インスリン製剤は保管温度に注意が必要であるが,自己注射製剤であるため患者自身で保管する必要がある.患者による保管は医療機関における保管に比べ保管推奨温度を遵守されている保証はない.実際に70℃を超えることもある真夏の車内に製剤を放置してしまう事例も報告されている.そこで,我々はインスリンの二次構造をもとに高温に曝されたインスリンのリフォールディング限界温度を探索した.その結果,ヒトインスリン,インスリングルリジン,インスリンリスプロ,インスリンアスパルト,インスリンデグルデクは約60℃までの加熱であれば室温まで冷却されることでリフォールディングすることが明らかになった.この結果は,薬局からの帰路や一時的な停電のような,保管推奨温度を単回・短時間逸脱した場合も継続使用できる可能性を示している.しかし,インスリンデテミルは限界温度より低温で会合状態変化を示し,インスリングラルギンは細胞毒性を示した.そのため,この2製剤は他の製剤に比べ保管温度に注意が必要と考えられる.臨床において製剤が曝露した温度や時間を把握することは困難なため,保管推奨温度を遵守するよう繰り返し指導することが重要である.
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