情報通信政策研究
Online ISSN : 2432-9177
Print ISSN : 2433-6254
ISSN-L : 2432-9177
6 巻, 2 号
選択された号の論文の2件中1~2を表示しています
寄稿論文
  • 浜田 純一
    2023 年 6 巻 2 号 p. 1-13
    発行日: 2023/03/27
    公開日: 2023/03/29
    ジャーナル フリー HTML

    新しい法学分野である情報法について、その厳密な内包外延を「情報」の概念からただちに導き出すことは難しい。むしろ、今日、情報法の教科書等で扱われるテーマとして共通了解され、定着してきている内容を通覧することから、情報法のイメージを浮かび上がらせることができる。情報法の基礎となる理念は、情報の自由ないし情報流通の自由であり、また論争的ではあるが、「情報に対する権利」である。「情報に対する権利」は戦略的な概念であり、ユニバーサル・サービスの充実や情報環境の形成における個人の主体的・能動的な関与を促す役割を果たしうる。                                                                           

    情報法で扱われている内容を通覧して見えてくるのは、第一に、情報の「タフ&ナイーブ」という特性であり、この性質は、倫理や自主規制あるいはアーキテクチャ論などの規律手法に親和的である。第二は、「自律」という理念であり、それは、個人情報の利活用等の場面で留意すべき視点を浮き彫りにするとともに、情報秩序が自律を前提として機能すること、また情報法が自律を支える基盤となるべきことを意識化させる。第三は、急速な情報化に対応する「スピード」であり、それが、情報をめぐる法と政策の近接性や学際的研究への要請を高めている。

    情報法はなお発展途上の「フロンティア」であり、新しい情報技術や情報環境がもたらす課題への法的応答を絶えず迫られる中で、自由と規制という枠組みだけでなく統治構造論的な視点も含めて、柔軟さと想像力を備えた研究の発展が期待される。情報法の定義や基本理念、規律の手法などをめぐる議論はなお将来に開かれている。

調査研究ノート(査読付)
  • 「その実演」の意義を中心に
    栗原 佑介
    2023 年 6 巻 2 号 p. 15-36
    発行日: 2023/01/24
    公開日: 2023/03/29
    ジャーナル フリー HTML

    本稿は、将来、通信環境がより大容量、低遅延、多接続となり、現実の動きがシームレスにバーチャルリアリティに反映される情報通信環境を想定し、アバターを介した実演の法的保護を明らかにすることを目的とする。

    現在、著作権法上、実演家の権利は「その実演」を保護対象としている(同法90条の2~92条の2)。この場合、メタバース(以下「MV」という。)上での「実演」(同法2条1項2号)あるいは実演相当行為は、「その実演」に該当するのかという論点がある。また、著作権法91条1項は録音録画権を保障するが、いわゆるワンチャンス主義によって、その範囲が一般的には限定されている(91条2項)。しかし、91条2項は、「映画の著作物」において録音・録画される場合を対象とする。そのため、リアルタイムでの実演をMV上で行った場合、この要件に該当するのかという点も論点となる。

    これらを検討した結果、実演家保護の制度趣旨に関し、準創作行為保護説と伝達行為保護(投資行為保護)説の対立があるところ、現代においては、伝達行為のコストが下がり、実演に個性が表出されることを保護するべきであり、準創作行為保護説が妥当であることを示した。

    次に、MV上でのアバターの実演(相当行為)が、現実の実演家による実演として評価できるのか。「その実演」の意義と判断基準を検討した結果、①MV上でも「実演」といえるための基準としては、当該表現に実演家の個性が表出されているか否か、という観点から判断し、該当すれば、MV上の表現であっても、実演と評価されるべきであること、②MV上でアバターが実演を行った場合に、実演家の権利が及ぶ「その実演」といえるためには、機械的再生であること、アバターがなす実演から、もとの実演の個性の表出を感得でき、当業者(当該芸術分野の通常の知識を有する者)を基準にしてその同一性を感得できるか否か、という観点から判断すべきである2点の知見を得た。

feedback
Top