近年, 乳牛の第四胃変位 (以下, 四変) の発生は, 乳質のグレードアップで粗飼料給与が増えているにもかかわらず増加傾向にある。また, これまでは経過を長引かせて経済的損失を増大させてはならないとしながらも, 開腹手術に踏み切るための明確な判断を示したものはない。そこで1986年1月から1989年12月までの4年間 (625頭) について, 管内の四変発生状況および治療状況をカルテから調査し, 発生傾向・治療方法などについて検討した。
その結果, 四変の発生は1986年2.9%に対し1987年3.6%, 1988年4.2%, 1989年4.0%と有意 (P<0.01) に増加していた。発生年齢と産次では, 1986年に比べ1987~1989年は, 1~4歳 (1~3産) が増加していた。また, 分娩前後の発生割合では, 産後1箇月を越える牛と産前での発生が徐々に増加していた。
筆者らは, 前回第二胃内の金属異物と四変との関連について示唆した。そして, 低年齢・低産次化・産前での発生などの増加傾向からも, 本症の予防には, 若齢牛や産前の牛の第二胃内の金属異物除去を積極的に行なうべきであると思われた。
治療方法では, 内科療法だけで治癒した牛の平均治療回数は5.8±4.4回 (以下, M±SD) , 内科療法の後最終的に開腹手術した牛は, 7.4±3.7回と一番長かったが, 開腹手術日から抜糸までは, 4.3±2.0回と内科療法に要する日数よりも有意 (P<0.01) に短かった。
また, 手術牛の乳量は, 発生後4日以降に施術された牛の第1回目の検定では乳量の回復が認められず, 第2回目以降に正常となった。
以上の結果から, 内科療法で発生後2日以内に四変の消失が認められなかった時は, ただちに開腹手術に踏み切ることが必要であり, これにより, 治療回数や乳量などの経済的損失を最小限にとどめることができると思われた。
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