情報通信政策研究
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5 巻, 2 号
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寄稿論文
  • -2019年9月26日のベルリン行政裁判所判決の分析を中心としてー
    杉原 周治
    2022 年 5 巻 2 号 p. 1-27
    発行日: 2022/03/28
    公開日: 2022/03/31
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    ドイツでは、従来からストリーミング・コンテンツが認可を要する「放送」に含まれるのか否かにつき議論がなされてきたが、最近になって、「放送」の概念、とりわけ民間事業者によるストリーミング・コンテンツに対する法規制をめぐって大きな動きが見られた。

    ひとつは、放送認可につき管轄権を有する監督機関であるZAKが、複数の事例で、インターネット上のライブストリーミング・コンテンツを「放送」とみなし、それゆえ認可が必要であると判断したことである。さらに、ベルリン行政裁判所も、2019年9月26日の判決において、Axel Springer社が提供していたライブストリーミング・コンテンツにつき、ZAKの判断と同様に、当該コンテンツを認可を要する「放送」にあたると判断している。

    もうひとつは、こうした動きのなかで、2020年11月7日に、従来の放送州際協定に代わって新たに「メディア州際協定」が発効されたことである。同法は、例外的に「放送」とはみなされないコンテンツの基準を大幅に緩和し、それに伴い、認可なしに配信可能なストリーミング・コンテンツの範囲が拡大したのである。

    このような背景から、ドイツでは現在、ストリーミング・コンテンツが「放送」に含まれるのか否かの議論が、判例・学説において改めて議論されているところである。そこで本稿は、こうしたドイツの議論を分析するために、とりわけ上述の2019年9月26日のベルリン行政裁判所判決を取り上げ、ドイツにおけるストリーム・コンテンツに対する法規制の内容と運用について検討を加えることにする。

  • 松尾 剛行
    2022 年 5 巻 2 号 p. 29-50
    発行日: 2022/03/28
    公開日: 2022/03/31
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    中国において初めての個人情報保護法典が2021年制定・施行された。

    以下では、まずは、世界の3種類の個人情報保護制度の相違について、即ち、プライバシーを強調するGDPR型、表現の自由を重視する米国型、データローカリゼーション規制等を導入する国家の関与が強い中国型をそれぞれ簡単に概説する。

    そして、中国における個人情報保護制度について、中国個人情報保護法に限らず、中国サイバーセキュリティー法(ネットワーク安全法)、中国データ安全法(データセキュリティー法)、中国国家安全法等の中国の個人情報・データに関する法制度を詳しく検討する。中国国家安全法により法律の形式で、「全体的な国家安全観」という考えが確立された。中国サイバーセキュリティー法は、インターネット空間の安全を保障するための重要な法的根拠となった。中国データ安全法は、データ処理活動を規範化した。中国個人情報保護法は、個人情報が情報セキュリティの重要な内容であることを示している。このように、中国では、国家安全法、サイバーセキュリティー法、データ安全法、個人情報保護法という4つの主要な法律に基づき、国家安全、ネットワーク安全(サイバーセキュリティ)、情報安全、データ安全(データセキュリティ)という四つの点に重点を置いて規制している。

    また、その中国法、とりわけ中国における国家安全に関する法制度の中の位置づけを踏まえ、表面上のGDPR等との類似性と、その背景にある相違を比較検討する。具体的には、国内保存規制及び越境移転規制、ガバメントアクセスに関する制度、中国における情報の取扱いルールの特徴、域外適用、国家の関与に関する規定という視点から、検討し説明する。これらの内容を踏まえ、日本企業の中国ビジネスへの影響について、実務上の対策を提案する。

    さらに、経済安全保障の内容、Line事件を踏まえた経済安全保障とデータガバナンスをめぐって検討した上、日本企業(特に経営レベル)の対応について、検討意思決定機関・体制の整備、意思決定機関・体制の整備、事業リスクの評価、情報収集・分析態勢の構築等の面において、対応策を提案する。

    最後、個人情報保護取り締まりの強化、データ税、ネットワーク安全審査対象の拡大等の中国の最新動向について、説明する。

論文(査読付)
  • ―ドイツのSNS対策法5条を題材として―
    小西 葉子
    2022 年 5 巻 2 号 p. 51-72
    発行日: 2022/03/28
    公開日: 2022/03/31
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    プラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供は、令状による場合でなくとも、プラットフォームごとの判断において実行される場合がある。この状況は日本に限られるものではない。しかし2019年の報道によって明らかになったように、日本においては、どのような場合にそのような情報提供が行われるのか、法律上明確な線引きがないことが問題となっている。

    そこで本稿は、プラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供に、いかなる性質の法的根拠が必要となるのかという問題について、日独比較の観点から検討する。検討にあたっては、ドイツの情報自己決定権に関する判例の蓄積やドイツ連邦カルテル庁によるFacebookへのデータ収集制限命令などのプラットフォームを取り巻く法的状況を前提に、主たる題材として2017年に制定され2021年に改正されたドイツのSNS対策法(NetzDG)を扱う。特に重視する点は、NetzDG 5条2項に定められた刑事訴追機関の情報提供要請に対応する「窓口」としての受信担当者設置義務に関する法的課題についてである。この課題に対する立法過程等における議論の分析を通じて、本拠地が米国に集中するプラットフォーマーへの訴訟手続の実行性確保の困難さを念頭におきながら、利用者及び第三者の情報自己決定権・表現の自由、人格権等の保障に関わる問題を解決する手段の発見を試みる。注目されるのは、プラットフォーマーの「自由意志による協力」の理解である。特に立法過程においてプラットフォーマーの自由意志を尊重するとしつつも、最終的には受信担当者の設置が義務付けられ、違反に対しては高額の過料を科すとする基準が設けられていることについて、法運用の実態も踏まえて詳細に検討する。

    これらの検討を踏まえて、実際に提供される情報の元々の保有者たる利用者個人の「同意」との直接的接合をはかることが困難なプラットフォーマーによる刑事訴追機関への情報提供によって生ずる法的課題を解決する一助を、本稿は提示する。具体的には、情報の提供要請を行う刑事訴追機関及び実際に保有している情報を提供する事業者の両者の行為に法的な根拠を要求する考え方から、プラットフォーマーの「協力」を正当化する法的枠組みのありかたについて検討する。

調査研究ノート(査読付)
  • ―「平和国家」体制の桎梏への対応を考える
    松村 昌廣
    2022 年 5 巻 2 号 p. 73-94
    発行日: 2022/03/28
    公開日: 2022/03/31
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    近年、我が国政府のサイバーセキュリティ政策に対する取り組みは、一見かなり充実してきた様相を呈している。しかし、日本国内の専門家の評価は全く逆の非常に否定的な評価が顕著である。なぜか。

    本研究は先ず米国のサイバー政策における主要な戦略概念をその変移の背景、長短そして含意を焦点に分析した。次に、日本が米国と政策連携・協調を行う上で制約条件となる既存の日本のサイバーセキュリティ戦略・体制の特徴を分析した。最後に、そうした特徴と日本のサイバーセキュリティ政策における展望と施策を踏まえて、サイバーセキュリティとその領域を横断する総合的な政策提言を行った。

    本研究の結果、我が国のサイバーセキュリティ体制・戦略が長年の努力にも拘わらず、日本国憲法による「平和国家」体制の下、非常に歪な形で形成されてきた現状が明らかになった。戦略・政策文書は充実してはいるが、縦割り行政の克服や抑止力の保有・行使の点で、かなり未発達な状態に陥ったままである。もちろん、根本的な解決は改憲を含む「ビックバン」によって可能だとは予見できるが、その実現は軍事安全保障・防衛における集団的自衛権に基づく武力行使と同様、非常に困難である。

    従って、今後のサイバーセキュリティ政策は既存の体制・組織を前提に漸進的に改善・強化していかざるを得ない。具体的には、内閣サイバーセキュリティ・センター(NISC)を危機管理権限、組織、人員・能力の点で強化しつつ、「サイバーセキュリティ庁」の実現を模索する一方 、サイバー攻撃の阻止やその被害を限定する拒否的抑止を強化することになる。ただ、サイバー攻撃による懲罰的抑止は行わず、その代わり、米国の「サイバーの傘」の下に入り、その有効性を高めるよう対米政策連携・協力を推進することになるだろう。

    今後の日本のサイバー戦略は、情報通信機器・システムと情報通信ネットワークに関するサイバーセキュリティ政策では、米国その他の主要同盟国の動向に立ち遅れないように努力する一方、法執行や外交など非サイバー政策手段を総動員して総合的な取り組みを行うことが最も望ましい。特に、依然我が国が部分的に比較優位を保持する半導体や通信機器等、サイバー関連のハードウェアの技術や生産を通じてサイバーセキュリティを強化し、この分野におけるパワーと影響力を高めることが望まれる。

  • ―競争/投資・組織・共同規制の観点から―
    橘 雄介, 岡野 佳代
    2022 年 5 巻 2 号 p. 95-116
    発行日: 2022/03/28
    公開日: 2022/03/31
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    本稿は英国通信法制に関するものであり、特にインフラ・インカンバントに対する規制を対象とし、その展開を整理し、特徴を浮き彫りにすることを目的とする。

    英国の通信インフラ市場を見ると、旧国営のインカンバントであるBTがOpenreachとして事業を展開しており、英国のブロードバンド事業者は依然として多くの地域でOpenreachの設備を利用することが必要になっている。故に、Openreach自体の支配的な地位の濫用を防止する必要が生じ、また、OpenreachがBTを他の事業者に比べて有利に扱うことを防止する必要が生じる。前者が「SMP(重大な市場支配力)規制」の問題であり、後者が「アクセス分離」の問題である。もっとも、こういった英国の通信規制枠組みに関しては邦語研究も含め先行研究が既に扱ったものである。にもかかわらず、本稿が今、この問題に改めて取り組む理由として2つ指摘したい。1つは、邦語研究のアップデートである。デジタル化の要請の中で大容量通信網の構築が世界的な課題となっており、英国もそれに向けて動いている。そこで、邦語研究をアップデートし、今後の我が国の通信インフラ政策に寄与したいと考えた。もう1つは、より一般的な視点であり、英国のインカンバントに対する規制の特徴を整理しておく必要性を感じた。背景には我が国のNTTに対する規制が変革期にあること及びプラットフォームに対する規制として企業規模に応じた事前規制が世界的に検討されていることがある。独占的な事業者に対する事前規制として通信法制、特にアクセス分離を早くから取り入れた英国は格好のサンプルであり、その分析によって今後のプラットフォーム規制の要点を学びたいと考えた。

    以上の問題意識の下、本稿では、1980年代以降の英国通信法制を調査した。その結果、インカンバントに対する規制はサービス競争(市場への参入の促進ひいては料金競争)に焦点を当てたものから、インフラ競争(競争者による投資の促進)に焦点を当てたものに転換していることを指摘した。加えて、アクセス分離がSMP規制の重要な方策である一方で、組織に焦点を合わせた「共同規制」であることを指摘した。そして、この「競争/投資」及び「組織(共同規制)」という指針は通信市場に限らず、より一般的な価値を持ち得ることも指摘した。

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