日本森林学会大会発表データベース
第131回日本森林学会大会
選択された号の論文の872件中301~350を表示しています
学術講演集原稿
  • 鈴木 春彦
    セッションID: S12-9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     本報告では、豊田市の取り組みを事例に、森林の多面的機能の研究成果について、市町村森林行政における活用可能性と課題について論じる。

     豊田市は災害防止等を目的とした独自の森林保全ルールの導入方針に沿って、専門家らによる検討委員会の設置を経て「森林保全ガイドライン」をまとめ、2019年度から運用を開始した。これは、皆伐や路網作設等に際して、急傾斜地や0次谷などの危険箇所の取り扱いや皆伐上限面積を定め、伐採届出制度の中で運用する仕組みである。検討段階では、科学的根拠を持ったルール設定が目標だったが、森林という広域で地域性のある対象に対して、各ルールに対して科学的根拠を据えることは困難で、課題として残った項目もある。森林の多面的機能の評価研究がさらに進めば、市町村独自の保全ルールの根拠として活用ができる可能性はある。運用段階では、小規模零細の所有構造や微地形が多い豊田市において、より小さなスケールでの機能評価が課題になっている。研究の推進と併せて、現場で適切に判断できる地域人材の育成も必要である。

  • 田端 雅進, 升屋 勇人, 安藤 裕萌
    セッションID: S13-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    ウルシは、ウルシ科ウルシ属に分類される落葉広葉樹の一種である。ウルシの幹に傷をつけて採取される樹脂を含む樹液(漆)は、国宝・重要文化財の修復等に必要不可欠である。文化庁が2015年に保存修理事業で原則として使用する漆の100%国産化を発表したことにより、近年、国産漆の需要が高まっている。国産漆の生産は岩手県が約7割を占めており、二戸市が主な生産地域である。最近、二戸市のウルシ林でウルシ果実にうどんこ病の発生が確認され、病原菌の種類等が一部明らかになっているものの、ウルシ林や苗畑で発生している病原菌や被害実態について十分には明らかになっていない。そこで、二戸市のウルシ林や苗畑におけるウドンコ病菌の種類を特定し、被害実態を明らかにすることを目的に研究を行った。形態観察およびrDNAのITS領域と28S領域の塩基配列による分子同定を行った結果、果実上や苗木の葉上でみられたウドンコ病菌は、Erysiphe verniciferaeであることが判った。また、うどんこ病罹病果実の種子形成率を調査した結果、罹病が確認されていない果実と比較して罹病果実では種子が壊死、またはシイナである割合が高いことが明らかになった。

  • 土屋 慧
    セッションID: S13-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    ウルシの苗木生産において、ウルシ種子の発芽率を向上させるために、硫酸等による発芽処理が行われているが、硫酸は作業リスクが高いことから、代替となる処理方法を検討した。試験に供した種子は、2018年11月に青森県弘前市東岩木山及び十腰内のウルシ林各5個体から採取し4ヵ月間3℃の低温庫で保管した。発芽処理は、種子の外・中果皮を除去した後、①濃硫酸に30分間浸漬、②粉末状工業用洗剤50倍水溶液に3日間浸漬、③塩素系漂白剤50倍水溶液に3日間浸漬の3処理を施した。発芽処理後の種子を水道水でよく洗い、3日以上吸水させた。給水させた種子を、培土を詰めた128穴セルコンテナに1穴1粒播種し、各試験区あたり96粒播種した。対照として発芽処理無しの無処理区を設けた。試験は屋外で行い、培土が乾燥しない程度に散水管理し、1週間に1回発芽数を計測した。調査期間中、1時間に1回温度計測を行った。調査の結果、8月の処理方法別の平均発芽率は、①硫酸処理が51.2%、②工業用洗剤処理が3.9%、③漂白剤処理が3.5%、無処理が3.5%で、硫酸処理以外は無処理と差がみられなかった。発芽率は5月下旬から6月上旬まで増加しその後停滞する傾向がみられた。

  • 松尾 晶穂, 松下 範久, 田端 雅進, 福田 健二
    セッションID: S13-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     ウルシ実生苗の生産現場では、種子の発芽率が10%ほどと非常に低いことが問題とされている。そこで、種子の発芽促進のための処理方法とその効果について検討した。ウルシ種子は物理的休眠と胚休眠を併せ持つ複合休眠状態にあるため、それぞれの休眠状態を打破するための処理を行った。まず、物理的休眠打破のための処理として、傷つけ処理、または、濃硫酸、1 M NaOH、洗剤、木灰9%を混ぜた70℃の温水への浸漬処理のいずれかを行い、効果を種子の吸水率によって評価した。その結果、濃硫酸への浸漬処理を60~120分行うと、吸水7日後の吸水率が80%以上になり、他の処理よりも効果的であることがわかった。次に、濃硫酸処理後の種子に対して胚休眠打破のための処理として、低温湿層処理、または、100 ppm ジベレリンA3、0.2% KNO3、10 mMエテホンのいずれかによる浸漬処理を行い、効果を発芽率によって評価した。その結果、胚休眠は4週間の低温湿層処理で打破できることがわかった。これらの成果を基に4母樹の種子に、濃硫酸への90分浸漬・低温湿層処理を組み合わせて発芽率を調べた結果、24~74%の発芽率が得られた。

  • 渡辺 敦史, 田村 美帆, 加藤 春流, 田端 雅進
    セッションID: S13-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    重要文化財には国産漆の使用が文化庁によって通達されたことにより、最近国産漆増産に向けた動きが活発化し始めた。漆液採取の対象であるウルシ林の新規造成はこの問題を図る上で最も有効な手段の一つである。その他にも、漆液滲出に応答するシグナル物質の探索や育種的改良効果による漆液増産についても議論され始めた。一方で、ウルシは大陸からの渡来と考えられていることから遺伝的多様性については極めて低い可能性が考えられた。遺伝的多様性は遺伝資源の豊かさとも直結し、特に栽培化を図る上では重要な評価軸となる。そこで、ウルシの遺伝的多様性についてgenomic SSRやEST-SSRを利用して評価した結果、国内最大の漆液生産を誇る浄法寺では十分な遺伝的多様性を示したのに対し、その他地域の多くが様々な地域からの種苗の移動でウルシ林を構成することが示唆されたほか、クローンによる栽培化を示す地域も存在した。本研究では、一般的に遺伝的多様性を評価するDNAマーカーに加えて、その他遺伝子情報の知見も加えながら現存ウルシ林の遺伝的多様性について考察した。

  • 酒井 明香, 津田 高明, 古俣 寛隆, 石川 佳生, 渡辺 誠二
    セッションID: T1-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    2016年以降、北海道においてはFIT制度の認可を受けた5,000kWから50,000kW級の大型木質バイオマス発電所が4箇所稼働した。その後は台風被害や既存の原木需要の高まりなど複合的要因から製材工場を中心に深刻な原木不足となっている(昨年度報告)。このような中、2019年に2,000kW未満の小型バイオマス発電所2箇所が本稼働した。これら後発の小型発電所の中にはD材(不定形の未利用材)集荷専門の直営班を有し燃料材に占めるD材割合100%を目指すケースが出てきた。また20,000kW級の大型発電所でもD材を中間土場に集め乾燥・チップ加工を行い、全燃料の4割強をD材でまかなう事例が出現するなど新たな動きがみられる。2018~2019年に実施した筆者らの調査では、北海道内の少なくとも23箇所で発電所向けの未利用材を扱う中間土場が確認され,そこを経由した新たな流通システム構築の兆しがみられた。従来、D材は容積密度が低いことから効率的な集荷・運搬が困難だったが、これら大小の発電所は乾燥・チップ化・大型車積み替えを行う中間土場を通すことで流通システムの改善や棲分けを図っていることが示唆された。

  • 伊藤 幸男, 高野 涼, 滝沢 裕子, タタウロワ ナデジダ
    セッションID: T1-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    本報告は、岩手県において木質バイオマス発電所稼働後に素材生産業者が燃料材供給にいかに対応しているのか、また、その経営の実態がいかなるものかを明らかにすることを目的としている。分析対象は、主に (株)花巻バイオエナジーに出荷している遠野地域の素材生産業者2社で、それらの経営実態の把握から次のことが明らかとなった。1点目は、現在供給されているスギ・カラマツのバイオマス燃料材は、パルプ用材を中心とした低質材が中心となっていることである。単価と運送距離、規格の緩さなどからこれら低質材がバイオマス燃料材へと転換し、既存の需要先と競合していることを指摘した。2点目は、これまで販売先が限られ、立木価格が低く、素材生産が低調だったアカマツ人工林についてである。(株)花巻バイオマスエナジーがマツクイムシ対策に協力する形でアカマツを積極的に受け入れることとしたため、アカマツ人工林はバイオマス燃料材として新たに資源化し、素材生産の対象となっていた。それは、伐採圏外化していた低質材資源の林種転換を促しているという側面も指摘出来る。

  • 中村 省吾, 大場 真, 森 保文, 根本 和宣
    セッションID: T1-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    地方創生に向けた地域資源活用による活性化方策の一環として、木質バイオマス利用には多くの期待が寄せられているが、その具体化にあたっては多様なステークホルダーの存在もあり課題が山積しているのが現状である。

    本研究では、福島県奥会津地域に位置する三島町(本町は人口約1,600人の小規模な自治体で、地域資源を活用したエネルギー施策の検討を進めている)が近年進める森林利活用施策に注目し、同町における木質バイオマスに関する取組の現状を把握することを目的として、町役場担当者に対するヒアリング調査を行った。

    三島町では2016年から町内の森林活用の観点から木質バイオマスの検討が開始され、その中で木質バイオマスの事業利用(年間数千m3)と家庭利用(年間数m3)を並行して推進する必要性が確認された。特に後者では薪ボイラーによる冷暖房システムを町内施設に整備し、燃料供給を町主体の木の駅プロジェクトにより収集する方式を採用した。2019年度には上流(山主)、中流(森林事業者)、下流(エネルギー需要家)の各ステークホルダーが一体的に検討する場として協議会の設立が予定されていた。

  • 大矢 信次郎, 斎藤 仁志, 久保田 淳
    セッションID: T1-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    伐採・造林⼀貫作業の実施にともない,地拵え作業の機械化によって⽣産性の向上とコストの低減が図られることが明らかになってきている。機械地拵えを実施する場合,造材時に発生した末木枝条や端材,林内に散乱した枝などが人力地拵えに比べ集約的に集積される。このような機械によって形成される幅が広く長い地拵え棚は,そこに植栽ができないだけでなく下刈り作業の支障にもなっている。一方,現在長野県においてはバイオマス発電所が2基(計2,800kw/h)稼働している。これらのうち未利用材による発電量は1,500kw/hであるが,その燃料は主にC材によってまかなわれているため,末木枝条等のD材の需要は高くない。ところが,2020年内には新たに3基のバイオマス発電所が稼働する予定(3基で約18,000kw/h)となっており,これまでの12倍程度の未利用材需要が新たに発生することから,今後はD材をより有効に利用することが求められる。そこで本発表では,皆伐地におけるD材の発生量を推定するとともに,D材の収集運搬コスト,各発電所における受け入れの可否と買い取り価格等から,長野県におけるD材のエネルギー利用の可能性について報告する。

  • 半田 守
    セッションID: T1-5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    岡山県西粟倉村で薪ボイラによるバイオマス熱供給事業を実施している(株)sonrakuの当事業採算性をおうと共に、薪ボイラ導入による地域への経済効果を検証した。sonrakuのバイオマス熱供給事業は、2015年2月に村内の温浴施設に2台の薪ボイラを導入するにあたり、ボイラ運用と燃料となる薪づくり業を村から委託される形でスタートした。2020年現在では計5台の薪ボイラ運用を行なっており、村の施策とともに徐々に事業の規模を拡大してきた。2018年の事業収支は、売上額約1,134万円に対して支出額1,133万円とほぼ同額を示した。また、支出の内訳では人件費が49%、続いて原木仕入27%であった。経済効果については、2つの温浴施設の燃料費が合計で約100万円削減したことがわかった。実際には、300万円以上の地域原木の購入、さらに4名の雇用をつくっていることから削減費以上の経済効果を生んでいるといえる。しかしながら、sonrakuが当事業を持続運営していくためには作業効率を高める工夫をするなどして利益を確保していく必要性がある。

  • 山場 淳史, 渡辺 靖崇, 涌島 智, 寺河 末帆, 児玉 憲昭
    セッションID: T1-6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    広島県中南部のマツ林型里山二次林が卓越する地域において,自治体や森林組合が中心となって地域内の木質バイオマス利用の仕組みの検討が進められていく中で,すべてをエネルギー利用だけではなく付加価値の高い利用も併せて探索されている。これまでネズミサシ球果を使用した酒類の香りづけのような活用モデルを実現してきたが,本報はアベマキ,ソヨゴ,コシアブラのような当該地域に多く生育する広葉樹も含めた付加価値の高い「木材」利用の推進を目的するものである。具体的には,東広島市内で伐採・製材・乾燥・評価の各工程を一貫的に行った試験的取り組みの過程・成果と課題を概説する。またユーザー起点による活用の場面として,先述の酒類との組み合わせで価値をさらに高めたり,木育やライフスタイルの中で共感されるような商品を開発あるいは提携した事例を紹介するとともに,将来的な方向性や課題を提示する。このような取り組みにより,身近な里山林の経済的価値への関心が高まることで保全・管理への意識も向上し,地域内の木質バイオマス利用全体として収益を改善させることにも繋がることが期待される。

  • 鈴木 保志, 吉村 哲彦, 千原 敬也, 長谷川 琴音, 長井 宏賢, 早田 佳史, 今安 清光
    セッションID: T1-7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    高知県での木質バイオマスのエネルギー利用は、大規模なものでは5MW級の発電所が2か所2015年から稼働しており、その後隣県での木質バイオマス発電も始まったが、現在のところ燃料材も安定的に供給されている様子である。小規模利用では2012年以降数か所の温浴施設で薪ボイラが稼働している。最早期からの施設に2019年夏時点で現状の聞き取り調査を行ったところ、稼働初期(鈴木ら2014)から情勢の変化もあるが積み上げた経験により約200t/年の燃料材を近隣流域から安定供給し続けていた。ただし、他の施設では燃料材の供給不足のため一時稼働が停止していた事例も見られる。そこで今後重要性を増すと考えられる里山の放置薪炭林からの広葉樹材供給を見据え、島根県では林分調査を、高知県では小規模機械(0.1m3クラスのグラップルと林内作業車)による伐出調査を実施した。前者からは、高知県での事例(Suzuki and Yoshimura 2019)と同様に小径木が主だがDBH30㎝前後以上の中~大径木が約100本/ha程度存在することが、後者では択伐へのグラップル補助による方向規制伐倒方式の有効性が確認された。

  • 櫻井 倫
    セッションID: T1-8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    宮崎県北部位置する東臼杵郡および西臼杵郡の5町村を対象に,バイオマスとして利用可能な材を収穫,輸送する際に必要な基盤の整備状況および今後の効果的な箇所について試算した。

    針葉樹およびクヌギを除く広葉樹をバイオマスに半分利用可能,その他の広葉樹を全量バイオマスに利用可能,竹林および制限林を利用不可とし,10齢級に満たない森林は10齢級まで待ってから収穫するように設定した。道路からの距離に応じた資源量を計算したところ,道路から50m以内の資源量は約400万立米で地域全体のうち1/3,道路から150m以内の森林では全体の利用可能資源量のうち約2/3の830万立米が該当した。

  • 虎澤 裕大
    セッションID: T1-9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    FIT制度による比較的大規模な木質バイオマス発電所建設は一巡し、国産燃料を用いた木質バイオマスエネルギーの導入は小規模な熱利用または熱電併給へシフトしている。小規模な熱利用は技術的にはほぼ確立されているものの、小規模であるがゆえに地域ごとに最適なサプライチェーン構築の難しさやその各段階での採算面が課題となり、検討から導入までに時間がかかったり導入に至らなかったりすることも多い。これらの課題に対応するためには、例えば燃料製造のスケールメリット活用、FITと競合しない安価な原料の使用、ESCOスキーム等の活用による設備コストダウンといった方策が有効であると考えられるが、解決策は一律ではなく地域ごとの状況や特性に合わせた最適な方策を見つけ出す必要がある。また、特に公共セクターにおける導入の場合は当事者の経済的利益だけでなくエネルギーの地産地消による地域内経済循環効果などの副次的効果も評価すべきである。本発表では各地の検討事例を通して今後の小規模木質バイオマス熱利用の普及に必要な要素について考察する。

  • 大場 真, 戸川 卓哉, 中村 省吾
    セッションID: T1-10
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    中山間地におけるエネルギー目的のバイオマス利活用促進には、施業と燃料生産・配送、エネルギー生産と消費という流れの調整と共に、社会システムの課題解決として捉え直す必要があることを実例を踏まえ指摘する。かつての主要な産業が森林に関わるような地域では、人口減少や高齢化に起因する人的資源や地域経済の衰退という一律の課題を抱えている。歴史的文化的背景を踏まえつつ、豊かな森林とその恵みを受ける地域を創り出すためには、新しい潮流を取り入れる必要がある。国連の持続的開発目標(SDGs)は、様々な主体(官民)と様々な分野(経済、社会、環境など)に渡るマルチセクターでの目標の解決を促している。国内での類似した取り組みとしては林野庁の「地域内エコシステム」や環境省の「地域循環共生圏」等が挙げられる。本報告ではケーススタディ地域での取り組みを説明した後に、地域が必要とする社会システム(インフラ)として、主体的に再生可能エネルギーシステムを導入し、マルチセクターで取り組む体制づくりが必要であることを指摘する。また、森林やエネルギーだけでなく様々なセクターにおける事業を緩く結びつける方策について検討する。

  • 小島 健一郎, 岩岡 正博, 三木 茂
    セッションID: T1-11
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     木質バイオマスのエネルギー利用が進む中、作業場所の制約を受けにくい移動式チッパの需要が高まっている。ところが、移動式チッパは破砕・切削の方式や移動の方法、生産容量、効率等が様々であるため、チッパを必要とする場合に、客観的かつ定量的な評価が欠かせない。そこで、本研究では移動式チッパに対して、性能に基づく評価を行った。このような研究の成果が蓄積されることで、用途に適したチッパが採用されるとともに、チップ生産の採算性やチップの品質の向上が図られる。

     今回の研究で試験の対象としたチッパは、ドイツのHeizomat製、Heizohack HM6-300VMである。このチッパは手投入を前提としたチッパではあるものの、投入する丸太の直径は最大300mmと他の同種の機種よりも投入口が大きい。刃物は切削タイプのドラム方式、ディーゼルエンジンによるベルト駆動である。フルイについては矩形、孔は35mm×40mmを使用した。

     性能評価に用いた材の樹種はスギ、ヒノキ、カラマツ、アカマツで、材長は概ね2mと4mの2種類である。評価項目は時間当たりの生産量、燃費ならびにチップの品質とした。チップの品質に関しては、水分、かさ密度、粒度分布を試験した。

  • 横田 康裕
    セッションID: T1-12
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    近年、木質バイオマスの小規模分散型エネルギー利用へ注目が集まり、エネルギー変換効率の高さからガス化CHP事業への期待が高まっている。しかし、小型ガス化CHP装置では燃料に低水分率、サイズ均質性等が要求され、こうした高品質燃料の確保は同装置導入において重要な課題となっている。そこで、本研究では、小型ガス化CHP装置向けの高品質燃料の調達の現状と課題を明らかにすることを目的とし、先駆的に同装置を導入する全国10事例を調査した。燃料の品質管理の中で一番重要なことは低水分率確保とされていた。低水分率確保の主体は発電事業者であり、発電事業者自身が燃料生産する事例では燃料生産段階において、燃料を購入する事例では燃料の燃焼炉投入前段階において水分率管理を行っていた。乾燥の熱源としてCHP装置から得られる熱を利用しており、このような熱を販売しないビジネスモデルはFIT売電による収入を前提としていた。装置を単体で運営する事例では、小規模性に起因する品質確保・コスト低減が主要な課題であり、装置を複数運営する事例では、大規模性に起因する燃料・熱需要の確保が主要な課題であった。

  • 佐藤 龍磨, 乾 正博, 角間 隆司, 尾形 直亮, 藤元 祐輔, 二宮 善彦, 堀尾 正靱
    セッションID: T1-13
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    我が国ではFIT制度施行により木質バイオマス発電所の導入が進んでいる。小型バイオマスガス化CHPについても、豊富な稼働実績を背景に欧州製のものが多数導入されている。しかし、欧州と日本の樹種とでは、性状が違うことから、欧州の実績が日本では十分に活かせず安定稼働が実現していない事例が多い。

    宮崎県串間市にある大生黒潮発電所においても運転中に発生するクリンカトラブルが生じていた。実際、ペレットの性状が欧州のペレット規格のEN plus A1を満たしていたのにも関わらず、運転時間は平均1週間となっており、多い時には100kg以上のクリンカが炉内を覆いつくすように発生し、安定した発電に支障をきたしていた。しかし、ペレットの性状について検討を重ねた結果、ガス化炉稼働時間に対するクリンカ発生量を約1/10に抑制し、連続稼働時間が1218時間(約7週間)まで延長することができた。

    本発表では、ペレットの性状が欧州のペレット規格のEN plus A1を満たしていたのにも関わらず、クリンカトラブルが発生していたが、その解決が出来たことを報告する。

  • 小松 雅史, 明間 民央, 佐橋 憲生, 砂川 政英, 服部 力, 赤間 慶子, 髙信 則男, 齋藤 諒次
    セッションID: T2-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    福島第一原発事故後、東日本の広域で出荷制限が設定されるなど、野生きのこの放射性セシウム汚染は問題となっている。野生きのこの放射性セシウム濃度について、種や属の濃度特性、調査地内、および調査地間のばらつき、年変化傾向などを明らかにするため、2013年から2019年にかけて福島県・茨城県の4調査地において野生きのこの定点調査を実施した。同じ調査地でも野生きのこのセシウム137濃度は検体によって最大約1000倍異なっていた。生活タイプ(利用する基質)ごとに傾向をみると、樹木と共生する菌根菌はばらつきが大きいが、木材腐朽菌や落葉分解菌などの腐生菌よりも平均的に濃度が高い傾向を示した。比較的多く採取された属の濃度を比較したところ、属ごとに有意な濃度差があり、菌根菌のなかではフウセンタケ属やイッポンシメジ属(落葉分解菌を一部含む)が高い傾向を示し、キツネタケ属やニガイグチ属は低い傾向を示した。年変化傾向は全データを解析すると自然減衰よりもわずかに減少する傾向を示したが、属や調査地によって年変化の傾向は異なっていた。

  • 関本 均, 篠原 友里, 関口 景子, 平田 慶, 飯塚 和也
    セッションID: T2-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    137Csの植物吸収はCsと同じ1価の陽イオンであり、同族元素であるKと吸収拮抗して、その取り込みは抑制されることが知られている。同じ1価の陽イオンであるNH4+も植物の137Cs吸収に影響すると予想される。そこで、スギの苗の137Cs吸収に対するNH4+とNO3-の影響を比較した。2015年に川俣町山木屋地区で採取した137Csを含む腐葉土を粒状の火山灰土壌と混合してスギ苗を植えて、0.7 mmol/LのNH4+およびNO3-溶液100 mLを週1回、20週間与えたところ、当年枝葉の137Csは、NH4 +によって明らか低下した。また、水耕のRI実験でも、NH4+の割合が増加するにつれて137Csの取り込みが抑制された。 NH4+はKと同様に137Csの取り込みを抑制することが示された。しかし、このNH4+137Cs吸収抑制効果は、NH4+からNO3への硝化の進行とともに減衰すると考えられた。3年半冷蔵保存した2015年の腐葉土を用いて、2019年に同様の試験をしたところ、スギの苗の137Csレベルは、1/11程度に低下し、NH4+137Cs吸収抑制効果は判然としなかった。

  • 三浦 覚, 金指 努, 長倉 淳子, 伊東 宏樹, 平井 敬三
    セッションID: T2-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    きのこ原木林における放射性セシウム動態への関心が高まっている。福島県田村市都路町の約10km四方の範囲から40林分の原木林を調査し、採取が容易な当年枝を原木利用部位の指標として、当年枝のK、Cs-137、Cs-133と土壌の交換性K、Cs-137、Cs-133との関係を明らかにした。当年枝のCs-137とCs-133は、土壌の交換性Kと非線形で逆比例の関係があり、土壌の交換性Kが1/10程度減少すると、当年枝のCs-137とCs-133は100倍程度増加した。一方、当年枝のK濃度は土壌の交換性K、Cs-137、Cs-133濃度に関わらず、ほぼ一定の値を示していた。この結果は、土壌の交換性Kが少ないとCs-137あるいはCs-133が相対的に多く吸収され、CsはKと吸収競合の関係にあることを示している。ただし、土壌中の交換性のCs-133濃度はCs-137濃度の10万倍程度ある。これを考慮すると、原木林におけるCs吸収は土壌中の交換性Cs-133に支配されていると考えられ、森林内のCs-137の挙動を理解するにはCs-133動態も合わせて解析することが有用である。

  • 小林 里緒奈, 益守 眞也, 小林 奈通子, 田野井 慶太朗, 丹下 健, 福田 研介, 三浦 覚
    セッションID: T2-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    交換性のカリウム(K)が多い土壌では植物によるセシウム(Cs)の吸収が抑えられることが知られているが,本研究では,しいたけの原木として利用されるコナラを対象に,非交換性のKがコナラのCs吸収に及ぼす影響を調べた。非交換性Kも抽出する手法として過酸化水素,熱硝酸,テトラフェニルホウ酸ナトリウム(TPB)の3通りの抽出を行ない,各K濃度と移行係数との関係を分析した。全国各地の自生実生とその根圏土壌の分析では,交換性K濃度よりもTPB抽出のK濃度の方が移行係数との負の相関が強く,TPBでよく抽出される鉱物層間の非交換性Kが実生のCs吸収に関与していると考えられた。3地点で採取した土壌にK添加をしたポット試験では,移行係数との相関の強さは交換性K濃度と3手法で抽出されたK濃度で大きく違わなかったが,交換性K濃度が同程度の時,火山灰土壌で栽培した実生よりも非火山灰土壌で栽培した実生の移行係数が低く,このとき非火山灰土壌では熱硝酸抽出のK濃度が高かった。非火山灰土壌は鉱物層間にKを保持する能力が高く,鉱物層間の非交換性Kが実生のCs吸収抑制に寄与していた可能性がある。

  • 小林 達明, 間瀬 皓介, 角 遼太郎, 高橋 輝昌
    セッションID: T2-5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    福島第一原子力発電所事故による放射性セシウム汚染の2013年の林床処理対策による森林生態系の反応を、福島県川俣町の里山にて7年間継続測定した。以下の数値はすべて2011年3月15日基準で半減期補正した。2013年の137Csの林冠から林床への供給は、いずれの試験区でもリターフォールだけで5kBq/㎡前後だったのが、2019年には、対照区で林内雨・樹幹流加え計2.9 kBq/㎡になったが、林床リター除去処理で1.6kBq/㎡、有機物層全除去処理で1.5kBq/㎡と対照区の約半分に減少した。このうち、広葉樹落葉による対照区の137Cs供給量は、2014年から2015年にかけ増加し2015年から2018年まで変化がなかったが、2019年には低下した。他の処理区の広葉樹落葉による137Cs供給量は、2014年以降対照区の約半分の数値で推移した。林床リター除去処理は、まず広葉樹落葉の137Cs低下に効果を発揮し、次第に林内雨の137Cs低下に効果が出て、6年後にはリター除去量に相当する137Cs林地全供給量の削減効果があった。一方、有機物層下層の除去は、137Cs林地供給量削減にあまり効果がなかった。

  • 間瀬 皓介, 小林 達明, 高橋 輝昌, 平野 尭将, 斎藤 翔
    セッションID: T2-6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    里山林における樹木の放射性セシウムの不動化量を明らかにするため,福島県川俣町のマツ-広葉樹混交林に試験区を設置し、2016年と2019年に成長錐を用いて材試料を採取した。対照区をA区とし、処理区は熊手による林床のリター除去を行った後,表面汚染密度が3Bq/cm2以下となるまでA0層全体を削り取ったB区と、L層とF層の一部を除去したC区を設置した。A区では、2016年から2019年の3年間で木部の137Cs濃度が平均300Bq/kg増加したのに対し、B・C区ではどちらも平均50Bq/kgほどしか増加していなかった。この増加した137Cs量を3年間の木部不動化量とし、試験地ごとの年間木部不動化量(Bq/m2)を推定すると、A区では毎年870Bq/m2、B区では240Bq/m2、C区では105Bq/m2137Csが木部に不動化されているという結果となった。この結果から、林床処理を行うことで樹木による137Csの不動化を大幅に低減させ、現在でも除染されていない森林の樹木は137Csを毎年不動化していることが示唆された。当日は樹木の肥大成長量と137Cs濃度の変化量の関係などについても報告する予定である。

  • 渡邊 未来, 越川 昌美, 錦織 達啓, 今村 直広, 林 誠二
    セッションID: T2-7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     森林土壌における137Csの下方移動は、森林生態系内の137Cs動態を理解するうえで、最も基本的な調査項目のひとつといえる。我々は、2011年から2018年まで、茨城県筑波山のスギ林と落葉広葉樹林において、土壌中137Csの深さ分布を調べた。調査を簡便に行うため、2段式コアサンプラーを作成し、リター層の上部を0 cmとした深さ20 cmの土壌コアを採取した。採取した土壌コアに含まれる137Cs量を深さ2〜4 cm間隔で測定し、その鉛直分布割合から土壌中137Csの重心位置を示すMigration centraを算出した。その結果、スギ林におけるMigration centra は、2011年の3.5±1.0 cmから2018年の7.6±1.3 cmへと年々深くなっており、137Csが地表から表層土壌へと徐々に下方移動していることが明らかになった。また、Migration centraの経年変化から求めたMean migration rateは、スギ林の0.7 cm/yrに対し、落葉広葉樹林では0.6 cm/yrとなり、後者は土壌中137Csの下方移動がやや緩やかである可能性が示された。この結果は、スギ林と落葉広葉樹林で137Cs動態が異なることを反映したものと考えられる。

  • 加藤 弘亮, 篠塚 友輝, 飯田 光, 赤岩 哲, 森 圭佑, 恩田 裕一
    セッションID: T2-8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、福島県内のスギ林及び落葉広葉樹林を調査対象林に選定し、樹冠通過雨、樹幹流及び落葉落枝を定期的に採取し、それらに含まれる放射性セシウム濃度をゲルマニウムガンマ線検出器を用いて定量した。山木屋地区の調査林分では2011年6月から観測を開始し、一方の浪江町では2018年6月から開始した。それらの観測データに基づいて、初期遮断と主に雨水に伴う樹冠から林床への移行過程が林内の放射性セシウムの偏在性に及ぼす影響について解析を行った。事故直後は、樹冠遮断の影響により樹冠下の林床の放射性セシウム存在量が少ないが、樹冠密度が高い地点ほど雨水にともなう林床への移行量が大きな値を示した。一方で、初期沈着から時間が経過し、林内の放射性セシウム移行状況が準平衡状態に近づくにつれて、樹冠通過雨量が多い地点、すなわち樹冠縁で移行量が増加する傾向が認められた。さらに、樹幹流の影響が大きい樹木の基部では林床への移行フラックスが大きく、土層深部への浸透が促進されるため、長期的に林床の放射性セシウムの偏在性を増大させる要因となることが示唆された。

  • 橋本 昌司, 今村 直広, 金子 真司, 小松 雅史, 松浦 俊也, 仁科 一哉, 大橋 伸太
    セッションID: T2-9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    放射性セシウムは森林内で分布が変化していくため、森林の中での動きを理解し、将来予測をすることが今後の森林管理のために不可欠である。本研究では改良した森林内放射性物質動態モデル(RIFE1モデル)を用いて最新のデータでパラメータを決定し、森林内での放射性セシウムの動態をシミュレーションした。その結果、現在すでに観測から明らかになっている鉱質土壌への放射性セシウムの蓄積は今後も続くこと、スギの木材中の放射性セシウム濃度は微減または変化が無いこと、コナラの木材中の放射性セシウムは現在観測で見られているように増加傾向があるが、その傾向は今後緩やかになっていくことなどが予測された。また、樹木から土壌への移行と樹木による吸収量を出力した結果、森林内での循環量は初期の沈着量の1%以下であり、定常に近づいていることが示唆された。今後もモニタリングを継続し、モデル予測を検証していく必要がある。

  • 松浦 崇遠, 図子 光太郎, 相浦 英春
    セッションID: T3-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    富山県では2017年に初めて,ニホンジカによるスギ植栽木の集団的な剥皮被害が確認された。そこで,被害の発生状況やその傾向を明らかにするため,植栽年ごとに区画を設定し,3~5年生の時点から2年間にわたって植栽木の調査を行った。

    被害が発生した造林地では,5~7年生の時点までに,植栽木の期首の残存本数に対して12~85%に当たる本数に剥皮の痕跡が観察され,区画間には大きなばらつきが見られた。被害は樹高が2m前後に達した段階から発生し,4mを超えると減少する傾向が認められた。さらに,被害本数に対して11~22%が,枯損もしくは回復不能な状態に陥っており,被害が植栽木の生育に少なからず影響を及ぼしていると考えられた。被害は晩秋から翌春までの,地表付近の植物が乏しい時期により多く発生した。また,同時期に針葉の食害はほとんど観察されず,かつ造林地の周辺では植生の衰退も見られなかったことから,若いスギの樹皮を選択的に摂食していると推定された。

    造林地に設置したセンサーカメラには,成獣のメスや幼獣がほぼ一年を通して撮影され,ニホンジカの個体数が増えるとともに,植栽木への影響が一層拡大することが懸念された。

  • 山川 博美, 北原 文章, 志賀 薫, 鈴木 圭, 野宮 治人
    セッションID: T3-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    シカの生息範囲の拡大や生息密度の増加に伴いシカによる採食などの森林被害が増加し、人工林施業においても重大な問題となっている。若齢造林地におけるシカ被害対策としては、防護柵を設置することが一般的である。しかしながら、防護柵を設置してもシカ被害から完全に防ぐことは難しく、防護柵の破損などによってシカが侵入し植栽木が被害を受けている事例が数多くみられる。本研究では、若齢造林地におけるシカによる被害状況を広域的に提示するとともに、シカの痕跡から被害レベルを判断する方法を明らかにするため、九州および四国地域の3年生以下の造林地において約320地点のアンケート調査を実施し、防護柵および植栽木の被害について集約した。防護柵は6割程度の林分で穴開きや倒壊などがみられ、急傾斜地や谷筋などを含む林分で防護柵の破損が多かった。防護柵内の植栽木の被害はシカ生息密度の高い林分で多い傾向がみられた。また、植栽木の被害レベルはシカの痕跡の程度とおおよそ対応しており、造林地に隣接する林分のシカ糞、樹皮剥ぎおよび林道端植生の食痕の程度が被害レベルを推定する重要な指標であることが明らかとなった。

  • 明石 信廣
    セッションID: T3-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    カラマツはシカの食害を受けても樹高が高くなることが多いが、生育期間中に繰り返し食害を受けると成長量が低下する。樹高成長とともに被害を受けにくくなるため、同じ被害率でも樹高によってその意味は異なる。そこで、北海道釧路地方のカラマツ人工林における調査結果をもとに、樹高、被害率、食害回数の関係を検討し、被害率と林齢から被害を評価する手法を検討した。

    1本の苗木が1年間に受ける食害回数について、前年樹高を説明変数、調査地をランダム効果とする順序ロジスティック回帰分析を行った。ここで、調査地のランダム効果の値は被害のレベルを示すと考えられることから、被害レベル指数とする。次に、調査個体の食害の有無を目的変数、被害レベル指数と林齢を説明変数とする一般化線形モデルにより、被害率、林齢、被害レベル指数についての関係を得た。これにより、被害率と林齢から被害レベル指数を得ることができる。これに、樹高成長量と前年樹高、食害回数の関係を示すモデルを組み合わせることにより、植栽後の樹高分布の推移の推定が可能である。

  • 小長井 信宏, 後藤 祐輔
    セッションID: T3-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    シカ防護柵内へのシカ侵入の主要な要因のひとつは、ネットのたるみによる柵高の低下である(藤堂・藤木2017)。たるみ低減のために支柱間隔を狭めることは有効であるが、支柱の増加により設置者の経費負担が増えることから、支柱の増加に変わる安価で簡易な手法として跳び越え防止ロープをたるんだネットの上に追加する手法を考案した。しかしながら、跳び越え防止ロープの下の隙間から跳び込む事例が確認されたため、隙間の大きさが跳び込みの有無に与える影響について検証することとした。夜間にシカが出没する当センターの敷地内に10m四方のシカ防護柵試験地を複数設置して餌で誘引し、ネット高隙間の2条件を変え、シカが跳び込むかどうかをセンサーカメラで観察した。試験はネット高100cm、隙間10cmの条件からスタートし、跳び込みがあればネット高を10cm上げ、なければ隙間を10cm広くする条件変更を反復させ、合計が200cmに到達するまで継続する。到達後は逆の条件変更により元の条件(100cm、10cm)に戻す。上記2条件の変更の経過を格子グラフ上の経路で表示して評価を行い、シカが跳び込む隙間の最小値がネット高によってどう変化するか検証する。

  • 井内 正直
    セッションID: T3-5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    宮崎県では南部の一部を除いたほぼ全域でシカが生息するため造林時に防護柵が設置される。人工造林面積が北海道に次いで大きいため、設置距離は毎年数百キロに及ぶ。防除効果維持には人による定期的な点検と補修が必須だが、人手不足で十分にできないことが課題。そこで、IoT(Internet of Things)を防護柵支柱に設置し、支柱の倒壊及びネット破損(ネット噛み切り、ペグ抜け等)の検知試験を開始した。令和元年11月7日、宮崎県美郷町所有の再造林地(スギ3年生)に設置済みの防護柵支柱72本に、インターネット接続用通信機器(親機)を1本、支柱1本おきに支柱傾き及びネット揺れを検知するセンサー機器(子機)を配置した。子機の無線通信は中距離ナローバンドを採用し、遮蔽物や通信距離不足等を想定し、子機2台に対して1台の中継機を設定し、子機⇒中継機⇒親機により通信確実性を高めた。ネット揺れの原因解析に焦電センサー(赤外線変化検知)とカメラを子機及び中継機に設置。現在、半数以上の機器から検知データが送信され、解析作業を進めている。損壊検知が可能となれば、人による点検が不要となり、補修のみの労力削減につながることが期待される。

  • 大場 孝裕, 竹内 翔
    セッションID: T3-6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    収穫期を迎えた人工林の主伐・再造林を進める上で、植栽木を加害するシカの存在が大きな障害となっている。皆伐地とその周辺を利用するシカの行動を把握した上で、効率的・効果的な捕獲を含むシカ対策を検討する必要がある。そこで、2016年から、静岡県浜松市天竜区佐久間町・龍山町の皆伐地周辺で、麻酔銃を用いてシカを生け捕り、メス8頭、オス2頭にGPS首輪発信機を装着して追跡している。このうち、メス4頭が防護柵の設置された新植地に侵入した。昨年度(第130回大会)報告した2頭に加えて、今回、さらに2頭の行動を報告する。

    イノシシによると思われるネット切断等により開口部ができ、そこを追跡個体が利用するようになると、侵入が高い頻度で継続したことから、新植地はシカを誘引していると考えられた。また、皆伐直後や地形等の影響で植生の乏しい場所には測位点がほとんどなく、シカによる皆伐地や植栽地の利用は、そこの植生の多寡が大きく影響していた。一方、柵外周の利用頻度は、侵入期間の前後でも低く、侵入口の探索行動や柵へのアタックが頻繁に行われてはいないことから、シカの防護柵突破能力や突破欲は高くはないと思われた。

  • 池田 敬, 國永 尚稔, 安藤 正規, 岡本 卓也, 鈴木 正嗣
    セッションID: T3-7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    環境省と農林水産省は2023年までにニホンジカ(以下、シカ)の生息数半減を目指し,抜本的な捕獲強化を実施している。有蹄類は人為的攪乱により,活動性を夜間にシフトしたり,保護区に移動したりと,人間を忌避することが知られている。人為的攪乱に対するシカの行動変化は捕獲計画の立案に重要な情報となるが,これらの行動変化が評価された事例は少ない。そこで,本研究は捕獲以外の人為的攪乱がシカの土地利用に与える影響を調べることを目的とした。2017年8月から2019年11月の調査期間を,人間の利用がある日(利用有:263日)とない日(利用無:214日)に区分し、自動撮影カメラを用いて若齢造林地や作業道への出没頻度を,GPS首輪(成獣メス4頭)を用いてシカの土地利用状況を調査した。若齢造林地や作業道への午後の出没頻度は,利用無で有意に高かったが,夜間は利用の有無による差はなかった。午後の若齢造林地への出没は利用の有無による差はなかった一方で,夜間での出没は利用有で有意に高かった。以上より,シカは人間の利用により,視認されやすい環境を忌避する可能性が示唆されたことから,捕獲計画を立案する上での頻繁な現地調査は注意が必要だろう。

  • 中森 さつき, 横川 琴之, 池田 敬, 山田 雄作, 安藤 正規
    セッションID: T3-8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     近年、ニホンジカ(以下、シカ)の個体数増加・分布拡大による森林植生の衰退が問題となっている。この問題はシカと同じ大型草食動物であるカモシカにも影響を与え、両種の生息環境や餌資源を巡る競合をもたらすと予想される。本研究では、両種が同所的に生息する岐阜大学位山演習林(以下、演習林)にて、カメラトラップを用いて両種の生息状況を調査し、またGPS首輪を用いたカモシカの追跡調査をおこなうことにより、カモシカの行動の季節的な変化を把握することを目指した。

     演習林内の20地点にカメラトラップを設置し、両種の撮影回数を調べた結果、カモシカの撮影回数は4月から6月にかけて増加する傾向がみられた。一方、シカの撮影回数は9月から11月に増加しており、カモシカとは異なる傾向がみられた。2018年11月よりカモシカ雌1頭にGPS首輪を装着し行動追跡をおこなった結果、11月から4月の上旬に対して4月中旬以降、移動速度および行動圏面積が大きくなる傾向がみられた。このことから、カメラトラップにおいて4月からカモシカの撮影頻度が増加するのは、カモシカの行動圏の拡大や移動速度の増大が原因であると考えられた。

  • 平野 恭弘, 谷川 東子, 藤堂 千景, 山瀬 敬太郎, 土居 龍成, 吉田 厳, 西村 澪, 澤志 萌, 池野 英利
    セッションID: T4-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    樹木根系を掘らずに非破壊推定する方法として地中レーダ法が提案されている。樹木根系の探査には、900 MHzから1500 MHzまでの一つのアンテナ周波数をもつ地中レーダが用いられ、深さ50㎝程度までに広がる根直径1㎝以上の水平根が検出されてきた。レーダ周波数は低周波ほど深い位置の根を、高周波ほど浅い位置の根の検出を可能とする。近年二周波のアンテナで同時探査可能な地中レーダが開発され、高低両周波のアンテナにより浅い根から深い根まで同時に探査できる可能性が高まった。

     本研究では300MHzの低周波と800MHzの高周波アンテナを持ち同時探査可能な地中レーダを用いて、海岸クロマツ林とスギ人工林で深い根の非破壊検出が可能かどうかを明らかにすることを目的とした。砂質土の愛知県田原市クロマツ林と褐色森林土の豊田市スギ林で対象個体を中心とした25cm間隔の同心円探査測線を設置し、地中レーダ探査を行った。その結果、800MHzでは深さ200cm程度までであったが、300MHzではクロマツで深さ320cm程度、スギで深さ360cm程度まで、根と推定される半円弧状のレーダ反射波形が観察された。この結果は既存のレーダ探査よりも深い根の検出を示唆するものである。

  • 岡本 祐樹, 大橋 瑞江, 木村 敏文, 池野 英利
    セッションID: T4-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    地球規模の炭素循環において、森林地下部は重要な炭素蓄積源となる。特に樹木根は森林地下部の主要な炭素蓄積源であるが、土壌中の根の形態学的特徴を非破壊的に求めることは技術的な困難が伴う。本研究では、様々な方向から撮影した画像を用いることで物体の三次元イメージを再構築するStructure-from-Motionと呼ばれる手法によって、樹木根に関する複数の画像から樹木根の3Dモデルを構築するための処理手続きを作成した。まず、地上部を伐採、土壌を除去して、地上に引き上げた樹木根について、様々な方向から画像を取得した。次に、この画像から三次元再構成ソフトVisualSfM(http://ccwu.me/vsfm/)によって物体上の三次元点群を出力した。その後、点群編集ソフトMeshLab(http://www.meshlab.net/)によって点群に含まれるノイズを削除し、メッシュ化を行い、3Dモデルを作成した。この方法により、垂直方向、水平方向に伸長した主要な根は再現できたものの、根どうしが重なっている場合、複雑に分岐している場合については再現できないことがあった。撮影時の条件、環境や枚数を変更することで、更に元の樹木根を正確に再現した3Dモデルを構築する方法を確立できると考える。

  • 谷川 東子, 池野 英利, 藤堂 千景, 山勢 敬太郎, 大橋 瑞江, 岡本 透, 溝口 岳男, 中尾 勝洋, 金子 真司, 鳥居 厚志, ...
    セッションID: T4-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    樹木は、根系の定着力によって強風や津波などの外力に抵抗し、一定の減災機能を果たす。しかし、外力に耐えきれなくなった時に発生する倒木は、しばしば被害を助長する。この2面性を鑑みれば、どの程度の台風や津波まで樹木は耐えうるのか、といった「災害の程度と根系強度との関係」を精査することが必要である。根系強度を発揮する要素のうち、「根鉢」といわれる「根と土壌の複合体」については、その形状に関する研究は少数あるものの、質量を実測した研究は知る限り海外の1件のみである。根鉢の質量は、樹木の重心位置を下げ、その安定化に貢献する重要な要素である。そこで我々は、2018年に発生した台風21号によって壊滅的被害を受けた森林総合研究所関西支所内の人工林において、スギ7個体について、根鉢の質量および地上部情報を調査した。質量については、重機・コテなどを用いて根と土壌に分け、ロードセルと天秤を併用して実測した。根系は自らの質量の12倍に相当する土壌を保持し、その土壌の質量は樹木本体の質量と同等であり、土壌は「根鉢付き樹木全体」における重力の主体であることを明らかにした。

  • 菅井 徹人, 玉井 裕, 小池 孝良, 佐藤 冬樹, 渡部 敏裕
    セッションID: T4-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    土壌物理性は根の発達を抑制し、植生や植樹苗木の成長を制限する一方、根系の発達には土性回復の効果が期待される。多くの先行研究において、ハンノキ属等の植栽例から、根系を介した土壌物理性の変化が報告されてきた。一方で、踏圧土壌に植栽された針葉樹苗木の根系応答を、土壌物理性の回復要因として評価した事例は非常に限られており、踏圧下で生育した苗木の根系発達についても定量的な理解が不足している。ここで、北海道のカラマツ人工林では、グイマツ雑種 F1(以下、F1)による再造林が期待されているが、踏圧がF1苗木の生育に与える影響も懸念される。そこで著者らは、植栽当年の土壌窒素条件を考慮した踏圧土壌において、植栽した2年生F1苗木の成長を追跡した。

    本研究では、踏圧土壌に植栽された苗木の根系発達に着目し、(1)踏圧下で生育したF1苗木の根系が細根に偏って発達すること、(2)富窒素条件下では細根発達が更に促進されることを予想した。また踏圧下における細根の発達は、共生菌の感染と相互に影響している。今回の発表では、踏圧下で生育したF1苗木の根系発達、また根圏微生物環境との関係について議論する。

  • 桑辺 七穂, ZHAO XINGYI, 大橋 瑞江
    セッションID: T4-5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    細根は、養分・水分の吸収機能を担う重要な部位であり、細根の成長や枯死のパターンを知ることは森林生態系の物質循環の理解を向上させると期待される。一方で落葉は、葉の生理機能と深く関わっており、光合成で獲得した炭素の行方を示す重要な指標である。そのため細根動態と落葉パターンの関係性を理解することは、気候変動に対する森林の応答を理解し、その適応性を評価することに貢献するだろう。そこで本研究では、細根動態と落葉落枝の季節性を比較し、両者の関連性を検討することを目的とした。調査は兵庫県姫路市に位置する落葉樹と常緑樹の混交林において、2018年4月から2019年3月の1年間を通して行った。地下部に関しては、スキャナ法を用いて林内4か所で、細根の生産・枯死フェノロジーを調べた。地上部は、同林分内に5つのリタートラップを設置し、1か月頻度で落葉落枝の季節変化を調べた。その結果、リターと細根生産の両方において、年間で複数回のピークが見られたが、その時期もピークの回数も必ずしも一致しなかった。一方、細根の枯死のピークは、ほとんどの地点で夏から秋にかけて1回見られ、落葉時期とは異なっていた。

  • 矢原 ひかり, 東 若菜, 鎌倉 真依, 高木 優哉, 小杉 緑子, 牧田 直樹
    セッションID: T4-6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    樹木にとって成長が制限される過酷な環境である高木限界において、樹木がどのように適応して生育しているのかを明らかにするため、高木限界に生育する4樹種の細根の水および炭素利用様式を評価した。2018・2019年7-9月に長野県北アルプスに位置する乗鞍岳の高木限界である標高2500 m付近に優占する落葉広葉樹のウラジロナナカマドとダケカンバ、常緑針葉樹のオオシラビソとハイマツの直径2 mm以下の細根系を土壌表層 (0-20 cm) から採取し、水分生理、根呼吸、形態および解剖特性を測定した。ウラジロナナカマドは、皮層を大きくすることで内生菌との共生を強めて生理活性を高くするとともに、中心柱を病原体や寄生虫から保護している。ダケカンバは、炭素あたりの養水分獲得効率を高めるとともに、物理強度を高めて外的ストレスに強くしている。オオシラビソは水獲得能、生理活性および炭素利用効率が低く、低コストである。ハイマツは、炭素利用効率が低い一方で、水を通しやすく水を獲得しやすくしている。以上のように4樹種は、異なる細根の水・炭素利用様式をもっていた。本発表では、4樹種の細根の水利用と炭素利用様式の関連を考察する。

  • 藤井 黎, 大橋 瑞江, 檀浦 正子
    セッションID: T4-7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     樹木細根はそのターンオーバーの速さによって森林生態系の炭素循環に貢献している。ゆえに細根現存量や枯死量の精度よい推定は炭素循環の解明に極めて重要であるが、その方法は十分に検討されているとはいえない。本研究は、温帯ヒノキ林における細根現存量と枯死量の空間的なばらつきを評価し、林分代表値の推定に必要なサンプル数を検討することを目的とした。滋賀県大津市内のヒノキ人工林にて、2018年9月に50 m × 25 mプロットから100地点を無作為抽出し、内径約3.5 cmの土壌コアを採取した。土壌コアは地表面から0–10 cm、10–20 cmの深さとし、直径2 mm以下の細根を生死で分けて乾燥重量を求めた。モンテカルロシミュレーションを用いて各サンプル数における推定値のばらつきを求め、許容できる最小のサンプル数を解析した。現存量と枯死量(g m-2)は0–10 cmで115±61と361±172、10–20 cmで44±39と121±95であった。0–10 cmよりも10–20 cmの深い層で推定値のばらつきが大きく、この深度での代表値の推定にはより多くのサンプルが必要であることが示唆された。同様に現存量のばらつきは枯死量よりも大きく、細根の生死による必要サンプル数の違いが示された。

  • 野口 享太郎, 松浦 陽次郎, 森下 智陽, 鳥山 淳平, Yongwon Kim
    セッションID: T4-8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    北方林面積の20%以上は永久凍土地帯に重なっており,北米では永久凍土上にクロトウヒ(Picea mariana)林が成立する.しかし,永久凍土林の樹木の成長や炭素動態には不明な点が多く,特に地下部に関する知見は不足している.そこで本研究では,アラスカ州内陸部において,斜面位置の異なるクロトウヒ林・3林分に調査プロットを設置し,イングロースコア法による細根生産量調査,コアサンプリング法による細根現存量調査を行った.イングロースコアには直径3.2 cmのプラスチックメッシュ円筒を使用し,林床から採取した蘚類の枯死部分を詰めて,2016年9月~翌年9月の1年間,各プロットに埋設した.このクロトウヒ林では,斜面下部において夏季の凍土融解深が小さく,樹木の地上部サイズも小さくなる傾向があるが,細根現存量も同様の変化傾向を示し,斜面下部の細根現存量は斜面上部の約40%であった.一方,細根生産量は逆の変化傾向を示し,斜面下部の細根生産量は斜面上部の約4倍であった.これらの結果は,斜面位置または凍土環境の違いが,クロトウヒ林の細根ターンオーバーや地下部の炭素動態を大きく変化させることを示唆している.

  • 矢吹 新, 檀浦 正子, 仲畑 了
    セッションID: T4-9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    細根の動態観察において、定点での画像撮影により動態を継続的に観察する手法としてよく用いられる方法がスキャナ法である。得られた土壌断面画像内の細根の定量分析を支援するソフトウェアは数多く存在するが、それらは画像内の細根のトレース時においてはユーザフレンドリーな操作画面を提供するだけで、トレース自体は手作業である。この過程は画像分析の中で最も時間を要し、人為由来のノイズが入ってしまう。そこで、細根の画像分析を二つの深層学習モデルを用いることで完全に自動化することを試みた。スキャナ法によって得られた細根画像から教師データを作成し、片方のモデルには画像からのノイズの除去方法を、もう一方のモデルには画像内のそれぞれのピクセルが根と背景どちらに分類されるかを学習させた。訓練済みの両モデル及び出力修正アルゴリズムと重要なパラメータの計算アルゴリズムを連結し、その出力を分析支援ソフトウェアを用いた手作業による分析結果と比較した。画像一枚当たりの総生根投影面積について平均二乗和誤差を用いて評価したところ、研究者間での分析誤差と同等の値を示した。この結果は手作業による分析の代替となり得る事を示唆している。

  • 谷川 夏子, 中路 達郎, 小畠 実和, 田中(小田) あゆみ, 牧田 直樹
    セッションID: T4-10
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     樹木根は、土壌から養水分を吸収する機能と輸送する機能を兼ね備えている。地下部における物質循環を理解するために、吸収根と輸送根を区別することは重要であるが、その機能の境界を判断することは難しい。本研究は、植物体の色素、有機物組成や細胞成長の段階を反映するとされている可視-近赤外波長の連続分光反射光に着目し、姿そのままの根系を分光画像上で多角的に評価し、吸収根と輸送根の境界の探索及び細根の再定義を目的とした。冷温帯林における針葉樹7種と広葉樹13種の計20種の根系を3直径階 (0-0.5、0.5-1、1-2 mm)に分け、458-2391 nmの連続分光反射率をハイパースペクトルカメラで撮影した。その後、形態(平均直径、比根長、根組織密度)、化学(炭素、窒素、リグニン濃度)および解剖(皮層幅、中心柱直径)を測定した。分光反射画像から根特性の予測をするため、連続的な反射率データに適した推定モデルの部分最小二乗(PLS)回帰分析を行った。結果、平均直径、比根長、根組織密度と窒素濃度、リグニン、中心柱と皮層幅の割合において有効な推定精度が得られた。分光画像のピクセルごとに根特性を推定し、根系内の特性の変化から、吸収根と輸送根の評価を試みる。

  • 尾崎 勝彦
    セッションID: T5-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    背景・目的;借景とは、庭園風景のみならず、庭園外の山などの背景をその要素として取り入れたものである。借景の有無によって注意回復要素およびそれを眺めるときの気分状態に差があるのかどうかを検討する。

    方法;大学生・専門学校生253名(女性166名、男性84名、不明3名、平均年齢20.5歳(SD=4.5))を対象とし、借景で有名な圓通寺の庭園風景をA;借景のある場合/B;同ない場合を評価させた。Bは、Aの画像を処理して借景を消去したものを用い、A、B何れも4枚の写真をエンドレスに提示した。評価測度は日本語版注意回復尺度、およびPOMS、PANASであった。A/Bそれぞれの評価者は134/119名で、各尺度の下位因子の独立t検定を行った。

    結果と考察;注意回復要素は何れも非有意で、POMSの「怒り-敵意」、「疲労」およびPANASのNAが有意であった(何れもp<0.05で、A>B)。従って、本実験においては、注意回復要素は借景の有無を検出できず、また、気分状態としては得点的には低いレベルにあるものの、借景のある方が悪い結果となった。対象者の範囲や借景の不鮮明さ等の実験上の考慮すべき点はあろう。

  • 森田 えみ, 川合 紗世, 篠壁 多恵, 久保 陽子, 内藤 真理子, 若井 建志
    セッションID: T5-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】森林浴を一回した場合の急性効果では、ストレス軽減効果等が報告されている。よって、習慣的に森林浴を行えば日常の幸福感やQOL(Quality of Life)につながる可能性がある。本研究では大規模集団にて森林散策頻度と日常の幸福感を検証した。

    【方法】日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)大幸研究の二次調査に参加した2,210人(男性573名、女性1637名、平均年齢58.7±9.9歳)を解析対象とした。従属変数を幸福の程度、幸福感あり、及び、「生活を楽しんでいる」とし、独立変数を性別、年齢、喫煙、飲酒、運動習慣、BMI、森林散策頻度としてロジスティック回帰分析を行った。

    【結果】森林散策頻度は、幸福の程度(Trend P =0.013)、幸福感あり(Trend P <0.001)、及び、「生活を楽しんでいる」(Trend P <0.001)のいずれも有意な関連が認められた。ロジスティック回帰分析では、幸福感あり、及び「生活を楽しんでいる」で有意差が認められ、年1回以下に対する年数回の森林散策群の調整オッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ1.52(1.20-1.92)、1.75(1.29-2.28)であった。年数回程度の森林浴でも日常の幸福感やQOLに寄与する可能性が示唆された。

  • 高山 範理, 佐野 由輝, 伊藤 弘
    セッションID: T5-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     本研究では、秋冬季の都市近郊林での自然観察会の参加によって、参加者の心身に生じる影響について探索的に調べた。被験者は31名の大学院生であり、唾液アミラーゼ活性とPOMS、ROSをそれぞれ生理指標・心理指標として、自然観察会の前後で心身の状態を調べた。

     調査・分析の結果、生理指標の唾液アミラーゼ活性は自然観察会の参加後に上昇し、身体的なストレスが増加したことが確認された。また、心理指標の気分の状態を調べたところ、自然観察会に参加した後に、緊張-不安、怒り-敵意、混乱の三項目が有意に低下し、主観的回復感が有意に上昇した。これらの結果は、屋外の寒さや長時間の運動効果によって身体的にはやや疲労したが、自然観察会で身近な自然にふれたこと、動植物への理解が深まったこと等により、心理的状態の回復が達成された結果だと思われた。

     今回の調査結果から、専門家によって行われる自然観察会では、長時間の屋外での活動によって、身体的な疲労等は生じるものの、それが即ち心身のストレスを意味するのではなく、特に心理的な回復は担保されることが示唆された。

  • 上原 巌
    セッションID: T5-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    世界各国における不況と、地域資源の見直しの中において、森林環境もまた脚光を浴びている。特に地域の森林を活用した森林療法(Forest Therapy)はその名称が急激に国際的に広がり、地域振興ビジネスをはじめ、多種多様な玉石混交の様相を呈している。

     しかしながら、それらビジネス展開が先行し、身近な森林環境を見直し、「森林も人間も共に健康を高めていこう」とする取り組みや、地域の高齢者、障がい者、子どもなど、地域住民の健康増進に関する取り組みは、稀少なのが現状である。なかでも森林療法の本来の目的には、福祉分野における森林の活用があげられる(上原 第110回日本林学会大会 1999)。

     そこで本研究では、都心に位置する障害者福祉施設の利用者および職員が、近郊の私有林に出かけて森林での作業、活動を行い、福祉分野における森林環境の利用についてその利点と不利点を考え、また何が利用にあたっての障壁となっているかを東京と九州の福祉施設での考察した。

     活動の結果、日頃の様子、行動とは異なる利用者の変化がみられることが最も大きな利点としてあげられ、同時に森林関係者との仲介、協働なしには成立が難しいことが示された。

  • Shin Watanabe
    セッションID: T6-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    Although Proboscis monkey Nasalis larvatus is an endemic and endangered species living in Malaysian Borneo, the exact population is unknown in spite that great effort has been spent for longtime. Since most surveys have been conducted by visual observation, it requires higher skill and wealth of the research experience to find monkeys in a deep tropical forest. To improve the efficiency of the research and shorten the observation time, we introduced drones loading a video camera in our research conducting at Sukau, Malaysian Borneo. We also verified an effectiveness of Infrared camera at night observation.

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