情報通信政策研究
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特集号: 情報通信政策研究
2 巻, 1 号
総務省 学術雑誌『情報通信政策研究』 第2巻第1号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
学術雑誌『情報通信政策研究』 第2巻第1号
〔特集〕AIネットワーク化と経済・社会・法システムの変容
特別寄稿
  • 須藤 修
    原稿種別: 特別寄稿
    2018 年 2 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー
  • 堀 浩一
    原稿種別: 特別寄稿
    2018 年 2 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー

    人工知能への期待と不安の両方が高まる中で、人工知能の研究開発のガイドラインなどが議論され提案されてきている。しかし、そのようなガイドラインを適切に定めてそれを守って研究開発がなされたとしても、人間社会においていろいろと問題が発生する可能性は残る。なぜなら、人工知能の技術が社会のあらゆるところに埋め込まれ、それらが相互にネットワークで結合されて機能するようになると、それぞれの人工知能技術は健全であってもそれらが相互作用したときに予期せぬ事態が発生する可能性はあると考えられるからである。想定外の事態に対応するためには、人間社会の方でも、従来とは異なる、「責任」や「権利」などのあり方の可能性を検討しておく必要があろう。さらには、その検討を受けて、人工知能のあり方についても再検討が必要になろう。本稿では、そのような議論のサイクルの端緒を示すことを試みる。

  • 鈴木 晶子
    原稿種別: 特別寄稿
    2018 年 2 巻 1 号 p. 21-43
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー

    AIやIoTの社会実装が始まるなか、生産、移動、金融、物流、医療、介護、教育など人間社会の様々な分野で技術革新に伴う構造変動が進みつつある。産業構造、労働市場、社会制度や組織などはもちろんのこと、AI技術が身の回りの機器に内蔵され連結・連携し機能するAIネットワーク化が進展することで、人々の暮らしは大きく様変わりしようとしている。

    このような大規模な変化に適確に対応するためには、目先の変化だけでなく、道具や機械を使用することを通して進化してきた人間の来し方や行く末を見据える文明論的視座をもつことが重要である。科学技術は文化として人間の価値創出を促し、人間社会の成熟と未来創造を担うものである。技術文明の進展のなかで、道具や機械を利活用することを通して、環境との間に構築してきた第二次環境ともいうべき文明創造の過程で、人間が獲得してきた技能や能力、また、技術の栄枯盛衰のなかで失っていった技能や能力に注目する必要がある。と同時に、技術文明の創出を通してあらゆる生き物の頂点に立つ人間が担うべき地球環境の将来に対する責任を全うするために、できることは何か、また何を為すべきかなど、向かい合うべき根本的な問いが一方にあり、他方、社会の急激な変動への迅速な対応もまた喫緊の課題となっている。

    本稿では、AI時代の技術文明という視座から、まず、環境適応のために文明という装置を生み出しつつ、その過程で自らも変化変容を遂げている人間に焦点を当てる。そして、科学技術を価値創出やイノベーションを可能にする文化へと醸成していくことの意義について考察する。

    第二に、前近代から近代すなわち17世紀末から18世紀末にかけての第一次コミュニケーション革命と、近代からポスト近代すなわち20世紀末から現在にかけての第二次コミュニケーション革命に着目し、技術文明とコミュニケーションの変化を通して、AI時代を生きる人間の状況や社会の変貌を捉える視点を提示する。

    第三に、社会実装を通して大きく組み変わりつつある社会の根本構造の変化に対応するため、個人、自律、主体など近代社会システムを成立させてきた基本概念や、社会設計の基盤自体を見直す必要性、さらに、イノベーションのための人材養成および人間教育を推進していくために考慮すべき諸点を論ずる。

  • 平野 晋
    原稿種別: 特別寄稿
    2018 年 2 巻 1 号 p. 45-71
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー

    AIがネットワークを通じて製造物と繋がり合うことにより生じる「サイバーフィジカル」な状態には、製造物責任の適用が懸念される。そこで、総務省「AIネットワーク社会推進会議」が検討・公表してきた「AI開発ガイドライン案」から想起される製造物責任法上の主な論点を、部分的には「AI利活用原則案」の考察も加えつつ紹介し、もって関係者による製造物責任法上の問題の理解を深めることを、本稿の目的としている。紹介の対象としては、製造物責任法に於ける主な3つの欠陥概念である、〈製造上の欠陥〉、<設計上の欠陥>、及び〈指示警告上の欠陥〉の中で最も重要かつ中心的な概念である<設計上の欠陥>を主に取り上げて、その日米に於ける学説・判例法理を主に「AI開発ガイドライン案」に当てはめながら例示的に紹介する。

    紹介の具体的内容としては、「連携の原則」、「透明性の原則」、「制御可能性の原則」、及び「安全の原則」等から想起される諸論点を例示的に紹介する。例えば、先ず「連携の原則」から想起される、AIが製造物と〈繋がる〉ことによるサイバーフィジカルな製造物責任について説き起こす。続いて、AIを用いた製造物の製造業者等がAI供給者に〈求償〉請求する際の障害問題を次のように指摘する。すなわちAIに責任原因があることが不透明性等の為に立証できないゆえに、製造物責任を課された製造物(端末等)の製造業者等がAI供給者から求償できない場合には、不公正であるばかりか、真に非難されるべきAI供給者に費用が内部化されずに望ましくない上に、製造物責任や不法行為法の重要な目的・機能である〈抑止〉も機能不全に陥ってしまい、製造業者等による望ましい活動自体が萎縮するおそれもあると指摘する。更に、「透明性の原則」に関しては、たとえAIの不透明性ゆえに具体的な欠陥・因果関係を直接的に立証できない場合であっても、「誤作動法理」が適用されれば製造業者等には製造物責任が課され得ることを紹介する。さらに「制御可能性の原則」に関しては、設計上の欠陥基準である「RADラッド」(reasonable alternative design: 理に適った代替的設計案)を用いた費用便益分析も紹介。「安全の原則」に関しては、製造物責任法が決して絶対責任を課していない点を、「双方的危険」や「危険極少化最適者」の概念を用いながら解説する。

寄稿論文
  • 湯淺 墾道
    原稿種別: 寄稿論文
    2018 年 2 巻 1 号 p. 73-90
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー

    個人情報やプライバシーのような個人の権利利益、企業の知的財産や営業秘密その他の経済的利益に係わる情報、地方公共団体や政府等の一般に情報公開することができない情報、安全保障や外交に関係する秘密情報その他、一般にサイバー攻撃によって窃取の対象となるとされる情報は、不正アクセス禁止法、個人情報保護法、プライバシー保護法制、営業秘密に関する法律その他によって保護されている。しかし民主主義の基礎となっている理念、原理、制度の存立がサイバー攻撃やサイバー空間の悪意をもった利活用によって脅かされる恐れがあり、それにどのように法的対処することが可能であるかという点の議論は、活発とは言い難い。さらに、人工知能(AI)に関する各種技術の急速な実用化によって、人工知能がインターネットを介して民主主義を支える各種の制度に「介入」する危険性も、現実化している。

    そこで本稿では、特に民主主義を支える選挙に焦点を当て、選挙へのサイバー攻撃とサイバー空間の悪意をもった利活用の段階について先行研究の紹介と段階の整理を行う。次に、政府がどのように対応するべきかについて、アメリカとEUの例を参照する。

    アメリカ政府は、外交的対抗、経済的対抗、技術的対抗という3つの対抗手段を講じている。もっとも、外交官追放等の外交的手段や口座凍結等による制裁では不十分であるとして、プロ・アクティブ、アクティブ・サイバー・ディフェンスのような積極的な技術的対抗手段の実行を主張する議論も存在する。また国土安全保障省は、選挙インフラを重要インフラの一つとして指定した。

    EUは、選挙へのサイバー攻撃が2016年アメリカ大統領選挙において顕在化した後、選挙をサイバーセキュリティの重要な政策領域として位置づけるようになった。フェイクニュース対策は、デジタル単一市場創設という政策領域の一分野として位置づけられ、SNSを利用した世論誘導については表現の自由という基本的人権の侵害であると捉えられている。2018年1月にはフェイクニュース及び虚偽情報流布に関する有識者会合が設置され、4月に公表された最終報告書では「多元的な対応」が提案された。EUは特に世論を誘導する情報を媒介するプラットフォーマーに焦点を当てており、2018年7月までに共通の行動規範を策定して遵守することを求めた。

    これらを参照して、日本において理念・原理・制度を守るためのサイバーセキュリティ法制のあり方とその限界についての検討を試みることにしたい。

  • 武智 健二
    原稿種別: 寄稿論文
    2018 年 2 巻 1 号 p. 91-109
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー

    第1回国会から最近国会までにおいて制定された全通信関係法律を対象として取り上げ、日本国憲法が施行された後の戦後日本通信法制史をまとめる。

    通信法制における先人の知恵を学び、これからの通信政策の構築に資することを念頭に、法制に込められた政策の意図の流れが理解しやすいように、12の章に分けて制定された法律について記述する。構成された12章は、次のとおりである。

     第1章 二省分離

     第2章 電波三法の制定

     第3章 電電公社の設立と通信行政の再一元化

     第4章 公衆電気通信法と有線電気通信法の制定

     第5章 公衆通信独占の多面的展開

     第6章 データ通信の法制化

     第7章 電波行政の規制緩和

     第8章 NTTの設立と電気通信事業法の制定

     第9章 通信法制の広がり

     第10章 電気通信事業法の変遷

     第11章 放送法制の多元化と一元化

     第12章 電波法の新たな内容

論文(査読付)
  • 大森 審士
    原稿種別: 論文(査読付)
    2018 年 2 巻 1 号 p. 111-141
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー

    表現の自由は、第一義的には、表現者の「自己実現」の価値を基本に置いた「自己統治」のために保障されていると考えられている。しかし、表現者としては、表明した意見等を、より多くの者に伝え、その正当性を確証し、それを信頼すべきものと認識されるようにしたい。また、表現の受け手としても、より多くの情報に接することが有益であり、また、マス・メディアによる社会的影響力が増大するに伴い、表現の受け手の自由(聞く自由、読む自由、視る自由)を保障する必要が生じ、表現の自由には「知る権利」も含まれると解されるようになった。

    このような表現の自由(「知る権利」を含む。)は、『国家』が国民全体に対して保障しているのであり、したがって、目や耳の不自由な方にも表現の自由は保障されており、その保障による便益は、目や耳の不自由な方も享受できなければならない。しかし、目や耳の不自由な方については、その便益を享受するための特別な措置が必要であることから、「知る権利」についても、より積極的な権利として各種立法措置が講じられている。

    このような現状にあって、字幕番組及び解説番組は増加しているが、それらの品質の向上を求める意見等がある。一方、ISO/IEC JTC 1では『視聴覚コンテンツの音声解説に関する指針』等を策定し、目や耳の不自由な方の視聴覚コンテンツへのアクセシビリティを高めようとしており、その対象には放送番組も含まれている。しかし、同指針は、視聴覚コンテンツの制作を、いわゆる規格品の製造と同じように考えていると思われ、その効果は期待できない。

    そこで、視聴覚障害者等向け放送の品質向上のために、標準化という手法の適否、当該標準化の取組主体について考察した。その結果、放送関連機器の機能等に関して、その製造事業者等が、放送事業者及び目や耳の不自由な方の意見等も勘案しつつ、字幕放送又は解説放送のための最低限の要求条件を検討、ITU等を通じて標準化するのが適当との結論に達した。これにより、字幕又は音声解説制作者等の創意工夫が促されることを期待したい。

  • 海野 敦史
    原稿種別: 論文(査読付)
    2018 年 2 巻 1 号 p. 143-166
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー

    近年の判例において、実体的権利の保障を前提とすると解される憲法35条1項の規定から、「私的領域に侵入されることのない権利」が導かれたことは、同条項の今日的な趣旨をひもとくうえで、重要な糸口となるように思われる。とりわけ、個人の私生活に深く関わり得る各種の情報を広く収集・取得する公権力の行為としての「監視型情報収集」との関係において、かかる実体的権利が保障されると解する意義は大きい。憲法35条1項の母法である米国憲法修正4条の規定をめぐる解釈論を参考にしつつ、当該意義の具体的な内実について考察すると、以下のように要約できよう。すなわち、①有体物の所持品たる端末設備等に内包され、又はそれと不可分であると認められる情報としての「所持品内容情報」、②公権力による把握に際して、特定の物件等の所在を確認するという意味合いを超えた積極的な探索性を要する個人的データたる情報その他の公にされていない私的な情報としての「非公開個人的データ情報」、③憲法が個別の条項において特別に保護していると認められる情報としての「憲法直接保護情報」、を対象とする恣意的かつ強制的な監視型情報収集による脅威からの保護を指向するものである。これらの情報のうち、非公開個人的データ情報を対象とする監視型情報収集については、探索性に加え、(ア) 収集・取得の規模が広範かつ大量に及び得るという相当の規模性(個人の私生活の継続的・網羅的な把握可能性)、(イ) 非公開個人的データ情報により識別される当人の意思に反すると認められるという当人意思背反性、(ウ) 令状手続によらないなどの手続きの不当性、を伴うことが、「私的領域に侵入されることのない権利」の侵害が肯定されるために必要となると考えられる。そして、前記 (ア) が充足されるうえでは、一般に、監視型情報収集が当人に気づかれないままに密行的に行われることを要すると思われる。このような解釈は、物理的侵入行為の有無や収集・取得の物理的な場所(公的空間か私的空間かの区別)を問わず、個人の行動の継続的かつ網羅的な把握の過程において、性質上、個人の私生活の相当部分を明らかにし得る監視型情報収集の実施自体が「私的領域への侵入」にほかならない、という思想をその根底に据えている。

立案担当者解説
  • 影井 敬義, 髙橋 真紀, 後藤 篤志
    原稿種別: 立案担当者解説
    2018 年 2 巻 1 号 p. 167-189
    発行日: 2018/12/28
    公開日: 2019/04/03
    ジャーナル フリー

    第196 回通常国会において成立した「電気通信事業法及び国立研究開発法人情報通信研究機構法の一部を改正する法律」は、①電気通信事業者によるサイバー攻撃への対処に係る制度の新設、②電気通信番号計画及び電気通信番号計画に係る制度の新設、③電気通信業務の休止及び廃止に係る情報の整理及び公表の制度の新設などを行うものである。

    ①について、近年DDoS 攻撃等のサイバー攻撃による大規模な通信障害が発生しており、今後インターネットに接続されるIoT 機器が著しく増加するに伴いこれらを悪用したサイバー攻撃の増加が懸念されること及び2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催時に我が国がサイバー攻撃の標的となる可能性が高まることに鑑み、サイバー攻撃によるインターネットにおける通信障害の防止に向けた体制整備が急務となっている。このため、電気通信事業者間のサイバー攻撃に関する情報共有を促進する目的から、当該情報共有の結節点となる第三者機関を総務大臣が認定する制度を設けることとしている。また、電気通信事業者によるパスワード設定等に不備のある電気通信設備の利用者への注意喚起を促す目的から、国立研究開発法人情報通信研究機構の業務に当該電気通信設備の調査及び当該電気通信設備に係る電気通信事業者への対処を求める通知を追加することとしている。

    ②について、固定電話網のIP 網への移行、モバイル化・IoT 化の進展等の電気通信事業を取り巻く状況が変化する中、多様な電気通信役務を提供する基盤となる電気通信番号の重要性が増大していること等を踏まえ、従来は総務省令で定める基準に適合すべきものとされていた電気通信番号について、電気通信事業者に対する電気通信番号の使用に関する義務、総務大臣による電気通信番号計画の作成・公示、電気通信事業者が作成する電気通信番号使用計画の認定及び電気通信事業者が使用する電気通信番号の指定等、電気通信番号に関する基本的事項を法定することとしている。

    ③について、固定電話網のIP 網への移行や電気通信設備の老朽化等を背景として、電気通信事業者が利用者の利益に及ぼす影響が大きい電気通信役務に係る電気通信業務等を休止又は廃止する際の利用者保護を図るため、電気通信業務の休止及び廃止に関する周知の実施について事前届出制を導入し、総務大臣が整理及び公表する等の制度を設けることとしている。

    本法律は、情報通信技術の進展に対応し、電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護するため、電気通信事業者によるサイバー攻撃への対処に係る制度、電気通信番号計画及び電気通信番号計画に係る制度並びに電気通信業務の休止及び廃止の際の利用者保護に係る制度の整備などを行うものである。

    本稿では、本法律の制定に至る検討の経緯及び論点を紹介した上で、各改正事項の概要について解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることを予めお断りしておきたい。

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