日本災害医学会雑誌
Online ISSN : 2434-4214
Print ISSN : 2189-4035
29 巻, 2 号
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総説
  • 越智 小枝, 赤星 昂己, 高橋 礼子, 久保 達彦, 長谷川 有史, 藤原 弘之, 大友 康裕
    2024 年 29 巻 2 号 p. 161-169
    発行日: 2024/08/03
    公開日: 2024/08/03
    ジャーナル フリー

    世界中で自然災害・人的災害が頻度を増す一方で、災害医学研究は未だ発展途上である。その原因として、ヒト・モノ・情報が不足するという災害特有の条件に加え、現場重視の風潮により論文化へのインセンティブが働きにくいこと、災害横断的な比較定量が難しいこと、災害時に研究を行うということにつき被災地住民の理解を得にくいことなどが挙げられる。このような背景を鑑み、日本災害医学会では2022年に「学会主導研究委員会」が発足した。本委員会では日本の災害研究の推進のため、2023年に岩手で開催された第28回日本災害医学会学術集会において、委員会企画「災害医学研究をしたくなる!」を開催し、学会員に広く研究への参画を呼び掛けた。本稿はこの会の内容のうち、災害医学研究の機会と重要性を述べた総論部分を抽出・要約し、災害対応を単なる経験則として留めることなく学問として共有していくことの重要性につき考察するものである。

原著論文
  • 森下 佳穂, 高杉 友, 柴田 陽介, 尾島 俊之
    2024 年 29 巻 2 号 p. 118-123
    発行日: 2024/07/20
    公開日: 2024/07/20
    ジャーナル フリー
    電子付録

    【目的】災害時は公的な支援が不足するため、地域住民の支援が必要となる。感染症は支援者自身も感染の恐れがある点が他の災害とは異なる。そのため、感染症流行時の支援意思も他の災害とは異なるかもしれないが明らかでない。本研究では感染症流行時における地域住民の支援意思の実態を明らかにすることを目的とした。【方法】横断研究として2022年3月にインターネット調査を行い、全国の20歳から84歳の2600人から回答を得た。調査項目は今後の感染症流行時の支援意思について尋ね、支援の依頼者と支援内容の情報を得た。解析は記述統計とカイ二乗検定を行った。【結果】68%の回答者が何らかの支援意思をもっており、最も多い支援の依頼者と支援内容は「親戚知人として電話でフォローアップする」の46%であった。【結論】約7割の人が感染症流行時の支援意思をもっていることが明らかとなった。本研究の知見は、今後感染症が流行した際に自宅療養者への公助が不足した際、地域住民の支援を呼びかけるうえで役立つと考えられる。

調査報告
  • 木下 恭子, 石井 美恵子, 内海 清乃
    2024 年 29 巻 2 号 p. 95-103
    発行日: 2024/05/16
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル フリー

    【背景】災害時に災害拠点病院の事務職員が従事した業務に関する詳細な資料は見当たらない。【目的】東日本大震災時に災害拠点病院の事務職員が従事した業務を明らかにする。【方法】質問紙調査(横断研究)ならびに面接調査。【対象】岩手県・宮城県・福島県にある災害拠点病院の事務職員。【結果】平常時には従事しない65項目の災害時の業務が認められた。また、平常業務は全体の30%程度に縮小され、段階的に平常業務を復旧させていた。【考察】65項目の業務には、外部資源の活用、事前計画や教育の必要性が確認された。平常業務では、経営や労務管理など中断すべきではない業務が確認され事前計画の重要性が示唆された。【結語】本調査結果を現実的かつ実効性のあるBCP改訂の基礎資料とするとともに、医療機関の事務職員対象を対象とした災害時の平常業務のあり方や災害時の業務の遂行力強化を目的とした教育プログラム開発と教育機会が必要である。

  • 片岡 祐子, 小林 有美子, 野田 夕月奈, 大守 伊織, 牧 尉太, 日吉 顕太, 本多 達也
    2024 年 29 巻 2 号 p. 124-130
    発行日: 2024/07/20
    公開日: 2024/07/20
    ジャーナル フリー

    【背景】災害時や緊急時のサイレンや速報、救急車両の近接などの一次入力や、救護および援助要請、避難所での情報授受においては聴覚や音声を通して提供されることが多くを占める。したがって聴覚障害者は情報の認識や避難において不利である。【目的・方法】我々は聴覚障害者223人を対象に、災害・緊急時の音認識や情報伝達の現状と課題把握を目的に、直面している問題と対策、情報保障機器の必要性、要望などについて調査を実施した。【結果】聴覚障害者の70%以上が情報の一次入力、授受ともに困難さや不安を抱えている一方で、情報支援機器の活用は35%と低く、リアルタイムの独力での情報入手・共有には課題がある。緊急通知音振動変換、画像・動画での情報授受を行う機器の希望者は70%以上を占めた。【結論】災害・緊急時の共助、公助できる体制整備の拡充とともに、ICTを含む情報支援機器の活用により自助手段を確保することも望まれる。

  • 塩満 芳子, 小山 珠美, 松成 裕子
    2024 年 29 巻 2 号 p. 131-140
    発行日: 2024/07/20
    公開日: 2024/07/20
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は、東日本大震災における自然災害と複合災害(自然災害に続いて原子力災害が発生した)において福祉避難所で提供される看護支援の実態を比較検討することを目的としている。【方法】自然災害のみの岩手県、宮城県と複合災害となった福島県の福祉避難所で活動した看護職を対象にアンケート調査を行い、看護支援の実際を比較分析した。【結果】自然災害と複合災害では、支援された高齢者の健康状態や必要とされる看護技術に顕著な違いがみられた。特に、複合災害の場合は精神看護の需要が高まり、消化器系の症状が多く報告された。また、自然災害のみで報告された看護技術と複合災害で特に需要が高まった看護技術に顕著な違いがあった。【結論】福祉避難所での看護支援における人材育成とマネジメントの重要性を強調し、具体的な支援活動や看護技術の実施例を提供することで、災害対応能力の向上を図るべきであることを指摘する。

  • 石川 幸司, 和田 悠矢, 児玉 有美, 細川 和彦, 魚住 昌広, 矢神 雅規, 久賀 久美子
    2024 年 29 巻 2 号 p. 170-180
    発行日: 2024/08/03
    公開日: 2024/08/03
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究では地域の指定避難所である大学において、学生および教職員の防災に対する認識と対策状況を明らかにすることを目的とした。【方法】地域の指定避難所である大学に所属する学生および教職員を対象に、防災に関する意識、対策についてアンケート調査を実施した。【結果】学生366名、教職員120名の計486名から回答を得た。回答者の9割は被災経験を有し、防災教育は約8割が必要と認識していた。防災に関する意識は属性による差は認められなかったが、保健医療系より工学系学生のほうが指定避難所やハザードマップについて把握していた。【考察】本研究対象者の多くは実際の被災経験から防災意識を有していたが、指定避難所やハザードマップについて十分把握しきれていない傾向もあった。被災時の生活を支える避難所に関することなど防災教育を充実させていく必要性が示唆された。

  • 柳田 信彦, 松田 史代, 井上 和博, 松成 裕子
    2024 年 29 巻 2 号 p. 181-189
    発行日: 2024/08/22
    公開日: 2024/08/22
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は、鹿児島県内の精神科病院が直面する災害時の避難課題を明らかにし、患者の安全確保および災害発生後の対応強化を図ることである。【方法】鹿児島県精神科病院協会の協力の下、WEBアンケートを通じて、病院における避難行動の準備状況とその課題を調査した。また、ハザードマップおよび原子力災害時の区域情報と病院の位置情報とを比較した。【結果】避難行動計画の整備や実施に大きなバラツキがあることが判明した。特に、避難訓練の未実施や検討段階である病院が多数を占め、災害時の安全確保と避難支援に関する一貫した計画や実践方法の不足が浮き彫りになった。さらに、共通した課題として専門家の支援や協力の必要性が明らかになった。【結論】精神科病院が災害対策を充実させるためには、避難行動計画の策定支援、避難訓練の実施、避難支援の具体性と一貫性の向上、専門家との連携強化が求められる。

事例報告
  • 大黒 英貴
    2024 年 29 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2024/05/08
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル フリー

    平時の「生活を守り支える医療」を担う歯科医師の多くは、地域の歯科医師会に所属し、平常時から多職種と連携して地域包括ケアの一役を担っている。災害が発生すれば、自治体・歯学部と連携して、JDATを派遣し、多職種と連携しながら支援活動をおこなう。2011年に発生した東日本大震災における岩手県歯科医師会の対応は、平常時から連携協力していた関係職種と一緒になって、歯科所見による身元確認や避難所・高齢者施設などの被災者に対して、応急歯科治療や歯科技工士と協力して義歯の作製、歯科衛生士と協力して口腔衛生管理指導など歯科保健医療の提供を長期的におこなった。このように、日常から歯科専門職は、口腔内の感染症予防のみならず、口腔健康管理を通じて呼吸器感染症予防やオーラルフレイル予防にも関与しており、災害歯科支援活動はその延長線上にある。今後も養成校の人材育成と合わせて若手歯科医師会会員への周知は重要である。

  • 岡本 美代子, 宮本 純子, 三浦 由紀子, 南嶋 里佳, 甲斐 聡一朗, 稲葉 基高, 久保 達彦
    2024 年 29 巻 2 号 p. 104-109
    発行日: 2024/06/07
    公開日: 2024/06/07
    ジャーナル フリー

    Japan Disaster Relief Medical Team(JDR医療チーム)は、World Health Organization(WHO)により、入院や手術機能を持つEmergency Medical Team (EMT) Type 2として2016年にEMT国際認証を受けた。WHOのEMT国際認証を受けるには、最低技術基準を満たすことが求められている。この基準は2021年に改訂され、遺体管理の重要性が強調された。JDR医療チームでは、被災国で適切な遺体管理ができるよう国際的な動向を含めガイドライン、標準手順書、様式の整備について改訂を行い、その運用の検証、課題の抽出を行った。本報告では、これらの結果を踏まえてJDR医療チームの遺体管理体制についての現状と課題を明示する。加えて、国内外のEMTの遺体管理体制の事例を紹介し、今後の展開に向けて考察をする。

  • 磯﨑 千尋, 石原 哲, 三浦 邦久, 秋冨 慎司, 渡部 晋一, 青木 秀梨, 山本 保博
    2024 年 29 巻 2 号 p. 110-117
    発行日: 2024/07/04
    公開日: 2024/07/04
    ジャーナル フリー

    当院が位置する墨田区は、水害・震災による被災・孤立の危険性が高い。有事に備え、情報収集・自助共助の強化する手段が望まれ、熊本地震などで捜索・情報収集などで活躍したドローンの活用について検討した。当院にて導入後、他機関とドローンを活用した訓練を行ったため報告する。【訓練1: 水難事故の傷病者捜索】【訓練2: 半壊した建物の地下捜索】【訓練3: 陸路遮断による血液製剤の空輸】訓練1・2では状況把握、訓練3では物資輸送を行い、各訓練で目標設定した内容の大半を達成でき非常に良い経験となった一方、技術や経験の不足が明らかとなり、スキルアップの機会確保が課題となった。訓練を通して、医療機関のドローン所有が、災害初期や自助共助に有用であることが実感された。訓練や学会を通じてドローンの普及を進めることで、患者・職員のみならず、地域の災害対策に貢献したい。

  • 熊 奈津代, 茂呂田 孝一, 辻本 朗, 冨永 尚樹
    2024 年 29 巻 2 号 p. 153-160
    発行日: 2024/08/03
    公開日: 2024/08/03
    ジャーナル フリー

    新小文字病院は北九州市門司区にある地域中核となる急性期病院である。2020年3月、1名の入院患者を皮切りに総勢20名のCOVID-19感染者が発生し、福岡県初となる病院クラスター認定ならびに約1か月の全面診療停止の運びとなった。当院にとって病院クラスターと全面診療停止は経験がなかったこと、また感染症対策への事業継続計画(Business Continuity Plan: 以下、BCP)がなかったため手探り状態となり、対応に苦慮した。診療再開後から2023年5月までの2類感染症期は、蔓延するCOVID-19との戦いであり、感染症指定病院ではない病院としてCOVID-19への対応策が求められた。そこで、当院には感染症対策BCPがなかったこと・COVID-19の経験を今後起こりうることが考えられる新興感染症に活かすことを目的に、2022年7月に感染症対策BCPの初版を策定した。当院感染症対策BCPについて経験内容も含めてここに報告する。

体験レポート
  • 森 正樹, 鳥越 和就, 黒田 彰紀, 曽條 恭裕, 豊田 麻理子
    2024 年 29 巻 2 号 p. 141-146
    発行日: 2024/07/24
    公開日: 2024/07/24
    ジャーナル フリー

    平成28年(2016年)熊本地震は前震と本震で最大震度7を2度観測し、特に本震では地域に大きな被害が出た。本震は2016年4月16日の深夜に発生し、当直の臨床工学技士は1件の緊急血液透析に対応中であった。発生後に11名の臨床工学技士が自主参集して、災害対応マニュアルに基づき、医療機器の状況確認と被害対応に従事した。災害対応マニュアルは初動の役割を明確にして有効であったが、確認すべき機器の選出や優先順位の記載はなかったため、これらは、当事者による現場での立案となった。また、12名の臨床工学技士は、役割の完遂に尽力したが、災害対策本部との連携に課題を残した。当院では、震災後に事業継続計画(Business Continuity Plan: BCP)を作成して、今回の課題の改善を図っている。また、定期的に訓練を行い、人材育成に努めている。

  • Seferoğlu Derin Su, 福永 亜美, 尾川 華子, Chimed-Ochir Odgerel, 坂田 大三, 稲葉 基高, ...
    2024 年 29 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 2024/08/03
    公開日: 2024/08/03
    ジャーナル フリー

    2023年2月にトルコ南東部で大規模な地震が発生した。トルコ政府の要請を受け、世界各国から数多くの災害医療チームが派遣され、支援活動が展開された。筆頭著者は現地の医学部の学生として、通訳者および現地コーディネーターとして、日本から派遣された災害医療チームの支援活動のサポートを行った。本稿では、この支援活動の内容を報告し、また活動を通して理解された現地の人々と国際災害医療チームとの連携の重要性、ソーシャルメディアの有効性、そして学生が災害支援において貢献できる可能性について考察する。

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