源流
Print ISSN : 1345-3610
1999 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集
  • 土居 洋文
    1999 年 1999 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 1999年
    公開日: 1999/10/01
    ジャーナル フリー
    自然界では「非対称性が機能を生み出す」との基本的考えに立脚して、「生命における非対称性の役割」という観点からプロジェクトを進めている。非対称な細胞分裂だけでなく、特に、染色体DNA、中心粒、文字列がもつそれぞれの非対称性に注目している。例えば、2本鎖DNAには複製時に連続鎖、不連続鎖の非対称性があるが、連続鎖を合成するDNA合成酵素はDNA伸長が良く、不連続鎖を合成するDNA合成酵素は読み止まりが多いと考えられ、これらDNA合成酵素の性格をアミノ酸配列(文字列)の非対称性から探ろう、と試みている。また、染色体DNAや中心粒は半保存的複製を行う。すなわち、時間の観点からすればこれらは新旧の非対称性を持っており、1回1回の細胞分裂が非常に重要であることを意味する。そこでマウス初期発生において胚盤胞期まで1回1回の細胞分裂による遺伝子発現の変化を捕らえることを試みている。さらには、出芽という非対称分裂を行う出芽酵母菌を使って、1回1回の非対称分裂の後にくる細胞老化を、ゲノムレベルからDNAアレイを用いて進めている。
  • 石野 史敏
    1999 年 1999 巻 1 号 p. 5-12
    発行日: 1999年
    公開日: 1999/10/01
    ジャーナル フリー
    われわれの身体を構成している細胞は、父親と母親から同じ遺伝子のセット(ヒトゲノム)を1つずつ受け継いでいる。しかし、個体発生の過程において、父親由来のゲノムと母親由来のゲノムは異なった役割を果たしている。それは各々の細胞において父親から、または母親から受け継いだ時のみ働く遺伝子の存在に起因している。大変興味深いことに、このような遺伝子は高等脊椎動物では哺乳類だけに存在が確認されている。これは哺乳類だけが子供を母親の体内で育てるという胎生という発生機構を採用していることとも関係があると思われる。上述の遺伝子を「由来した親の性別の記憶が刷り込まれた」という意味でインプリンティング遺伝子と呼び、この特殊な遺伝子発現様式に起因する様々な表現型のことをゲノムインプリンティング現象と呼ぶ。われわれの研究の最終目標はこの現象の裏にある本質的な事柄は何であるかを明らかにすることであり、「インプリンティング遺伝子は胎盤で発現されるように制御された遺伝子群である」というのがわれわれが提唱している新しい仮説である。
  • --- 細胞の斉一層形成能とパキシリン ---
    佐邊 壽孝
    1999 年 1999 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 1999年
    公開日: 1999/10/01
    ジャーナル フリー
    上皮間充織細胞においては、その形質転換に伴ってカドヘリンの発現低下とインテグリンの発現上昇が観察される。本研究ではまず、当該細胞の形質転換における細胞接着性変化の分子機構を明らかにするために、カドヘリンとインテグリンの裏打ちタンパク質群について検討した。その結果、インテグリンの活性化に伴って2種のタンパク質でのチロシンリン酸化の亢進が観察され、最も顕著な変化を呈したタンパク質としてパキシリンが同定された。パキシリンのリン酸化部位の変異体cDNAを細胞に発現した際の効果を検討した結果、パキシリンのチロシンリン酸化が、この形質転換に伴う細胞運動性変化をもたらす主要因子であること、その複数部位のチロシンリン酸化が協調することにより細胞同士の「接触による増殖阻止」と「接触による運動性阻止」とを制御することを明らかにした。さらに、上皮細胞においては、パキシリンの複数部位のチロシンリン酸化による制御を乱すことにより、細胞同士が十分接触していてもカドヘリンを介した細胞間接着が正常には形成されないことも明らかにした。
  • 濱田 博司
    1999 年 1999 巻 1 号 p. 21-27
    発行日: 1999年
    公開日: 1999/10/01
    ジャーナル フリー
    体が正しく作られるための設計図の最も基本になるのは、三つの体軸(頭尾、背腹、左右)の決定である。脊椎動物は、心臓・脾臓・胃など多くの左右非対称な臓器を有するが、これは胚発生の過程でどのような機構(分子)で決定されているのか? 左右軸決定の機構は、発生学の領域において未だ殆ど手を付けられていない問題であり、数年前までその分子機構は全く不明であった。われわれは最近、leftyと呼ぶ胚の左側半分のみで発現される新規TGFβ superfamilyを同定した。様々な点からleftyは左右軸の決定で中心的役割を果たすMorphogenであると予想され、左右軸を決定している遺伝子プログラムを解明するための絶好の突破口となると予想された。われわれは、leftyを突破口として左右の位置情報の伝達・確立機構を分子レベルで解明するために、下記の研究を進めているので現在までに得られた成績を紹介する。 すなわち、1)遺伝学的手法によって、左右軸決定におけるleftyの役割を調べる、2) leftyの持つ誘導活性・作用機構を解析する、3) leftyタンパク質に対する受容体を同定し、位置情報の伝達機構を解析する、4) lefty遺伝子自身の発現制御領域を解析し、左右非対称な発現をもたらす機構を決定する。
  • 池田 穣衛
    1999 年 1999 巻 1 号 p. 28-35
    発行日: 1999年
    公開日: 1999/10/01
    ジャーナル フリー
    神経細胞には外的・内的異常要因による侵襲から自らを防御する機能、即ち神経細胞に特異的なアポトーシス抑制機構が存在していると考えられ、神経変性疾患原因遺伝子の研究を通して神経変性症の病態解明と予防医療・治療法開発の糸口が得られることが期待される。このような観点に立って研究を進めた結果、私達は脊髄前角のα運動ニューロンの選択的変性脱落を主病変とする脊髄性筋萎縮症(SMA)の原因候補遺伝子の一つとしてNeuronal Apotosis Inhibitory Protein(NAIP)の単離に成功し、本遺伝子産物が細胞死(アポトーシス)を抑制することを見出した。NAIPはBcl-2 familyに属さない新規のアポトーシス抑制因子であり、SMAにみられる運動神経の選択的な変性における神経細胞の特異的なアポトーシスの抑制機構において重要視される。このように、本遺伝子は脳神経細胞ならびに広範囲の細胞死に対して抑制活性を示すことから、SMAの分子機構解明とその防御法開発に寄与する重要な遺伝子であると考えられる。
  • 山元 大輔
    1999 年 1999 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 1999年
    公開日: 1999/10/01
    ジャーナル フリー
    動物の行動を律する脳神経細胞(ニューロン)の働き方を指南する遺伝子がどのような情報をそれぞれのニューロンに与えるのかを解明するために、突然変異を誘発したキイロショウジョウバエの性行動を指標として遺伝学的解析を行った。その結果、性行動に異常が発現した変異体を分離することに成功したが、その中で同性愛変異体satoriは雄の不妊変異として報告されていた遺伝子座fruitlessに起こった変異であることが判明した(fruitles-ssatoriと呼称)。本変異体には性指向性の他にもう一つの異常、即ち、雄成虫にだけ存在する雄特異的筋肉(ローレンス筋)の欠損が認められた。ローレンス筋形成の成否は筋細胞そのものの性に依存せず、それを支配する運動ニューロンの性によって決まると考えられる。性指向性を決めているのは脳の神経網であるので、fruitless遺伝子が神経細胞の性決定因子であるとすれば、性行動の異常と筋形成の異常とを一元的に理解可能である。fruitles-ssatori 変異体への正常型fruitless遺伝子の導入実験結果から、私達がクローニングしたこの遺伝子こそ行動や筋形成異常に対応する遺伝子であると断定した。
  • 鍋島 陽一
    1999 年 1999 巻 1 号 p. 43-50
    発行日: 1999年
    公開日: 1999/10/01
    ジャーナル フリー
    老化に伴う疾患を克服することは人類の有史以来の願望であり、多くの試みが積み重ねられてきた。とりわけ、最近の進展はめざましく、その突破口が開かれようとしている。我々は挿入突然変異によって多彩な老化症状を呈する Klotho マウスを樹立し、原因遺伝子 Klotho を同定した。遺伝子は、腎臓、中枢神経系で発現しているが、骨、皮膚、胃などの強い変異症状が観察される臓器で Klotho 遺伝子の発現が観測されず、Klotho 蛋白の機能を伝える液性因子の存在が示唆された。ヒト相同遺伝子は同様のI型膜蛋白質と分泌型蛋白質をコードしている。Klotho がターゲット組織、分子に結合し、機能していることが推定されるが、Klotho が β-Glucosidase に相同性が高いことから、活性酸素によって不活性分子の活性化に関わる可能性も残されており、検討中である。ヒトKlotho遺伝子座(13q12)に変異を持つ遺伝性疾患の存在や遺伝子多型については特筆すべき変異を見いだしてはいない。しかし、Klothoマウスの変異表現型と類似の症状をもつ腎透析患者においてKlotho遺伝子の発現が顕著に低下している。この事実はヒトにおけるKlotho遺伝子産物の重要性を示唆していると思われ、今後の発展が期待される。
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