【はじめに】 提供数増加のために臓器移植法は改正され本人の拒否がなければ家族の希望で提供が可能となり,家族希望症例は増加している。しかしながら提供症例の多い救急医療現場の医師を含めた医療スタッフは多忙であり,臓器提供への取組みは困難なことが多い。そのため今回救急現場における臓器提供シミュレーションを行い,脳死診断を含め臓器提供に対する理解度を検討した。
【方法】 脳死診断を受けた2例の脳死下臓器提供シミュレーションを1年間の期間を設けて施行した。最初の1例目のシナリオは内因性疾患による脳死患者であり,1年後の2例目は外因性疾患による脳死患者を設定した。そして参加者にはシミュレーション参加後にアンケート調査(理解度と自由意見)を行い,シミュレーションの効果を調査した。
【結果】 最初のシミュレーションでは臓器提供への意義や脳死診断そして全体の流れすら理解を欠いていた。しかし2例目では家族ケアやドナー管理を含め,患者の代弁をした家族希望を医療機関全体でどのように扱うべきかについての検討も行われ,より家族ケアと医療機関としての管理が臓器提供プロセスの重要なポイントであることが理解された。
【議論と結論】 これまで,我が国においては救急医療現場における終末期医療や家族ケア,ましてや臓器提供などは医学教育で学ぶことはほとんどできなかった。しかし今後はリビングウィルや家族ケアなどにも積極的に取り組む必要がある。従って,臓器提供に対するシミュレーション教育や訓練は医療の質を高めることやスタッフ教育のために重要な役割を果たすと考えられた。
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