燥収縮クラックまわりに生じた局所集中応力によって蓄えられたひずみエネルギーは,ボンドクラックやモルタルクラック等のメゾレベルのクラック発生によって容易に解放される。しかしながら,これらのクラックは周囲の骨材や応力場の変化によって伝播を阻止される。このクラック発生過程は,供試体内の至る所で次々と起り局所的に集中した高ひずみエネルギーが解放される必要のなくなるまで続く。この段階のひずみは,その原因となるクラックの発生および伝播阻止過程が粗骨材の幾何学的形状や配置に強く依存するために大きなバラツキを示す。第2段階においては,マトリックス部分自身の非均質性のためにセメントペースト内に微細クラック(ボイドクラック)が生じる。これらの微細クラックはマトリックス内にゆっくりと累積されるので,第2段階における疲労損傷過程は一種の応力依存型速度過程と考えられる。したがって第2段階のひずみ速度はL_2σ^βに比例するものと考えられる。第3段階における疲労損傷過程は,第1段階で発生したボンドクラックやモルタルクラックを連結するクラックの伸展によるものと考えられる。クラック先端における応力拡大係数は,クラックの伸展とともに増大するので主要なクラックの伸展が第3段階の力学的挙動を支配する。疲労寿命は,第2段階におけるひずみ速度に反比例するものと思われるので,第2段階におけるひずみ速度をモニターする事によって疲労寿命を予測する事が可能と考えられる。
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