住総研研究論文集・実践研究報告集
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  • インド・ムンバイのダラーヴィを事例に
    小野 悠, 志摩 憲寿, 前島 彩子, 田村 順子
    2024 年 50 巻 p. 221-231
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,100万人が暮らす居住の場であるとともに,1万5千の工場が稼働する経済活動の場でもあるダラーヴィにおいて,居住と生業の関係性が都市空間にどのように作用しているのかを明らかにし,共生と棲み分けについて考察することを目的とする。住民や事業者へのアンケート調査等から,ダラーヴィでは全国各地からやってきた人々が急成長する大都市の中で出自に紐づく生業を維持するために,出身地や言語を共有する人々と互いに混雑を避けながら寄り集まることで共生と棲み分けを実現してきたことが分かった。また,時代背景による生業の変化に合わせコミュニティやガバナンス,都市空間を変容させることで共生と棲み分けのバランスを変化させていることが分かった。
  • 英国のアセット・トランスファーの持続可能性の調査
    牧野 杏里, 坂井 文
    2024 年 50 巻 p. 233-244
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     英国で進められている,公的資産をコミュニティに所有・管理する権限を委譲するアセット・トランスファーに着目し,特に政策,事業の継続性の観点から動向を整理し実態調査を行った。過去 20年に渡り事業を継続しているカルダデールの事例から, コミュニティの能力を強化することによって長期的に社会的価値を生み出す戦略としてのアセット・トランスファーの有用性,コミュニティ・ハブとなる地域拠点の価値,国‐地方‐コミュニティ間の連携や人的ネットワークの重要性などについて明らかにした。
  • 市街地計画および公共用地計画を中心に
    安 箱敏, 石田 潤一郎, 砂本 文彦, 金 珠也
    2024 年 50 巻 p. 245-256
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     戦時体制化につれ都市の産業構造化を目指していた計画方向は軍需産業の拡大に合わせ工業地域の整備を急ぐ。京仁地方には「京仁市街地計画」として巨大工業地帯が建設され労働者用住宅地の造成計画が始まった。一方,区画整理を始めに市街地整備事業が進む京城府では府による新たな宅地造成事業に踏み入る。民間による宅地開発が進捗を見せていた1930 年代初頭の状況は戦時下で一変し,「住宅対策委員会」の設置は行政による宅地開発に拍車を加えていく。本研究では,これら戦時期の住宅事業について考察し後に設立される「朝鮮住宅営団」の関与から戦後の大韓民国政府による新たな都市計画法が制定されるまでの再編過程について解明した。
  • 開原 典子, 林 基哉, 本間 義規
    2024 年 50 巻 p. 257-268
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,高齢者の低湿度環境による健康リスク低減の観点から,乾燥による不快感や疾患の生じにくい室内湿度環境の形成に資するエビデンス構築を目的としている。アンケート調査,人工気候室での測定,実態調査を通じて,高齢者の住まいの室内湿度の調整に関する課題を整理するとともに,現状の住まいの湿度が低く加湿対策が必要である中,断熱防露性能を踏まえて,結露を生じない範囲で加湿を調整することを提案している。
  • 群馬県西毛地域,福島県会津地域,京都府京丹波地域を事例として
    齋藤 雪彦, 吉田 友彦, ワン エンセイ, ナン ホン
    2024 年 50 巻 p. 269-279
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     親が在住する地域外家族,親が在住しない空き家所有者を他出住民と規定し,その地域社会持続への寄与を,集落域,郊外住宅地でその動向から検討した。成果として集落域では,i)空き家所有者では月1回以上帰省が約3割,年1回以上帰省が約8割以上,農作業実施が約2割などは対象地に共通する傾向,ii)空き家率20%の下郷町では約1割弱から約2割弱,33%の南牧村では約1割強から約3割の人口,空間管理,つきあいの点での社会的インパクトが試算され,iii)約6-7割が個人的余暇を過ごし,帰省を個人的余暇の機会ととらえる層が多くみられ,また,iv)郊外住宅地では約1割が他出住民と想定され,他出住民の近居や帰省の支援を提言する。
  • 佐久間 康富, 立見 淳哉
    2024 年 50 巻 p. 399-408
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「空き家所有者の「戸惑い」から考える」 空き家所有者の利活用の意思決定が難しく,賃貸物件として流通しない「空いていない空き家」の問題に対し,本実践事業では空き家所有者の意識に着目し,空き家の利活用に向けて所有者が空き家で過ごしてきた時間を振り返る機会となることを期待し,空き家の生活史を収集した。結果,空き家の生活史は一つの家族が節目を迎える過程を聞き取ることであること,記録に留め置くことの重要性が再認識されたこと,調査に際しては地元協力者の協力に負うところが大きいことがわかった。空き家所有者の「戸惑い」を前提とし,「除却」「利活用」には留まらない第 3 の選択肢の充実が今後の課題であることを考察した。
  • 畳の実用性と持続性
    鈴木 あるの, 亀井 靖子, 桐浴 邦夫, 松村 秀一
    2024 年 50 巻 p. 185-196
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     和室がヨーロッパにおいてどのように理解され普及しているのかを現地調査したところ,自然素材で作られていることが求められていることがわかった。そこでたとえば畳の場合,日本で普及している新建材の畳を知らないだけなのか,どのような考え商品を選ぼうとしているのかを探るべく,外国人約463名と日本人269名を含む約750名にアンケート調査したところ,自然素材であることに拘る外国人が日本人に比べて多いことが確認された。また海外での聞き取り調査から,畳や障子を内装に使う理由は,日本趣味というよりはむしろ,健康や環境配慮そして空間の有効利用といった実用的な動機が多く,昨今のヨーロッパの住宅事情に起因していることが判明した。
  • 伊東 優, 今井 公太郎, 田中 伸明
    2024 年 50 巻 p. 197-207
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     長崎市の斜面住宅地は高齢化や利便性などの理由から空き家・空き地の増加が問題となっている。そこで本研究は,空き家・空き地の活用を促進しつつ住環境の向上を図るために, “公共的ハブ空間”という概念を導入しその実現に向けた方法を提示する。まずヒアリング調査や先行事例から公共的ハブ空間のプログラムとして〈防災機能〉〈交通機能〉〈共助機能〉の3つを抽出した。また現地調査で空き家・空き地の位置を把握した上で,GIS を用いたネットワーク解析によってそれぞれにふさわしい空間的な配置を明らかにした。さらに空き家・空き地を公共的ハブ空間に転用するケーススタディを行うことで,その効用や実現に向けた課題について検証した。
  • 岡田 知子, 重村 力
    2024 年 50 巻 p. 209-220
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     岩手県大船渡市越喜来崎浜集落を対象に,フィールドワークを行い,震災復興支援活動の記録や,集落組織=公益会の700 を超えるファイルを精査して,コモンズ空間の実態および日常の使われ方,東日本大震災・大津波における地域空間の状況および緊急避難行動・仮設居住・住宅復興の過程を,空間に即して調べた。これらを支えた集落の組織の特徴と役割と具体的な行動についても分析した。避難から復興の段階で,コモンズ空間が果たした大きな役割が明らかになるとともに,歴史的な集落組織から持続しつつ,現代に適応するように変貌してきたコミュニティ組織のありようと意義を明らかにし,コモンズやコミュニティを尊重する減災復興の示唆を得た。
  • 伊庭 千恵美, 開原 典子, 本間 義規
    2024 年 50 巻 p. 389-398
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「伝統的な街並み・生活文化の継承と健康な暮らしの両立を」 京都の伝統的な住居である京町家の保全と継承に関する取り組みがなされる中,昨今の外気の高温化に伴い夏季の熱中症リスクや,冬季の特に水回りの寒さによる健康影響が問題視されている。本実践活動では(1)京町家を含む住宅での住まい方と改修に関するアンケート,(2)住宅の室内温熱環境測定結果の整理, (3)数値解析手法を用いた京町家の断熱改修効果の検討を行った。アンケートから夏季の高温環境と冬季の入浴時の健康リスクが懸念されたが,居住者は暑さ寒さを感じても強い不満を持つ人は少なく,断熱改修への強い動機には繋がらないことがわかった。また,京町家と同規模の住宅で,健康な温熱環境を実現できる断熱性能と電力消費量の例を示した。
  • COVID-19パンデミック期3年間の経験とレジリエンス
    吉田 直子, 大原 一興, 李 鎔根, 藤岡 泰寛
    2024 年 50 巻 p. 127-137
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,丘陵地の郊外戸建住宅団地における高齢者を対象とし,ヒアリング調査と3年間の追跡調査により,健康の維持と継続居住の臨界点を探ることを試みた。フレイルに関して,80歳以上の女性は頑健な状態を維持していることが明らかになった。一方,独居及び85歳からの男性に継続居住の臨界点があると考えられた。また,玄関アプローチやガレージの空きスペースは,住人自身による物理的環境への適応がみられ,健康維持と関連の深いソーシャルキャピタルの再構築に貢献できる可能性があり,オールドニュータウンの持つ新たな側面への期待が見出された。
  • 越山 健治, 宮定 章
    2024 年 50 巻 p. 139-150
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     阪神・淡路大震災後に約 25000 戸の災害復興公営住宅がストックとして純増し,その中でコレクティブ住宅が導入された。建設から 20 年以上が経過しこれらの現状をデータ分析と質的調査により明らかにした。その結果,概ね 30 年で公的住宅ストックは平常化するよう管理できたこと,大都市以外で新たな役割を持つ公的ストックとして位置づけられること,協同空間利用は二極化し,利用が継続しない環境が拡大していること,が明らかになった。被災後長期にわたり公的住宅が果たす役割は大きい。今後,持続的回復に資するためには,計画時に立地・配置計画やまちと連携可能な居住空間設計が必要であることが示唆された。
  • 寺田 真理子, 霜田 亮祐, 佐藤 敬
    2024 年 50 巻 p. 151-162
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     都市において人々のコモンの実践的活動の場(コモン化空間/Spaces of Commoning)は,都市の居住環境において人と人,人と自然との豊かな関係を築く上で重要な地域の資源である。本研究は,都市生態系における「分解と循環」という視点から,地域のコモンズを介した集住環境の再編に向けたアプローチを考察するものである。本研究では,近代化において構築されたインフラという空間資源に着目し,それらを分解して新たなコモン化空間「都市の庭」として再資源化し,循環させる「ニワ化」のデザインの指標を,都市構造, 地理学, 都市生態学の観点からも考察し,明らかにしている。
  • 友寄 篤, 北村 真也, 土崎 尚史
    2024 年 50 巻 p. 163-172
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,抗ウイルス性能があるとされる光触媒や金属イオンならびに一般的な建築仕上材料を対象に,JIS R 1756 「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法‐バクテリオファージQβを用いる方法」に準拠して基礎的な知見を得るための検討を行い,新型コロナウイルスによって報告されている文献情報などとの比較考察を行った。その結果,ファージ試験では実際のウイルスに対する性能を評価することが難しい結果が示され,ファージ溶液濃度がJISを満たさない場合には,抗ウイルス活性値の結果が良くなる可能性があることを指摘した。
  • 清水組竣功報告書および建築資料協会のカタログに着目して
    松本 直之, 藤田 香織, 宮谷 慶一, 松村 秀一, 熊谷 亮平, 権藤 智之, 冨士本 学
    2024 年 50 巻 p. 173-184
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,戦前の大規模建設会社(清水組)の 1922 年から 1940 年の工事記録である『清水組竣功報告書(以下,「報告書」)』に基づき,1)新たな建材や構法の導入と普及の過程を,建物への適用実態と当時の流通状況から考察し,他方で2)設計者や材料商,職人,工事関係者,商品,部品などの複合的な関係性に着目して,大規模建設請負会社の活動実態を明らかにすることを目的とする。具体的には,主要な職方や取引先の選択において,住宅と事務所について構造形式,地域,経年の変化の傾向とその異同を明らかにした。また,当時興隆しつつあった SRC 造についてS造と対照して構法の適用実態を検討し,また,関連する職方・取引先の編成を明らかにした。
  • 金城 優, 清水 肇, 伊志嶺 敏子
    2024 年 50 巻 p. 357-365
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「住まいづくりの『手引き』作成を通じて緩衝領域型住宅の理解を広める」 建築物省エネ法に基づく省エネ基準に沿った住まいづくりが推進される中,沖縄県は 2022 年に気候風土適応住宅の認定基準を定め省エネ基準と異なる考え方で環境に調和した住まいづくりを進める方法を示した。沖縄県の認定基準の考え方の基調である緩衝領域型住宅について,その効果と特質に関わる調査を実施するとともに,認定基準にもとづいた技術的工夫をわかりやすく説明した「住まいづくりの手引き」を作成し,省エネ法による説明義務での活用に資するとともに,緩衝領域型の住まいづくりの理解につながる活動に取り組んだ。
  • 「から傘の家」移築プロジェクトを通して
    山﨑 鯛介, 大塚 優, 木津 直人, 奥山 信一, 吉見 千晶
    2024 年 50 巻 p. 367-376
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「『から傘の家』移築プロジェクトの記録」 本実践研究では,「から傘の家」移築プロジェクトを通して関係者が直面した様々な問題をヒアリングによって抽出し,その内容を比較検討した。その結果,関係者が直面した問題を【コミュニケーション】,【コスト】,【実測調査・移築設計】,【補修工事・移築工事】の4つでとらえ,またそれらが本プロジェクト特有の問題か,近代住宅作品の移築一般に係る問題かを整理した。本実践を通して得られた知見は,今後の近代住宅作品の保存・継承の一助となると考える。
  • 高経年コーポラティブ住宅群「都住創」を中心として
    宮野 順子, 荒木 公樹
    2024 年 50 巻 p. 377-387
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「コミュニティのある住まい」の連帯を作る 世代継承が徐々に進むコーポラティブ住宅「都住創」では,自主管理を行う組合活動を通して,コミュニティが形成され,住まいへの愛着や自治意識が醸成されてきている。本助成活動では,研究者とヒアリング被験者の一対一の信頼関係を,同じ「コミュニティのある住まい」を愛する居住者として,居住者同士を互いにつなげることを意図し,一度は廃れていた横のつながりを復活させた。さらに,他のコーポラティブ住宅など「コミュニティのある住まい」へと対象を広げ,自分たちの住まいへの愛着を語る場をつくることを目的に,居住者への取材を進め,広く一般に訴求する冊子を作成し,Web メディアへ内容を展開した。
  • 住まいの「住み継ぎシステム」構築に向けて
    五十石 俊祐, 佐々木 優二, 阿部 佑平
    2024 年 50 巻 p. 1-12
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    カーボンニュートラルの実現に向けて,ZEH をはじめとする高性能住宅の普及が求められている。だが,こうした住宅は建設費が嵩む傾向にあるため,普及に当たっては,住宅費負担を軽減する仕組みが必要と考えられる。住み継ぎを促進することができれば,従前所有者には売却収入が発生し,次の所有者は安価に高性能住宅を取得できるようになるため,共に住宅費負担を軽減できると期待される。ただし,現状の中古住宅市場では,住宅の品質や性能が価格に反映されにくい。そこで,本研究では,高性能住宅の住み継ぎが進む可能性を把握するべく,高性能住宅が中古住宅となった際の支払意志額を調査し,性能ごとに価格を推計するモデルを開発した。
  • 河野 直, 小坂 知世, ウェルチ ブライアン オルテガ, 河野 桃子
    2024 年 50 巻 p. 13-24
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    職人でもDIYerでもない「第三の担い手」がリノベーション工事の一部を担い始めている。彼らは建築に関わる職歴や学歴を有していないが,メディアやワークショップ等を通じて技能を高め,趣味のDIYを生業としての施工に転じた人物である。その実態を明らかにする事を目的に,日本の第三の担い手 10 名とステークホルダーにヒアリングを行った。米国調査では,先行事例から課題や社会的背景を考察した。研究結果として,多能工的な施工,DIYerや職人との協働,人間関係の構築を含めた属人的な技能等の特性を把握した。職人が仕事として受けづらい空き家の改修を担う等,建設業及び地域社会における第三の担い手の役割の骨格が見えた。
  • 後藤田 中, 神田 亮, 田中 凌太, 鈴木 実緒
    2024 年 50 巻 p. 25-36
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    建設業における諸問題解決のため,技能者の作業動画を蓄積・分析し技能をデータとして抽出することで,初・中・上級のような評価システムを目指し,適切な動作指示を段階的な習熟水準に応じて支援を行う視聴システムを構築することが必要である。本研究は映像にオノマトペを重畳表示する視聴システムの検討と試作を行った。左官初級者の成長上の支援対象と支援可能性を検討すべく,日報から体の動作指示支援の必要性,また職人と初級者の映像の比較から習熟としての作業安定性の分析を行った。これらに基づき視聴システムの試作を行い,視聴提示をオノマトペによって行い結果として学習者の技能動作への直感的な理解に寄与することが確認された。
  • 船大工芸術の歴史,現在,そして将来の考察
    Pulido Arcas Jesús Alberto, ラモン ヒメネス ベルデホ ホアン
    2024 年 50 巻 p. 37-48
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究はチリの伝統的な船大工技術に焦点を当て,その歴史的起源,現在の状況,そして将来の展望を調査することを目的としている。現地調査,船大工たちへの半構造化インタビュー,およびワークショップを通じて収集した情報を元に,この技術の多様な側面を分析した。さらに,チロエの伝統的なコミュニティ共同作業である「ミンガ」に参加し,船大工の役割が農村社会とチロエの伝統的な木造建築の保護においていかに重要であるかを確認した。研究の結果,船大工は現在も活動を続けているが,将来的な活動の継続は不透明であることが明らかとなった。船大工技術を保護し継承していく為には,文化財としての公式な認定よりも,農村社会と船大工の緊密な結びつきを理解し,強化することが肝要と考えられる。
  • 重要伝統的建造物群保存地区内子町八日市護国を対象として
    宮本 慎宏, 釜床 美也子
    2024 年 50 巻 p. 49-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,内子町の耐震対策マニュアル策定に向けて,伝統構法木造建物の構造特性を反映した耐震性能評価法の構築および耐震補強工法の開発を目的とする。まず,地区内の伝統構法木造建物から対象建物 4 棟を選定し,構造的特徴を把握した。次に,内子町独自の耐震補強工法として,内子町産木材を用いた格子壁を設計し,耐震性能を実大静的加力試験により検証した。最後に,対象建物ごとに通し柱を考慮しない質点系モデル,通し柱を考慮した質点系モデルおよび立体フレームモデルを構築し,3 つの解析モデルから推定される荷重変形角関係を比較した。以上の結果を基に対象建物 4棟に耐震補強を適用し,耐震補強シミュレーションを示した。
  • 住まいの空間と語りの中長期の変化に注目して
    饗庭 伸, 石榑 督和, 岡村 健太郎, 木村 周平, 佐藤 翔輔, 多和田 健人, 辻本 侑生
    2024 年 50 巻 p. 59-70
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    三陸海岸の3つの地区(宮古市田老地区,山田町船越地区,大槌町吉里吉里地区)を対象に,東日本大震災の「復興のあと」に,住まいの空間と語り継ぎがどのように変化していくのか,そのあるべき姿を考える基礎的な研究を行った。住まいの空間については,①都市施設と住宅地の関係で空間構造を捉える,②個々の住宅地の性質を地理情報データより分析する,③防災集団移転地における住宅を類型する,の3つの分析を行い,今後の住まいの空間の変化について考察した。語りについては4名の語り部の語りと地区の風景の対応関係を,視点場と視対象の関係に注目して分析し,住まいの空間がどのように語り継がれていくのかを考察した。
  • 熱中症予防のための温熱環境設計指針の整備を目指して
    源城 かほり, 横江 彩
    2024 年 50 巻 p. 71-82
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢者の住居における熱中症防除策を明らかにすることを目的として,夏期の室内環境と高齢者の健康に関する住宅実測と,高齢者の生理反応に関する被験者実験を実施した。住宅実測では,居室と非居室の室間温度差が大きくなるほど高齢者の脈圧が大きくなること等,室内熱環境と健康の間に関係があることが示唆された。また,居間や寝室の熱中症リスクを低減するための冷房の運転方法や,高い設定温度で冷房した場合でも熱中症リスクを低減可能な住宅性能を明らかにした。実験では,高齢者にとって暑熱順化の完成を早めるために入浴や運動が有効であることや,高めの室温設定で冷房運転をする方が生理心理的不快感が小さいことを明らかにした。
  • 吉阪隆正とアトリエ ル・コルビュジエ従事者を中心とした交流分析
    中谷 礼仁, 湊 明人, 齊藤 祐子, 池田 理哲
    2024 年 50 巻 p. 83-94
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では建築家 吉阪隆正(1917-80)が 1950 年から 2 年間に渡って行ったフランス留学中の日記帳を対象として,そ の悉皆的な解読と調査を行った。書誌情報や資料性格を明らかにし,さらに記述内容の整理を行った。これまで,吉阪の留学期については,建築家 ル・コルビュジエ(1887-1965)との関係が多く注目され,吉阪個人の活動が相対的に注目されてこなかった。よって本研究では,吉阪自身の活動のありようを軸として,アトリエ ル・コルビュジエの従事者との関係を再検討し,新たな事実を抽出した。また特に彼の留学期に形成された普遍的集住観について検討し,在仏期間が吉阪に与えた影響を考察した。
  • 萩島 理, Martyas Solli Dwi, Handayani Kusumaningdyah Nurul
    2024 年 50 巻 p. 95-104
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    インドネシアのスラカルタ市において都市スラムの住宅の現地調査を行い,上下水道設備には深刻な問題がある事,室内は熱的快適域から逸脱する時間が90%程度と非常に長く,快適性・熱中症リスクの両面で問題がある事を示した。また,都市スラム改良プログラムにより建設された新街区の住人332名を対象としたアンケート調査から,新規に建設された住宅は,プライバシーや雨漏りの頻度などの問題は改善された一方で,室内の熱環境や空気質については悪化していると感じている住民が非常に多い事が確認された。限られた財政条件下でより良い室内熱環境を実現するため設計計画段階のプロセスの検証やaffordableな建築デザインの模索が今後の課題である。
  • 本間 義規, 長谷川 麻子
    2024 年 50 巻 p. 105-114
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    気密性能の向上に伴い,基礎断熱床下空間の温湿度形成に影響する隙間換気量が減少している。そうしたなか,床下空間利用の暖冷房換気システムも開発されている。こうした工法の変化或いは設備技術の進展が床下空間の微生物増殖に与える影響は小さくない。その程度を把握するため, 3軒の建築物の床下温湿度性状,浮遊微生物量,浮遊微粒子量等の測定を行い,その特徴を把握した。また,微生物汚染リスクの統合評価手法の構築に向けて微生物増殖モデルの検討を行い,その数理モデルを作成した。胞子生成・飛散後に着床・発芽する可能性のある胞子比率(生菌率)や菌種毎の成長速度パラメータ等,モデル構築に必要な新たな課題が明らかとなった。
  • 東京における中国系移民を対象に
    梁 昊, 佐藤 圭一
    2024 年 50 巻 p. 115-126
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は,居住地域,同居者構成,住居類型の三水準のハウジングキャリアから,質問紙調査によって東京に居住し ている中国系移民の居住統合を分析した。多重対応シークエンス分析の結果,東京における中国系移民のハウジング キャリアの五類型を析出することができた。これらの類型の多くは,従来の居住統合に関する理論背景と対応関係が あることも多項ロジットモデルの結果と合わせて明らかにした。その結果,日本においても,従来の理論が適応可能 であることが実証された一方で,その効果のあり方は,移民集団内ごとに異なっていたことがわかった。すなわち移 民集団内部において,異なる居住統合のロジックが働いていることが確認された。
  • 黒澤 健一, 岡部 明子, 小林 和史, 星野 祐輝
    2024 年 50 巻 p. 281-290
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「『手に届く』施工実践をとおしてコレクティブな建築生産の担い手像を探る」 近年,職人不足の半面DIYや自主施工の広がりを背景として,プロの職人に限らず建築生産の担い手を広く開くことに関心が集まってきている。本実践研究では千葉県市原市の縮退する戸建団地において,構造の異なる二物件を多様な参加者が協働して施工しながら,素人の手に届く施工の範囲(アフォーダブルゾーン)をより難易度の高い方向へ拡げる方法を探った。その結果,1)職人や設計者が一般的な請負施工時と異なりハイアマチュア的に振る舞いうること,2)各々の知識と経験に応じて自律的に決定できることの価値が優先されていくこと,3)知識や経験をもった施主が施工に参加すると工夫の幅が広がり施工の面白さが実感できることが明らかになった。
  • 瀧野 敦夫, 稲地 秀介, 室崎 千重, 佐野 亮
    2024 年 50 巻 p. 291-298
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「製材利用から考える小さな林業の推進」  林業の不振,国産木材の販売低迷,これらに伴い林業就業者数の減少など,林業や木材利用をとりまく様々な課題は山積みである。近年では,CLT の活用も含めて非住宅の中大規模木造建築物の建設にも注目が集まり,全国的にも林業や木材生産の効率化・大規模化が進められようとしている。一方で,奈良県のように CLT 工場がなく,吉野林業のような伝統的な木材産地ではこのような大規模集約化の流れには乗り切れず,どのように地域材を有効活用していくかは課題の一つである。そこで,筆者らは,化粧材だけでなく柱や梁といった住宅用製材を利用することを目的に,学校建築の木質化を図ることを解決策の一つとして提案した。
  • 塚本 由晴, 貝島 桃代, 平尾 しえな
    2024 年 50 巻 p. 299-308
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「普請による茅葺葺き替えから事物連関型の建築の可能性を探る」 高度に産業化した現代社会では請負による建築建設が一般的になり,一般の人が参加して行う普請の機会は限られているが,地球規模の問題に直面するなか,身の回りの資源を活かし自らのスキルを発揮する建設のあり方が求められている。本実践は,かつての普請の代表例であり,近年循環型の自然素材として国際的に注目が高まっている茅葺を対象に,現代茅葺の先進国であるデンマークとスウェーデンでの実態調査,古民家における普請型の茅葺葺き替えの実践,全国の茅場の実態調査,休耕田における茅場の再整備の実践を通してその論点と課題,可能性について検討し,脱成長型社会における事物連関型の建築ビジョンを示すことを目的とする。
  • 西野 雄一郎, 徳尾野 徹, 石山 央樹, 岸本 嘉彦
    2024 年 50 巻 p. 309-318
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「専門家の遠隔支援が住まいの DIY リノベーションを加速する」 高齢夫婦が DIY で自宅寝室の天井断熱と床不陸調整を行うことを,専門家(研究者,施工管理者,大工)が遠隔支援した。DIY を調査,計画・設計,解体,施工の各段階で遠隔支援することには,DIY 当事者の不安を解消し,実践の障壁を取り除き,水準を高める効果があった。効果の高い遠隔支援に向けて,専門家が各段階で支援することが望ましい内容と方法を整理した。調査段階では居住環境診断が重要であり,その簡易化が DIY リノベーションの促進に向けた課題である。
  • 学生 WS による再組立とセルフビルドによる住まい方の探求
    山名 善之, 國分 元太
    2024 年 50 巻 p. 319-328
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「木造組立仮設住宅二棟を一棟の中庭付き平屋住宅として都市計画区域内に再編する」 東日本大震災時に岩手県気仙郡住田町に建設された木造組立仮設住宅二棟の払い下げを受け,都市計画区域である静岡県伊東市に一棟の中庭付き平屋住宅として再組立し本設化を行うなかで,住まい手による建設行為への参加可能性を木造組立住宅の部材汎用性と共に検証した。既存棟二棟の全部材のうち63.9%が再利用できた。これからの木造組立仮設住宅の再利用に向けて,都市計画区域内での本設化時に外壁及び屋根の防火処理が課題となることが明らかになった。これに対し,石膏ボードなどの材料をあらかじめ組み込んだパネルの可能性を,今後の検討課題として導出した。
  • オールドニュータウン型スマートシティに向けて
    加登 遼, 葉 健人, 中津 壮人, 中村 昌平, 安原 忍, 新開 邦弘, 服部 健太, 吉田 友彦
    2024 年 50 巻 p. 329-338
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「共創ラボ@YAMATEDAI:オールドニュータウン型スマートシティに向けて」オールドニュータウンでは,急増する高齢者の暮らしを支えるウォーカブルデザインが求められている。本実践研究の目的は,オールドニュータウンの茨木市山手台を事例に,高齢者の歩数増加に有効なウォーカブルデザインを解明することである。本実践研究が実践するウォーカブルデザインは,近隣センターで健康を支援する「健康相談会」と,自宅からモビリティスポットまでの歩行を支援する「香共道路計画」である。その結果,それら2つのウォーカブルデザインにより,65 歳以上居住者は,231.40 歩/日ほど,有意に増加したことを解明した。
  • 大工の活性化と事業参入による飛躍的な耐震化率の向上
    川端 寛文, 井戸田 秀樹, 花井 勉
    2024 年 50 巻 p. 339-346
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「西日本で実績のある安価な耐震改修技術を首都圏に普及させ住宅耐震化を促進する」 人命の観点から見た地震防災の最優先課題は古い木造住宅の耐震化である。しかし,国が数値目標を掲げているにもかかわらず,住宅の耐震化は十分な速さで進んでいない。本実践活動は,西日本で実績のある木造住宅の安価な耐震改修技術を首都圏以東に広め,高い地震リスクがある住宅耐震化を促進する突破口として首都圏で技術講習会「木造住宅の耐震リフォーム達人塾」を開催するとともに,減災まちづくりを通した大工の耐震改修事業への参入と活性化によって高知に続く耐震化促進のための足がかりを築くことが目的である。
  • 須惠 耕二, 茂村 広, 永松 眞奈美, 川口 歩美, 田中 龍人
    2024 年 50 巻 p. 347-356
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「音声式教材で全盲児の教室配置記憶を支援しよう!」 盲学校に新たに入学した視覚障がい児は,教室の配置が分からず,教師の助けがなければ教室から出ることもできず,学校生活に大きな不安を抱えることになる。そこで,学校生活の安心と自立歩行促進を支援すべく,校舎内の教室配置を生徒自ら音声で確認できる「音声式触察校舎模型」と「音声式教室名通知システム」を開発し,それぞれ全国10ずつの盲学校に提供した。本報告では,これら 2つの教材開発と学生ものづくり教育,教材導入によって得られた教育的成果について報告する。
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