著者は磁氣的研究を以て金属材料の加工竝びに焼鈍作用に關する理論的考察の展開を試みた。加工状況の一般的状況を推察する目的を以て荷重應力の大さ、その繰返囘数の多寡を以てし、加ふに各荷重状況に於ける各段楷に於いて逐次同一試料を以て研究した。故に極めて廣汎なる領域を眺め得たるを以て加工状況の關係的内容として、構成粒子の微細化(不規則化)竝びに内部應力の誘発の2作用を帰納するを得た。従ひて一般加工状況に對して、この2作用を推論せらるれば茲に加工状況の本質に對する考察は得らるべきである。著者の得たる加工状況の進行に對する磁氣的研究は茲に初めて材料学的意義を有するものとなる。而してこの2作用の効果を視る時は荷重應力の大小によりて各作用の偏重性が推論せらるゝと同時に、然もこの偏重は一方より他方に連続的に推移することを認め得べく、茲に加工状況の一般性が窺知せられたるものである。而して著者は内部應力の分布竝びにその分布変化の状況に關して多少意見を有するものである。上の加工状況に關する考察は更らに焼鈍作用の効果(磁氣的)によりて論拠を得るものにして、殊に焼鈍作用の内容を展開するには、この磁氣的方法は極めて満足なる結果を與ふるものである。即ち上の著しき偏重性に就いては低温焼鈍に於いて、先づその過不足を補ふが如きを見るも、加工状況の相當進行せるものに就いては、その荷重應力の大小に關係なく略同一の傾向(即ち高温焼鈍)を示すものである。特に注意すべきは0.1%炭素鋼700℃〜800℃附近に至るも内部應力の存在は明かに指摘するを得べき点にして、400°〜500℃に於いて著しく内部應力の消失、粒子の規則化の生ずるは従来の観察とよく一致する所である。更らに400℃以下に於ける磁氣変化の内容を吟味する時は所謂低温焼鈍現象の説明を求め得べきである。茲に低温焼鈍現象に對しては著者は内部應力分布の推移性(一度得たる應力分布は加熱作用によりて変化する際、分布状況を変化するものにして、分布模様が不変にしてその強度のみ変化するといふに非らず)を重要視するものである。茲には高温焼鈍の實際的結果を除き、磁氣的研究に使用したる試料にて行ひたる低温焼鈍現象の一班を示す。この状況は極めて驚異に値すべき状況なるも、著者の考察したる局部的加工効果によりて初めて得らるべきものと思はるゝが、これまた焼鈍作用の一般性なるを妨げざるものである。終りに眞鍮に就てもこの種の焼鈍作用の結果を示す。
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