平成18年の給与構造の見直し以降,地方公務員の平均給料月額は総体的に抑制基調で推移している.しかし,公務員給与の低下がもたらすデメリットのひとつと考えられる汚職の発生について十分な検討が重ねられてきたとは言い難い.
わが国において公務員給与と汚職を扱った研究は皆無といってよいが,海外では多くの実証研究が存在し,それらの分析によれば,公務員賃金が高いほど汚職が減少することが指摘されている.そこで,本稿では,海外での研究を踏まえ,わが国でも地方公務員の給与水準と汚職との間に関係性が見られるかを検証し,また,汚職の再発防止策が有効に機能しているかもあわせて吟味した.
分析の結果,市部では,給与水準が高い団体ほど汚職事件及び汚職事件のうち横領事件の発覚確率が低下する傾向が見られた.しかし,仮に汚職事件や横領事件の発覚確率がそれらの発生確率と同一視できたとしても,汚職や横領の発生を抑制する効果は非常に小さいことが示された.また,再発防止策のうち事務執行方法の改善は,汚職事件及び横領事件の発覚確率の減少に寄与することが判明した.他方で,町村部では,給与水準や再発防止策の有無は汚職事件の発覚確率に有意な影響を与えていなかった.見方を変えれば,地方公務員給与の削減によって汚職の発生が懸念されたとしても,その程度は限定的であり,再発防止策を充実させることで汚職を防ぐことができると思われる.
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