情報通信政策研究
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寄稿論文
  • 機械的な人事採用選別と自動化バイアス
    平野 晋
    2024 年 7 巻 2 号 p. 1-27
    発行日: 2024/03/22
    公開日: 2024/03/26
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    本稿は先ず、旧ソ連軍スタニスラフ・ペトロフ中佐が、アメリカからの核攻撃警報を鵜吞うのみにせず、直観的にこれを疑い、無事に核戦争を回避できた事例紹介を通じて、〈自動化バイアス〉に抗あらがう〈意味のあるヒトの監視・決定等〉の重要性について読者の理解を促している。

    続く第一章に於いては、広い射程を包含する概念として「AI」という文言を使いながら、AIの予測・決定・推奨等を信頼し過ぎる(over-trustな)ヒトの偏見としての自動化バイアスと、これに類する認知上の誤謬である〈確証バイアス〉等々を解説。その上で、これ等の誤謬に対する対策案を、総務省「AI利活用原則の各論点に対する詳説」、EU『AI規則案』、及びホワイト・ハウス『AI権利章典の青写真』から例示・紹介している。

    そして第二章では、自動化バイアスとは真逆の、AIの予測の方がヒトより正しくても、ヒトはヒトによる意思決定を好みがちであるという、AIに対する信頼不足(under-trust)な偏見が、社会的損失を生むと主張する〈アルゴリズム回避〉を紹介。加えて、これに類する幾つかの、ヒトの意思決定尊重主義に対する批判的指摘の代表例―筆者はこれ等をまとめて「アルゴリズム回避論」と呼んでいる―に言及した上で、それ等アルゴリズム回避論に対する筆者の反論を展開している。

    第三章に於いては、たとえヒトには〈アルゴリズム回避〉という偏見がはたらく場合があるとしても、それでも人事採用選別や被用者の評価等に於けるAI利用には慎重であるべき理由として、「AIによる予測がヒトよりも正しい」という前提/停止条件が満たされていない場合があること、AIの特性的にAI利用が妥当ではない場合があること、及び前提/停止条件が満たされてもAI利用には謙抑的であるべき倫理上の理由があること、を説明している。

    その上で、「おわりに」に於いて筆者は、AI利用はその適した業務に限り、ヒトが適する業務との協働が望ましいと示唆している。

  • ―ユーザーの利益確保の視点から
    酒井 麻千子
    2024 年 7 巻 2 号 p. 29-45
    発行日: 2024/03/22
    公開日: 2024/03/26
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    本論文は、著作権侵害対策としてコンテンツ共有プラットフォームでなされるコンテンツ・モデレーションに着目し、サービスプロバイダに対する各種規制においてユーザーの利益をいかに考慮すべきかを明らかにすることを目的とする。EUのデジタル単一市場著作権指令(DSMCD)17条及び関連する欧州司法裁判所(CJEU)での裁判例、そしてDSMCD17条を国内法化したドイツの著作権サービスプロバイダ責任法(UrhDaG)の各規定を検討した。

    DSMCD17条4項は、オンラインコンテンツサービスプロバイダ(OSCCP)が自らのサービス上での著作権利侵害を抑制・予防するため、侵害著作物の利用不可能性を確保するために最善の努力を払うことを義務付けており、OSCCPはアップロードフィルター等の導入が事実上不可避であった。しかし、フィルタリングツールの導入はオーバーブロッキングを伴う可能性があり、ユーザーの表現及び情報の自由との関係で懸念が示されていた。CJEUが2022年に出した判決(C-401/19)では、17条4項の解釈は同条の他の規定をも考慮すべきであり、17条7項における合法的なコンテンツのブロッキングを防止するための措置や、同9項における不当なブロッキングに対抗するための効果的な救済措置の確立によって、EU基本権憲章11条によって保護されるユーザーの表現及び情報の自由に関する権利と、同憲章17条2項で保護される知的財産権との公正なバランスを確保するための保護措置を有していると判断された。したがって、権利者の利益だけでなく、コンテンツをアップロードするユーザーの利益も十分に考慮すべきであることが示されている。

    UrhDaGはさらに一歩踏み込み、ユーザーの利益を保護する方針を打ち出した。同9条では、コンテンツが「推定的に許容された利用」(権利制限規定等の下で許容される利用)に該当する場合、OCSSPは原則として公に伝達しなければならないとしており、OSCCPに適切なフィルタリングツールの設計を実質的に求めている。

    本論文では、フィルタリングツールの利用が不可避な中でユーザーの利益を考慮するためには、(1)フィルタリングツールの設計方針、(2)サービスプロバイダに適切な設計を促すための強制力、(3)フィルタリングツールを評価するための透明性とデータアクセス、(4)事後救済手続の内容と法的性質(「ユーザーの権利」の観点など)が必要となる点を指摘した。EUでの議論は日本法にも一定の示唆を与えるものであり、今後さらなる検討が必要であると結論付けた。

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