日本森林学会大会発表データベース
第130回日本森林学会大会
選択された号の論文の811件中1~50を表示しています
学術講演集原稿
  • 坂野上 なお
    セッションID: A1
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    1980年代に登場した機械プレカット工場は,2000年代以降工場の大型化,全自動化の進展とともに,乾燥木材および集成材需要の牽引役としての役割を果たしてきた。2000年代初頭にはスギ材の人工乾燥技術が確立し,スギ集成材の生産も拡大した。2000年の住宅の品質確保の促進等に関する法律,2009年の長期優良住宅の普及の促進に関する法律の施行の影響も大きく,住宅用木材に要求される品質は大いに高まった。大型プレカット工場は,加工効率を高めるために集成材の使用を志向する傾向があり,ローコストビルダーにおいても集成材の使用が一般的である。一方で大手ハウスメーカーのなかでは国産無垢材を主要構造材として採用し続ける企業も存在する。長年にわたり国内製材業との取引関係があり国産無垢材の品質管理体制が整っていることも使用を続けられる理由のひとつであるが,なによりも人工乾燥技術の進歩により,無垢材(KD材),集成材の品質の格差が縮まったことが大きいと考えられる。 90年代までとは異なり,木材の乾燥が絶対的な条件となっている今日においても,集成材一辺倒ではなく,無垢材(KD材)需要が継続する可能性が高い。

  • 知念 良之, 芝 正己
    セッションID: A2
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    沖縄県における住宅の一般的な構造は鉄筋コンクリート造であったが,県外産プレカット材による木造建築の動きが報告され,戸建の木造率は2001年の4%から2017年の29%へ増加した。2015~2016年には,沖縄県の「国際物流拠点産業集積地域」で2つのプレカット工場が開設されるなど新しい動きがみられる。本研究では,この展開に着目し,プレカット工場進出の動機や活動実態,公的補助の適用の有無などを関連事業者に対するインタビュー調査を通して明らかにすることを試みた。プレカット工場は,いずれも県内供給が前提で,公的補助の適用対象となる県外出荷に関しては工場が所属する企業グループの得意分野や経営戦略の差異から判断が分かれていた。また,住宅の強度を重視して人工乾燥材を積極的に多用し,生産や出荷の調整を通して県内市場へ安定供給する役目を担っていた。これは,県外産プレカット材を取り扱う県内業者も同様であった。一方,県内の木材産業に対する認知度の低さや木造関連技術者の少なさから人手不足となり,生産が制限されていることやボイラー燃料需要が無いため加工時に排出されるオガ粉や端材の処理費用が生じる課題を抱えていることが明らかとなった。

  • 早舩 真智
    セッションID: A3
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    本研究は、1950年代以降の国産木材チップ取引における組織間関係の歴史的動態を明らかにすることを目的とした。分析視角としては、組織間関係論における資源依存と取引費用の概念を用いて、チャネル・パワー論の取引依存度の観点を援用し、木材チップ取引の特殊性(供給先の代替不可能性)と模倣困難性(供給元の代替不可能性)という二つの要素から、木材チップ取引における交渉力とチャネル統制の変容を分析した。研究手法としては、既往文献・統計資料分析及び、聞き取り調査(紙・パルプ企業、チップ供給業者、業界団体等、バイオマス発電企業)を行った。その結果、輸入チップ導入による供給元の多角化と紙・パルプ企業の合併による供給先の減少に伴って、紙・パルプ企業の交渉力優位が歴史的に固定化していったことが明らかになった。しかし、近年のバイオマス発電所の増加による供給先の増加から、既存の流通形態の影響を受けながらも、チップ製造業者が取引における交渉力を向上させつつある可能性が示唆された。

  • 田村 和也
    セッションID: A4
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     農林業センサス個票を用いた林業経営動向分析を行うため、2015・10・05・00年の4回分の客体候補名簿(照査票)と調査票を、構造動態マスタ等を用いて各回の客体を接続し、統合した。全体のレコード数は937万、うち一度でも林業経営体である客体は25万レコードとなった。統合により、同一客体を最長4回追跡可能となり、また保有山林のある客体の林業活動実施率の算出、林業経営体以外の経営体の林業活動の把握も可能と判明した。 次に、経営形態が「森林組合」「地方公共団体・財産区」である林業経営体について、林業実態に合わせた再区分を試みた。経営体名称・経営主氏名を公的情報で同定するなどして区分した結果、前者はほとんどが森林組合と生産森林組合に区分されたが、5%は共的団体など想定外の組織形態と判定された。後者では、地方公共団体・財産区・一部事務組合以外に、2割が共的団体などと判定された。経営形態別の分析を行うには、組織再区分の作業が不可欠と考えられた。

  • 興梠 克久, 浦井 教光
    セッションID: A5
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    群馬県森林組合連合会は2011年に渋川県産材センターを設立した。これは、利用が遅れていた間伐材を大量に1次加工する施設で、3m材の無選別受入、A~C材の全量・定額買取等の特徴をもち、森林組合の素材生産が活発化する契機となった。本研究では、センター稼働を受けて森林組合が造林型組合から林産型組合へどのように転換したか、県森連がセンターを設立した意義を明らかにするため、センターと出荷量上位3つの森林組合に対して2018年に聞き取り調査を行った。まず、造材作業の単純化、高性能林業機械の導入により、高い伐出生産性が実現した。また、素材販売収入が計画的に見込めるようになり、提案型集約化施業の取り組みが強化された。そこに、「緑の雇用」事業など人材育成の取り組みが加わり、林産型組合へのスムーズな転換が可能になった。県森連がセンターを新設したことは、単位組合が林産型組合への転換を図るために必要不可欠な間伐材の需要先確保の面で大きな意義を持つ。センターの入荷量は限界を迎えつつあり、ストックヤードの拡充、県下の森林組合の林産事業計画の一元的把握、県内外の製材工場へのA、B材の直送事業にも取り組み始めた。

  • 茂木 もも子, 立花 敏
    セッションID: A6
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    持続的な森林の利活用として素材生産から木材の最終消費までの安定的な取引が必要と考えられる。2006~10年に実施された新生産システムに選ばれた11のモデル地域では、木材を安定的に供給する取り組みとして協定取引が開始された(林野庁2006)。協定取引では供給者と需要者が樹種、数量、形状、価格をある一定期間に安定的に取引する形が取られる。本研究では、情報の偏り(非対称性)に着目して協定取引における木材取引情報の非対称性の有無を明らかにすることを目的とした。研究対象は、関東近郊のスギ製材用材産地であり、2014年よりたかはら森林組合を中心とした協定取引を開始している栃木県高原林業地とし製材用材流通に関わる森林所有者から製材工場までを範疇とし、協定取引の開始に伴う情報の質や量について把握することとした。現段階までに、製材所からの質や量に関する情報は充足していること、将来的に必要になる木材の質や量に関する情報が不十分であること、協定取引でも取引量が必ずしも安定していないこと、価格決定や情報交換について川下優位な状況にあること、協定取引において県森林組合連合会の役割が重要なこと等の知見が得られた。

  • 幡 建樹, 中島 徹, 井上 雅文
    セッションID: A7
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    間伐材は、2000年代後半以降、針葉樹合板の原料としての利用が増加するとともに、近年では集成材や直交集成板など、新たな用途への利用が拡大している。さらに、再生可能エネルギー固定価格買取制度が開始されたことにより、バイオマス発電の燃料としての利用も急増している。そこで、間伐材を安定供給するための重要な課題のひとつである間伐コストについて、標準単価表をもとに全国的な動向を把握するとともに、コストモデル分析の結果や、間伐コストの低減に向けて先進的な取組みを行っている三重県および高知県の森林組合の事例調査を通じて実態を明らかにすることにより、間伐材の安定供給に向けた課題を考察した。間伐標準単価は21万円/haから47万円/haと都道府県間で差がみられた。モデル分析や事例調査の結果では34~120万円/haと、より大きな差がみられた。販売経費までを含めた材積当たりの間伐コストも7千~14千円/m3と、間伐材の平均販売価格(8千~10千円/m3程度)に比べて高かった。現在の丸太価格を前提として間伐材を安定供給するためには、地域性を踏まえた、補助制度の在り方や間伐コスト低減方策の検討が必要であることが示唆された。

  • 新井 紘嗣, 立花 敏
    セッションID: A8
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    わが国において林業の競争力強化は差し迫った政策課題である。産業の競争力は要素価格、為替レート、生産性等により規定され、その中でも生産性は生産者がコントロールできる数少ない要素であり、林業においても競争力の維持・確保には生産性を向上させることが必須条件となる(閔2010)。生産性分析には労働生産性等の単要素生産性がよく用いられ、生産量と特定の生産要素との比として定義されるため、一般的に相対価格変化に伴う他の要素投入量の変化を考慮できないことが欠点となる(山本1990)。この欠点を克服するものに、全ての生産要素投入量で生産量を割った全要素生産性(TFP)がある。本研究では、林野庁業務資料にある1983~2016年の全国平均と地域別の素材生産費データ(皆伐)を用いてTFPの計測を行った。具体的にはインデックス・ナンバー・アプローチを適用し、生産要素は労働、資本、経常財とした。その結果、全国平均のTFPは2000年以降に大きく上昇傾向にあり、この上昇には面積当たり素材生産量の増加、労働投入量の減少が大きく貢献していた。地域別のTFPの計測結果からは、2015年現在、北海道が他地域に比べて高いTFPを有すことが明らかとなった。

  • 林 宇一, 加藤 舞, 山本 実穂
    セッションID: A10
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    宇都宮大学農学部附属演習林で生産された素材は、多くが栃木県森林組合連合会矢板共販所へ出荷される。その素材の購入業者に対して,各購入業者の特徴と購買行動について聞き取り調査を行なった。対象は,2010年から2016年の間に計6回以上購入した業者26社のうち、買い方が異なり(購入量の多寡、立米単価の高低の違い)、かつ所在地を栃木県外とする業者を含め,13社とした。結果、購入業者の購入形式をスギのみ、ヒノキのみ、スギ及びヒノキ、他樹種で区分し、次に小径木(14cm未満)の購入の有無で区分し、さらに長級を絞り込んで購入しているかどうかでさらに区分けしたところ、スギ及びヒノキを購入し、小径木も購入している業者は年間20万立方を超える原木を消費する超大規模製材工場であり、スギのみを購入し、小径木も購入する業者は2万立方を超える原木消費量となる大規模製材工場に該当した。また、ヒノキのみを購入し、小径木も購入する業者は1万立方以上の製材工場であった。規模の比較的大きな製材工場では、いずれも小径木を購入しており、一方規模の小さな製材工場では小径木の購入は見られなかった。

  • 福嶋 崇
    セッションID: A12
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、タンザニアに焦点を当て、その国内政治状況がREDD政策、ひいてはパリ協定への対応に及ぼす影響を、主に現地調査を通じ明らかにすることを目的とする。森林減少・劣化を対象とするREDDは、パリ協定の下に法的合意として位置付けられ、各国のGHG削減目標の達成に活用可能となった。タンザニアは、強い期待と共にUN-REDDプログラム及び二国間援助を通じた国内の体制整備を進めてきた。しかし一方で、2015年の選挙に勝利したマグフリ大統領は、2020年を目途に政府の主要省庁を法律上の首都であるドドマに移転させるとともに、汚職の撲滅や経済の引き締めを行っている。同時に省庁の再編や官僚の(海外)出張の制限措置を進めており、これを嫌った一部の官僚の離職とあいまって業務にも混乱をきたしている。このように、国内政治状況の変化はREDD政策はおろかパリ協定への対応を遅らせるものとなっている。そもそもガバナンスの弱い途上国において、このような状況は国際政策への対応を遅らせる要因ともなりうること、またパリ協定への参加はこれらの最貧国にとっても大きな負担を強いるものであることに十分留意する必要がある。

  • 久留島 啓
    セッションID: A13
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、タイで30年にわたって迷走している森林管理の分権化の過程を歴史的にたどり、新しいアクターとして地方自治体の登場が与える影響を取り上げる。タイでは19世紀後半から中央集権の森林管理が行なわれてきたが、1980年代からは保護林の指定などによって森林の利用を制限された住民と対立を繰り返してきた。その争点にあったのが、日常的に利用する森林をコミュニティ林として住民が自ら管理できる制度の確立であったが、未だにその法制化にはいたっていない。管理の分権化が迷走する要因には国家と住民のそれぞれの主張のずれがあった。これまでの議論では中央政府から住民組織への権限の移譲を前提としていたが、1990年代以降に勧められた農村地域の地方分権化政策に伴って地方自治体が設立され、森林管理においても新しいアクターとして注目されている。しかし、自治体が国家と住民の中間役として管理に参加しているチェンマイ県メーター区の事例では、自治体の関与によって国家と住民のずれが複雑化し、管理の分権化を阻んでいる可能性が示唆された。

  • 泊 みゆき, 幡 建樹, 井上 雅文
    セッションID: A14
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    バイオマスはカーボンニュートラルとされてきたが、生産・加工・輸送等において化石燃料が使用されるためCO2が排出される。また、原料育成時の施肥や燃料の製造・燃焼時の不都合によりCH4やN2Oなど温暖化係数の高い温室効果ガス(GHG)が排出される場合があることが指摘されている。こうした問題に対処するために、例えば、英国等における再生可能エネルギー利用促進のための補助制度では、GHG排出削減効果を有効にするため、利用システムごとにGHG排出量基準が設定されている。一方、日本の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)においては、それらに関する規定はないため、GHG削減の効果は不明確である。そこで、既存のライフサイクルアセスメントデータを用いて、国内のバイオマス発電によるGHG排出量を算出し、燃料の種類や発電効率等の差異によるGHG削減効果を総合的に検討したところ、発電効率が低い場合などは、英国の基準を満たさないことが分かった。従って、FITによるバイオマス発電が温暖化対策効果を発揮するためには、日本においてもGHG排出量基準を導入することが望ましいと考えられる。

  • 大塚 生美
    セッションID: A15
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    2018年に成立した森林経営管理法は、わが国の林業構造全体,とりわけ川上の森林管理に大きな変革をもたらす可能性を有す法案である。ビジネスとして成立しない森林は、市町村が経営主体となる(仮称)森林環境譲与税が用意されるが、林野庁では、施行後の実態を鑑み内容を充実させていくという未知の因子が残る制度設計になっている。だが,新たな法制度ならびに2016年の森林法改正に伴う林地台帳整備,その整備にともなう個人情報の取扱い等に関する議論は極めて少なく、林業経営、森林政策を専門とする研究分野においてさえ同様である。最も影響を受ける森林所有者の中には,2001年の林業基本法改正以降、林政審議会をはじめとする議論の場において蚊帳の外に置かれていると感じている所有者もいる。国や地方自治体の政策決定に森林所有者の意向がどれだけ反映されているか、まったくといって良いほど見えてこない。そこで、わが国の林政が大きな変革期を迎えようとしているという現状認識に立ち、森林所有者ならびに新たな法律の主たる受け皿となる市町村の行政担当者、実行部隊の中心的役割を担うであろう森林組合との意見交換から,新法への対応の一端を報告したい。

  • 山本 伸幸
    セッションID: A16
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     1950年の連合国軍最高司令官総司令部GHQ/SCAPの森林組合改組に関する共同声明によって、中央政府の責任において林業(森林)計画編成が明示された。さらに、成長量以下の伐採を求めるカーチャー・デクスター勧告に及び、「森林計画は憲法」との方針の下、1951年森林法が成立した。新生森林法は施業案監督主義に代わり、森林計画制度をその根幹に据えた。 より計画経済的制度を求めるGHQ/SCAP天然資源局に対し、最終的に出来上がった制度は国による指導計画の性格を帯びたものであった。この軌道修正ついては、フォレストリー・プログラムをフォレスト・プランニングに「すり替え」る等、施業案監督主義の反省を踏まえ「日本化」に腐心したとの当時の政策担当者の証言がある。 森林計画樹立に関する法定事務は地方自治法によって都道府県知事に対する国の機関委任事務と定められた。全民有林を対象に、森林簿、森林計画図の作成が開始される等、日本林政において初めて私有林全体が政策の視野に収められた。 本報告では、森林計画制度導入前後の林政等の動きを追い、現代の日本における森林管理にも大きく影響を与える森林計画制度の基層を明らかにしたい。

  • 土屋 智樹, 関岡 東生, 山下 詠子
    セッションID: A17
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     東京都における木炭産業の歴史について同業組合政策との関連で整理を行い、商人貸付により生産を行う,またはこれに類似する前期的な生産体系が主体であった近代日本における木炭生産の変化の要因を、流通組織の機能および発展段階から考察を試みた。 わが国における重要物産同業組合を核とする産業振興政策は1884年公布の「同業組合準則」、1897年公布の「重要輸出品同業組合法」、1900年公布の「重要物産同業組合法」等を根拠法として展開した。木炭については、「重要物産同業組合法」に準拠する同業組合によって過当競争の防止や製品検査による品質の向上が取り組まれた。 東京都における木炭の同業組合は1909年に設立されはじめ、1931年までに計6組合が設立された。しかし、1930年以降は農村恐慌を背景とする産業組合の拡充や1932年の「商業組合法」の公布により、同業組合以外の木炭関連の流通組織が推進された。そして1943年には「商工組合法」により燃料配給統制組合が東京都を含む主要消費都道府県に設立された。この組合は、第二次世界大戦後も統制経済の下で燃料林産組合として木炭の配給調整機関として機能したこと等が明らかになった。

  • 香坂 玲, 梶間 周一郎, 内山 愉太
    セッションID: A18
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    2018年に岩手木炭が国内初の林産品として、地理的表示保護制度に登録されている。地理的表示保護の制度は2015年に農林水産物等で制度化された。本報告では、まず地理的表示保護制度がいかなる制度か概観を紹介する。次に岩手木炭が申請に至った背景ならびに過程を検証することで、農産品とは異なる林産品特に木材の地理的表示活用の可能性と今後の展望を議論する。岩手木炭においては、申請の動機、申請過程、申請段階での困難、産品の品質規準などの項目をインタビュー等で明らかにし、分析した。結果、申請主体と生産者の間の合意形成が円滑に進んだこと、生産のマニュアル化などを通じた統一された品質管理が以前より継続的となったことが判明した。今後は、既存の制度との比較をどのようにおこなうべきか、地理的表示の制度において品質や産地の表示に公的機関・国が関与すべきか等が論点となる。特に2019年2月以降の日欧経済連携協定(EPA)の発効後は、EUと日本の地理的表示は相互保護制度として、相手国の登録産品を保護する義務が生じる見通しである。今後のEUへの木材輸出などの議論をする上でも、林産品と地理的表示保護制度の活用のあり方を検討する必要がある。

  • 松下 幸司, 山口 幸三, 吉田 嘉雄, 仙田 徹志
    セッションID: A19
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    世帯数の変化、世帯構成の変化は住宅着工動向に影響を与える。65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合は27.3%に達している(総務省「人口推計」2016年10月1日)。将来推計人口によると、2065年には65歳以上の割合は38.4%である。住宅、特に木造住宅と高齢化の関係を探る第一歩として、2013年住宅・土地統計調査の個票再集計を行った。住宅の構造区分のうち木造と防火木造を木造とし、所有区分が持ち家と借家のみを再集計の対象とした。世帯の家計を主に支える人の年齢別に木造率をみると、全住宅が対象の場合、年齢階層が上がるほど高くなる。25歳未満では約19%、75歳~84歳、85歳以上では75%を超える。2006~2010年、2011~2013年の建築分についてみると、木造率は、それぞれ65~74歳、55~64歳にピークが見られる。また、平均床面積をみると、木造・持ち家の場合、55~64歳にピークが見られる。高齢化は住宅部門の木材需要に影響を与える可能性が示唆される。本報告は統計数理研究所「日本における所得・資産分布の計測史と再集計分析」及び京都大学農林水産統計デジタルアーカイブ講座のプロジェクト研究の一部で、総務省統計局の協力を得た。

  • 樋熊 悠宇至, 立花 敏, 氏家 清和
    セッションID: A20
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     TPP11協定の発効など地域経済連携協定の整備が進んでいる。経済連携協定において関税の削減は主要な議題であり、澤内(2009)、内閣府(2015)、Ji et al.(2018)等が応用一般均衡モデル(CGEモデル)を用いて、関税削減が日本へ及ぼす経済的影響を推計しているが、林業セクターへの影響に注目した研究はほとんどみられない。本研究では、日本への輸入財にかかる関税の撤廃によって生じる日本経済、とりわけ林業セクターへの影響についてCGEモデルを用いて推計した。推計には「平成27年延長産業連関表基本分類表(平成23年基準)」および「2015年国民経済計算年報(2011年基準)」を基に作成した社会会計行列(SAM)、Heltel and Mensbrugghe(2016)の輸入財と国内財の間の代替弾力性を用いた。その結果、関税の撤廃により実質GDPが0.031%上昇して日本経済が活性化すること、林業セクターの多くの部門で国内消費量が増加する一方で合板・集成材など比較的高い関税がかかる部門で国内生産量が減少することが示された。先行研究に依らず一律に設定した輸出財と国内財の間の変形弾力性について感応度分析を行ったところ一定の頑健性が確認された。

  • 堀 靖人
    セッションID: A21
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    一般的に森林の経済性と公益性はトレードオフの関係にある。どちらかに重点を置くともう一方が縮減されてしまう。そのため、経済性と公益性のバランスをとった森林経営に誘導する施策として、自然保護契約が注目される。これは、森林経営において環境に配慮することによって逓増した費用を地方公共団体などが助成する施策であり、ドイツにおいて実績のある施策である。日本においては、森林環境税・譲与税の導入、新たな森林管理システムがスタートすることになっており、林業政策も大きく変わる転換点を迎えている。ただし、それらの内容や税金の使途について現時点では明確ではない。 自然保護契約制度では、環境に配慮した施業が具体的に示され、それによって掛かり増しとなった費用が助成額の根拠となる。そのため、透明性の高い施策であるといえる。また、林業経営の継続を前提とした施策である。その意味では森林所有者の意欲を高める意義をもつと考えられる。自然保護契約の意義を検討することは、地方自治体の役割を重視し、意欲と能力のあるものに経営を委ねようとする日本での新たな森林管理システムを考える上でも有効である。

  • タタウロワ ナデジダ, 伊藤 幸男, 山本 信次, 高野 涼, 滝沢 裕子
    セッションID: A22
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    本研究の目的は、バイカル湖地域を事例にロシア国立公園の管理問題を明らかにすることである。バイカル湖国立公園は1986年に設立され、1996年にはバイカル湖の一部としてユネスコの世界自然遺産に登録された。文献や現地調査から次のことが明らかとなった。(1)バイカル湖国立公園には4つの中心的な集落と45の農村集落が含まれているが、住民生活や農業や企業などの生産活動が厳しく制限される「バイカル湖の保護に関する連邦法N94-FZ」が1999年に施行された結果、多くの企業が閉鎖され、農場の経営が困難となった。また、住民の日常的な資源利用が違法状態になっている。(2)国立公園の広さ(約41.7万ha)や観光客の増加に対して、十分な予算が確保されておらず、管理体制やインフラの整備が追いついていない。レンジャーは15の区域にそれぞれ3~11名配置されている。ライセンスを購入し入園した者は年間6万人であるのに対し、購入せず入園した者は30万人いるとされ、違法なキャンプなどを取り締まることが出来ていない。

  • 中村 省吾, 根本 和宣, 森 保文, 大場 真
    セッションID: A23
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    地方創生の一環として、中山間地域では木質バイオマスを活用した森林活性化が注目されている。森林の適切な管理に向けて、次年度より森林経営管理制度も開始されるが、実際に森林を所有している地域住民の森林管理に対する意向把握は進んでいないのが現状である。本研究では、中山間地域における森林所有者の森林に対する意識を把握することを目的として、福島県三島町(本町は会津地域に位置する人口約1,600人の小規模な自治体で、地域資源を活用したエネルギー施策の検討を進めている)において18歳以上の町民599名を抽出したアンケート調査を実施した。回収率は44.1%(回収数264件)であった。調査項目は「現在の森林所有・管理状況」「将来の所有・管理意向」「町の森林・林業に対する意識」等である。境界の把握割合は所有者で58%、将来所有予定者で51%であり、森林施業を行っている所有者は16%であった。将来所有予定者の多くが相続は受けるものの具体の扱いは未定としており、今後の望ましい森林管理主体としては所有者よりも民間や行政の回答が多く見られた。また、町の森林に期待する役割としては防災や環境保全等の公益的機能が多く挙げられた。

  • 石橋 弘之, 高橋 卓也, 奥田 昇
    セッションID: A24
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    琵琶湖へ注ぐ最大河川、野洲川の上流域は「甲賀ヒノキ」の産地として知られている。そこでは19世紀末に薪炭や木材の需要が増し、入会林の乱伐により下流へ洪水が発生したことを受けて、地主たちが治山や水源涵養を目的とする植林を始めた。その後の20世紀末までは、財産区が森林保全の主な担い手となり、植林した木を売り公共設備を整備する経済的価値を森林に見出してきた。一方で、21世紀の現在、森林保全を担う主体は多様化し、それぞれの活動のなかで、多様な価値を森林に見出している。 本報告では、野洲川上流域甲賀市、大原地域の集落を対象に、森林保全の活動に取り組む団体が、どのような森林で、どのような価値を見出そうとしているのかを、現地での聞き取り結果から整理する。そして、少子高齢化により森林保全の担い手が不足する状況で、地元の人々が、外部との交流を視野に入れて、森林に新たな価値を見出そうとする動きを考察する 大原地域では、木を売る経済的価値に加えて、森林の活動を体験する価値、林業を継承する伝統的価値、親子で森を学ぶ教育的価値、里山の行事を楽しむ価値等が見出されていた。

  • 高井 恵, 古井戸 宏道
    セッションID: A25
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    1990年代以降、森林資源管理(以下「森林管理」)をめぐるコミュニティの伝統知を再評価する動きが見られる。中国では地域住民の民族伝統文化が根差した生業や生活の中で自発的に形成され、罰則規定を持つ「村規民約」(以下「民約」)が存在している。1980年代以降における民約研究は急増するが、定量的な分析も民約属性の分類に留まり、民約の実効性を明らかにした研究は少ない(a.)。また、NPOが関与し民約が制定されている事例も出現おり、更なる研究が必要である(b.)。本報告では、21世紀の民約の実効性を総合的に分析する。まず、衛星画像を使用し、民約制定地と民約が存在しない郷村の森林面積変化を定量的に分析(a.)、NPO関与で制定に至った新しい種類の民約についても、ヒアリング調査により民約制定後の森林状態の変化を検証した(b.)。その結果、民約制定地では森林面積の変化があまり見られなかったのに対し、民約が存在しない郷村では顕著な森林減少が見られた(a.)また、NPOが関与し民約制定へと繋がった郷村では、森林環境の質の向上が見られた(b.)。このことより、民約は森林管理において実効性を持つと考えられる。

  • 赤池 慎吾, 岩佐 光広
    セッションID: A26
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    江戸時代、諸藩・領主は、献上木の確保及び財政基盤の強化を図る目的で藩有林の囲い込みを行い、農民の入山を厳禁した留山制度を確立した。明治以降、1876年「官林調査仮条例」により官林の所在、面積、林相等が確定し、そのうち国土保全に必要な山林は「禁伐林」として引き継がれた。禁伐林は、国土保全のために官民共に伐採が禁じられた森林であり、山村住民は排除された空間だと考えられていた。しかし、禁伐林の所在、監守人、目的等を記録した「禁伐林台帳」には、木材以外の森林利用について記載された「物産」という項目があり、そこからは山村住民が禁伐林内で木材以外の資源を採取しており、それが一定程度容認されていたことがわかる。具体的には、海岸部・松林での松露の採取、奧山での兎・鹿等の狩猟や採石等が行われていた。本報告では、高知県の禁伐林を対象に作成された「七郡禁伐林官林台帳」(明治22年補正、高知山林事務所作成)の分析をもとに、そのなかの「物産」の項目に着目しながら、明治初期の禁伐林と山村住民の暮らしの関係を考察する。

  • 中村 幹広, 田村 典江
    セッションID: A28
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     市町村に地域森林管理の牽引者としての期待が高まっている。市町村が主として林業行政を推進するためには幅広い市民の意向を踏まえる必要があるが,市町村の実体は平成の大合併を経て変化している。合併からおよそ15年が経過した現時点において,改めて市民の期待や要望を把握することは自治体林政の推進において一定の必要性がある。 本報告では,2017年に岐阜県飛騨市で実施した市民アンケート調査の結果を報告する。岐阜県飛騨市は岐阜県北部に位置する自治体であり,豊富な森林資源を市内に有している。平成29年度に組織再編により林業振興課を新設したことから,市内全世帯を対象とするアンケートを実施した。結果として,回答者の過半数の森林所有者が森林の所在地や境界を把握していること,約半数が長期的には所有権の売却・譲渡あるいは管理委託を希望していることが分かった。また,望ましい森林を作るために期待する市林業行政については,林道や作業道の整備が最も多く,次いで獣害対策,木材の販路開拓の順となった。 社会の成熟とともに森林管理にも多様性を求められる今日,これまで以上に市民の意向を反映した市林業行政の必要性が認識された。

  • 山口 広子, 興梠 克久
    セッションID: A29
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    横浜市有道志水源林は2016年に経営開始から100周年を迎えた。近年森林のもつ公益的機能が注目されているが、道志水源林は経営開始時から水源涵養機能の発揮に留意して森林経営を行ってきた。近年の大きな変化として、1991年に水源涵養機能に留意した木材生産を主目的とする経営方針から、木材生産を従目的化し水源涵養機能の発揮を最優先させるよう経営方針が転換されたことがあげられる。公有水源林の経営展開を扱った研究として泉(2004)があるが、近年の道志水源林の経営に関して包括的な議論を行った研究はない。本研究では、経営方針の転換が施業内容や担い手などにもたらした変化を明らかにするため、文献調査と聞き取り調査を行った。方針転換後、人工林の間伐により広葉樹の侵入を図り天然林に移行させてきたが、天然林化したエリアの面積は1996年から2017年で44haから612haに増加した。また、転換当初は行われていた枝打ちや路網整備が中止され、施業面からも木材生産が従目的化してきたことが明らかになった。転換後は横浜市民による森林ボランティア活動等が行われ、都市と山村の交流拠点になっているといえる。

  • Shuichiro Kajima, Yuta Uchiyama, Ryo Kohska
    セッションID: A30
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    都道府県を中心に自治体林政は2000年以降、税制を改正する形で「県独自の森林環境税」を導入した。同時期に、国の森林・林業基本法の制定や森林環境税の導入を契機に自治体の森林政策の基本方針を「森林づくり条例」として明文化する動きが見られた。「県独自の森林環境税」については,現在37府県で「県独自の森林環境税」が導入され,間伐や林業の担い手確保などの予算に充てられている。20道府県では「森林づくり条例」が制定され,自治体の森林政策の基本方針が示され、自治体の森林政策の特徴が見られる。この2つの政策の個別研究の蓄積はあるものの、自治体林政について、全国的、また総合的な視点からの研究は少ない。そこで本研究では、「県独自の森林環境税」と「森林づくり条例」を対象に、どのような政策や方向性があるのか、そしてその要因は何かを明らかにする。分析方法は、「県独自の森林環境税」と「森林づくり条例」の導入している政策の内容を比較するために、対応分析をおこなった。また政策の導入の要因を明らかにするためにイベントヒストリー分析をおこなった。

  • 佐藤 宣子, 尾分 達也, 笹田 敬太郎
    セッションID: A31
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    近年、豪雨による山腹崩壊にともなって流木が下流域に被害をもたらす災害が多発している。2017年7月の九州北部豪雨では「過去最大級の流木被害」が発生し、それをきっかけに流木被害対策が国レベルで議論され、2018年10月に決定された全国森林計画に流木対策の推進が盛り込まれた。流木被害は1990年代から各地で問題化し、都道府県段階で独自の被害軽減対策が講じられてきた。そこで、本報告の目的は、先行して実施されてきた岐阜県、長野県、三重県、大分県等の流木被害軽減対策の特徴を整理し、気候変動下における災害軽減のための政策課題を考察することである。研究方法は、各県の行政文書の収集および担当課でのインタビューである。調査項目は対策導入の経緯、軽減のための森林施業、ハード事業、ソフト対策、経費負担、予算額、効果検証の有無である。その結果、海岸まで漂着した流木による漁業被害、流木回収負担の問題化が独自施策の契機となった県が多く、県の森林環境税を使途している場合があること、搬出間伐の推進から渓流の危険木除去・渓畔林の整備へと事業内容が変更されていること等がわかった。ソフト対策については要旨執筆段階では把握できなかった。

  • 菱田 歩海, 立花 敏, 興梠 克久
    セッションID: A32
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    近年、大規模な自然災害が多数発生しており、森林災害を含むリスクの管理がますます重要となっている。森林保険は気象害、火災、噴火災への対応のひとつとして挙げられる。本研究では、大規模社有林において認識されているリスクとそれに対する管理の在りよう、対応としての森林保険を調査し、リスクマネジメントの実態や森林保険の位置づけを把握することを目的とした。研究対象については、日本国内に数万ha規模で森林を所有する4社の社有林とし、森林保険の運用を行う森林保険センターや愛媛県等の森林組合連合会等を含めて聞き取り調査を行った。併せてメールによる追加調査も行った。その結果、大規模社有林におけるリスクには、森林そのものに被害が及ぶ自然リスクと社会現象や経済状況に伴う社会リスクとがあり、自然リスクとして森林保険対象のリスクに加えて林道崩壊と獣虫害が挙げられた。一方、社会リスクには労働災害、高齢化や担い手不足等の人員が重要視されていた。社有林における日頃の見回り等により一定のリスクマネジメントを行っているが、それではカバーしきれないリスクも少なくなく、企業独自での対応や対策に加えて社会的な対応も必要と考えられる。

  • 滝沢 裕子, 伊藤 幸男, 山本 信次, 高野 涼, タタウロワ ナデジダ
    セッションID: A34
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、バーデン・ヴュルテンベルグ州(BW州)を事例に、ドイツの林業労働者教育制度の設立と内容を捉え、林業労働力の確保と育成における役割を明らかにすることである。1969年に連邦政府は職業教育法を制定し、指定された産業において、学校と企業が提携して理論と実践の両側面から見習い生を教育する二元制度(デュアルシステム)が生まれた。見習い生は、職業訓練学校に入学するとともに企業と雇用契約を結び、学校と企業の両方で訓練を受ける。2~3年間の訓練の後卒業試験に合格すると、産業別の国家資格を取得できる。BW州においては、1975年にForstwirt/Forstwirtin(森林作業士)のためのForstliches Bildungszentrum(林業教育センター)を設立し、林業の通年労働者の増加と高い専門性の必要性を背景として、デュアルシステムに基づく教育を開始した。現在は年間150人が新規の見習い生として就業し、そのうち100人は州有林が雇用している。つまり、州は職業訓練学校の運営と見習い生の雇用の両面で大きな役割を果たしていることが明らかとなった。そしてそれは、小規模な自治体有林や民間の林業事業体へ質の高い労働力を供給する支えとなっている。

  • 石 佳凡, 納富 信
    セッションID: A35
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    現在、小規模林野で、森林所有者自らの意思により施業管理する小規模自伐型林業が、集約的な林業—大・中規模林業の補完的手法として様々な地域に広がりつつあるが、施業をする林業従事者の定住意向などの面から、自伐型林業の継続性に疑問が呈されている。本研究では、小規模自伐型林業の継続性の要件を明らかにするために、中山間地域における自伐型林業システムのモデル化と事業継続性に与える因子を特定し、その影響度合いの把握をおこなう。地域の自伐型林業の主要な因子である“材”“財”“人”を因子カテゴリとして設定する。“人”カテゴリについては、林業就業者の地域への移住・参入意欲、さらに将来の定住に対する意思に影響を与える要素を明らかにするために、林業を中心に活動を展開している「地域おこし協力隊」隊員へのアンケート調査を実施した。高知県佐川町を対象とした調査結果の因子分析より、「地域おこし協力隊」隊員の移住意欲への影響要因は、「地域林業活動の活発」「移住者の住みやすい環境・雰囲気」の2つに集約され、定住意思の影響要因は「地域への帰属感」「林業から得られるメリット」「生活基盤の整備」の3つに集約された。

  • 庄子 康, 愛甲 哲也, 柘植 隆宏
    セッションID: B1
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    自然地域におけるレクリエーションでは、体験の質を確保することが求められる。そのためには、適切な混雑度の許容限界を把握することが必要である。先行研究では、合成写真を用いて利用人数の異なる場面を回答者に複数回提示し(例えば、50・25・5・0人の利用者が写っている4つの場面)、それぞれを許容できるかどうかの回答から許容限界を把握してきた。具体的には、写っている利用者数を横軸、許容できる回答者の割合を縦軸に取り、過半数が許容できないとする利用者数を許容限界として採用してきた。ただその値の推定方法は、利用者数ごとに許容できる回答者の割合の点推定値を求め、それらを直線で結ぶというものであった。回答者の平均値を結んでいることになるので、許容限界に回答者属性が与える影響は把握することができなかった。本研究では回答者の複数回答をパネルデータとして扱い、順序ロジットモデルを適用することで、より適切な許容限界の把握を試みた。結果として許容限界は均一なものではなく、旅行先で⽬的地や交通⼿段の混みぐあいを気にする人や、長期の休暇を取得できる人(混雑を避けることが可能な人)は許容限界が低いことが明らかとなった。

  • 岡野 瑞樹, 庄子 康, 柘植 隆宏, 愛甲 哲也, 栗山 浩一
    セッションID: B2
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    大山(鳥取県)では、登山道にトイレが少なく、トイレの混雑や山中への排せつ物の放置が問題化している。これに対し、一部の登山者からはトイレの増設を求める意見が提出された。一方、管理者は山岳トイレの維持管理にかかる人的・金銭的コストも問題視しており、むしろ登山道のトイレは将来的に廃止して、携帯トイレに移行することも検討している。近年では試行的に携帯トイレの普及活動を行い、利用者からは一定の評価を得た。しかし、観光客や子供も多く訪れる大山では、携帯トイレにどこまで支持が広がるかは未知数であった。本研究では、大山の登山者を対象にアンケート調査を実施し、どのような条件(トイレの形式や費用負担)であれば、より多くの利用者の支持が得られるかを検証した。登山者の選好を定量的に評価するため、アンケートには選択型実験を用いた。この結果、登山者は携帯トイレの推進自体は好意的に評価しているものの、登山道のトイレには代替しがたい必要性を感じており、廃止には有意に否定的であることが明らかになった。同時に、登山者はトイレ維持のために一定額の料金(入山料またはトイレ利用料)の支払いを許容しうることが示唆された。

  • 金 慧隣, 庄子 康, 柘植 隆宏, 愛甲 哲也, 栗山 浩
    セッションID: B3
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    都市の公園緑地において提供される生態系サービスは、都市生態系を支えるだけでなく、都市住民の肉体的・精神的な健康も支えており、その重要性が高まっている。一方、公園緑地において提供される生態系サービスは多様であり、ニーズに合った生態系サービスの提供方法を考える必要がある。このような中、生態系サービスの経済評価は都市の公園緑地の計画を立案する上で、重要な情報を提供するものである。ただ信頼性の高い評価を行うには、一度に評価対象とする生態系サービスの数を絞らなければならないという制約があった。本研究では環境評価手法である選択型実験を適用するが、マーケティングの分野で使われてきた部分プロファイル選択型実験を用いて、想定される15の生態系サービスについて、同時に評価を行うことを試みた。アンケート調査は2017年12月に実施し、回答者は札幌市の一般市民1,109人である。分析の結果、「森林樹木とのふれあいの場の提供」といった、これまで公園緑地において想定されてきた生態系サービス以外にも、「生物多様性の保全」や「防災機能の提供」といった、今日注目をあびることの多い生態系サービスにも高い評価が与えられてきた。

  • 松浦 俊也, 高山 範理, 八巻 一成
    セッションID: B4
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    森林散策は自然体験、健康維持、観光等に重要であり、活動の特徴や好まれる環境条件、心身健康効果など様々な面から研究が進められている。一方、散策利用に適した林地を地理的に絞り込む試みは少なく、各種開発行為や森林がもつ様々な機能(木材生産や防災等)と調整しつつ、散策機能の維持・向上を図ることに難しさがあった。そこで、森林散策の環境条件に関わる既存の知見を援用し、①まず自治体スケールで、森林の面積、林種、地形条件(傾斜度、斜面位置など)、道路や居住地からの近接性、周辺人口、観光施設分布、所有形態などの各種地理情報を用いて、散策ポテンシャルの高い林地の地理的な定量化・絞り込みを試みた。②つぎに、森林散策がよく行われる山域にて、散策路をセグメントに分割し、各種環境条件を付与して、ポテンシャルの高い区間のさらなる絞り込みを試みた。③さらに、1970年代と2010年代の2時期の植生図を用いてポテンシャルの変化を捉えた。このような地理的な可視化・定量化は、散策から見た森林保全・整備の地理的優先づけに有用と考えられた。本発表ではこれらの解析を北茨城市で行った事例を紹介する。

  • Katsue Fukamachi
    セッションID: B5
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    里山には多様な自然資源が分布し、それぞれがつながりをもちながら文化的、生態的なネットワークを形成してきた。こうしたネットワークの機能を物理的、精神的に高める役割を果たしてきたのが、歩道、街道、水路などであり、古くからの文物や人々の交流の舞台、祭りや信仰など精神性と結びついた場となってきた。また、自然災害の多い日本では、災害時における周辺地域とのネットワークの重要性が指摘されている。例えば、東日本大震災時に山道が人や物資、情報等の緊急輸送路として活用された報告がなされている。多様な形態で存在する自然資源をソフト、ハードの両面からネットワーク化し、持続的な管理、活用につなげることは、今後の地域計画において重要となる。本報告では、滋賀県比良地域の自然資源の活用や自主防災に関する市民活動の実態を明らかにした。その上で、自然資源のネットワーク化に向けて里山の大小様々な道がもつ可能性、今後の課題について考察した。

  • KHANH LY LE, SHINGO SHIBATA
    セッションID: B6
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    Sacred forest is the forest type associated with the beliefs, customs and habits of the local communities living on the forest. Tourism is considered one of the suitable solutions of local livelihood replacement for poverty reduction in sacred forest. Yen Tu mountain is a sacred place with typical biodiversity reservoirs and cultural beliefs values in Vietnam. Religious tourism in Yen Tu with more than two million visitors annually becomes an effective livelihood solution for indigenous people. However, the construction of the road, pressure from pilgrims, bad behavior of tourism activities has led to serious impacts on unique native flora and fauna, for example Red pine ancient trees (Dacrydium elatum). The study discusses solutions toward sustainable tourism development in order to preserve biodiversity, cultural beliefs and still ensure the livelihood of local communities.

  • 安藤 滉一, 深町 加津枝, 東 幸代, 高橋 大樹
    セッションID: B7
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     近年、気候変動に伴い洪水・土砂災害などの自然災害が増加しており、そのリスクへの適応が求められている。また、日本では多くの地域社会で人口減少が進行し、担い手不足の問題をすでに抱えているか、近い将来にその問題が生じると予測される。人口減少は、これまで集約的に利用してきた土地を、自然や半自然の粗放的な土地利用に見直すことができる機会でもある。 滋賀県大津市南小松は琵琶湖西岸に位置し、白砂青松で名高い雄松崎や内湖、シシ垣など自然や人々が作り出した里山として貴重な景観が数多く残るものの、近年の開発に伴い減少しつつある。一方で、南小松には多くの絵図・文書が保管されており、過去の土地利用や災害状況などを読み取ることができる。これらの諸情報は、先に述べた粗放的な土地利用を考える上で参考になると考えられる。本報告では、南小松で保管されている江戸時代から明治時代初期に作成された絵図の分析を中心に、当時の河川や内湖・湖周辺の水害状況や土地利用とその変遷を明らかにし、水田の変化や河川の堤防拡大の要因を考察する。なお本報告は、人間文化研究機構総合地球環境学研究所のプロジェクト(14200103) の一環として行われた。

  • 芝 正己
    セッションID: B8
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    「土地純収益説」と「森林純収益説」の論争の渦中の1885年, H.v.ザーリッシュの『森林美学』の初版が刊行された(1902年:第2版, 1911年:第3版が刊行)。この第2版の英訳本が米国ジョージア大学のW.クックJr.とD. ヴェーラウにより2008年に出版され,2018年の昨年,その日本語翻訳版が出版された。かって日本では,1918年に北大の新島善直と村山醸造が『森林美学』として, 当時のドイツの森林施業法や美学的分析法を北海道の天然林に応用を目指した。これは,我が国の森林美学に関する大系化された初めての書物であり,今田敬一による「森林美学の基本的問題の歴史と批判」の研究へと受け継げられることになる。近年,エコツーリズムやレクリエーション,森林セラピーなど生態系サービスの文化的価値が認識されてきており,森林美学はその価値を具現化するツールとして今日的意義を見出そうとしている。 本研究では、沖縄島北部やんばる地域の国立公園・世界自然遺産化の動向を念頭に、その現代的意義を論考する。

  • 大宮 徹
    セッションID: B9
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    立山は、地獄谷、弥陀ヶ原、浄土山などの地名が示すように、人手が加わらぬ荘厳な自然景観を地獄・極楽のイメージになぞらえて、古くから人々の信仰を集めてきた日本三霊山の一つである。多くの修験者や後には一般の登拝者が全国から訪れ、明治以降は近代登山が幕開けし、自然環境に対するヒューマンインパクトが累積してきた。加えて戦後になると大掛かりな観光開発が進められ、景観保全についての意識が高まり、その課題は現在も共有されている。そこで、過去から現在までの主要な登山道などの総延長と、登山道や施設などの占める面積を指標にしてインパクトの累積をたどった。その結果、戦後の観光開発は面積では近世以前の23.5倍(平方根で約4.8倍)に相当するインパクトであったが、総延長の距離では2.6倍となり、ルートを限定することによって主に遠景の景観を保全する指向が示された。山岳景観の保全にあたっては、遠景から近景にわたる大きな空間が対象となり、地形や生態系と人による利用との地理的関係を把握することが必須である。そのため、地点ごとの履歴を地理空間データとして記録し、多面的な尺度でインパクトの増加を防ぐ保全推進に資するべきと考える。

  • 宮坂 隆文, Oyunchimeg Mongolkhatan, Batsukh Siilegmaa, Jamsran Undarmaa
    セッションID: B10
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    モンゴルでは、近年の家畜頭数の急増により、草原の劣化が問題となっている。モンゴルにおいて牧畜は、文化・経済両面で重要な産業であり、行政による一方的な規制は現実的でなく、牧民と連携した施策が必要となる。本研究では、今後の対策立案に向け実践的な指針を得るため、モンゴルの国立公園におけるバッファーゾーン管理に着目した。モンゴルの国立公園は、周辺地域をバッファーゾーンと定め、ゾーン内の牧民生計を支援し、適切な草原利用を促しながら、彼らと協力して管理を行うよう法律で定められている。一方で、モンゴル政府の予算・人手不足により、実際はほとんどの国立公園が上記管理を行えていない。その中で、フスタイ国立公園は唯一NGOが管理を担い、長年バッファーゾーン管理にも取り組んでいる。本研究はフスタイ国立公園を対象に、NGOが行政や牧民といかに協力して公園管理を行っているのか、そしてその管理が牧民生計にどのような変化をもたらしているのか、を明らかにすることを目的とした。本発表では、管理を担うNGOの主要スタッフと、周辺牧民121名への聞き取り調査結果をもとに、フスタイ国立公園の協働型自然資源管理の現状と課題を報告する。

  • 矢作 郁瑠
    セッションID: B11
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    国立公園をはじめとする自然公園制度は、日本において持続可能な地域自然資源管理を実現するためのモデルとして期待されている。環境省は2014年、行政や事業体・住民など多様な利害関係者の参画・協議によって管理方針を決定する、協働型管理による国立公園管理体制の構築を推進する方針を示した。この典型は中部山岳国立公園上高地地域である。2014年には利害関係者が参加する協議会によって、中長期的な地域管理方針「上高地ビジョン2014」が策定された。本研究では、上高地の地域自然資源管理の意思決定過程を明らかにし、協働型管理の構築の条件を探ることを試みた。その結果、上高地の協働型管理体制は、合意形成過程が重層的であることが明らかになった。協議会のようなフォーマルな場だけでなく、地域美化に端を発する地域自然保護団体「上高地を美しくする会」の順応的な組織運営によるインフォーマルな合意形成の場があり、それらが重層的に機能したことが協働型管理体制の構築と機能を円滑にしている。また、様々なコンフリクトに対する意見調整の歴史があり、その経験が、より多様な関係者間での意見調整を可能にする素地となったと考えられる。

  • 張 新語, 武 正憲, 伊藤 弘
    セッションID: B12
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    日本型エコツーリズムには、自然環境の保全だけでなく、地域活性や観光振興も期待されていることに特徴がある。エコツーリズムを推進することで、地域の繋がりが促進されることが指摘されている。しかし、エコツアー実施者が感じるエコツーリズムの意義や、その仕組みの継続に関する研究は少ない。飯能市は2004年からエコツーリズムを推進し、エコツーリズム推進法による全体構想の第一号認定自治体である。さらに、環境省によるエコツーリズム大賞および継続賞を受賞するなど、その継続的な取り組みが評価されている。本研究の目的は、長期間活動を続けるエコツアー実施者が感じるエコツーリズムの価値およびその仕組みを継続する要因を明らかにすることである。まず、2004年から2017年までのエコツーリズム推進報告書による文献調査から、飯能市で中核として活動するエコツアー実施団体を抽出した。次に、中核団体の会員へのアンケート調査から、エコツアーを通じて感じている価値を把握し、団体への入会期間の違いによる属性や感じる価値の違いを考察した。

  • 寺崎 竜雄, 土屋 俊幸
    セッションID: B13
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    利用者の観光行動を調整・制御するローカルルールは,1990年頃から散見されるようになった。拘束力や強制力には限度があるものの,地域の関係者が主体となって柔軟に対応できるという利点等から徐々に広まり,2000年頃から普及が加速した。ローカルルールについては,特定事例の現状と課題,ガバナンス等を考察した研究はみられるものの,概念を包括的に論じた研究は限られる。持続可能な観光の推進にむけて一層の普及と定着を図るには,概念の熟考とともに,普及の要因を分析することが重要である。そこで本研究では,ローカルルール普及の背景や要因を明らかにすることを目的に,観光振興を取り巻く社会の動向や関連の諸施策等の変遷を整理し,ローカルルールとの関連性の考察を試みた。その結果,体験型観光を扱う事業者の台頭,誘客による地域活性化にむけた取り組みの普及,環境保全意識の高まり等との強い関連性を論じることができた。なかでもエコツーリズムという言葉の効果,普及政策との相関が明らかになった。一方で,地域が主体となったボトムアップ型の取り組み推進につながる社会情勢の考察については仮説の提示にとどまった。

  • 武 正憲, 藤稿 亜矢子, 濱 泰一, 神宮 翔真, 氏家 萌美, 李 梁
    セッションID: B14
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
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    パラオ共和国は太平洋にある隆起サンゴ礁でできた島嶼国である。人口約1.7万人に対し,年間12万人程度の観光者が訪れ,観光業を含むサービス産業がGDPの8割程度を占める観光立国である。また、観光者に対する環境負担金を求める環境先進国としても知られる。パラオはロックアイランドと呼ばれる隆起サンゴ礁の島嶼景観が特徴的で,サンゴ礁とそこに生息する熱帯魚を観察するダイビングやシュノーケルが盛んである。また,原生的な森林も残されており,そこに生息する固有の動植物が観光資源になっている。近年,パラオでは観光者の増加により,林縁にあるシュノーケルサイトでは混雑が発生し,満足度の低下や自然らしさの喪失などが問題視されるようになってきた。しかし,これまで混雑状況の客観的な把握や混雑状況と主観的な混雑感との関係は明らかにされてこなかった。本研究では360度撮影カメラを搭載した仮設定点カメラ機材を開発し,その画像記録から,混雑状況を把握した。さらに,観光者へのアンケート調査結果との関係から,混雑状況と混雑感の関係を明らかにした。本報告では,仮設定点カメラ機材の開発や調査で得られた結果について報告する。

  • 山本 清龍
    セッションID: B15
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    あ・ら・伊達な道の駅(以下,道の駅)は宮城県大崎市の国道47号に立地し,全国の道の駅の中でも売上が上位に位置づけられ優良事例とされる。一方,鳴子,東鳴子,川渡温泉,中山平,鬼首の5つの温泉地から成る鳴子温泉郷は,道の駅からわずか7kmの場所に立地し近接する。しかし,奥州三名湯にも数えられる歴史的温泉郷では,宿泊者と日帰り観光者を合わせた年間入込客数が1991年頃の約400万人をピークに減少し,現在は約200万人前後で推移するなど再活性化が課題である。そこで本研究では,道の駅における温泉入浴無料クーポン配布による鳴子温泉郷への誘客の可能性を明らかにすることを目的とした。紅葉期の2018年11月1,4日(木,日)に道の駅利用者に対して無作為に調査への協力を依頼し,面接式アンケートと500円相当の無料温泉入浴クーポンの配布を行い,旅行者の行動の変更意向を把握した。現地では375人に協力依頼し,拒否率47%,200人から有効回答を得た。結果,26%(52人)の回答者の旅行目的地は鳴子温泉郷ではなく,このうち22人(12%)はクーポンを利用して調査日当日以降に温泉郷に足を運ぶと回答したことから,鳴子温泉郷への誘客の可能性を実証できた。

  • Bixia Chen, Yuanmei Jiao, Yi Xie, Thomas Jones
    セッションID: B16
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    The status quo of protected area network and the problems they are facing in China were summerized, using an example of forest parks. Forest tourism in China focuses more on revenue generation and regional economics than nature conservation. Both the tourist number and revenues increased around 20% in the past years. The swarming in of tourists also brought the great economic improvement around the forest parks, in particular, those with famed scenic sites. The large number of forest visitors has given much pressure to the natural resources. In order to solve the present management issues existing in the current protected area system, China’s central government inaugurated a new National Park system. Using one of the ten pilot sites, Patotso National Park, as an example, the difficulties and barriers to prioritize natural conservation in the park management at the second half of this study.

  • 藤野 正也, 長谷川 達也, 堀内 雅弘, 宇野 忠, 小笠原 輝
    セッションID: B17
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     富士山は世界文化遺産に登録されており、山梨県の富士北麓地域(山中湖村、忍野村、富士吉田市、富士河口湖町、鳴沢村)には、北口本宮冨士浅間神社、山中湖など17の構成資産が存在する。他にも自然、文化、観光レクリエーション施設が集積しており、年間約1,800万人がこの地域を来訪している。当地域全体の活性化を考える際、地域全体の周遊の促進が重要である。 そこで、当地域の周遊促進策を検討するため、観光客への現地アンケート調査を実施し、多くの市町村を周遊する観光客の特徴を分析した。調査は2018年8月に、富士山吉田口五合目、富士山吉田口登山道、富士急河口湖駅、道の駅なるさわの4箇所で実施した。2,690人に回答を依頼し、895人から回答があり、有効回答は769人であった(有効回答率87%)。来訪市町村数を集計したところ、300人は1市町村のみを来訪し、469人が複数の市町村に来訪していた。順序ロジットモデルを用いて来訪市町村数に影響を与える要因を分析したところ、旅行目的が世界遺産、歴史名所、自然名所などの観光であったり、家族旅行であったりする場合は来訪市町村数が増え、富士登山の場合は減る傾向があった。

  • 田畑 智博, 周 俊男, 吉田 美生, 大野 朋子, 井口 克郎, 村山 留美子, 片桐 恵子
    セッションID: B18
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

     森林・植物資源に焦点を当てた地域活性化策として、バイオマスの発電利用、植物の観光利用などが挙げられる。これらは地域の経済性や環境負荷削減、雇用創出に着目している。地域活性化の本質は、森林・植物資源の利用を通じて地域住民が地域への愛着や満足度を高めることであるが、多くの自治体ではこの視点が十分に反映されていない。また近年は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成が世界的に重要視されており、地域活性化においてもSDGsが重要視されはじめている。そこで本研究では、六甲山に存在する森林・植物資源を利用した神戸市の地域活性化のあり方を、SDGsの観点から考察することを目的とする。 先ず、神戸市が六甲山を対象として実施している地域活性化策を取り上げ、国の環境関連施策、SDGsとの関係性を整理した。その結果、森林・植物資源を用いた地域活性化では、地球温暖化の抑制、再エネや経済の推進だけでなく、貧困や高齢者に関する対応、環境教育や災害リスク管理、資金管理等も重要な要素となることを提示した。続いて、地域活性化を進めるために、関連するSDGsの目標・ターゲット別に、実施すべき取り組みを考察した。

  • JONES Thomas
    セッションID: B19
    発行日: 2019/05/27
    公開日: 2019/05/13
    会議録・要旨集 フリー

    Monitoring the demographics and injury profile of visitor segments is paramount at mountain destinations. This paper compares the domestic and international climbers that used the 8th station clinic on Mount Fuji’s north face over six summer seasons (2012-2017). Findings identified patients’ profile to be slightly more female (51.3%) with a median age of 35 years. The average number of patients admitted per day ranged from 7.6 to 12.9. The proportion of foreign in-patients ranged from 6.8% (2013) to 19.2% (2017), especially from USA (n=17) and China (n=9). The most frequently observed symptom was Acute Mountain Sickness (AMS), an umbrella term including headaches, vomiting, tiredness, trouble sleeping, and dizziness. Analysis using the Lake Louise Scoring System will have applications for segment-based risk management research, and implications for targeted risk reduction strategies at Mount Fuji.

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