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植田 真一郎
セッションID: 42_1-S11-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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重要なClinical Questionを解決し診療を適切な方向へ変えていくことには臨床試験による評価が必須であるが、このような「Practiceを変える」臨床試験をconductできる人材は限られている。臨床研究全体で見ればデータベース解析や疫学研究などを学ぶSchool of Public Healthなどの大学院、或いは統計家を育成するコースは増えているものの、Clinical Trialist育成を主眼に置くカリキュラムはほぼない。これまで日本臨床薬理学会では臨床試験実施推進のためCRC認定事業や臨床薬理専門医、、臨床薬理専門薬剤師の認定を行ってきたが、さらにアカデミアで医師主導治験、先進医療Bを含む特定臨床研究をPIとして実施できるClinical Trialistおよび計画段階から支援できる臨床研究専門職の育成を学会のミッションとして開始する。 本学会ならではの研究計画作成に必要な臨床薬理学、および臨床疫学、規制、研究倫理についての高度な教育プログラムの作成と個々の育成対象者に合わせた提供、会員、育成対象者の研究施設における研究計画作成からプロジェクトマネジメントに至るまでのOJTへの参画を軸とし、臨床研究についてのカリキュラムを有する大学院や他の学会とも必要に応じて連携する予定である。
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田中 敦史, 野出 孝一
セッションID: 42_1-S11-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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特定臨床研究法が施行され、医師主導型臨床試験を実施するハードルは非常に高いものとなった。このことは、我が国における臨床的課題を自発的に解決するための学術的取り組みを停滞させかねない事態を招く可能性を示唆している。しかしながら、我々が取り組む循環器領域を例にみても、治療法の確立やガイドラインの作成等には、観察研究から得られたデータに加え、やはり質の高い介入試験が求められている。さらに、海外の大規模臨床試験で得られた知見に、本邦の実臨床下で得られたデータを融合させることにより、そのエビデンスが持つ臨床的意義や実臨床への応用を統合的に理解することの重要性はいうまでもない。つまり、臨床研究全体でみると、必ずしも大規模臨床研究だけが全ての臨床的意義を示すものではなく、本邦でしばしば実施されてきた小規模ではあるが、大規模臨床試験の結果を補完し、また新たな着眼的を提供しうるサロゲートマーカー等のエンドポイントを用いた臨床試験が持つ意義は極めて大きいと私たちは考えている。特に現在、医師主導型臨床試験の実施には、研究組織全体がもつ''チーム力''が求められている。本邦における臨床研究を今後より良く推進させるには、そうした臨床試験の実施を通じて得られた貴重な経験を広く共有し、その輪を研究者の間で拡げていくことが極めて重要である。少なからず、これまでに経験した医師主導型臨床研究から私たちが感じたことを発表させていただく。
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河野 健一
セッションID: 42_1-S11-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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およそ20年前、国際的な合意に基づくGCPの導入による信頼性が確保された治験実施体制の構築のため、CRCの支援が必須要件となり、国、職能団体並びに各機関でCRCの養成研修が開始された。今や、わが国の治験が国際的に認められるレベルへ高度化したことに、CRCの貢献が不可欠であることは誰もが認めることである。そこに、実務経験を重視した本学会の認定CRC制度が寄与したことは言えよう。わが国の制度上、CRCはいわゆる3階部分の治験を支援することが中心とされていたが、当初から2階の臨床試験や土台となる臨床研究を含めた支援を行うことが本来の役割であることは望まれていた。実際、臨床研究法の施行や倫理指針の制定により専門家の関与が必須となり、CRCが臨床試験・観察研究において、求められる品質に応じてリスクに基づく支援をすることは当然となってきている。
一方、国際的な潮流から、アカデミアにおける医療の研究開発を担うため、わが国においてもAROの整備が進められてきた。現在、臨床研究中核病院を拠点とした基盤が構築され、特に先進的な技術を用いた医療シーズの開発や、より安全性を確保し有効性を高めるための組み合わせによる新たな治療法の開発等、国際水準の研究に基づくエビデンス創出が進められている。医師主導治験をはじめとした研究者主導臨床試験においては、CRCが実施の支援のみならず企画や運営のマネジメントを担っている。また、スタディマネジャーや研究倫理に関わる各専門職等へステップアップし、AROを構成する専門職として数多くの認定CRCが活躍していることは言うまでもない。
専門職に期待されることは、培った調整能力を活かして研究者と各専門家との橋渡しをし、目的に応じて適正かつ最速の手順を示し、さらには社会との協働や産学連携による研究成果の最大化を導くことである。そこに求められるのは、最新の医療や臨床開発の知識と技術に基づき、科学に立脚した思考と行動であり、CRCが身につけるべきスキルとはステージが異なる。既にAROのマネジメントや研究グループの委員など、研究基盤の強化に必須の存在となっているものの、その専門性を保証する制度はない。医療開発を推進するための人材を育成し、研究の質を確保するため、実務経験を重視した認定CRC制度とは別に、新たな専門職としてその能力を認定する制度が求められる。本学会の役割として、新たな取り組みに期待するところである。
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折田 純久
セッションID: 42_1-S12-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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腰痛は多因子に由来することから,医師の診察に基づく従来の病態把握およびその治療効果の評価判定が実状を正確に反映しているかは定かではない.
腰痛患者の病態評価については日本整形外科学会(JOA)スコアに代表される医師主体の評価指標から患者立脚型のJOABPEQスコア等に移行することで患者の状態をより客観的に把握できるようになった.しかしながら依然としてアンケート形式のスコアリングにすぎず患者の日常生活量を正確に評価することは困難である.この問題に対して我々は近年急速に普及する,日常活動を客観的に計測・蓄積できる腕時計型のウェアラブル端末装置を用いて腰痛患者の日常および手術前後における活動量を体幹および四肢の筋量との相関も含めて客観的に評価した.その結果の一例を挙げると,腰痛患者の活動量はJOABPEQの腰椎機能, 社会生活の各ドメインと相関し腰痛VASと負の相関をみとめ,さらに急性腰痛患者では睡眠時間が有意に短くなっていることが判明した.また,腰椎手術による活動度変化について本法にて評価したところ,平均の活動量は術前と比較し術後1か月で低下,術後6か月以降に術前より有意に改善を認め,さらに各期間毎の活動量変化に強い相関をみとめた.一方で患者立脚型アウトカムは全ての項目において術後1か月で改善を認めたことから,腰椎疾患患者の活動量は従来想定されていた概念と比較し改善に長期間を要することが新たに示唆され従来の認識との乖離が示唆された.
このように,患者立脚型の評価スコアであってもそのADL評価を客観的に行うことは困難であることがうかがい知れることから,今後の疼痛研究はより客観性を獲得し,多方面から広く収集した集積型データの解析が重要となってくるものと思われる.我々はWebベースのクラウド型データベースを用いた多施設脊椎手術症例レジストリシステムを関連施設間で構築しており,今後はウエアラブル端末によるレジストリデータ解析を導入することでさらなる客観的かつ実践的な活動量評価に関するエビデンスの構築が期待される.
また,慢性腰痛に対する新たな治療の試みとして昨今ではフィットネスゲームによるExergamingも腰痛予防・治療の手段として報告されるなど日々新しいアイデアが創出されており,本シンポジウムでは我々の腰痛研究を紹介しながら,運動器科学の多様性とそのアプローチについて検討する.
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前多 宏信
セッションID: 42_1-S12-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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オープンイノベーションを活用した手法は、さまざまな産業の研究開発・製造過程において、内製化を進める研究開発・製造において資源の省力化を行うためには不可欠な手法である。企業内で全てを完結する内製化は、世の中の医療機器開発スピードや金銭的、人的リソースを上回ることができず、大手企業でもオープンイノベーションを活用し、医療機器開発を行う傾向が一層強まっている。ニーズとシーズをマッチングするためには、膨大な企業調査やマッチング、試作開発、各種試験などをほぼ対面で行い、意思疎通を行うことが標準的であった。しかし、新型コロナウィルス COVID-19の蔓延により対面でのビジネスモデルができず、医工連携などに多大な影響を及ぼした。 当初、COVID-19に対して緊急事態宣言、蔓延防止措置下では行動への制限の影響が顕在化し、従来の対面でのオープンイノベーションの模索は非常に難渋していた。しかし、こうした制限下でも、研究開発や試作開発、治験や薬事戦略、販売やプロモーションに至る一連の医工連携のスキームは、IoT環境を活用した非対面で行うことで効果を発揮し、従来の手法やそれ以上の効果を生み出すこととなった。 この2年弱で変化した非対面時代のオープンイノベーションを活用した、医工連携スキームの実践とその開発事例を報告する。
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中村 守彦
セッションID: 42_1-S12-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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医療系企業や大企業が少ない地方で医工連携を進めるのは、とても困難である。実際、大学のもつ技術シーズ(研究成果)と企業ニーズのマッチング(産学連携)は至難の技であり、目標の達成(製品化)に10年あるいはそれ以上の開発期間を要する例(薬事承認を必要とする高度な医療機器・医薬品)は珍しくない。そこで島根大学は発想転換して、大学病院や医学部の困りごと・要望(医療ニーズ)と地域の技術力(企業シーズ)を融合することで医工連携の課題を解決してきた。ここで重要なのは、ニーズ提案者(医師、看護師、理学療法士、薬剤師などのコメディカル)が医療技術(医療シーズ)を合わせ持つ点である。医療現場(ニーズ&シーズ)と企業シーズが有機的に結びつき、産学官連携が求心力を失うことなくゴールへ邁進できる仕組みが整っていれば、地域発で世界をリードする医工連携オープンイノベションが実現する。島根大学は、臨床現場での満足度が最大限に達するまで研究開発を地域オープンイノベションで続け、責任をもって製品化をサポートしている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが宣言される以前から、島根大学ではICTを活用した医工連携オープンイノベーションを進めてきた。例えば、バーチャルホスピタル構築によるリモート医療や、自己抜去による点滴事故の防止システムの技術について特許を申請している。同システムの研究開発はオンラインを活用しており、緊急事態宣言下の東京・京都・兵庫と面会禁止の島根大学病院の病室間で現在も粛々と進展している。また、薬理学実習に用いる動物を大幅に削減し、動物愛護・費用対効果の面からも有用なシミュレーター『Pharmaco-PICOS』を地元企業と開発した。医学部学生は島根大学が産学協同で開発したフェイスシールドを装着して実習に臨んでいる。本シンポジウムでは、島根大学が進める医工連携オープンイノベーションの事例をポストコロナの未来医療に繋がる共同研究を含めて紹介する。
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石丸 伊知郎
セッションID: 42_1-S12-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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我々は、独自技術である赤外分光イメージングの研究開発に成功しており、オープンイノベーション機構による社会実装を目指している。これは、赤外分光イメージングによる新たな環境計測や診断技術の創出である。 まず、赤外分光イメージング装置とは、世界で最小最高感度の成分分布の可視化デバイスである。特に、中赤外領域(波長:10マイクロメートル近傍)は指紋領域と呼ばれて、様々な分子構造に起因した光吸収を顕著に生じる波長帯である。そのため、分光吸光度から成分を非破壊で計測することが可能である。例えば、血中グルコース濃度である非侵襲血糖値センサーの実現を目指している。 本研究により生じた特許は香川大学単独で取得してきており、JSTの支援を受けながら海外への出願も網羅的に行ってきた。この研究成果に基づいて、一昨年度、香川大学イノベーションデザイン研究所に「赤外分光イメージングコンソーシアム」を設立した。これは、オープンイノベーション機構であり、企業や公的な機関が研究成果を共有する仕組みである。既に、この中からマイクロプラスチックの弁別評価装置やガス種の弁別広域可視化、コンクリートの塩害劣化度評価などの実利用化への第一歩を踏み出すことができた。 本講演では、赤外分光イメージングの新規性や独自性について概観した後、赤外分光イメージングコンソーシアムにおいて得られた実利用化への有用性検証結果について述べる。また、医学部などとの共同研究による新たな診断技術への取り組みについても紹介する。
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高橋 俊一
セッションID: 42_1-S12-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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製薬企業の研究開発を取り巻く環境は、テクノロジーの進歩、創薬標的に対する深い理解、モダリティの多様化などを背景に大きく変化している。そして、多くの企業が、自社中心の創薬研究から社外パートナーとの協業をベースにした新薬創出モデルを重要な柱とするようになった。オープンイノベーションへの転換である。バイエルでは、重要なイノベーションの拠点である日本にオープンイノベーションセンターを設立して以来、日本におけるオープンイノベーションを推進し、複数の大学やベンチャー企業と新しいモダリティやデジタル技術の活用など「共創」を通じたイノベーションの創出に積極的に取り組んでいる。また、バイオベンチャー向けインキュベーター「CoLaborator Kobe」を設置し、ベンチャー企業の成長を支援するとともに、コミュニティーの様々なステークホルダーと一緒にエコシステムの醸成にも取り組んでいる。本発表では、企業におけるオープンイノベーションの例として、バイエルの日本におけるオープンイノベーション戦略を紹介する。
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石塚 量見, 山田 光彦, 中村 治雅
セッションID: 42_1-S13-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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2014年に再生医療等製品の早期実用化を目指した薬機法改正がなされた。in vivo遺伝子治療用医薬品は本改正により、再生医療等製品の「遺伝子治療用製品」に分類され、遺伝子治療用製品の開発品目は増え国内で上市された品目も出てきている。引続き、遺伝子治療用製品の開発速度の向上を求められることは予想され、主に基礎研究に関わっているアカデミアにおいても、開発の正しい考え方を理解し実践していく必要があると考える。本発表では、下記のとおり、アカデミアでも求められる遺伝子治療用製品の開発段階(治験開始前まで)の必要な対応について、薬事等の特徴と留意すべきポイントを提示しつつ説明する。治験に用いる治験製品については、治験開始前までに求められる品質を確保する必要がある。国内では、ガイドラインとして「遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保について」が発出されており、治験製品の規格、安定性、規格の試験方法、原材料、製法変更時に必要な同等性担保の考え方等が提示されている。また、治験製品の有効性、安全性について、非臨床試験により一定のエビデンスを得る必要がある。上記ガイドラインには、毒性、薬理、動態のエビデンスを得るために必要な非臨床試験デザインに関する考え方等が提示されている。治験デザインの検討の際には、安全性に関して、使用するウイルスベクターに起因する事象について特に考慮する必要がある。使用するウイルスベクター固有の有害事象がすでに公開されている場合は、当該有害事象をモニタリングする体制を構築すべきである。有効性に関しては、医薬品の治験と同様に臨床的意義のある評価項目を設定し評価すべきである。なお、国内では「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)が施行されていることから、遺伝子組換えウイルスベクターを治験製品に使用する場合には、治験開始前までに第一種使用等(開放系での使用)に関する大臣承認を得る必要がある。国内で治験製品に使用する遺伝子組換えウイルスベクターを製造する場合には、製造開始前までに第二種使用等(閉鎖系での使用)に関する大臣確認を得る必要がある。これら品質、非臨床、臨床、カルタヘナ対応については、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が提供しているRS戦略相談、カルタヘナ法関連相談を利用して、治験開始前までにPMDAと見解の一致を得る必要がある。
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香川 雄輔
セッションID: 42_1-S13-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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オナセムノゲン アベパルボベク(以下、本製品)は脊髄性筋萎縮症(SMA)の原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(SMN)タンパク質をコードする遺伝子が組み込まれた、非増殖性のアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)を利用した遺伝子治療用ベクター製品である。SMAは下位運動ニューロン病であり、脊髄の前角細胞の喪失及び変性により体幹及び四肢の近位部優位の進行性筋力低下並びに筋萎縮をきたす。本製品は、SMAの根本原因であるSMN1遺伝子の機能欠損を補って運動ニューロンのSMNタンパク質発現量を増加させ、脊髄運動ニューロンの変性・消失を防ぎ、神経及び筋肉の機能を高め、筋萎縮を防ぐことで、SMA患者の生命予後及び運動機能の改善が見込まれる。本邦では、海外での臨床試験成績に加え、本邦からも参加したSMA患者を対象とした国際共同第3相試験の結果等に基づき、2020年3月に2歳未満の「脊髄性筋萎縮症」に対する製造販売承認を取得した。遺伝子治療用製品の安全性を考慮する上で、規制当局では「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保について」に基本的な技術的事項が示されている。本製品では、当該通知に基づきマウス及びカニクイザルを用いた非臨床安全性試験が実施されており、毒性標的臓器として心臓、肝臓、及び脊髄の後根神経節が特定され、それぞれの臓器で炎症性変化が認められた。1型SMA患者を対象とした海外第1相試験では、13/15例で重篤な有害事象を認めたが死亡例及び中止例はいなかった。主要な有効性評価項目である「出生から永続的な呼吸補助が必要となる又は死亡までの期間」について、投与後24ヵ月時点で全15例が永続的な呼吸補助を必要とせず生存していた。臨床試験では重大な副作用として肝機能検査異常、肝不全や血小板減少症が認められ、市販後安全性調査では血栓性微小血管症が報告されたが、認められた有効性とのリスク&ベネフィットバランスを考慮して安全性は許容可能と判断された。上記の非臨床及び臨床成績を踏まえて、肝毒性・心毒性・血小板減少症及び血栓性微小血管症の発現状況、肝毒性の軽減を目的としたプレドニゾロン投与、並びに肝機能検査、血小板数及び心筋トロポニンI等のモニタリング方法について、医療現場に注意喚起することに至った。本講演では、非臨床及び臨床の知見から本製品の安全性評価に焦点をあてることで、遺伝子治療用製品を開発するために必要な視点について皆様と共有したい。
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小野寺 雅史
セッションID: 42_1-S13-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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現在、欧米を中心に難治性疾患に対する遺伝子細胞治療が数多く開発され、その有効性・安全性の観点から複数の遺伝子治療用製品が医薬品(再生医療等製品)として承認されている。特に、ウイルスベクターを直接患者体内の投与するin vivo遺伝子治療は投与部位あるいは至適promoter/ enhancer等を選択することで全身臓器が対象となり、さらにはヒトに対し病原性がないとされるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの改良にて静脈投与が可能となったことからその可能性が急速に拡大し、これまでにも遺伝性網膜色素変性症や神経性筋萎縮症、筋ジストロフィーなどの神経・筋疾患に対する有効な治療法として開発が進められている。
一方、遺伝子治療で用いられるウイルスベクターは、「遺伝子組換え生物の使用等の規制による生物の多様性の確保の関する法律」(以下「カルタヘナ法」という。)の遺伝子組換え生物等に該当し、また、治療施設でのウイルスベクターが、通常、環境中への拡散防止措置を執らずに使用されるため、治療施設はカルタヘナ法第一種使用規程に則った対応が求められる。その使用内容は「ヒトの遺伝子治療を目的とした投与、保管、運搬及び廃棄並びにこれらに付随する行為」とあり、具体的には「本遺伝子組換え生物等の原液の保管」、「本遺伝子組換え生物等の原液の希釈液の調製及び保管」、「運搬」、「患者への投与」、「投与後の患者からの排出等の管理」、「患者検体の取扱い」、「感染性廃棄物の処理」の7つに分類される。ただ、その使用規程の内容は製品ごとに異なり、さらには同一ウイルスベクター種であっても投与量や投与部位によってその使用規程の要件が異なるため、これら遺伝子治療用製品の導入に際しては医療機関が独自にその使用規程の運用を決定する必要がある。
そこで、本シンポジウムでは、現在、国内医療機関においてウイルスベクターによる遺伝子治療用製品を扱う際に必要となるカルタヘナ法第一種使用規程の概要を説明し、当センターがこれまで複数の遺伝子治療用製品を導入する際に経験してきた課題とその解決策を提示し、今後の国内での安全な遺伝子治療の実施体制の構築を検討する。
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本橋 裕子
セッションID: 42_1-S13-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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近年,神経筋疾患を対象とした遺伝子治療薬の開発がめざましく,脊髄性筋萎縮症(SMA)では2020年5月にOnasemnogene abeparvovec(Novartis)が製造販売承認された. SMAはSMN1遺伝子変異が原因で,脊髄前角細胞の変性・脱落により,進行性の筋力低下を認める疾患である.その他,Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)とX連鎖性ミオチュブラーミオパチー(XLMTM)でも臨床試験が国内外で進められている.DMDは筋線維の変性・壊死を主病変とし, 乳幼児期以降に進行性の筋力低下をみる.原因はDMD遺伝子で,複数の遺伝子治療薬の臨床試験が行われている.XLMTMは生後間なく全身の高度筋力低下を呈し,MTM1遺伝子変異が原因である.XLMTMの遺伝子治療薬の臨床試験では投与後に死亡例が発生し,試験は一時停止となっている.いずれの治療薬もアデノ随伴ウイルスが使用されており,本邦では遺伝子組換え生物等を使用する際の規制措置を講じたカルタヘナ法を遵守する必要がある.新生児から学童といった幅広い年齢層の小児が対象となることが多く,疾患による筋力低下,精神運動発達レベル,病状などに応じて様々な工夫が必要である.また,遺伝子治療薬の安全性は不明な点も多く,疾患特異的な有害事象が発生するか不明であり,疾患特性や自然歴をよく理解して薬剤投与に臨む必要がある.当センターでは遺伝子治療を安全に実施するために医師,看護師,薬剤師,検査技師,栄養士を始めとした多職種によるチームを結成し,実施体制整備を行った.スタッフ教育,手順書整備,カルタヘナ法対応の方法等についてご紹介する.
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兼松 美和
セッションID: 42_1-S14-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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医薬品等の開発において、Real World Data(RWD)の利活用を試みる国際的な動きが活発化している状況である。
本邦ではこれまで、希少疾病のように患者数等の限界から比較試験の実施が困難な医薬品等の開発において、非対照試験のデータと外部対照として観察研究から得られたデータを比較すること、臨床的に重大なイベントの発生を指標に非対照試験データと当該試験の参加施設で同選択基準を満たした試験治療未使用例のデータを比較することが、有効性及び安全性の評価として例外的に行われてきており、比較対象としてレジストリデータが用いられてきた。医薬品等の承認申請におけるRWDの更なる利活用が期待されており、この例外的な取組みを明示すること等により、医薬品等の臨床開発におけるレジストリデータの活用を行いやすくする取組みが進められてきた。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)ではこれまで、クリニカル・イノベーション・ネットワーク(CIN)への対応として、レジストリに関する相談枠の設置及び実施、レジストリデータを承認申請等に活用するためのガイドライン作成に向けた組織横断的な活動を行ってきた。また、厚生労働省は、本年3月23日付けでPMDAがとりまとめた文書を「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」及び「レジストリデータを承認申請等に利用する場合の信頼性担保のための留意点」に関する通知として発出した。
これらの通知が発出されたことで、医薬品等の承認申請等におけるレジストリデータの活用が推進されることが期待されている。一方、これらの通知に記載されているとおり、利用目的によってレジストリデータに求められる信頼性の水準は異なりうるため、利用目的に応じ個別に信頼性担保に必要な事項を検討する必要がある。そのため、レジストリを承認申請等に利用する場合にはPMDAに相談することが推奨されている。
PMDAでは、本年4月以降、事例を蓄積するとともに、新たに設置したRWD WGにおいて、RWDに関する課題を包括的に取り扱い、医薬品等のライフサイクルを通じたRWD活用に関する基本的考え方及び信頼性の担保に関する考え方の検討を行っている。
本演題では、上述の2通知の内容を踏まえ、主に医薬品等の承認申請・再審査申請においてレジストリデータを利用する場合の信頼性担保のための留意事項及びPMDAが行うRWDの信頼性に関する相談について、最新の状況も含めて説明する。
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上村 夕香理
セッションID: 42_1-S14-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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希少疾患等、従来のランダム化比較試験の実施が困難な領域において、医薬品および医療機器の開発・評価に対してReal World Data(以下、RWD)を利活用する取り組みが産官学で活発に行われるようになり、昨今、薬事承認申請や再審査申請等へのRWD活用に向けて、国および規制当局より複数の通知やガイダンスが出され、見解が提示されつつある。また、本邦における施策として、疾患レジストリデータを活用した効率的な治験や製造販売後調査及び臨床研究のインフラ構築を推進しようという、クリニカルイノベーションネットワーク構想が提示、複数の研究班が設置され、各国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)や学会等がそれぞれの疾患レジストリの構築を進めるとともに、そこから得られるデータを効率的な治験・臨床研究、市販後調査等に利活用するためのシステム構築、環境整備、ガイドライン策定等が行われた。
RWDの活用に際しては、規制、データの信頼性、倫理的な観点に加えて、科学的観点から生物統計学的な検討が必須であることが知られている。AMED医薬品等規制調和・評価研究事業「患者レジストリデータを活用した、臨床開発の効率化に係るレギュラトリーサイエンス研究」(2019年7月~2022年3月)【研究開発代表者:柴田大朗(国立研究開発法人 国立がん研究センター)】事業の分担課題【生物統計学的検討と他データベース 連携の検討】では、医薬品や医療機器等の開発においてRWD/Real World Evidence(RWE)を利活用する際の生物統計学的な観点からの留意事項について概観し、得られる臨床エビデンスを高めるためにRWD/RWEが利用可能な試験デザイン、留意すべきバイアスやその対処方法等について整理した。また、複数データベース間の連携の実現可能性等点ついて検討が進められた。本発表では、AMED柴田班の分担課題班で議論された内容の要約を報告する。
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小居 秀紀
セッションID: 42_1-S14-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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医薬品、医療機器、再生医療等製品の承認申請等におけるレジストリデータの利活用については、厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、専門家との協議を踏まえ、申請者である製薬企業等に対する文書として、「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」及び「レジストリデータを承認申請等に利用する場合の信頼性担保のための留意点」を 本年3月23日に発出した。また、AMED「患者レジストリデータを活用した、臨床開発の効率化に関わるレギュラトリーサイエンス研究(課題番号:JP21mk0101154)」研究班(研究開発代表者:柴田大朗)の2つの分担班の一つである「品質マネジメントシステムのあり方及び留意事項の検討」分担班(「QMS分担班」;代表:小居秀紀)において、レジストリ保有者となるアカデミアに向けた成果物「レジストリデータを医薬品等の承認申請資料等として活用する場合におけるデータの信頼性担保に資する運営・管理に関する留意点」を作成した。
一方、いわゆる医学系指針とゲノム指針を統合した新しい倫理指針(「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が、同じく3月23日に発出され、6月30日から施行となった。従来の倫理指針からの主な改正点は、「一括した審査」の原則化(一研究一審査)、「研究協力機関」の新設、「e-consent(電磁的同意)」の新設、等であるが、中央一括倫理審査を選択し、研究協力機関及びe-consentを導入した前向き研究が、今後増えてくると思われる。その典型的な事例の一つが患者レジストリ構築に関わる主たる研究であり、GCP Renovation で検討される ICH E6(R3)・Annex 2 における pragmatic clinical trialsの具体例にもなると考える。
なお、AMED・柴田班の成果物の中でも整理しているが、レジストリデータの薬事制度下での利活用推進の大きな課題の一つが、"医薬品医療機器法(ICH)の世界"と"倫理指針の世界"の壁と考える。これは、規制側の壁と研究者側の壁と言えるかもしれない。
本発表では、レジストリデータの信頼性を中心とした薬事制度下での利活用に関する留意点や、国立精神・神経医療研究センターにおける具体的な事例についてご紹介し、新しい倫理指針の円滑な運用も踏まえた、レジストリデータの薬事制度下での利活用推進の方策について議論したい。
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大道寺 香澄
セッションID: 42_1-S14-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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製薬企業におけるリアルワールドデータの利活用は,レセプトやDPCデータ等の医療管理データが先行していたが,近年,疾患レジストリデータの利活用が盛んになってきている。PMDAにより「医薬品レジストリ活用相談」及び「医薬品レジストリ信頼性調査相談」が設置され,厚生労働省から「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」及び「レジストリデータを承認申請等に利用する場合の信頼性担保のための留意点」が本年3月に発出された。また,CIN推進支援事業として,疾患レジストリの構築支援,レジストリ検索システムの公開,疾患レジストリ保有者と利用者のマッチングに関する事業が進められており,製薬企業が疾患レジストリを利活用する環境が整備されつつある。
疾患レジストリは,臨床試験の立案・実施段階においては,市場性調査,実施可能性調査,患者リクルートメント,Registry-based randomized clinical trial等での利活用が期待される。患者リクルートメントでの具体的な事例として,デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬のビルテプソの医師主導治験において,神経・筋疾患のレジストリであるRemudyを用いて,効率的に患者リクルートメントが行われたとの報告がある。
承認申請段階においては,外部対照群や公知申請での利活用が期待される。具体的な事例として,同じくビルテプソの海外第II相試験における外部対照群としての利活用や,関節リウマチ治療薬のリウマトレックスの新用量の公知申請にて,3つのコホートデータ(IORRA,REAL,NinJa)が用いられたとの報告がある。医療機器分野では,カワスミNajuta胸部ステントグラフトシステムの国内多施設共同臨床試験の外部対照群として,日本成人心臓血管外科手術データベースのデータが用いられた。
市販後においては,改正GPSPにて導入された製造販売後データベース調査での利活用が期待される。具体的な事例として,前出のビルテプソ(Remudy-DMD),キムリア(FormsNET),アクテムラ(FormsNET),テムセル(TRUMP)等が計画されている。しかし,試験立案から市販後のいずれの段階においても利活用は開始されたばかりであり,必要な品質について製薬業界内と当局間でコンセンサスが得られている状況に至っていない。
本シンポジウムでは,規制当局,アカデミア・医療機関,製薬企業とで現状や課題を共有し,レジストリデータの薬事制度下でのより良い利活用に向けて議論したい。
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志賀 剛
セッションID: 42_1-S15-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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臨床研究は、どうやったら患者個々に確実な診断、適切な治療を施せるかという医療人の思いが原動力である。その目的は、臨床上の不確実性を調べることである。そのためには研究者のclinical questionをいかにresearch questionに落とし込み、実行可能で適切な試験デザイン、スケジュールを組むかが必要とされる。また、臨床薬理学では、薬の良し悪しを見極めるという命題があり、評価学の重要性も挙げられる。
1.いままで何がわかっていて何がわかっていないのか。まずここを整理することから始まる。何がわかっていないかが明確になると、研究の出口を見据えた研究計画を立てることが可能となる。そこでこれから行う研究の位置づけが定まることにより、観察研究、少数例の介入研究、あるいは検証的研究と大枠が見えてくる。
2.観察研究では後ろ向き、前向きの利点・欠点を考慮する。
3.どのような患者を対象とするのか(最も治療効果が出る、あるいはその治療を必要としているのはどのような背景を有した患者なのかをよく考える)。
4.介入研究:試験薬の用法・用量は適切であるのか、あるいはどのように設定するのか(日常診療における使い方でという大きな落とし穴)。
5.介入研究:対照は何を設定するのか。プラセボなのか標準治療なのか。その標準治療はコンセンサスが得られたものなのか(不確かなものを比較しても何も出てこない)。
6.介入研究:他に代替の治療法はあるのか。試験の継続性も考慮する。
7.介入研究:被験者の安全性は保障できるのか。倫理的に妥当であるのか。
8.主要評価項目は何を設定するか。最も知りたいことは何か。臨床転帰(死亡以外はその定義を明確にしておく)あるいは臨床転帰に関連する代替指標なのか。その評価法は薬の評価方法としてコンセンサスを得られているものなのか。その妥当性は検証されているのか。客観性をどう保証するのか。
9.副次評価項目は何を設定するか。なんでもみたいというのとは異なる。
10.介入研究:サンプルサイズは妥当なのか。
11.そして本当に対象患者を試験期間中に目標数までエントリーできるのか?各施設でどれくらい見込めるか。
実際に臨床研究を行うと数々の壁にぶち当たる。これまで行ってきた自験例を振り返り、上手くいかなかった点、反省点を挙げ、どのようにしたらより良い臨床研究が実施できるのか、みなさんと一緒に考える機会にしたい。
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座間味 義人, 武智 研志, 鈴木 啓介, 肥田 典子
セッションID: 42_1-S15-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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臨床薬理学集中講座は、2016年よりはじまり今年度には第5回目がWebにて初開催され、臨床薬理学に興味を持ち、学ぶことを希望する若手の医師及び薬剤師等が臨床薬理学を体系的・集中的に研鑽する場となっています。本講座では、臨床研究に関わる倫理的な問題や研究デザインに関する課題等を通して、臨床薬理学・臨床研究を通じたエビデンスの創造・発信のできる医療従事者・研究者の育成を目指しており、今後はこの講座で学んだことを活かせる、臨床研究の場が必要と考えられます。そこで本セッションは、臨床研究を共同で立ち上げ、スタートできるようにすることを一つの狙いとし、本講座参加者メンバーにより、共同研究を計画してきました。昨年度までに、本講座参加者メンバーにアンケートを募り、具体的な研究テーマの検討、本研究を進めるために必要な体制整備を議論しながら構築してきました。そんな中、昨年度から新型コロナウィルス感染症の広がりにより、我々の計画してきた多施設共同研究の活動も少なからず影響を受けました。しかしながら、Webツールなどを利用しながら、可能な限り多施共同研究の進展を図るべき工夫も行ってきました。今回は、昨年度までのフォローアップセミナーにて抽出されてきた課題を振り返りながら、参加者の皆さんとこれからの臨床研究活動について話し合いができたらと思います。また、既に研究テーマが決まっている、観察研究については、今年度行った倫理審査を始めとした進捗状況や一部研究結果を中心にご紹介しながら、改めて集中講座で学んだ皆さんと臨床研究について考え、質の高い共同研究を行うためには何が必要で、どのような工夫が今後は必要となってくるのか、討論できればと考えています。本セッションでは、昨年度に引き続き具体的な研究テーマで議論を進めていく予定ですが、この議論を通して、臨床研究を共同研究として進める場合の実践的な知恵や工夫(コロナ禍で如何に停滞しないで活動するのか)を共有できる場にもなるのではないかと考えていますので、皆さんの積極的な参加とご意見を頂ければと思います。
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永井 将弘
セッションID: 42_1-S16-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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不随意運動とは自分の意思とは関係なく、体が勝手に動いてしまう現象を示し、その種類は多く振戦、ミオクローヌス、アステリキシス、舞踏運動、アテトーゼ、バリズム、ジストニアなどがある。また、変性疾患、遺伝性疾患、代謝性疾患、機能性疾患、脳血管障害、薬剤性などが不随意運動の原因としてあげられる。不随意運動への対処のためには、その不随意運動の種類を特定する必要がある。
今回、不随意運動が増悪したパーキンソン病の一例をビデオ提示し、その病態と対応について説明する。
【現病歴】62歳女性
X年 左手足にふるえが出現
X+1年 近医にてパーキンソン病と診断され、抗パーキンソン病薬の処方が開始された。
X+3年9月 食欲が低下し、嘔気も出現。四肢のふるえがひどくなったため当科受診。
【既往歴】 甲状腺機能低下症、骨粗鬆症
【家族歴】 類症なし【飲酒・喫煙】 なし
【内服薬】L-ドパ/カルビドパ合剤 300mg、アマンタジン 200mg、ゾニサミド 25mg、レボチロキシンナトリウム 100μg、アルファカルシドール 0.25μg、センノシド 24mg
【現症】血圧 108/68、脈拍 90 整、体温36.4℃、体重32.5kg、意識レベル JCS I-1、四肢にふるえを認める(ビデオ供覧)
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今井 靖, 久保田 香菜, 上野 修市, 苅尾 七臣, 荒川 昌史, 西島 秀和, 片野 昌宏, 吉岡 崇幸, 釜井 聡子, 中澤 寛仁
セッションID: 42_1-S16-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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肺高血圧症は特発性、先天性心疾患・膠原病、肺疾患あるいは血栓塞栓症によるもの、左心不全に伴うものなどと多彩であるが、症状を呈するに至った症例はほぼ既に進行期にあり予後は良好とはいえない。今回、我々は肺動脈性肺高血圧症を薬剤性に来した一例、および腫瘍に関連し急速に肺高血圧の出現・増悪に至った症例への薬物療法に苦慮した一例を提示する。症例1では薬剤性肺高血圧症としての被疑薬、症例2ではその治療法について議論したい。<症例1>症例は30歳前後の男性。4年前より慢性骨髄性白血病と診断されていたが、通院が不徹底な状況であった。その2年後に急性転化し8クールからなるhyper-CVAD療法を実施。それが奏功しsecond chronic phaseとして管理。最近1ヶ月前から咳嗽と労作時呼吸困難が認められた。上記症状があり循環器内科へ紹介。理学所見および心電図。胸部X線ともに右室負荷を示唆。心臓エコーでは推定右室収縮期圧は96mmHgと著明高値。右心カテーテルにおける平均肺動脈圧は43mmHgと著明高値であった。白血病治療薬を被疑薬として中止したところ、肺高血圧治療薬の導入を行うことなく肺高血圧は速やかに改善。血液疾患の進行も無く現在に至る。<症例2>50歳台半ばの女性患者。急激に進行する呼吸困難・低酸素血症を認め、近医を介して当院へ紹介。紹介時右心カテーテルによる平均肺動脈圧は48mmHgと顕著な肺動脈性肺高血圧を認めた。肺動脈血栓症は否定的で急速に肺高血圧が進み肺高血圧治療薬を導入するも無効であった。CT検査にて傍大動脈リンパ節腫張を認め、また上部内視鏡により胃癌(印環細胞癌)を認めた。肺血管に微小に塞栓した癌細胞が血小板由来増殖因子PDGFなどの血管収縮性物質の異常分泌等により末梢肺血管床平滑筋が攣縮・増殖することで肺高血圧を来すPTTM(pulmonary rumor thrombotic microangiopathy)と判断した。適応外ではあるが薬事審査委員会・薬剤部の協力を得てチロシンキナーゼ阻害薬を投与したところ劇的に肺高血圧が改善。いかし現病が進行し癌の全身転移のため半年後に亡くなられた。このような治療・診断に苦慮する症例において医師・薬剤師・臨床薬理専門家の密な連携が有効であった。
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高橋 毅行, 寺薗 英之, 末次 隆行, 菅原 英輝, 有馬 純子, 新田 美奈, 田邉 徹, 奥津 果優, 水野 圭子, 井上 博雅, 武 ...
セッションID: 42_1-S17-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】
第二世代上皮成長因子受容体 (EGFR) チロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKIs) であるアファチニブ (AFT) は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者に対する第一選択薬の一つである。初期投与路用は多くの患者が固定用量40 mgから開始されるが、血中濃度は個体差が大きいことが知られている。また、AFT投与中の患者の多くは、副作用の発現により減量あるいは休薬を経験する。そこで、本研究ではAFT血中濃度と副作用発現との関係や、患者背景や臨床検査値の中に血中濃度と相関性を示す項目を見つけ出すことで適切な投与量が設計可能かを検討した。
【方法】
鹿児島大学病院臨床研究倫理委員会の承認と対象患者より文面での同意を取得し、AFTでの治療が開始となったEGFR-TKIs未治療のEGFR変異陽性非小細胞患者を対象に、液体クロマトグラフィー質量分析法 (LC-MS/MS) を用いてday8-14におけるAFTトラフ血中濃度測定を行った。AFTトラフ血中濃度と臨床検査値、有害事象、AFTの減量、無増悪生存期間について相関分析、ロジスティック解析、ログ・ランク検定を用いて統計解析を行った。
【結果・考察】
臨床検査値の中にAFT血中濃度と強い相関性を示す項目はなかった。一方、AFT血中濃度が高い患者では減量となった症例がより多く、ロジスティック解析によりAFT血中濃度が高いことと投与量減量には有意な関連があることが示され、その血中濃度カットオフ値は21.4 ng/mLであった。また、減量あり群と減量なし群の無増悪生存期間はぞれぞれ415日と446日で違いはみられなかった。
【結論】
AFT治療患者において、血中濃度のモニタリングを行うことは、副作用発現の予測ができ、患者のQOLの確保につながると考えられる。
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吉川 直樹, 池田 龍二
セッションID: 42_1-S17-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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造血幹細胞移植(HSCT)は、血液がんや免疫不全症などに対し完治を目的とした治療である。同種HSCTは治療法として極めて効果的である一方、一部の患者は治療後に移植片対宿主病(GVHD)を発症する。免疫抑制薬タクロリムスは、このGVHD発症を予防するために使用されるキードラッグである。血中タクロリムス濃度とGVHD予防における臨床的有効性や毒性は高い相関関係にあり、その血中濃度の治療域は狭く緻密なコントロールが必要である。さらにタクロリムスの薬物動態は個人差が大きく、TDMによる血中濃度管理の必要性は極めて高い。我々はこの個人差をもたらす要因について、臨床薬理学的なアプローチにより研究を行っている。
タクロリムスの薬物動態の個人差を決定する因子は多数存在するが、その1つに、血液中では赤血球に分布するというユニークな薬物特性がある。我々は、薬物動態の個人差においてタクロリムスと赤血球の相互作用を議論することの重要性を明らかにすることを目的とし、ヒトにおける赤血球数変動がタクロリムス血中濃度に及ぼす影響について臨床研究を実施した。その結果、造血幹細胞移植患者において、短期的な赤血球数の変動がタクロリムス血中濃度変化を生じさせることを見出している。
また、タクロリムスの薬物動態の個人差を決定する因子として、薬物代謝酵素cytochrome P450 (CYP) 3A5の遺伝子多型もよく知られている。しかしながら、タクロリムスをGVHD予防に使用する際のCYP3A5遺伝子多型を用いた投与設計法は十分に確立されていない。そこで我々は、タクロリムス初期投与設計法確立につながる有益な知見を得ることを目的とした臨床研究を計画し、同種HSCT患者におけるCYP3A5遺伝子多型(*3)とタクロリムス投与開始時の血中濃度変化の個人差の関係を解析した。その結果、投与開始後のタクロリムス血中濃度/投与量比推移の個人差を決定する重要な因子の1つがCYP3A5遺伝子多型であることを見出している。
本シンポジウムでは、これらの研究から我々が得た知見について紹介しながら、タクロリムス体内動態の個人差について議論を深めたい。
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三宅 俊介, 齋藤 秀之, 城野 博史
セッションID: 42_1-S17-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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卵巣癌は婦人科悪性腫瘍の中で最も死亡者数の多い疾患である。自覚症状に乏しいため早期発見が難しく、約半数の症例が予後不良の進行期分類3・4期で発見される。さらに、腹膜に播種性の転移を起こしやすいこと、特に転移・再発症例において薬剤耐性が頻発することが治療を困難にしている。近年、複数の分子標的薬が承認され卵巣癌の治療選択肢は拡大しつつあるが、卵巣癌患者の生命予後や薬剤治療効果を予測するマーカーは極めて限られており、いまだ適切な治療が届かない患者が多く存在する状況にある。
Cylindromatosis(CYLD)は、その機能喪失が腫瘍悪性化に深く関与することが報告されている腫瘍抑制遺伝子である。CYLD は、タンパク質のユビキチン化を制御する脱ユビキチン化酵素として、nuclear factor-kappa B (NF-κB) 等の様々な細胞シグナルを抑制的に制御している。当初、CYLD の機能喪失型変異が複数報告されたが、その後の研究により、変異を伴わないCYLDタンパク自身の発現低下による機能喪失が腫瘍の悪性化および予後不良の要因となっている可能性が示されつつある。これらを受けて我々は、CYLD発現に着目した卵巣癌患者組織の病態解析および分子生物学的アプローチによる検証を実施した。その結果として、(1)CYLD発現低下症例では Aktシグナル過剰活性化等を介した転移能亢進・薬剤耐性化により、生命予後が著しく悪化していること(予後予測マーカーとしての有用性)、(2) CYLD発現低下時にはAkt阻害剤などの薬剤が転移および薬剤耐性に対して効果を発揮すること、さらに、特定の分子標的薬への感受性が亢進すること(薬剤選択マーカーとしての可能性)などの知見を得た。
本研究の結果から、CYLD発現が卵巣癌の生命予後や薬剤治療応答性に深く関与する可能性が示唆された。今後、さらなる研究展開によりCYLD 発現を予後予測・薬剤選択マーカーとした個別化治療の有用性が検証されれば、卵巣癌の治療向上に大きく貢献することが期待される。
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金子 哲也, 鬼木 健太郎, 古郡 規雄, 石津 棟暎, 猿渡 淳二
セッションID: 42_1-S17-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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薬物動態(PK)並びにPK-薬力学(PD)解析に基づく薬物投与設計は、精密医療の実現に向けた重要なツールとなりうる。近年、我が国では精神神経疾患に対する医療機能強化が推進されているが、その治療薬は体内動態の個人差が大きく、治療効果や副作用発現の個人差を引き起こす重要な要因となっている。そのため、薬物投与量の設定にはtry and errorが繰り返され、寛解までに長期間を要している他、多彩な副作用の発現を十分に予測することは現状では困難である。
これまで我々は、抗てんかん薬や抗うつ薬、抗精神病薬といった様々な精神神経疾患治療薬のPK-PD解析を進めてきた。その中で、成人焦点発作の第一選択薬である抗てんかん薬ゾニサミド(ZNS)について、母集団PKモデルを構築し、カルバマゼピン等の併用薬の有無で2倍弱の投与量調整により、適切に治療血中濃度域(10-30 μg/mL)に到達できることを示した。加えて、本モデルに基づくPK-PD解析をさらに発展させ、PK情報及び他の患者情報からZNS投与後の有効性・安全性を予測する決定木等を、機械学習により開発を試みている。
また、難治性てんかんの切り札の一つである、クロバザム(CLB)に関する検討では、CLB同様に活性を有する代謝物N-desmethyl CLBを同時に組み込んだ母集団PK-PDモデルを構築した。その結果、それぞれの血中薬物濃度推移が、cytochrome P450(CYP)2C19やP450 oxidoreductaseといった薬物動態関連遺伝子の多型情報で予測でき、同時に、てんかん発作抑制効果や用量依存性副作用(眠気、流涎等)との関係から、最適投与量のみならず、個々に適した治療血中濃度域を提案できる可能性を示唆した。
さらに、全般発作の第一選択薬であるバルプロ酸(VPA)については、PK-PD解析のみならず、その長期投与により発現する体重増加を予測する母集団PDモデルの構築を試みた。本体重変動予測モデルにより、体重増加のリスク因子を持つ患者を事前に判断することが可能となり、VPAに誘発される体重増加の予防や服薬アドヒアランスの向上のみならず、小児患者の体重変動に基づく投与量調整にも寄与できる可能性を示した。
以上のように、本発表では、PKおよびPDの観点から、精神神経疾患の精密医療を実現するための臨床薬理学の臨床応用について、抗てんかん薬に関する我々の最新の知見を提示しながら紹介する予定である。
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吉田 優哉, 松永 直哉, 鶴田 朗人, 小柳 悟, 大戸 茂弘
セッションID: 42_1-S17-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【背景・目的】血圧や心拍数などの循環器機能には概日リズムが認められ、これらのリズムは概日時計機構により調節されている。またこれを反映し、循環器疾患の好発時間や病態進行も体内時計と相関していることが近年報告され、注目を集めている。しかし、その詳細な機序は未解明な点が多い。そこで本研究では、慢性的な高血圧を伴う慢性腎臓病(CKD)を対象に、概日時計機構が循環器及び心臓の病態に及ぼす影響について解析を行った。
【方法】ICR雄性野生型マウス(WT)およびClock改変マウス(Clk/Clk)腎臓を5/6摘出し、その後8週間飼育することでCKDモデルマウス (5/6 Nephrectomy: 5/6Nx) を作成した。また、対照としてSham群を作成し、各種解析を行った。膠原線維の染色はマッソン・トリクローム染色を用い、各種因子の発現量変化は、マイクロアレイ法、リアルタイムPCR法、ELISA法を用いて測定した。
【結果・考察】CLOCKは概日時計機構における中核分子であるため、Clk/Clkの循環器機能は異常なリズムを示す。そこで初めに、WTおよびClk/Clkを用いて5/6Nxを作成し、血圧、血中Angiotensin II濃度(AT2)、心線維化を比較した。その結果、Clk/Clkにおいて血圧およびAT2はWTより高値を示したにもかかわらず、心線維化は抑制された。この原因解明のため、マイクロアレイ法を用いて(1)正常時に概日リズムが認められ、(2) CLOCKによって発現が制御され、(2) 5/6Nxで発現変容が認められる遺伝子を探索した。その結果、5/6Nx時の単球および心室マクロファージにて発現が顕著に上昇する受容体としてG protein-coupled receptor 68 (GPR68)を同定した。また、GPR68のノックダウンはClk/Clkと同様、血圧やAT2の抑制を介さずに5/6Nxの心臓病態悪化を抑制した。さらに、この受容体の発現上昇を誘導する血中因子を探索したところ、CKD時の血中レチノール蓄積に起因する概日時計機構の変容が、上記受容体の発現を誘導することが明らかになった。この発現誘導はCKD患者から採取した血清をヒト単球細胞へ曝露した際にも認められた。以上の結果より、本研究にて明らかにした機序がCKD患者の心疾患の原因となっている可能性が示された。
【結論】概日時計機構に着目した解析によって、CKD誘発慢性心不全の新規メカニズムを解明した。本研究によって原因分子として同定された各種因子を標的とした新たな治療アプローチの開発が期待される。
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白坂 善之
セッションID: 42_1-S18-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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薬物の吸収動態は投与条件や消化管内生理環境の影響を受け易いため、飲食による生理環境の変化とそれに伴う薬物吸収変動を注視・予測することは、円滑な医薬品開発を実現する上で重要となる。実際に、日米欧の医薬品規制当局(PMDA、FDA、EMA)でも、食事が及ぼす薬物吸収への影響を懸念して、高カロリーおよび高脂肪の試験食を用いた臨床試験の実施が推奨されている。しかし、飲食の影響は、薬物の性質や生理環境・機能の変化に依存して、複雑かつ不規則な薬物吸収変動(正、負、または影響なし)を引き起こすため、その変動を一元的に予測することは困難となる。
最近では、医薬品ごとに観察されるこれら複雑な変動傾向を、溶解性と膜透過性に基づいたクラス分類法「BCS (Biopharmaceutics Classification System)」により考察する手法が試みられている。例えば、BCS class I (高溶解性/高膜透過性)の薬物は、食事の影響が観察されない可能性が高く、 BCS class II (低溶解性/高膜透過性)の薬物は、溶解性の増大や代謝酵素阻害に起因した吸収増大(正の影響)が観察される可能性が高い。一方、BCS class III (高溶解性/低膜透過性)の薬物は、胃内容排出の遅延やトランスポーター阻害に起因した吸収低下(負の影響)が推察されているが、その是非は依然として明白ではなく、より詳細な検討・解析が必要とされている。
当研究グループでは、近年、溶液浸透圧に起因した消化管内水分量の変化が、薬物濃度変動(希釈/濃縮)に伴う吸収変動を引き起こすことを見出してきた。また、これらのメカニズムが「薬物-飲食物間相互作用」の一因となる可能性を示すと共に、その影響を評価する上で、薬物の膜透過性が重要な情報となり得ることを明らかにした。例えば、BCS class Iの薬物では、水分挙動の影響を受けることなく速やかに吸収されるため、見掛け上、飲食の影響を受けない一方で、BCS class IIIの薬物では、水分分泌に伴う薬物希釈により吸収性の低下(負の影響)を引き起こす可能性が示された。しかし、摂取された飲食物(成分)はそれ自体が吸収される可能性があるため、浸透圧変動に伴う水分挙動ならびにその薬物吸収動態への影響は複雑になる。本講演では、薬物-飲食物間相互作用を予測するための方法論として、消化管内における薬物動態、食事成分動態、浸透圧変動ならびに水分挙動を定量的かつdynamicに考察することの重要性を概説する。
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秋山 寛享
セッションID: 42_1-S18-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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食事は消化管内の様々な生理条件を変化させる。このうち小腸内の胆汁ミセルの濃度は食後に増加し,薬物と結合することで経口吸収性を変化させることが知られている。興味深いことに,胆汁ミセル結合は薬物の経口吸収を増加させる(正の影響)こともあれば,減少させる(負の影響)こともある。胆汁ミセル結合が薬物によって異なる吸収性の変化をもたらす理由は,薬物吸収の律速段階に基づいて理論的に考察されている[1]。溶解度と非攪拌水層の透過性が吸収の律速となる薬物(目安としてpH6.5におけるlogDが2以上の難溶性薬物)の場合,薬物が胆汁ミセルと結合して可溶化することで非攪拌水層を透過するため,食後に吸収は増加する。一方,上皮細胞膜の透過性が吸収の律速となる薬物(目安としてpH6.5におけるlogDが0.5未満の易溶性薬物)の場合,胆汁ミセルと結合することで上皮細胞膜の透過に寄与するフリーの薬物分子が減少するため,食後に吸収は減少する。
胆汁ミセル分配係数などの薬物固有パラメータ,小腸内胆汁酸濃度などの生理学的パラメータ,そしてそれらの関係を記述する経口吸収理論によって,胆汁ミセル結合が薬物吸収に及ぼす影響を定量的に予測することが理論上は可能である。しかしながら,胆汁ミセル結合による食事の負の影響を定量的に予測した報告は少ない。上皮細胞膜の透過性が律速となる薬物は一般的に高い溶解性を有するため,胆汁ミセル存在/非存在下における溶解度の比から胆汁ミセル分配係数を算出することが難しいためである。
そこで,胆汁ミセル存在/非存在下におけるCaco-2細胞膜の透過係数の比から胆汁ミセル分配係数を算出することで食事の負の影響の予測を試みた[2]。11薬物をモデル薬物として用いた。これらモデル薬物の多くは臨床で食事の負の影響が観察されている。吸収の律速段階や胆汁ミセル結合を考慮した経口吸収メカニズムベースモデルを用いて絶食及び食後条件下のヒトにおける吸収率を予測した。4級アンモニウムである3化合物を除いた8化合物は,臨床におけるAUC比(食後/絶食)を1.5倍以内の誤差で適切に予測することができた。
[1] Eur J Pharm Sci. 2010;40(2):118-24.
[2] Eur J Pharm Sci. 2020;155:105543
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上林 敦
セッションID: 42_1-S18-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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経口投与された錠剤やカプセルなどの固形製剤から薬物が吸収される際には,製剤が消化管内で崩壊し放出された薬物が消化管液中に溶解する必要がある。ほとんどの低分子医薬品の主たる吸収部位は小腸であり,小腸内で溶解状態を維持している薬物分子のみが小腸粘膜を透過し全身血中に移行することができる。製剤から消化管内での薬物の溶解プロセスは,製剤の処方や製法の影響を大きく受けることが知られている。さらに,食事の摂取により消化管内の環境(胃内pHの上昇,胃排泄時間の延長,消化管液の分泌亢進,胆汁濃度の上昇など)が劇的に変化すると,製剤や薬物の特性によっては溶解や膜透過過程に大きな影響があり,血中濃度が上昇する方向あるいは低下する方向の食事の影響を受ける。
医薬品開発の前臨床段階から申請までの様々なステージにおいて,製剤を投与した際の薬物吸収の予測は非常に重要な課題である。医薬品や治験薬の投与は絶食条件に限られる訳ではないことから,食後における薬物吸収の予測も不可欠である。食後における製剤の性能を定量的に予測するためには,上述した食事による消化管生理学の変化や食後の環境下における製剤の溶解挙動などを適切な数理モデルで表現しシミュレーションを行う必要がある。本シンポジウムでは,私たちの研究グループで開発してきたPhysiologically based Biopharmaceutics Modeling(PBBM)アプローチによる経口固形製剤の絶食および食後の薬物吸収予測の事例を紹介し参加者と議論する。
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佐藤 正延, 塩見 真理, 吉次 広如
セッションID: 42_1-S18-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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食事によって薬物の吸収が増加または低下することで、薬物の有効性の低下や有害事象の発現につながる可能性がある。医薬品開発の早期には、健康成人を対象として、薬物の吸収に及ぼす食事の影響を評価する臨床薬理試験が実施され、この試験結果は後期の第II相試験や第III相試験の用法設定、すなわち空腹時投与又は食後投与とするかの判断に利用される。また医薬品開発の後期には、市販予定製剤を用いた食事の影響試験が実施され、医薬品の血中濃度と有効性及び安全性の関係に基づいて、医薬品の有効性及び安全性に及ぼす食事の影響が評価される。
臨床開発における食事の影響の評価については、国内外の規制当局よりガイダンスが発出されているが、特に2019年に発出されたFDAのドラフトガイダンスでは、食事の影響の評価に関する留意事項が詳しく述べられている。また、生理学的薬物速度論モデルによる、食事の影響の定量的予測についても近年研究結果が報告されてきている。
本発表では、臨床開発における食事の影響の評価に関する国内外のガイダンス、薬物動態モデルを用いた食事の影響の予測に関する最新の知見、食事の規定が必要であった事例などの紹介をもとに、医薬品の臨床開発における、食事の影響の評価の必要性と重要性と、そしてその定量的予測の意義について考察する。
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緒方 宏泰
セッションID: 42_1-S19-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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生物学的同等性 (BE)評価の目的は、同一有効成分を同一量含有し、用法・用量が同じ製剤間(標準製剤と試験試験)での臨床上の有効性、安全性が同等である事を確認することにある。
BE評価のための指標は、第1に作用発現部位中薬物濃度あるいは作用発現部位に到達するために必ず通過する唯一の部位中の薬物濃度であり、これらの薬物濃度の測定が不可能な場合に、第 2 選択として薬理効果、臨床効果を評価指標とする。BE試験は、原則、ヒトを対象とし、in vitro溶出試験、放出試験などの結果は評価には用いない。但し、これらの試験においては、試験条件を種々設定する事が可能で、測定条件によっては、製剤間のわずかな臨床的には意味がない差をも検出できる面を有している。
血中薬物濃度を評価指標とする場合、原則、健常成人を対象として試験を行う。患者に比べ、安定した条件での評価が可能で、評価指標の変動性も小さく、相対的に許容域を狭く設定ができる。しかし、患者での評価と食い違いが生じる可能性は否定できない。そのため、経口固形製剤においては、複数の液性において撹拌強度を下げ、製剤間の差の検出力を高めた条件での溶出試験で、測定した一つの条件においても両製剤間に溶出挙動が著し差がある場合、医薬品の適用集団が限られている医薬品では、患者を対象とした同等性試験が必要と判断している。
経口固形製剤を対象とする場合、原則、空腹時投与で行う。消化管内における食事摂取によって引き起こされる消化管の生理的状態の変化によって、固形製剤からの有効成分の溶出は促進され、その結果、製剤間の差異が小さくなる傾向を示す。製剤特性の差の検出力を高めることを目的に、空腹時投与としている。但し、特殊な製剤加工が施されている製剤(経口徐放性製剤)では、製剤特性の頑強さの確認のため、摂食時投与条件でのBE評価も必要としている。
『同等』の許容域と評価方法は、血中濃度を評価指標とする場合、同等の許容域とその統計的な評価は、両製剤間の評価指標の差の標準製剤に対する比の 90%信頼区間が許容域±20%以内にあるとした。また、評価パラメータ値の分布は原則対数正規するとして、その場合の許容域は 0.8 - 1.25である。
以上、BE試験は、患者が非同等な医薬品を同等として服用するリスクを出来るだけ抑えることを目標に、試験条件、評価方法を設定している。
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栗林 亮佑
セッションID: 42_1-S19-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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ヒトを対象に血中薬物濃度を指標とした生物学的同等性(以下、「BE」)評価に関する考え方については、「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン等の一部改正について」(薬食審査発0229第10号 平成24年2月29日)(以下、「BEガイドライン」)等において示されていたところである。前回の改訂から8年が経過したが、その間に、医薬品開発のグローバル化、新技術を背景とした医薬品製剤の開発等、時代の流れに対応したガイドラインの見直しが求められてきた。そのような背景のもと、BEガイドラインの改正が行われた。今回の主な改正内容は以下の4点になる。・食後BE試験の追加・予試験の目的の明確化と例数追加試験の再検討・外国人を対象に実施されたヒトBE試験の受入れ・国内標準製剤使用の明確化今回のBEガイドラインの改訂において、技術の進歩に伴い新たに開発されてきている難溶性薬物の溶解性改善製剤についての評価方法の提案等を行った。他方、現状では必要性が低くなったと考えられる規定は削除した一方で、厳密に対応すべき事項については再構築を行った。これらの改訂により、より科学的及び合理的に BE 評価が行なわれる条件が整備されたと考える。本発表では、ヒトBE試験ガイドラインの改正のうち、食後BE試験の追加及び統計的問題(予試験の目的の明確化と例数追加試験の再検討)について、改正に至った理由や背景を含め紹介したい。
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棚橋 昌也, 菅波 秀規
セッションID: 42_1-S19-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」が令和2年3月に一部改正され、生物学的同等性(BE)試験の評価方法に対する考え方に変更が加えられた。改正後のガイドラインでは、本試験の検証試験としての位置づけが明確にされ、厳格な第一種の過誤確率の制御が要求されている。BE試験における第一種の過誤とは、真にはBEではない製剤を誤ってBEであると判定してしまうことである。有意水準5%の二つの片側検定、もしくは、両側90%信頼区間に基づく単一のBEの評価では、この第一種の過誤の確率が5%(以下)となる。一方、この評価を複数回繰り返して、いずれか成功した結果に基づいてBEを判定するような場合には、この第一種の過誤確率は5%を超えるものとなってしまう(多重性の問題)。言い換えれば、真にBEではない製剤であっても、5%よりも大きい確率でBEが成立してしまうと言うことである。
改正後のガイドラインでは、従前は許容されていた予試験の結果を用いたBE評価を行うことはできない。また、例数追加試験を実施して本試験のデータと合わせて解析することも認められておらず、本試験のみでBEを評価しなければならない。その一方で、予試験の結果を含む事前情報の不確実性に対処するために、中間解析に基づくBE評価やその結果に基づくサンプルサイズの再計算を行うことが認められている。ただし、中間解析やサンプルサイズの再計算を行うことによって生じる第一種の過誤確率の増大に適切に対処し、その確率を5%(以下)に制御しなければならない。
本発表では、中間解析やサンプルサイズの再計算を計画に含むBE試験において、考慮しなければならない第一種の過誤確率の増大を引き起こす要因について説明し、その対処としていくつかの提案法を紹介する。また、実際にこのような試験を行う場合に検討しなければならない実施面での課題についても整理する。
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古家 英寿
セッションID: 42_1-S19-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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以前の生物学的同等性試験は、被験者数が6名~20名程度で、一つの試験だけで同等性を判定するものがほとんどであった。
しばらくして2012年ころにガイドラインが改訂された。当初、スポンサーの製薬企業との打ち合わせなどで、変更内容を耳にする機会はあったが、どう変わるのかまでは予見できなかった。やがて新しいガイドラインに従ったプロトコールが増え、それを実施するようになって初めて具体的変化を実感することとなった。40名程度で本試験を行い、同等性が成立しなければ更に40名程度の追加試験を行って、両試験のデータを併合して解析する大型のデザインが急激に増えてきた。本試験と追加試験の間隔は1~2か月くらいしかないため、本試験の始まる直前に、本試験と追加試験の実施契約を同時に結ぶのが通例である。ただ当院の実績では、本試験だけで同等性が成立する場合が8割超であり、その後の追加試験はキャンセルとなった。つまり生物学的同等性試験を実施すると、8割くらいの確率で数十例の空きベッドが生じるようなこととなった。
それから2020年にまた改訂が行われた。当施設でも新しいガイドラインに従った同等性試験の予試験や本試験、食後投与の同等性試験などが行われ始めた。予試験と本試験の契約が別々になるとベッドのキャンセルはなくなる。ただ一部の製薬企業からは、予試験の契約の際に、その後に行われる本試験用のベッドの確保を求められることがある。その場合は以前のように追加試験用のベッドがすべてキャンセルされることはないが、必要な被験者数が予定より少なかった場合に、その分だけをキャンセルされることとなった。
なお新しいガイドラインには、本試験の途中で中間解析を行い、その結果によって追加の例数を柔軟に決めることができるというやり方も記載されている。今のところその実施例はなく、空きベッドが生じるような問題は生じていない。しかししばらくたたないと、今回の変更によりどのような影響があるのかは予見できないように思われる。
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西村 理恵, 森本 剛
セッションID: 42_2-S20-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】 多くの医育機関や医療機関で、研究公正や倫理に関する教育が行われているが、その多くは義務的、受動的な講義であるため、学習効果は高くないと考えられる。我々は、医療従事者が臨床研究スキルを学習する中で、能動的に研究公正や研究倫理のセンス及び技術を身につけるためのAMED事業に取り組んでおり、それらの実践について報告する。【方法】 一般医師の現状を分析するため、全国の一般医師を対象とした横断研究を実施した。継続的に実施している合宿形式の臨床研究トレーニングでは、講義、討議、ハンズオンを組み合わせ、臨床研究実施をシミュレーションしている。シミュレーション中に、研究公正・倫理に関する事例検討を組み入れ、研究公正・倫理への関心や技能を主体的に身につける能動的研究倫理学習プログラムを開発し、終了後に教育効果について評価した。【結果】 2年間に7回の臨床研究トレーニングで能動的研究倫理学習プログラムを組み入れた。受講者は非大学病院所属が57%と多く、自施設で研究倫理に関する教育を受けていた受講者は大学病院88%に対して、非大学病院58%と有意に低かった(p<0.0001)。本プログラムによって、研究公正や倫理に対する意識が変わったと回答した受講者は76%であった。 一般医師1100人を対象とした横断研究では、自施設で研究倫理に関する教育を受けていた回答者は大学病院99%に対して、非大学病院90%と有意に低かった(p=0.0003)。研究公正や倫理に関わる諸課題のうち、最も意識が低い課題は「研究組織の人間関係(16%)」であった。論文を作成する際に他の論文からコピー&ペーストをした経験のある者(コピー&ペースト)は11%、論文の作成・校閲に関与せずに共著者になった経験のある者(ギフトオーサーシップ)が11%であった。研究公正の学習動機が受動的であった医師は、独立して有意にコピー&ペースト及びギフトオーサーシップに関連した。 これらの現状を元に、研究公正・倫理に関する事例や能動的研究倫理学習プログラムの改訂、更に参加者が自施設で教育を展開するための教育実施マニュアルを開発している。【結語】 能動的に臨床研究スキルを学ぶ臨床研究トレーニングを通じて、多くの診療現場の医療従事者が研究公正や研究倫理を意識した研究活動を展開できるようにしていきたい。本内容は広く医療従事者に紹介するため、当学会のみならず複数の学会で報告している。
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佐土原 道人
セッションID: 42_2-S20-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【はじめに】
報告者の所属する熊本大学病院地域医療・総合診療実践学寄附講座では、2019年に2日間の臨床研究のワークショップ(兵庫医科大学臨床疫学共催)を開催した。その中で、A M E D(日本医療研究開発機構)の教材である「事例から学ぶ公正な研究活動」の冊子の紹介があった。報告者は、さらに、2020年に他の同様のワークショップでもこの教材を使用したディスカッションを経験した。その後、2021年3月の総合診療科の開講で大学院生の受け入れが可能となった際に、臨床研究のスキルアップと研究へのモチベーションの向上のために、「研究倫理ワークショップ~臨床医のアカデミックな活動で気をつけておきたい研究公正・研究倫理を考えよう~」を企画・開催した。
【開催とその結果】
臨床研究トレーニングに組み入れ可能な能動的研究倫理学習プログラムに準拠して計画。新型コロナウイルス流行第5波の渦中であったので、zoomを使用したオンラインの開催とした。1時間30分で開催し、内容は、研究公正についてのレクチャー、2グループで2シナリオについてのディスカッションを行い、発表と共有、解説、質疑応答を行った。合計12名の参加があった。アンケートでは、2/3の参加者が研究公正や研究倫理の教育を受けていた。そのうち、このディスカッション形式で受講したものはいなかった。ワークショップの内容も全員が、ある程度以上役に立ったと答えており、今後の臨床研修に対する意識も変わったと回答していた。半数が同様のワークショップを自施設で実施したいと回答があった。
【感想など】オンラインでの開催であったが、使用するシナリオや資料の事前配布で参加者の理解度は高く、グループワークでの参加度合いも高かった。大学院での授業や大学病院の倫理講習会の受講に比べ、このようなディスカッションによる能動的学習の方が、自らが取り組む臨床研修に当事者意識を持って、研究公正や研究倫理の諸問題を考え、対応できる能力の開発につながるものと考えられた。報告者の感想としては、参加した時よりも企画・運営をした時の方が、学びが多かった。このパッケージ化された学習プログラムの実施を、参加者が自施設で行うことで、さらなる普及につながるものと考えられた。一方で、これらの問題に感受性のない医師に対する啓発活動と参加を促す仕組みの構築が課題として考えられた。
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池原 由美
セッションID: 42_2-S20-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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多くの研究者から「どんどん規制が複雑になって研究がやりにくくなっている」との声を耳にする。国内の臨床研究に関する規制は、臨床研究全体を対象としたものからは始まっておらず、遺伝子組み換え技術等新たな技術がもたらす生命倫理・安全性等の問題に対応するために整備された1994年の遺伝子治療臨床研究に関する指針に始まる。疫学研究に関する倫理指針が制定されたのはそれから9年後の2002年、臨床研究に関する倫理指針が制定されたのは10年後の2003年であった。臨床研究全体を包括する規制の制定が後になったのは、憲法23条が保証する学問の自由によるところが大きく、学問の自由を確保されている研究者は、一方で専門職としての自主規制・行動規範の遵守が求められる。米国の研究公正局は、研究公正をResearch integrity may be defined as active adherence to the ethical principles and professional standards essential for the responsible practice of research.と定義している。日本は前述のように、新たな技術から生命倫理・安全性等の問題に対応するために規制が始まったことから、臨床研究の規制においては倫理の問題であるという研究者の認識が強いのではないだろうか。研究公正は、倫理教育や研究不正の防止教育だけでは十分ではないと考える。なぜなら研究不正と研究過失(honest error)は異なるが、現象としては同一の場合があり、これらの判別は故意によるものか、悪意のない誤りなのかに基づく。しかし、多くの場合にはその判別は困難である。現象が同じである以上、研究不正を重視した狭義の研究公正のみならず、研究成果の信頼性を損なう行為をいかに排除した試験を実施するか、広義の研究公正教育が重要となのではないだろうか。実際のモニタリングや監査の現場で確認されたエラーから、研究公正の現状を共有したい。
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東恩納 美樹
セッションID: 42_2-S20-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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看護研究は、大学等の研究機関に所属する研究者だけではなく、臨床看護師によっても活発に行われている。看護師の教育背景は、専門学校卒または大学卒がほとんどで、修士・博士課程修了者は少数である。このように多様な教育的背景を持つ看護師の公正な研究活動を支援するため、看護の職能団体である日本看護協会は「看護研究における倫理指針」(2004年)を策定し、一般社団法人日本看護系学会協議会は、「論文投稿ハンドブック」(2021年3月)を作成するなどしている。
本シンポジウムでは、第52回(2021年度)日本看護学会学術集会にて発表した看護研究論文上の研究公正に関する記載の分析結果(演題名:看護師が主導する研究における研究公正の現状)および一般社団法人日本看護系学会協議会が公表している「学会誌編集における倫理上の課題に関するアンケート報告書」(2021年5月31日)等を基に、看護師の研究公正に関する意識について考察し、看護師を対象とする効果的な研究公正の学習方法について検討する。
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Chunze Li , Rajeev M Menon
セッションID: 42_2-S21-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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Antibody drug conjugates (ADCs) are an important class of biotherapeutics in oncology. To date, nine ADCs have received regulatory approval in different countries with many more in the early- and late-stage clinical development. ADCs have complex molecular structures consisting of a monoclonal antibody (mAb) covalently bound with a cytotoxic payload through a chemical linker. These conjugates combine the target specificity of monoclonal antibodies with the anti-cancer activity of small-molecule therapeutics (also referred to as payload).
Typically, 3 different analytes are quantified in preclinical and clinical studies - conjugate, total antibody and unconjugated payload. The value of measuring all 3 analytes across the spectrum of clinical development is not clear. In earlier (Phase 1) studies, analyzing all analytes is important to understand the disposition of the molecule as well as exposure-response relationships. In late-stage studies however, this adds significant development cost and unnecessary patient burden and its value in decision making is not clear. The cytotoxic payloads, upon release from the ADC, are considered to behave like small molecules. As a result, evaluating the drug-drug interaction (DDI) potential associated with payloads is important in clinical development of ADCs. However, given the relatively high potency and low systemic exposure of cytotoxic payloads, DDI consideration for ADCs might be different from traditional small molecules. The International Consortium for Innovation and Quality in Pharmaceutical Development (IQ Consortium) convened an ADC working group to create a database that includes 26 ADCs with 6 unique payloads. Additionally, the 9 approved ADCs were evaluated. These analyses support the strategy of PK characterization of all three analytes in early-phase development and progressively minimizing the number of analytes to be measured in the late-phase studies. The systemic concentrations of unconjugated payload are usually too low to serve as a DDI perpetrator; however, the potential for unconjugated payloads as a victim still exists. A data-driven and risk-based decision tree was developed to guide the assessment of a circulating payload as a victim of DDI.
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岡田 賢司
セッションID: 42_2-S22-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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国内では2021年2月14 日にファイザー製新型コロナウイルスワクチンが製造販売承認され、2月17日から医療従事者等を対象に予防接種法に基づく臨時接種が開始された。4月12日から高齢者等への接種が始まり、6月1日から接種対象年齢が16歳以上から12歳以上に変更された。 5月21日に武田/モデルナ製及びアストラゼネカ製ワクチンが製造販売承認され、 武田/モデルナ製ワクチンは5月24日から主に集団接種会場などでの接種が行われるようになった。6月17日から対象年齢が18~64歳も加わり、8月2日からは対象年齢が12歳以上となった。アストラゼネカ社製ワクチンについては、原則40歳以上の方(ただし、海外で同社製ワクチンを1回接種された方、他の新型コロナウイルスワクチンに含まれる成分に対してアレルギーがあり接種できない等、特に必要がある場合は18歳以上の方)を対象に、8月3日より予防接種法に基づく接種の対象となっている。ただし、現時点では、アストラゼネカ社製ワクチンの接種を行う機会は限られており、通常はファイザー社製又は武田/モデルナ社製ワクチンが接種されている。一方、国産ワクチンの早期実用化に向けて、従来の研究・薬事承認・生産体制の全過程で加速並行プランが進められているが、承認の見通しは立っていない。 アンジェス社/阪大/タカラバイオ社製ワクチはDNA ワクチン、塩野義製薬/感染研/UMNファーマ製ワクチンは遺伝子組換えタンパクワクチン、第一三共/東大医科研製ワクチンはmRNAワクチン、KMバイオロジクス/東大医科研/感染研/基盤研製ワクチンは従来型の不活化ワクチンとそれぞれ異なるモダリティのワクチンが開発されている。 当日は、公開されている情報を基に、各ワクチンの開発上の現況と課題を紹介する。
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中田 はる佳
セッションID: 42_2-S22-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の流行が始まって2年近くが経過している。人々の生活や医療の状況などが大きく変化する中で、流行を鎮静化するための方策としてワクチンや医薬品の研究開発に大きな期待が寄せられてきた。新型コロナは感染拡大地域が広いため全世界的にワクチン接種を進める必要があり、市民によるワクチンの受容が早くから検討されてきた。私たちの研究班では、新型コロナをひとつの例として、新興感染症流行時のワクチンや医薬品の使用及び研究開発に関する市民意識を明らかにし、今後の研究開発への示唆を得ることを目的とした一般市民対象の意識調査を行った。
対象は、日本在住の20~79歳の男女とし、ワクチンについてたずねるグループ(ワクチン群、1,569名)と医薬品についてたずねるグループ(医薬品群、3,980名)とした。対象者は、調査会社の登録モニターから、日本の人口動態を参考に、性別・年代・居住地域で割付を行って抽出した。調査項目は、新興感染症流行時のワクチン、医薬品の利用意向、研究開発への協力などに対する考えに関することとした。分析に際して、若年層(20~49歳、730名)と高年層(50~79歳、839名)に分けて検討した。調査時期は2020年12月下旬であった。本発表では、ワクチンに関する調査結果を中心に報告する。新型コロナワクチンを「接種する(必ず接種する+おそらく接種する)」と回答した人は56.5%であった。高年層の方が若年層より「接種する」と回答した割合は有意に高かった。また、新型コロナワクチンを「接種しない」と回答した人の主な理由は、「副反応が心配だから」であった。新興感染症流行時のワクチンや医薬品の臨床試験の重要性は約9割で認識されている一方、ワクチン臨床試験への参加意向は15%程度であった。新しい感染症のワクチンの研究開発への患者・市民参画につながる活動への協力意向は、約50%が協力してもよいという意向を示した。
これらの調査結果をもとに、1)ワクチン接種意向とワクチン政策、研究開発への示唆、2)新興感染症のワクチン接種推進に適切な方法、3)新興感染症流行時のワクチン・薬に対するfalse hope、4)新興感染症のワクチン・薬の研究開発に対する市民の関心・協力の程度について考察したい。謝辞:本発表は、AMED感染症研究開発ELSIプログラム「新興感染症流行時の未承認薬利用と研究開発に対する市民の態度に関する研究」の成果の一部です。
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元木 葉子
セッションID: 42_2-S22-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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2019年末に始まった新型コロナウイルスによる感染症は、2020年3月にはWHOによりパンデミック状態と宣言された。日本においてもこの間目まぐるしく状況が変化した。ダイヤモンドプリンセス号、国内での感染者発生と感染者数の拡大、病院における大規模クラスターの発生、緊急事態宣言。人類が経験してきたパンデミックのなかでも、これほどリアルタイムに医療情報があふれ、人々が行動変容を求められたことはなかったのではないか。つまり新型コロナウイルス感染症の流行は、全世界の個人に対しHealth Literacyについてリアルタイムに問い、迅速な行動変化を起こすことを要求したのである。 あふれる医療情報はやがて解決手段として、治療薬、医療機器、予防薬の要求へと人々を向かわせた。そこで人々が目の当たりにしたのは、日本では、他の国で次々と行われるような対応-PCR検査の大規模実施、検査キットの販売、人工呼吸器の生産、新薬の緊急承認やワクチンの治験など-が行われないという事態である。なぜ市民が熱望する医薬品や医療機器を、迅速に手に入れられないのか。多くの国民がワイドショーに出演する「専門家」が「国が悪い」「陰謀だ」、と主張する言葉にうなずき、憤ったことだろう。行政への怒りは、今やVaccine hesitancyにつながり、我々の目指す新型コロナウイルス感染症対策を難しくする一要因ともなっている。 なぜ私たちは望む医薬品や医療機器を手に入れられないのかという点に関して、医薬品や医療機器開発に対する市民の理解と、実際に取りうる行政対応にはギャップがある。医薬品や医療機器は、ワクチンも含めすべて企業の作り出す「製品」であることから、行政が法の枠組みで取りうる対応は限られるからである。しかし、行政の目的は国民のニーズを満たすことであるから、行政にも国民のニーズを受け止め行政に反映する改善努力は求められる。そしてニーズを生み出す側の市民も重大で切迫した健康危機を理解し、何を望んでいるのかを発信する必要もあり、そこにはやはりHealth Literacyが必要なのである。医薬品や医療機器開発の最終的な受益者である市民は、誰と何を議論すべきなのか。本講演では、医療現場で勤務する医師として行政に飛び込んで得た知見から、行政と市民双方に求められるHealth Literacyを議論する。
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白沢 博満
セッションID: 42_2-S22-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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新型コロナウイルス感染症に世界が翻弄され始めた2020年初頭より、グローバルな製薬会社の研究開発部門でワクチンや治療薬の開発を進める中で、多くの学びを得た。査読論文や学会発表のみならずpreprintの情報やSNSからの情報が世の中に大きな影響を与え、また、薬事行政に政治的な要素が与える影響が無視できない状態となったのは世界的な傾向である。私はHPVワクチンにかかわる中で類似の経験があるが、新型コロナウイルス感染症は潜在的にあった課題を顕在化させ、可塑性のある社会システムの中で様々な要素が適応していくことを促進した面もある。この2年間を振り返りながら学んだこと、多様な考えを持つ市民、アカデミア、マスメディア、薬事規制当局、政府、製薬会社などがどのようにより良いコミュニケーションと意思決定をしていけるのか等に関して述べたい。
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藤谷 茂樹, 斎藤 浩輝, 一原 直昭
セッションID: 42_2-S23-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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REMAP-CAPは、COVID-19標準治療確立に大きく貢献してきた主要な国際アダプティブプラットフォーム試験(APT)の中で、本邦が参加している唯一の国際APTである。2021年9月時点で、世界21カ国から300を超える医療施設が参加し、7000以上のCOVID-19患者が登録されている。臨床試験実施の国際基準であるGCPに準拠し、モニタリング(原文書照合)および監査を実施しており、データの信頼性は非常に高い。 本邦においては、本研究代表者が中心となり2020年初頭からREMAP-CAPを推進してきた。現在2つのドメイン(1. COVID-19専用抗凝固薬、2.人工呼吸器管理)に多数のCOVID-19患者を登録しており、さらに3つのドメイン(3.抗菌薬、4.マクロライド投与期間、5.eritoran を含む免疫調整薬)に患者登録の準備が進んでいる。今年度中に本邦のみで約30医療機関が参加し、4ヶ月で1000症例を越えるCOVID-19患者を登録するポテンシャルがある大規模臨床研究ネットワークに成長してきた。本邦におけるREMAP-CAPの基盤は、1年半に及び構築され、現在は研究目的に記載したパンデミックにおける5つのドメインに関与している。更に、2つのCOVID-19に関連したドメインを追加するため、参加施設を増やす予定である。2021年7月に国内で実際の症例登録を始めて以降、9月6日現在、REMAP-CAP症例登録数は、50 症例に及び、急速に登録症例数が増加する見込みである。 今後発生しうる新興再興感染症の流行に際して迅速に臨床データと検体の集約を可能とし、本邦発の迅速なエビデンス創出につなげることを目的としている。
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後藤 功一
セッションID: 42_2-S23-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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近年、非小細胞肺癌では様々なドライバー遺伝子が同定され、遺伝子変化を標的にした分子標的薬により、治療成績の大きな改善が認められている。しかし、EGFR変異以外の多くのドライバー遺伝子は3%未満と希少頻度であるため、その治療開発にはこれまでにない工夫が必要である。臨床試験を実施するためには、(1)希少頻度の対象患者を、短期間で効率よくスクリーニングして、症例登録を完遂するためにはどのようにすれば良いのか、(2)大規模な比較試験が困難な対象において、治療薬の有効性をどのように示すのか、以上の2つの問題点を克服しなければならない。
我々は2013年から大規模な遺伝子スクリーニング基盤としてLC-SCRUM-Asiaを開始し、これまで14,000例を超える肺癌患者の遺伝子解析を行ってきた。このスクリーニングで陽性となった多くの患者が、様々な臨床試験へ登録され、治療薬・診断薬の臨床開発に大きな貢献を果たしてきた。実際に治験を行う施設は少数であっても、LC-SCRUM-Asiaのネットワークを活用して、全国の200施設で対象となる遺伝子変化をスクリーニングして、陽性が判明した肺癌患者のみ、治験実施施設へ紹介し、臨床試験へ登録することが可能になったため、1-2%の希少頻度の肺癌であっても、短期間に効率的に患者登録を完了させることが可能になっている。
治療薬の有効性を確認するための比較試験が困難な希少頻度の肺癌に対して、単群の第2相試験のみで有効性を示すためは、圧倒的な治療効果を示す必要がある。有効性が高い治療薬であればあるほど、スピード感が重要であり、早急に臨床試験を完了し、臨床応用する必要がある。そのためには、いかに少ない症例数で科学的な有効性を示すことが出来るかが重要であり、統計設定に基づいて、客観的に有効性を示すことが可能な症例数の設定が必要になる。これまで、製薬企業、PMDAと多くの議論を重ねてきた結果、希少フラクションに対してどのような臨床試験が適切と考えられるのか提示したい。
これらの試みを通して、LC-SCRUM-Asiaは肺癌における個別化医療の確立へ、今後も貢献を続けていく予定である。
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林 盛彦
セッションID: 42_2-S23-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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エヌトレクチニブは,NTRK1,NTRK2,NTRK3遺伝子によってコードされるトロポミオシン受容体キナーゼファミリー(TRKA, TRKB及びTRKC),ROS1及びALKチロシンキナーゼを強力かつ選択的な阻害活性を有する抗悪性腫瘍剤である。エヌトレクチニブはイタリアNerviano Medical Sciences社により創製され,その後,第I相試験を経て,米国Ignyta社及びスイスRoche社によりNTRK融合遺伝子陽性の固形癌等を対象とした国際共同第II相試験(STARTRK-2試験)が実施された。
STARTRK-2試験はNTRK1/2/3, ROS1又はALK融合遺伝子陽性の進行・転移の固形癌患者を対象としたバスケット試験として実施された。核酸ベースの検査により,各遺伝子が陽性と診断され,適格と判断された患者が特定のコホートに割り付けられた。有効性はコホートごとに評価された。
STARTRK-2試験を主要な試験成績として,エヌトレクチニブは日本において世界に先駆けて「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌」の適応を取得し,その後「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の適応も取得している。本発表では,エヌトレクチニブの開発経緯について紹介する。
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植田 真一郎
セッションID: 42_2-S23-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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臨床試験の目的は診療を良い方向に変えることであり、それは開発型の臨床試験においても同様である。診療は常に疑問に溢れており臨床試験でしか解決しない問題も多い。しかし特に臨床研究法以降臨床的な問題を解決しようとする現実的な医師主導臨床研究(pragmatic trial)は活発に行われているとは言い難く新薬の開発の影で多くの問題は積み残しの状態であると言える。近年はむしろデータベース解析などを用いて臨床試験を避けて因果関係を推定しようとする研究も多いが、例えば診療におけるある介入の有効性は観察研究ではなかなか評価は難しいし、ましてやヒストリカルコントロールでは比較そのものがfairで無くなる。しかしpragmatic trialには症例集積など多くの乗り越えならなければならないハードルがあり、訳のわからない複合エンドポイントで実施に漕ぎ着けたとしても疑問への答えになってなければ意味がない。そこで本講演では研究計画、研究実施体制から品質管理まで薬剤開発型の研究のコピーではなくあくまでpragmatic trialとしての理想的なデザインや実施体制の構築、患者レジストリを基盤とした試験計画(RCT on Registry)、ゲノム情報などを利用したより有効性が推定される患者(サブグループ)での試験の提案、英国などでおこなわているより患者の負担を減らすRemote Decentralised Clinical Trialについて議論したい。
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山本 昇
セッションID: 42_2-S24-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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2019年6月にがんゲノムプロファイリング検査が保険適用され、全国226の医療機関(2021年8月1日現在)においてがんゲノム医療が実用化された。しかしながら遺伝子異常にマッチした治療が受けられるのは10~15%程度であり、その大半を治験薬に頼っているのが現状である。2019年10月から患者申出療養制度下において「遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく複数の分子標的治療」の臨床試験(jRCTs031190104)、俗称「受け皿試験(BELIEBE trial)」を開始、全国12のがんゲノム医療中核拠点病院で実施中である。内外資製薬企業からの支援により約20の分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の無償提供をいただき、各施設のエキスパートパネルの結果に基づいて治療適応が判断、治療が行われている。抄録作成時200例を超える症例登録が得られているが、試験を通しての課題にも直面している。本シンポジウムでは受け皿試験の現状と課題について情報共有を行いたい。
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濱口 哲弥, 牧野 好倫, 長谷川 幸清, 藤野 節, 吉田 裕之, 福島 久代, 平崎 正孝, 榊原 彩花, 鎌倉 靖夫, 松野 紗由美
セッションID: 42_2-S24-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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埼玉医科大学国際医療センターは埼玉県日高市に所在する、主に埼玉県北西部を医療圏とする埼玉医科大学附属の病院のひとつである。当院は院内がん登録数では年間5,000名弱と全国で6位、大学病院ではトップであるように、多くの地域がん患者の診療に携わっている。当院は2018年4月に厚生労働省から「がんゲノム医療連携病院」に指定されたと同時にがんゲノム医療センターを設立し、がんゲノム医療中核拠点病院である国立がん研究センター中央病院、慶応義塾大学病院と連携して、がんゲノム医療への取り組みを開始した。また、2019年9月には「がんゲノム医療拠点病院」に指定され、地域の連携病院とともにがんゲノム医療を推進している。包括的がん遺伝子プロファイル検査として、当院ではNCCオンコパネル、FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル検査、およびFoundationOne Liquid CDxがんゲノムプロファイル検査を保険収載時よりおこなっている。このようなパネル検査後の治療戦略としては、(1)コンパニオン診断として用いてNTRK融合遺伝子におけるNTRK阻害剤や前立腺癌のBRCA遺伝子変異におけるPARP阻害剤のように保険診療に繋げる、(2)医師主導も含めた治験や患者申出療養制度に繋げる、(3)自由診療に繋げる、の3つの選択肢が挙がる。当院では(1)(2)を優先しており、(3)に関しては診療科から院内の適応外使用審査委員会に申請があれば検討される仕組みはあるものの未だ実施例はない。2019年12月から2021年8月末までにエキスパートパネルを実施した症例数は201件であった。うちエビデンスレベルD以上で推奨治療法ありとなった症例数は103件であり、実際に推奨治療または治験を紹介もしくは実施できたのは27例(13.4%)であった。この27例の内訳は、(1)保険診療8件、(2)治験や患者申出療養制度で他院紹介15件、当院治験実施4件であった。今後、エビデンスレベルD以上で推奨治療ありとなった症例の薬剤到達性の向上が当院にとっての課題である。その際、治験や患者申出療養制度を多く実施しているがんゲノム医療中核拠点病院である国立がん研究センター中央病院や東病院までは、公共交通機関を使うと片道1.5時間程度かかるため、当該患者にとって通院そのものが大きなハードルとなる。このような患者の薬剤到達性の向上を図るためにも中核拠点病院のみならず拠点病院でも同様の治療が提供できる体制整備が必要であると考える。
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村崎 由佳
セッションID: 42_2-S24-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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2019年6月にがん遺伝子パネル検査(パネル検査)が保険承認され、固形がんを対象とした2種類のパネル検査が実施できるようになった。これらはいずれも腫瘍組織を用いる検査である。そして、2021年3月に血液検体を用いるリキッドバイオプシーが新たに承認された。これらのパネル検査の結果は、いずれもがんゲノム医療中核拠点病院あるいは拠点病院のエキスパートパネルの検討を経て患者に返却される。約9割の患者には推奨される治療はなく、保険診療の治療が推奨されることもまれであり、残り1割の患者が臨床試験や治験の候補となる。したがたて、臨床試験コーディネーター(CRC)がパネル検査に関わるのは、パネル検査後に臨床試験や治験の候補症例として紹介されてからとなる。一方、近年の抗がん薬の治験ではパネル検査はすでに一般的となっており、多くのCRCが日常業務のなかでパネル検査を経験している。この場合、パネル検査の結果は治験登録の判断に用いられてきた。したがって、CRCは保険診療で行われるパネル検査と臨床試験や治験で行われるパネル検査の結果の取扱いの違いについて、明確に認識しておく必要がある。例えば、臨床試験や治験で実施したパネル検査の結果により保険適用の薬剤投与を検討する場合は、保険承認されたコンパニオン診断もしくはパネル検査の結果が必要となる。さらに、保険承認されたパネル検査は一生に一度しか実施できないため、適応や実施のタイミング、提出できる検体の有無や状態など、臨床試験や治験で実施されたパネル検査の結果がすでに判明している被験者では、保険診療として実施するパネル検査との「兼ね合い」をよく見計らって支援する必要がある。これまで、CRCは臨床試験や治験を保険診療と明確に区別してきたが、このたびのパネル検査の保険承認によって、ある部分では保険診療とシームレスに関わらなければならなくなった。
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宮本 理史
セッションID: 42_2-S24-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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2018年に岡山大学病院(以下:当院)はがんゲノム医療中核拠点病院として指定された。当院エキスパートパネル(以下:EP)は、専門知識を有する多職種のスタッフにより構成されがんゲノム医療の議論を行っている。
がん遺伝子パネル検査(以下:パネル検査)から治療候補に結び付く遺伝子病的バリアント(以下:病的バリアント)が見つかった場合、臨床試験など出口戦略に関連した専門知識が必要とされる。しかしながら、EP構成員の指定要件に薬剤師は含まれておらず、その活動範囲や役割については、ほとんど認知されていない。
当院では薬剤師がEPに定期参加しており、パネル検査から挙げられた病的バリアントより候補となる保険診療、先進医療、治験、特定臨床研究などから考慮される治療選択肢を各診療科の医師と協力して検索している。
これまでの活動や対応事例ではその他、病的バリアントが見つかった患者においてEPで考慮された臨床試験のエントリー状況や適格基準の確認、実施施設に関する問い合わせを受け、薬剤師が臨床試験検索サイトや治験調整事務局から情報収集を行い医師へフィードバックを行っている。また遺伝子特異的な臨床試験ではないものの、パネル検査から挙げられた病的バリアントから薬剤の薬理学的作用機序より考慮可能な臨床試験を検討した事例や患者申出療養制度を用いた特定臨床研究への検討など多岐にわたる。
これら取り組みにより、院内外へ円滑に候補患者を引き継ぐことができ治療開始までの期間短縮や臨床試験の組み入れ促進に繋げることが出来た症例も複数経験した。
演者は現在、当院治験担当部署においてがんゲノム医療に関係した臨床試験も担当しており、臨床試験における調整役であるCRCと共に、綿密なコミュニケーションを取ることで臨床試験参加までの円滑な橋渡しの役割も担っている。さらに臨床試験へ薬剤師が関わることで、薬のエキスパートとして薬剤の特性や副作用予測を熟知している点から治療薬の適正使用および有害事象のフォローなどに貢献できると考える。
本シンポジウムでは、がんゲノム医療に対する薬剤師の役割ということで当院での事例を交えつつ議論の場としたい。
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