日本森林学会大会発表データベース
第131回日本森林学会大会
選択された号の論文の872件中201~250を表示しています
学術講演集原稿
  • 山崎 理正, Pham Duy Long, 伊東 康人, 小林 徹哉
    セッションID: L9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     一般にキクイムシの寄主選択には、寄主木由来の揮発性物質などによる一次誘引と、フェロモンなどによる二次誘引の過程がある。カシノナガキクイムシの場合は集合フェロモンによる二次誘引の過程は明らかにされているが、一次誘引の過程については不明である。演者らは室内実験で、カシノナガキクイムシが寄主樹種の葉からの揮発性物質には誘引されるが、非寄主樹種の葉からの揮発性物質には誘引されないことを明らかにした。そこで、寄主に特異的な物質を非寄主に設置すればカシノナガキクイムシが誘引されるかどうかを確かめることにした。2019年7月下旬から9月下旬にかけて、ナラ枯れ被害が進行中の兵庫県神戸市北区の神戸市立森林植物園内で非寄主の針葉樹を3本選び、樹冠上に寄主ミズナラ・コナラの葉からの揮発量が相対的に多い3物質と、対照として水を設置した。設置木と周囲10mの胸高直径10cm以上の樹木の地際部に粘着トラップを設置し、樹冠上の物質と粘着トラップを約1週間間隔で回収交換し、粘着トラップに捕獲されたカシノナガキクイムシを計数した。その結果、樹冠上の物質が捕獲数に及ぼす影響は認められなかった。今後、設置期間や方法を検討する必要がある。

  • 福田 秀志, 小堀 英和
    セッションID: L10
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     愛知県知多半島ではカシノナガキクイム(Platypus quercivorus)(以下,カシナガ)によるナラ枯れ被害が2004年から確認され、それに対して2009~2018年までの約10年間、日本福祉大学,樹木医会愛知県支部などが協力して防除活動をおこなった.本報告では、この防除活動を通じて見えてきた有効な防除法とその課題について論じる。

     まず、被害を初期段階で発見し防除をおこなうことが重要である。それには、樹木医の役割が不可欠である。初期段階では、伐倒燻蒸が有効な手段となる。また、コナラにおいては、穿入生存木が多数発生するため。それに対しては、粘着シートによる防除が有効である。森林内のカシナガの密度を低減するのには、殺菌剤を注入した上でフェロモンとカイロモンとしてエタノールを用いた5本/ha程度の「おとり木」の設置が有効である。課題としては、再加害されにくい穿入生存木の発生スピードが遅いため防除活動が長期に及ぶこと、おとり木がマスアタックされた場合、一定割合で枯死することである。それらの課題の解消のためにいくつかの実験をおこなったので、その結果も併せて報告する。

  • 小林 正秀
    セッションID: L11
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     ナラ枯れは、江戸時代以前から日本で発生しており、過去の被害は周辺に拡がらなかったが、1980年代以降、全国的に拡大するようになった。京都府では、1990年代に被害が発生し、2011年以降は終息に向かったが、被害が再発している地域も多い。

     ナラ枯れの発生原因についても、主因、誘因、素因に別けて考えるべきであろう。主因は、カシノナガキクイムシが媒介する糸状菌(Raffaelea quercivora)であることが証明された。誘因については、2005年の総説で、ブナ科樹木の大径化を指摘した。すなわち、燃料革命で化石燃料の利用が増え、薪炭林(里山よりも奥山に多い)が放置され、カシノナガキクイムシが繁殖しやすい大径木が増えたことを指摘した。この説が定説になってしまったが、総説では温暖化の影響も指摘した。しかし「温暖化を原因とする説が提唱されたこともあったが、60年以上前に冷涼な地域で発生しており、関連性を示すデータは得られていない」と反論され、科学的な検証を試みる人はなかった。そこで、演者は、温暖化がナラ枯れに与える影響について検証してきた。ここでは、温暖化がナラ枯れの要因であることを示す。

  • 栃木 香帆子, 山内 貴義, 鞍懸 重和, 小坂井 千夏, 山﨑 晃司, 長沼 知子, 小池 伸介
    セッションID: L12
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    ブナ科樹木が生産する堅果の結実豊凶は、様々な動物の生存や繁殖などに影響を及ぼす。ツキノワグマ(以下、クマ)にとっても、ブナ科堅果は冬眠前の脂肪蓄積に不可欠な食物資源であるため、冬眠中に行われる出産とその翌年に行う育児の成功が、ブナ科堅果の結実豊凶によって大きな影響を受ける可能性がある。

    本研究では、ブナ科堅果の結実豊凶がクマの繁殖成功に及ぼす影響を解明することを目的とした。歯に形成される年輪の幅から育児の成功の履歴を推定する繁殖成功の評価手法を適用し、岩手県奥羽山地において1990~2015年に有害捕獲されたクマのメス計53個体を対象に、①優占種であるブナの豊作年の翌年にはより多くの個体が育児に成功する、②豊作年を多く経験した個体ほどより早くに育児に成功すると仮定した。その結果、ブナの結実豊凶によるクマの育児成功への顕著な影響は確認されなかった。その理由として、凶作年にも他の食物資源を利用し育児成功していることや、育児期にあたる春から夏の食物資源の利用可能性なども育児成功に影響していることが考えられる。今後クマの繁殖成功に影響する要因を探るためには、各季節の食物資源の存在の考慮が必要である。

  • 長沼 知子, 中下 留美子, 大西 尚樹, 栃木 香帆子, 小坂井 千夏, 山﨑 晃司, 小池 伸介
    セッションID: L13
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    ツキノワグマは学習能力の高い動物であり、特に子どもは母親から多くのことを学習していると考えられる。そこで、ツキノワグマにおいて、母親からの学習が親離れ後の子の採食物の利用に影響している可能性を検証するため、食性解析と遺伝解析を組み合わせることで母親からの学習が子の食性に与える影響を評価した。2003~2013年に栃木県足尾・日光山地で学術捕獲され、DNAにより血縁関係が推定されている39個体を対象に体毛の安定同位体比分析(δ13C・δ15N)を行った。ツキノワグマの体毛は、初夏から秋の食性履歴を反映しながら伸長するため、細断して安定同位体比分析を行うことで、活動期の食性の経時的変化と個体間関係を比較した。その結果、初夏から夏の同位体比の分布は、父‐子間および血縁のない個体間よりも母‐子間で類似している割合が高かった。秋以降はこうした傾向がなく、ブナ科堅果の結実豊凶と同調している個体が多かった。したがって、母親からの社会的学習が子の食性にもたらす影響は季節によって異なり、初夏から夏にかけては、社会的学習が食性に影響している可能性がある一方、秋は学習よりも資源量変動の影響が強い可能性が考えられた。

  • 大谷 達也, 米田 令仁, 金谷 整一
    セッションID: L14
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    皆伐・再造林地におけるニホンジカによる苗木食害への対策のために防護資材を設置する際には、あらかじめ皆伐地へのシカ出没頻度を大まかに把握しておくことが必要である。そこで、特殊な機器を使わず簡易な方法で森林管理者がシカ出没頻度を推定できる方法の開発を目指した。センサーカメラにより記録された出没頻度を真値として、フンや食痕などの痕跡調査から出没頻度を推定できるかどうか検討した。四国内において広くのべ27カ所の皆伐・新植地を選び、皆伐地内の林縁部に6台ずつカメラを設置した。2017年から2019年の夏・秋期においてそれぞれの場所で平均70日間にわたり稼働させ、日あたり出没頻度(のべ頭数/日)を算出した。カメラの設置期間内において、林縁部に長さ50m幅2mの調査区を3カ所ずつ設置し、食痕の残る植物個体数、およびフンや足跡などの有無を5m区画ごとに記録した。その結果、一般への普及を目指した単純なスコアの算出方法、すなわち植物を4タイプだけに分類した場合の食痕個体の有無、フン・足跡・獣道・樹皮剥ぎの有無だけでスコアを算出しても、カメラによる出没頻度をおおよそ再現できることがわかった。

  • 高橋 絵里奈, 岩崎 山太郎, 金森 弘樹
    セッションID: L15
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    シカは食物供給源の違いによって食性を変えるため(高槻1989)、シカの生息密度が高い地域では嗜好性植物が減少し、嗜好性の低い樹種が増加し、さらには不嗜好性の植物のみが増加する(高槻1989、井上ら1997)。従って、シカの嗜好性・不嗜好性樹種の分布をシカの分布や森林の利用状況の指標として活用できる可能性がある。そのためには指標となる樹種の絞り込みが必要となる。そこで、本研究では、Ivlevの選択性指数を用いて島根半島における正・負の選択性樹種を求めた。Ivlervの選択性指数EはE=(ri-pi)/(ri+pi)で表され、riは採食された全個体に対する採食されたi種の個体数の割合、piは全出現個体に対するi種の個体数の割合を示す。解析には島根大学の卒業論文6報から、島根半島におけるシカの葉の採食被害データを集約して用いた。出現本数、調査地数、選択性指数を基準として樹種を絞り込み、正・負の選択性樹種をそれぞれ5種選別した。その結果、島根半島における正の選択性樹種はネズミモチ、アオキ、ハイイヌガヤ、ヤブツバキ、ヒサカキ、負の選択性樹種はシロダモ、アブラギリ、ウラジロガシ、キヅタ、シキミとなった。

  • 河村 和洋, 山浦 悠一, 中村 太士
    セッションID: L17
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    世界各地で天然林は減少している。一方で、人工林は増加しており、天然林のみでは十分に保全できない生物種を人工林で保全する重要性が高まっている。一般に人工林の生物多様性は天然林に比べて低いが、ヒノキ科に比べてマツ科人工林には広葉樹が多いことが示されており、生物多様性も高いと予想される。そこで、国内研究の結果を収集し、メタ解析により各種人工林の生物多様性(個体数や種数)の違いを評価した。その結果、ヒノキ科(主にスギ)よりもマツ科(主にカラマツ)人工林の方が脊椎動物、無脊椎動物、植物の個体数や種数が高い傾向が示され、天然林に匹敵する分類群もあった。既存のマツ科人工林は、生息地として重要な役割を担っていると考えられる。一方で、ヒノキ科人工林の生物多様性は低かったが、近畿・中国・四国地方では研究が少なかった。特に、脊椎動物では西日本全体で研究が少なく、越冬期の研究も少なかった。西日本は重要な鳥類の越冬地であることが示されており、東日本の冬には低温や積雪といった厳しい気候、乏しい餌資源、広葉樹の落葉といった特徴がある。常緑のヒノキ科人工林がもつ動物の越冬場所としての機能も今後調べる必要がある。

  • 吉田 智弘, 井出 征一郎
    セッションID: L18
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    発酵した樹液は、広葉樹林において多数の昆虫によって利用されており、樹液場では昆虫種内・種間で排除行動が生じながら群集構造が成立している。樹液を利用する昆虫群集の構造は、個々の樹液、樹液を滲出する樹木、生息地である樹林など、異なる空間スケールの因子の影響を受けていると予想される。そこで本研究では、広葉樹二次林において樹液・樹木・樹林の3つの空間スケールで樹液を利用する昆虫群集を調査した。2018年6月、7月、10月と2019年6月~10月に、東京都および埼玉県南部の樹林40地点において、夜間に地上高2 m以下に滲出する樹液に集まる昆虫種とそれらの個体数、樹液の滲出表面積、樹液木の樹種、樹木の位置情報を計測・記録した。2年間の調査で、29種、7分類群、4151個体の樹液食昆虫を記録した。昆虫の種数・全個体数ともに樹液滲出表面積と相関はみられなかったが、樹木あたりの樹液数と正の相関があることが示された。また、樹林間で群集構成を比較した結果、カブトムシとノコギリクワガタは同所的に生息していたのに対して、カナブンはそれら2種と異なる樹林に分布しており、棲み分けが生じていることが示唆された。

  • Shengnan Zhang, Kohei Kubota
    セッションID: L19
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    Many studies have investigated the potential impacts of climate change on the distribution of insect species, but few have attempted to constrain projections through dispersal limitations and interspecific interaction. Here, Maxent models were used to map potential distribution of Japanese Platycerus under present and future climate conditions under RCP8.5 with highest greenhouse gas emissions in 2070. Our results revealed that the future potential distribution size of Platycerus in 2070 was smaller than the present one, especially considered the implication for projected distribution of dispersal scenarios in species distribution models. Moreover, the realized ranges of Platycerus were narrower than their potential ranges, probably due to interspecific interaction. Therefore, the integration of biotic interaction and dispersal limitations in species distribution models promises to improve estimates of potential range changes with climate change.

  • 朱 雪姣, 馬 涛, 温 秀軍, 久保田 耕平
    セッションID: L20
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    現在、中国からは29種のルリクワガタ属が報告されている。そして、ルリクワガタ属の形態的特徴に関して、前胸背板後角は上位分類において重要な分類形質として用いられてきた。そのうち、尖る(S)タイプはコルリクワガタ群とされ、丸い(R)タイプはルリクワガタ群とされてきた。一般的にホスト腐朽材は、ブナ等の冷温帯落葉広葉樹の固い立ち枯れ・枝枯れ、もしくは柔らかい地表材のいずれかである。日本産ルリクワガタ属の場合、Rタイプの種が固い地上材を選択し、Sタイプの種が柔らかい地表材を選択することがわかっている。しかし、中国産ルリクワガタ属のホスト材選好性は、同様であることが予想されるものの、詳細に検討した例はない。今回の研究で、中国の太白山に少なくとも4種のルリクワガタ属(Sタイプ:2種;R タイプ:2種)が共存していることが判明した。本研究では、これら4種の共存メカニズムを解明する手掛かりとして、これらの種のホスト材選好性を比較検討した。

  • 北上 雄大, 松田 陽介
    セッションID: M1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    人工林は、純林であることから生成される土壌環境は比較的均質と想定されるため、地域間スケールにおける線虫群集の形成様式を明らかにするのに適したモデルと考えられた。本研究では、緯度系列がスギ人工林に生息する土壌線虫の群集構造に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、その北限から南限に分布する異なる地域の線虫の分類群、個体数と群集構造を調べた。2019年5月から9月にかけて、北緯24°から42°にわたる8地域(台湾、沖縄、熊本、高知、三重、栃木、宮城、北海道)8林分に設置した1 haの調査区において、各区5ヶ所から土壌コアを採取した。生土100 gから分離された線虫は光学顕微鏡観察により属・科レベルまで同定した。さらに口部の特性にもとづき5つの機能群(細菌食、真菌食、植食、肉食、雑食)に類別した。全調査区から45分類群が類別され、各区における線虫密度は平均129頭~780頭/乾土100 gであった。線虫の群集構造は調査区間で有意に異なり、緯度によって有意に特徴付けられた。以上より、異なる地域に成立するスギ人工林の線虫群集の形成要因について考察する。

  • 遠藤 力也, 大熊 盛也
    セッションID: M2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    初夏~秋に、コナラやクヌギの樹幹に樹液が滲出している様子はよく観察される。樹液から様々な酵母が分離されることは半世紀以上前から海外で報告されているが、樹液中の酵母(樹液酵母)の存在量について定量的なデータが乏しく、国内で詳細に解析した研究も無いため、樹液酵母を分離し菌種の特定と存在量の定量を行った。

    2019年7月に福島市内でコナラおよびミズナラの樹液計6サンプルを採取し、希釈平板法により樹液から菌類を分離した。分離培地上で計1,460のコロニーを目視により識別・計数した後、画線による純化を行って、計290の微生物株を確立した。識別の確かさを検証した後、LSU rRNA遺伝子D1/D2領域の塩基配列の相同性から菌種を推定した。

    その結果、1.6x103 - 3.3x104 CFU/樹液μlの酵母が検出された。全ての樹液サンプルで、子嚢菌酵母Saccharomyces cerevisiae, S. paradoxus, Torulaspora delbrueckii, Hanseniaspora osmophila, H. vineae, Zygotorulaspora sp. が様々な組み合わせで優占していた。樹液には多くの昆虫種が集まっており、樹液酵母の中には昆虫随伴性のものが含まれることが考えられた。

  • 岡田 経太, 松田 陽介
    セッションID: M3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    マツ科トガサワラは絶滅危惧II類(VU)の外生菌根性の常緑針葉樹であり,その分布は紀伊半島と四国東部に限られている.トガサワラ林の土壌中には,バイオアッセイ実験を通して実生においてのみ検出される外生菌根菌トガサワラショウロの存在が知られており,本種は実生の定着に重要な役割を果たしていると考えられる.本研究の目的は,トガサワラ林の土壌中に潜在するトガサワラショウロの埋土胞子の空間分布の解明である.そのため,紀伊半島の三重県,和歌山県,奈良県に分布するトガサワラ林と周囲のアーバスキュラー菌根性のスギ・ヒノキ人工林にまたがる帯状のプロット(最大340 m)を1カ所ずつ計3カ所設定した.各プロットから土壌を格子状に採取し,トガサワラショウロに特異的なプライマーを用いたPCR増幅で菌の検出を試みた.トガサワラショウロは供試したすべての距離スケールで検出され,トガサワラ林周辺のアーバスキュラー菌根性の人工林にまで広く分布することが明らかとなった.本発表では今後得られるデータも踏まえ,トガサワラショウロの分布様式を宿主樹木の分布との関わりから議論する.

  • 白川 誠, 田中 恵
    セッションID: M4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     菌類が形成する大型の子実体(きのこ)は極めて多様な形態をとることが知られている。それらの種の推定や分類には遺伝情報を用いた解析と形態的特徴の詳細な観察が欠かせないことから、適切な標本の作製と保存が求められる。子実体の標本作成には乾燥処理や、ホルマリン液浸、樹脂含浸などの手法が挙げられ、DNA抽出や標本の移動、管理の面から乾燥処理が用いられることが多い。しかし、乾燥処理後に採取時と色や形態が著しく変化する種が存在すること、DNA抽出時に組織の損壊を伴うこと、長期保存による経年劣化が避けられないなどの課題が考えられる。そこで、本研究では写真や記述による記録に加えて、フォトグラメトリーを用いた3Dモデルの作製により、採取時の状態の保存を試みた。

     子実体の形状や色、軸の模様、乾燥処理後の変化の大きさなどを基に7種の子実体を選定し、3Dモデルを作製した。3Dモデル作製にはデジタルカメラで撮影した写真、Autodesk ReCapTM、Meshmixerを用いた。本発表では各モデルの再現度合いや手法の妥当性などについて述べる。

  • 深澤 遊, 松倉 君予, 小林 真, 鈴木 智之, 小南 裕志, 高木 正博, 田中 延亮, 竹本 周平, 衣浦 晴生, 岡野 邦宏, 上村 ...
    セッションID: M5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    ナラ枯れ(ブナ科樹木萎凋病)は、カシノナガキクイムシにより媒介される菌類により引き起こされる樹病であり、近年日本全国でコナラ属樹木の大量枯死を引き起こしている。しかし、材分解に関わる菌類群集にナラ枯れが与える影響はよくわかっていない。本研究では、北海道から九州まで全国7カ所で、生きたコナラ成木の幹の菌類群集にナラ枯れ被害の有無や気候条件が与える影響を調べた。

    調査地あたり3~10本のコナラの幹から合計280サンプルの材を採取し、DNAを抽出した。菌類のrDNAのITS1領域を対象としてMiSeqによりシーケンスを行い、Claidentによりメタバーコーディングを行った。得られた操作的分類単位(OTU)はデータベースとの照合により分類群および生態群の同定を行った。

    シーケンスにより得られた1,953,823リードから合計2888OTUの菌類が検出された。ナラ枯れは菌類の多様性を減少させていたが、菌根菌の多様性や一部の木材腐朽菌の発生頻度には正の影響を与えていた。一方、気温や降水量は菌類の多様性に正の影響があった。今回観察された菌類群集の変化が枯死後の材分解にどう影響するかは、今後枯死木のモニタリングにより明らかにして行く必要がある。

  • 中村 克典, 前原 紀敏, 相川 拓也, 小澤 壮太, 富樫 一巳
    セッションID: M6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    マツ林に甚大な被害をもたらすマツ材線虫病であるが、その被害拡大パターンは林分ごとに異なり、東北地方では相当数のマツを残したまま終息することすらある。このような被害拡大様式の違いは、宿主であるマツ個体群の病気への感受性、病原線虫の毒性、あるいは林分における媒介者密度といった生物学的なパラメータの変動によって決定されている可能性がある。そこで、岩手県北上市のアカマツ林に固定調査林分を設置して罹病枯死木の発生数を追跡するとともに、林分内でのマツノマダラカミキリ成虫の発生数、林内で検出されるマツノザイセンチュウの毒性、および調査林分に近接する苗畑に植栽したアカマツ苗木へのマツノザイセンチュウ人工接種により計測される宿主感受性の3点についての調査を経年的に行い、罹病枯死木数の変動に対する各パラメータの寄与程度を明らかにすることを試みた。これまでの研究結果によると、罹病枯死木の発生数は宿主感受性、線虫の毒性、カミキリ成虫の発生数といったパラメータを直接反映するものとはなっておらず、むしろ過去の感染拡大時に発生した潜在感染木の日和見的な発症によって規定されているようであった。

  • 秋庭 満輝, 安藤 裕萌
    セッションID: M7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウは北米原産の線虫である。原産地では雌尾端の形態に変異があることが知られており,尾端が丸いものがR型,尾端に突起を有するものがM型と称されている。R型がマツ属に病原性を有するのに対し,M型はモミ属に病原性を有することが報告されている。現在,日本で蔓延しているマツノザイセンチュウはR型のみであると考えられており,過去にこれらを用いた接種試験は数多くされてきたが,M型の日本産樹種に対する接種試験例はない。本報告では,北米産のM型およびR型の各2アイソレイト,比較のために日本産のR型1アイソレイトの合計5アイソレイトのマツノザイセンチュウをクロマツ,モミ,トドマツ,エゾマツの苗に接種した。日本産及び北米産のR型ではクロマツの枯死率が高かった。北米産のM型の1アイソレイトはクロマツの枯死率が低いのに対しモミとトドマツの枯死率が高かった。以上のことから日本産の樹種に対してもM型はR型と異なる病原性を示すことが明らかになった。いずれのアイソレイトに対してもエゾマツの枯死率は低かったことから,エゾマツはマツノザイセンチュウに対して抵抗性であると判断された。

  • 二井 一禎, 石黒 秀明
    セッションID: M8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    マツ枯れの感染経路には、これまで広く理解されている激害型経路の他に、「潜在感染木」を起点とするもう一つの感染経路がある。この感染経路の重要な点は、防除の網目をかいくぐって、密かに林内に感染木が蔓延し、被害発生の拡大と恒常化をもたらすことにある。潜在感染木は少数感染や寒冷地における感染などにより発生するが、演者らは、潜在感染木の発生メカニズムの中でもこれまであまり重視されなかった、少数感染に焦点を絞り、その発生のメカニズムを研究してきた。少数感染の場合、病原体であるマツノザイセンチュウは両性生殖をするため、増殖に失敗して個体群が消滅する可能性も高いと考えられる。また、マツ枯れシーズンの最盛期より、末期の方がマダラカミキリの保持線虫数が減少するため、少数感染が起こり易いと考えられる。さらに、季節によって少数感染後の線虫の樹体内動態、寄主マツの発病経過にも違いが生じることが予想される。これらの点を明らかにするため、クロマツ苗木を対象に、時期を違えて2回少数接種を行い、線虫の樹体内分布、樹脂分泌量を指標にした生理状態の観察、病徴観察を並行して継時的に実施したので、その結果について報告する。

  • 市原 優, 升屋 勇人
    セッションID: M9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    植物疫病菌(Phytophthora)が世界各国の森林生態系で大きな問題となっている。日本では本属による樹木被害はほとんど顕在化していないが、森林でのPhytophthoraの分布報告はあるため、森林樹木に対する病原性を確認する必要がある。本研究では日本産Phytophthora属3種について、日本の森林樹木に対する病原性を確認するために、苗木を用いた接種試験を行った。日本国内で広く認められたP. castaneaeP. x cambivoraおよびP. cinnamomiの各1菌株をポテトデキストロース寒天培地で培養し、菌叢を接種源とした。鉢植えのコナラ等の日本産樹木23種の苗(各樹種1又は2本)の主幹部の樹皮を剥ぎ(間隔をあけて4か所)、接種源又は対照の無菌培地を入れ、パラフィルムで巻いた。接種2か月後、樹種と接種菌、および苗木の状態によってばらつきがあったが、全ての樹種で接種による内樹皮壊死斑の軸方向長は対照よりも長かった。とくにミズナラとコナラの壊死斑長は大きく、一部の壊死斑が重なって測定できなかった。ほとんどの接種部の病斑から接種菌が再分離されたことから、Phytophthora属菌3種は供試した樹種に対する病原性があると考えられた。

  • 坂上 大翼
    セッションID: M10
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     Racodium therryanumが引き起こす暗色雪腐病は,自然状態では積雪下または融雪期にのみ発病し,0℃・多湿・暗黒の積雪環境が発病に好適とされる。低温菌が引き起こす雪腐性病害において,その病原性の発現を規定する要因を明らかにする目的で,温度・湿度・照度を制御した非積雪環境下で1年生エゾマツのプランター苗に対してR. therryanumの接種試験を行った。

     多湿・弱光条件下では,10℃で顕著に発病枯死したのに対して,20℃では10℃ほど顕著でなかった。10℃,20℃とも,寡湿下および強光下で発病が抑制される一方,菌の感染が認められた。以上の発病の激甚さは,樹体上への菌糸の蔓延の程度と概ね一致していた。WA培地上での菌糸伸長速度は,発病の程度と同様に10℃で20℃より大きく,10℃では光による阻害が認められた。従って,宿主の生理状態の関与も否定できないものの,菌糸の伸長や宿主への接触の量が発病に大きく影響するものと考えられた。一方で,積雪下とは大きく異なる20℃の寡湿環境下でも低率ながら感染の引き起こされること,多湿・弱光下では10℃でも著しく発病することが明らかとなった。

  • 石原 誠, 斎藤 秀之, 原山 尚徳
    セッションID: M11
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     サクラ類こぶ病に対する光誘導抵抗性の生理的メカニズム解明のため、“染井吉野”を供試し、人工照明下での接種試験で発現するこぶ病抵抗性について阻害剤等を処理してその影響を調べた。光合成阻害剤処理による光合成速度の低下は顕著に現れ、強光下と弱光下でこぶ肥大率は上昇して抵抗性の低下が現れ、光合成の寄与が認められた。次に、植物ホルモン類処理の影響を調べたところ、サリチル酸処理でこぶ肥大率が上昇して抵抗性が低下した。一方、ジャスモン酸メチル処理でこぶ肥大率が低下して抵抗性が増大した。加えて、ジャスモン酸阻害剤の処理で、強光、弱光両条件下での抵抗性の低下が認められたことから、光誘導抵抗性へのジャスモン酸の寄与が考えられた。

     次に異なる光条件のもと、こぶ病菌接種下で上記ホルモン類の生合成とその下流で抵抗性に関わる遺伝子について発現解析を行ったところ、サリチル酸生合成の主要な経路の鍵酵素をコードする遺伝子の発現レベルは低くかった。一方でジャスモン酸生合成経路の鍵酵素をコードする遺伝子は光と菌接種に応じて発現が有意に上昇した。このことは遺伝子発現のレベルでジャスモン酸の寄与を裏付けるものであった。

  • 手代木 徳弘
    セッションID: N1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    福島県内では原発事故の影響で一部の地域では野生ワラビの出荷制限が続いている。

    ワラビの移行係数は採取箇所により、大きくばらつくことがわかっている(長谷川ら2016)。また、ワラビは系統により根の量や密度が大きく違うことが知られていることから、移行係数のばらつきの原因を探るため、県内4箇所のワラビ自生地及び生産圃場から30×30×25~45cmの土壌柱を各3本ずつ掘出し、凍結後、地表から深さ3cm毎に切り出し、各層の根系の重量と各層の土壌及び根系の137Cs濃度を測定した。併せて、土壌柱の地上部ワラビの137Cs濃度を測定した。その結果、ワラビ根系の単位面積当たり重量と土壌から地上部への137Cs移行係数は調査した箇所により大きな違いが見られた。また、ワラビ根系の単位面積当たり重量とワラビ137Cs移行係数の間には正の相関が見られた。

  • 高橋 輝昌, 大後 恵里菜, 菅谷 光, 柴崎 則雄
    セッションID: N2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     千葉県袖ケ浦市の森林伐採跡地に植栽されたクロモジの枝葉からの水蒸気蒸留法による精油の抽出量を2019年6月から11月にかけて毎月測定した。クロモジは2013年に採取された種子から得られた実生苗を2015年3月から4月にかけて植栽し育成したものである。毎月の精油の抽出には、切られた形跡のないクロモジの枝葉を直径8 mmのところで切ったもの(8 mm枝)を使用した。精油の抽出には生重で10 kgの粉砕した枝葉を用い、精油の抽出は水蒸気蒸留法により行った。2019年10月には直径4 mmのところで切った枝葉(4 mm枝)と、直径12 mmのところで切った枝葉(12 mm枝)でも精油の抽出を行い、枝の太さと精油抽出量の関係についても検討した。枝葉の単位乾燥重量あたりの精油の抽出量は、6月と7月におよそ2.7 g kg-1であったが、8月以降に減少し、11月にはおよそ1.3 g kg-1となった。2019年10月の精油抽出量は、4 mm枝、8 mm枝、12 mm枝でそれぞれ3.1、0.9、0.4 g kg-1であり、細い枝ほど多かった。精油の抽出量は、枝葉に占める葉の重量割合が高いほど多くなる傾向にあった。

  • 飯島 勇人
    セッションID: S1-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、階層モデルの基本的な構造と特徴を説明し、階層モデルが森林科学分野で得られるデータを解析する上でどのように有用なのかを説明する。階層モデルとは、解析者が興味のある現象やそれを駆動する要因を含む系全体の過程を記述するモデル(生態モデル)と、生態モデルで記述した要素に関して取得するデータの取得過程を記述するモデル(観測モデル)という2つモデルから構成されるモデルである。階層モデルは様々な利点を有しているが、森林科学分野においては、不完全な観測の元でも興味のある過程について推論が可能であること、生態モデルと観測モデルを明示的に扱うことで解析者に対象としている系の過程に関する理解を促すという2点が特に有用であると考えられる。このような背景を元に、長期の毎木調査データや野生動物の個体数量に関する長期データなどに階層モデルを適用した例を示し、階層モデルが森林科学分野で得られるデータの解析に有用であることを示したい。

  • 井上 みずき, 伊東 宏樹, 山崎 理正, 福本 繁, 岡本 勇貴, 甲木 勝也, 福島 慶太郎, 境 優, 阪口 翔太, 藤木 大介, 中 ...
    セッションID: S1-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    京都府芦生研究林のシカ個体数変動パタンを記述するため、走行車両からのシカ目撃数4年分のデータを一般化加法モデルで以前に解析した。それから10年以上が経過しデータの時間的自己相関が無視できなくなってきた。そのため、状態空間モデルのKFASを利用してみた。ところが時系列をランダムウォーク+季節成分+誤差に分解するようなモデルでは内的増加率などを考慮してきた従来の個体群動態の研究と隔たりがある。そこで本研究では階層ベイズモデリングを利用し、観測値が得られるプロセスを明示的により柔軟にモデリングすることにした。走行車両からのシカ目撃数、区画法調査によるシカ目撃数、早春のシカ死体発見数などのデータをもとにシカ個体数の変動パタンを明らかにした解析例を紹介する。

  • 谷川 鴻介, 牧野 結衣, 三浦 直子, 梅木 清, 平尾 聡秀
    セッションID: S1-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    日本の中大型哺乳類は、種子散布など重要な生態系機能を担う雑食者や、密度増加が懸念されているニホンジカを含む植食者など、機能的に多様なグループである。しかし、多くの中大型哺乳類は森林棲であり、森林内における調査が困難であるため、生息場所選択やその季節変動、種間差に未解明の部分が多い。そして、このような問題の解決にはカメラトラップデータの階層ベイズモデリングが有効であると考えられる。本研究では、東京大学秩父演習林の滝川流域(約2000 ha)に計64台のカメラトラップを設置してデータを収集した。得られたデータをもとに、①同所的に生息する中型食肉目5種(アカギツネ・タヌキ・テン・ニホンアナグマ・ハクビシン)について多種・多季節占有モデルによる生息場所選択の種間差の解析を行った結果、局所スケールにおける生息場所選択が示され、地域スケールにおける複数の近縁種の共存に寄与していることが示唆された。また、②ニホンジカの生息場所利用について、空間自己相関を考慮した多季節占有モデルにより、生息場所利用の季節変動を解析した。本発表では、これらの結果とともに、カメラトラップデータのモデリング上の課題について議論する。

  • 星崎 和彦, 宮﨑 博之, 前橋 尚弥, 松下 通也
    セッションID: S1-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    野生動物の保護管理において個体数の把握はきわめて重要であるが、大型の種では、隠蔽性が高いために観測漏れが避けられない、行動範囲が非常に広いなど、十分なデータセットを得るために相当な労力を要する。カメラトラップやヘアトラップとベイズ推定を組み合わせた空間明示型標識再捕獲法は、個体の行動様式とトラップの位置をもとに対象動物の捕捉頻度をモデル化しつつ、観測漏れの発生も組み込んでいるため、保護管理の現場にとって魅力的なツールである。しかしながらモデルのパラメータ推定値はトラップ配置の間隔や偏りなど調査設計の影響を受けるといわれており、有用な個体数推定のためのデータ量について議論がある。

    秋田県では2017年からツキノワグマ管理計画の一環として、個体数推定の改善を目的として広域的なカメラトラップ調査を行っている。そこで、2017年に秋田県太平山~森吉山の1632 km2の範囲で実施されたカメラトラップ調査データを使って、トラップ数と撮影期間を75%、50%に減少させた疑似データセットを作成しては個体数推定を行う試行を繰り返す数値実験を行ったので、現場の要請として調査努力をどの程度減らせるか検討した結果を報告する。

  • 伊東 宏樹
    セッションID: S1-5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     植生の被度を測定する場合、目視により、(0, +, 1, 2, 3, 4, 5)などといった被度階級のデータとして測定する場合が多い。この場合の測定値は順序尺度であるため、そのまま平均を取ったりすることはできない。対処法としては、各階級における中央値に値を変換する方法がよく用いられる。このほか、値を順序尺度のまま、順序ロジスティック回帰により解析する方法も用いられる。しかし、これらの方法には測定値の不確実性を無視しているなどの難点がある。

     近年、連続値の被度(単位面積に対する割合)をベータ関数にあてはめ、ベータ分布の累積密度関数を使用した統計モデリングにより被度階級データを扱う方法が提案されている(Damgaard 2014, Herpigny and Gosselin 2015)。この方法を使って被度階級データの観測過程をモデリングすることにより、測定値の不確実性を考慮したうえで、観測されていない実際の被度を推定することが可能となる。本報告では、ベイズ統計解析ソフトウェアのStanを使用し、単純なモデルから空間自己相関を組み込んだモデルまで、この方法による解析例を紹介する。

  • 梅木 清, 平尾 聡秀
    セッションID: S1-6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    森林の動態を把握・予測するためには,樹木デモグラフィーのパラメータ(成長速度・死亡率・新規加入速度)を定量的に把握し,それらと樹木個体を取り巻く環境要因との関係をモデル化する必要がある。このため,樹木を個体識別し,ある程度の長さの期間追跡調査を行う。取得されたデータを統計的に解析をすることで,成長速度・死亡率・新規加入速度のモデルが得られる。しかし,一般化線形(混合)モデルなどの従来型の統計手法を使うためには,観察期間の長さが揃っているなど綺麗に整ったデータが必要であり,様々な事情のため不規則・不完全になってしまったデータを解析するためには,不規則なデータを解析対象から外すなどの「無駄」が生じてしまっていた。本発表では,階層モデルによってこの問題を回避し,不規則・不完全なデータも無駄なく活用して成長速度・死亡率・新規加入速度のモデルを構築する解析例を紹介する。新規加入速度推定のためには,死亡率・成長速度を考慮する必要があるが,これも階層モデルで問題なく対応できる。

  • 石井 弘明, 堀川 慎一郎, 野口 結子, 東 若菜
    セッションID: S2-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    樹木は固着性で長寿であり、分布移動および適応速度が遅いため、気候変動に対して個体レベルで可塑的に順化しなければならない。よって気候変動が森林樹木の分布や動態に与える影響を予測するためには、個体の可塑性とその地理的変異を把握する必要がある。本研究では、国内13か所のブナ集団において、葉の形態の個体内変異(ILP: intra-crown leaf plasticity)を測定し、可塑性の指標とした。ILPは太平洋側および西日本の集団で低く、日本海側および北限・標高限界付近の集団で高かった。ILPは気温との相関が高く、とくに気温の変動幅と強い相関を示したことから、北限・標高限界などブナが分布拡大しつつある環境変動の大きい地域では、形態的可塑性が適応的であると考えられる。一方、孤立集団を含む西日本のブナは、環境変動に対する個体レベルの順化能力が低いと考えられ、気候変動による生育環境の変化が個体の順化能力を超えた場合、大量枯死によって集団が消滅する恐れがある。

  • 三須 直也, 内山 憲太郎, 鳥丸 猛, 中尾 勝洋, 戸丸 信弘
    セッションID: S2-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    ブナは北海道から鹿児島県にかけて分布しており、葉形質や開芽フェノロジーなどの表現型の地理的変異が明らかとなっている。また、葉緑体DNAや核マイクロサテライトなどの中立な遺伝マーカーを用いた研究により、集団遺伝構造も明らかにされている。しかしながら、適応的な遺伝変異を調査した例は限られている。そこで、本研究では全国のブナ天然林を対象にddRADシークエンスを用いて、地理的スケールでのゲノムワイドな遺伝的変異を明らかにし、適応的な遺伝子を検出することを目的とした。全国のブナ天然林24集団、384個体を解析に用いた。SNP探索と各種フィルタリングにより4298座のSNPが得られた。そのうち、マーカー間の距離を1000bp以上離して選んだ1309座を用いて集団遺伝学的解析を行い、ゲノム全体での遺伝構造を明らかにした。また、4298座のデータを用い、中立進化からの逸脱や生育地間の環境変異との相関について解析するPCAdapt、BayeScan、LFMMの3つのプログラムを用いて適応的遺伝子の探索を行った。その結果、527_6251座と1201_45433座が適応的な候補遺伝子として検出された。

  • 宮崎 祐子, 佐竹 暁子, 北村 系子
    セッションID: S2-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    植物の花芽分化のタイミングを推定することは、花成を調節する環境要因を特定するために不可欠である。ほとんどの温帯樹種では、花成から開花にタイムラグのない一年生草本種とは異なり、花成から開花までの間に冬季休眠が存在するため、花芽分化のタイミングの正確な推定が困難である。一方、花成に関連する遺伝子の発現量を指標として花芽分化のタイミングを推定できる可能性がある。本発表では、開花の豊凶を示すブナを用いて、花芽分化のタイミングの推定における分子マーカーの有用性を示す。

    春から秋に採取した花芽および葉芽の茎頂分裂組織が未分化な状態から花原基を形成する間に生じる形態変化を観察し、ブナにおけるFLOWERING LOCUS TのオルソログであるFcFT発現量を比較した。その結果、葉におけるFcFTの発現量は、7月下旬にみられた花原基形成の約2週間前にピークに達した。FcFT発現量は7月の葉芽よりも花芽で有意に高かった。これらの結果は、7月のFcFT発現が花芽形成のタイミングの信頼できる指標であることを示唆する。本研究によって、生態学的および生理学的アプローチと組み合わせた、植物における繁殖動態の解明における分子ツールの有用性が示された。

  • Worth James
    セッションID: S2-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    Fagus crenata is a dominant tree of the cool temperate forest biome of Japan that ranges from mountainous areas of southern Kyushu, Shikoku and Honshu to the lowlands of southern Hokkaido. Isolated populations of F. crenata at the warm-edge limit in southern Kyushu and the Kanto region, often co-occurring with warm temperate tree species, are of particular biogeographical and conservation interest. However the origin of these populations remains uncertain: they could be remnants of elevational expansion from lowland coastal Ice Age refugia or, alternatively, more recently established via seed dispersal from the expansive F. crenata forests at higher elevations. This study uses chloroplast genome mining to investigate the phylogeographic structure and diversity of warm-edge limit populations and, in doing so, aims to reveal their past history and conservation value.

  • 北村 系子
    セッションID: S2-5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    現在、北海道にはブナの地理的分布の北限が2カ所ある。北海道渡島半島の付け根に位置する黒松内低地帯以北の幌別山塊と日本海の奥尻島である。これらの地域におけるブナの生育は良好で地理的分布以北に植栽されたブナも問題なく生育し繁殖を行うことができる。このことから、現在の北限は生理的な限界ではなくブナは現在北進を続けていると考えられる。演者らはこれら2つの地理的分布北限においてSSRおよび SNPを使い多様性解析を行った。その結果、黒松内低地帯周辺では北限最前線に近づくにつれて多様性の低下が観察された。一方、島嶼ブナ北限の奥尻島では北海道本島に匹敵する多様性の高さを示した。これらをふまえて、奥尻島と北海道本島との遺伝的な関係の解析結果および、北海道における分布変遷について考察する。さらに、本州以南のブナ林と異なり北限付近のブナ林が示す特徴的な点として、地滑り等によって形成された森林の空白地帯にいち早く侵入定着するパイオニア的な性質、その他生態的な特徴として初産齢が低い、実生の生残率が高いことなどを紹介し、今後北限のブナ林における研究課題のヒントを提供したい。

  • 前田 明日花
    セッションID: S3-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    鳥取県西部に位置する日南町は、町の面積の89%が森林で、近年林業従事者の増加・若返りが進む林業が盛んな山村地域である。しかし、このような山村地域に住んでいる子供ですら森林と触れ合う機会が減り、森林で遊ぶ体験ができない状態になっている。その原因は、人口減少と小学校の統合による広域からの通学の影響が考えられる。現在日南町の人口は約4,500人で、平成21年に統合した日南小学校は、全校生徒は125人で1学年20人前後である。子供たちは帰宅後、子供の行動範囲内に同じ年頃の子供がおらず、家でゲームをして過ごす子供が多いのが現状である。

    そこで日南町役場農林課は、従来の小学5年生に対する林業体験だけだったものを大幅に増強し、町内の森林教育に適した場所を活用した「一貫的な森林教育プログラム」を作成した。平成31年度は、小学3~6年生で試験的に実施した。本報告では、実施した森林教育の実績報告を中心に、本年度の森林教育の成果と課題を整理し、次年度に向けた課題改善点について考察することを目的とする。また日南町の森林教育の特徴の一つは、本年度の開校した、にちなん中国山地林業アカデミーの学生も指導員として参加している点である。

  • 島貫 織江
    セッションID: S3-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    昨今園庭を持たない保育園が増えており、それをデメリットと捉えられていない様子もある。それは、園近隣の公園への散歩が意義のある保育と捉えられているからである。園によっては様々な公園に出掛けられることができ、遊具や植生等がもたらす幼児への刺激が園庭のように固定化してしまわない。また、公園に行く過程でも、地域や四季の変化に子どもたちの関心が高まることが期待できる。そのような状況を踏まえ、保育者養成校において公園で実習を行うことは意義があると考え、「お散歩実習」と題し授業で取り入れている。その授業を受講している学生195名中103名が「自然の事物(虫や植物等)で苦手なものがある」と回答しており、虫や植物への苦手意識は、実践の様子においても顕著にみられた。当校は仙台駅の東口に立地し、授業で活用している公園はビルに挟まれるように立地している。そこには、ケヤキ、サクラ、ヒマラヤスギ、イチョウ等が四季折々の姿を見せており、そこに鳥や昆虫が集まってくる。そのように街中という立地ながら、園庭にはない多様な植生を持つ公園は、保育の場として、保育者を養成する環境として多くの可能性を持つことが示唆された。

  • 吉田 岳史
    セッションID: S3-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     2019年4月、鳥取県日南町に全国初の町立の林業学校として「にちなん中国山地林業アカデミー」が開校した。第1期生は10~40代の男女7名で、町内出身者の他、北海道・神奈川・愛知・岡山から年齢も職歴も異なる個性豊かな7名が集まった。筆者は東京で長年国家公務員として勤務していたものの「人生一度は山の中で汗水たらして仕事がしてみたい」との思いから、約2年間の比較検討の末、退路を断ち日南町へ移住した。

     本報告では、アカデミーでの1年間で学んだこと、得たことを中心に報告を行う。森林や林業について全くの無知からスタートし、知識・技術・体力全てに不安があった筆者が過ごした1年間を、具体的カリキュラムや授業実績から振り返り、入学前後での技術的変化、心情的変化についてまとめる。

     そして、都市から山村へ来た者として、人生を再スタートさせた者として、今後の林業学校へ期待したい役割を、林業人材の育成とともに「東京一極集中」「社会人の学び直し」「人生再設計」という視点から、実感と実体験を基に発表する。わたしは、林業に出会って、アカデミーに通って、日南町で暮らして、生き方が変わった。

  • 青山 将英
    セッションID: S3-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    主伐期を迎えた人工林を活用し、林業の成長産業化を進めるという施策のもと、山梨県では、林業大学校の設置を含めた林業の人材育成のあり方を検討している。山梨県は県土の78%が森林であり、その内の約半分が県有林という他県にはない好条件があるものの、木材生産量は他県と比べて少なく、林業就業者も千人未満という状況にある。また、新規就業者の確保は他産業との取り合いや平均年収の低さなどから困難な状況にある。林業大学校やアカデミーといった教育機関は、平成31年4月時点で18府県に設置され、人材の確保と育成に欠かせない存在となりつつあるものの、後発組となる立場においては、県が林業が抱える課題を解決し、就業につなげる存在となり得るのか、設置の必要性、定員の充足などについても十分な検討が求められる。本報告では、人材育成のあり方の検討の中から出された山梨県における林業が抱える課題を明らかにするとともに、それらの解決に向けて必要となる人材や育成の方法とは何か、或いは人材育成以外の方法についても検討していく。

  • 寺嶋 嘉春
    セッションID: S3-5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     新たな小学校学習指導要領が2020年4月から全面実施される。これに併せて新しい教科書が作成され、2019年3月に検定結果が公表された。子供たちを対象とした森林教育の普及のためには、学校教育に即した内容や教育目的に配慮することが望ましい。そこで、新たな学習指導要領及び教科書における森林等の扱いについて調査分析した。

     学習指導要領で「森林」を扱っているのは社会科5年のみで、学習指導要領解説では社会科4年の「地域の資源を保護・活用している地域」の例示としての「森林」のみで、いずれも改訂前と同じであった。教科書については、国語・算数・社会・理科・生活科・図画工作・家庭科・外国語・道徳の計9教科のすべての教科において森林等を扱っていた。社会科4年のすべての教科書において「飲用水の供給経路」として「水源林」が扱われていること。生活1、2年のすべての教科書でどんぐりを教材とすること。社会6年、理科6年、家庭科5-6年の教科書の多くにおいて地球環境関連のテーマで森林を扱うこと。国語・算数・図画工作・外国語・道徳の教科書においても森林等を素材としており、かつ、教科横断的な記載が確認できた。

  • 居﨑 時江
    セッションID: S3-6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    人間にとって森林は環境教育のみならず保健、医療、福祉の観点から重要である。英国、欧米では自然の健康上の恩恵を科学的に実証する取り組みが積極的に行われている。社会福祉の分野で注目されている健康格差の問題も、自然環境、自然とのつながり感、自然体験、各々と健康の関係を探り、幼少期から自然環境を通して一生涯の健康の礎を築きアプローチする動向がある。低所得群間でさえも自然環境が多いグループと少ないグループ間の健康格差が少ないとする先行研究もある。英国では、女王自らも自然保全を推奨し、英国政府組織Natural Englandは、Outdoors for Allというプログラムにより自然体験がすべての国民によって享受されるよう促進し、効果を示す多くの報告書もある。ウェルビーイング指標には自然環境が位置付けられている。他にも、慈善団体であるLearning through landscapesが自然体験を享受することが難しい貧困層や少数民族の就学前児、保護者を援助するNurturing Natureを実施している。本研究は、英国での森林の保健、医療、福祉分野での活用事例をあげ、日本の実情との比較の中から今後の課題を明らかにすることを目的とする。

  • 渡邊 万里映
    セッションID: S3-7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本研究の目的は、小中学生を対象としたキャンプにおける野外炊事で生じる学びの内容を明らかにすることであった。対象者は、2018年の夏に実施された「南蔵王チャレンジキャンプ(6泊7日)」の参加者(小学5年生~中学3年生)20名と「南蔵王わんぱくキャンプ(4泊5日)」の参加者(小学2年生~小学4年生)27名であった。調査はキャンプ中の野外炊事が終わるごと、班ごとふりかえりシートを記入してもらう形で実施した。自由記述の回答に対してコード化し、コード化したものをカテゴリーに分け、単純集計を行った。その結果、野外炊事で得られる学びの内容は、「調理に関する学び」、「野外炊事特有の学び」、「食料に関する学び」、「人に関する学び」、「その他」の5カテゴリーであった。性別ごとに結果を比較すると、男子の方が女子よりも「野外炊事特有の学び」の割合が多く、わんぱくキャンプにおいては、男子よりも女子の方が「調理に関する学び」の割合が多かった。時期による比較ではわんぱくキャンプにおいて、キャンプ前半は野外炊事特有の学びが多いがキャンプ後半になると調理に関する学びが多くなっていた。

  • 井上 望
    セッションID: S3-8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     近年、子どもの体力・運動能力水準は親世代の子どもの時の水準より低く、運動・スポーツをしている子としていない子との間で体力水準は二極化する傾向が認められている。また、今日、7人に1人の子どもが貧困状態にあると言われており、日本における「子どもの貧困」も問題となっている。このような生活環境は、一般的に学童保育やスポーツクラブ等が行っている運動支援に参加できない状況を作り出しているため、運動・スポーツをしていない子たちが学校生活以外、すなわち、平日の放課後や休日・長期休暇中におけるより効果的・効率的な社会体育支援環境を整備する必要がある。同様に、子どもに自然体験をさせようとしても、時間と費用の問題により、行うことができない状況にあり、子どもの貧困に対応するためには、運動・スポーツおよび体験活動に対して金銭的な補助をする必要がある。

     そこで某社会教育団体で行われる所得に応じて参加費の補助制度があるキャンプに着目をし、キャンプ参加者の自然体験状況と自己効力感の変容について調査を行った。本シンポジウムではその結果を用いて、学童支援を目的とした自然体験活動のあり方や必要性について論議する

  • 近藤 聡
    セッションID: S3-9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     本実践は、生きづらさを抱えた子どもたちが、森林のもつ作用によって感情や自己をコントロールして、情緒的安定状態で体験活動に取り組み、将来的に社会参加につなげることを目指して行っている。対象とした子どもは、学校や家庭において、環境の変化に順応することが苦手で、情緒不安定や適応困難が顕著に現れる小学生であった。その子どもたちは、学校の教室の中では激しい感情の乱れや情緒的混乱の様子がみられるが、森の中では短時間でのクールダウンがなされ、譲り合うことや折り合いをつけることなどの協働姿勢が多くみられた。こうした森林教育活動でみられる効果は、壮大な自然によって作り出された森が人間にとっての自然に還る場であるからこそ現れるものだと考えられる。また、個々の子どもの生育歴、特性、生活実態とその対応について、定期的に行う保護者面談で情報を得た上で、それらを踏まえた指導者の適切な関わりや支援によっても活動の効果が生み出されると考える。生きづらさを抱えた子どもたちのもって生まれた人間性が否定されることなく、人のすべてを無条件に受け入れることができる森林の多様性を活かした活動を紹介する。

  • KOMORI Shin-ichi
    セッションID: S3-10
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     自然体験活動(または野外活動)及びその学習活動となる野外教育・環境教育等の領域でも、近年においては言葉(テクスト)をデータとする質的な研究方法を用いた論文が見られるようになってきました。質的研究といっても、そのアプローチ方法は、代表的なところでも「グラウテッド・セオリー」「エスノグラフィー」「ライフ・ヒストリー」「ナラティブ・アプローチ」「ケース・スタディ」などと多岐にわたります。当発表では、その中でも“ケース・スタディ”を取り上げ、そのアプローチの手続きの概要について紹介します。

     ケース・スタディは、ある特色ある状況・環境(ケース)について着目し、その事例の密な検証を通じてより広く深い当該事象の理解に適した研究手法となります。ある自然体験活動については、そこで起こった全体の出来事を、特色をもつ一つのケースとして見なすことができます。そのように捉えることで、ケース・スタディのアプローチは、質的研究の中でも、ある独自の体験活動によって生起した事象や、またそこに見られた影響・変化・効果等について検証していくアプローチとして適していると考えられます。

  • 安髙 志穂
    セッションID: S4-1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    森林経営管理制度開始から1年を向かえるが、多くの市町村で地域の実情に合わせた取組が始められている。本制度に係る事務の端緒は市町村が行う経営管理意向調査であるが、制度開始から半年経った2019年9月末時点、56市町村で既に調査が実施されており、今年度中には私有林人工林のある1,592市町村のうち約3割で実施される見込みである。経営管理意向調査に対して森林所有者からの回答が返ってきている市町村もある。また、森林所有者から経営管理権集積計画作成の申出を受けた市町村もあり、森林所有者自ら本制度を活用しようとする動きもある。経営管理権集積計画の作成まで至っている市町村は6市町で、延べ142件、257haの計画が公告されている(2019年12月末時点)。さらに、森林整備に着手する市町村もある。来年度以降、市町村における本制度に係る取組が本格化すると見込まれ、林野庁では、市町村が本制度の運用を早期に軌道に乗せることが出来るよう、市町村職員向けの説明会への職員派遣、市町村への指導・助言を行える技術者の養成等これまでの取組を充実させるとともに、全国の知見・ノウハウを集積・分析し、市町村等に提供する取組を新たに行う予定である。

  • 内山 愉太, 香坂 玲
    セッションID: S4-2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    2019年4月には森林経営管理法が創設され、同年度には森林環境譲与税が導入された。税の配分では、各自治体の私有林人工林率等のみならず、人口も考慮されるため、都市部の自治体にも一定の配分がなされ、農山村部のみならず都市部の自治体においても同税の活用が進められている。都市部では、同税を基に都市-農山村連携を促すことも意図されており、その萌芽的事例について報告を行う。対象自治体は、東京都豊島区と埼玉県秩父市の連携の事例である。その連携の経緯、各自治体の視点等について調査、分析を行った。連携経緯としては、両自治体がこれまでも姉妹都市として連携を行ってきた経緯や、秩父市の広域連携を含む施策展開が背景となっていることが把握された。カーボン・オフセット事業として進められている両市の連携では、森林整備に加えて環境教育、普及・啓発等も含まれ、多面的な効果、将来的事業対象地の拡大等が期待されている。特に秩父市において行われている県と市の人事交流による人的資源の補完や情報共有の促進等は、他の自治体において示唆があり、森林環境譲与税の活用を進める上でも有用と考えられる。

  • 藤下 定幸
    セッションID: S4-3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    森林経営管理法が平成31年4月から施行され、適正な経営管理が行われていない森林は、市町村が主体となって整備を進め、都道府県はその市町村に対し、必要な助言、指導、情報の提供に努めることとされた。また、こうした取組みに対し、同時期に施行された森林環境譲与税を財源として充てることができるとされている。

    こうした中、岐阜県では、市町村が森林経営管理制度に取り組めるよう、平成30年度に市町村が望む県の支援策に関するアンケート調査を実施し、その結果踏まえ、森林環境譲与税を活用して市町村の支援を行っている。制度が始まった今年度、県内の全市町村の実務担当者に直接ヒアリングしたところ、制度運用上の課題が寄せられたことから、それら課題を整理し、市町村の実施体制の強化など今後の岐阜県の対応策を取りまとめた。

    また、岐阜県では平成23年度から県独自課税による清流の国ぎふ森林・環境税事業を進めている。平成30年度に森林環境譲与税事業と清流の国ぎふ森林・環境税事業の棲み分け(デマケ)を整理しており、森林経営管理制度に関する岐阜県内の市町村の取り組みと県の支援状況及び、今後の対応策と併せて報告する。

  • 中谷 和司
    セッションID: S4-4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    森林環境税、森林環境譲与税と並行して創設された森林経営管理制度は、市町村に相当量の業務負担を強いられ、トップダウン的に降ってきた業務に遣らされ感を抱いても不思議ではなく、とりあえずの体裁や無駄遣いなど負の連鎖に陥ることは避けたい。国・県が行う市町村へ援助は、国・県の基本計画を基軸としたものであるが、市町村の施策は、飛驒市の場合「飛驒市総合計画」を基軸とした林務行政であり、独自事業として「広葉樹のまちづくり」に取り組んでいる。自ずと国・県と飛驒市とでは、その対応に差が出て然りである。森林経営管理制度実施には、数多くの課題が想定されるが、そもそも森林情報の整備や行政・現場を問わず人材確保・育成等の既往課題があるが故である。飛驒市のスタンスは、地方創生を目指す独自施策である「広葉樹のまちづくり」を進めるにあたり、財源としての森林環境譲与税であり、一手段としての森林経営管理制度である。広葉樹のまちづくりの課題である地域材の安定供給、多様な活用、流通システムの構築の財源とする他、安定供給に必要な事業地確保として森林経営管理制度の活用、森林整備に必要な人材育成や路網整備にも森林環境贈与税を充てる。

  • 多田 忠義
    セッションID: S4-5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    本報告の目的は、森林組合や林業事業体などの森林関係主体が、森林経営管理制度および森林環境譲与税に関する事業で、市町村とどのような連携体制を構築しつつあるかを速報することである。調査方法は、各種報道等の情報収集ならびに協力の得られた市町村、森林組合、森林組合連合会に対するヒアリング調査である。A県の森林組合連合会では、森林環境譲与税を環境林整備に活用するとの基本方針を打ち出し、市町村や森林組合に対する業務コンサルティングを実施し、森林環境譲与税や森林経営管理制度の事業推進を通じた連携を図っている。ヒアリング調査した複数の市町では、森林組合が森林経営管理制度に基づく意向調査の実施区域の選定を支援するだけでなく、意向調査等の森林環境譲与税を主な財源とした業務を委託するなど、実務面での連携も確認された。また複数の市では、森林環境譲与税の使途を議論する住民参加型の協議会が創設され、市町村、森林関係主体、地域住民との意見交換体制が構築されつつある。また、この協議会は、事業への公平な参加機会を担保したい市町村と、知見を有する森林関係主体とが連携を模索する契機としても機能していると評価できる。

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