年金研究
Online ISSN : 2189-969X
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5 巻
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論文(査読あり)
  • 高山 憲之 , 白石 浩介
    2016 年 5 巻 p. 1-25
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2017/04/06
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    1)本稿では、まず第1に、所得税における配偶者控除を夫婦控除に切りかえる場合の税負担増減効果を、『国民生活基礎調査』(2013 年実施)のマイクロデータを利用して推計した。その際、全体として増減税同額(税収中立)になるように配慮した。想定したのは2012年の所得税制である。次いで、2017年度税制改正大綱における配偶者控除の見直しについても同様の推計を試みた。

    2)いわゆる103万円の壁は税制上、存在しない。

    3)配偶者に年間65 万円超141万円未満の給与収入がある場合、現行税制は配偶者の給与収入に対して、いわゆる「二重の控除」を認めている。この「二重の控除」は事実上、妻のパート就業に税制上の恩典を与えるものである。

    4)配偶者控除だけでなく基礎控除も併せて考えると、現行税制は専業主婦(収入を伴う仕事をしていない家事専業の妻)世帯を一切、優遇していない。世帯合計の控除額は妻が正規(より厳密にいうと年間給与収入141万円以上)の共働き世帯と変わりがないからである。「配偶者控除は専業主婦世帯を優遇するシンボルだ」というのは誤解だ。

    5)配偶者控除(配偶者特別控除を含む。以下、同様)を廃止すると、全体として38%(2000万世帯)の世帯で税負担が増える(負担増は平均で年間3 万6000円)。特に、妻が非正規または専業主婦の場合、その約4分の3の世帯(1600万世帯)が税負担増となる。

    6)現行の配偶者控除(38 万円)を所得控除方式の夫婦控除(38 万円。夫の年収800万円までの所得制限つき)に切りかえても、負担増減のない世帯が全体の76%に及ぶ一方、負担増組は9%(480 万世帯)、負担減組15%(800万世帯)となる。負担増組は多数派とはならない。ちなみに、世帯年収400万円以上800万円未満の中間所得層については、負担減組の方が負担増組より多い。ただし、負担減は高所得層ほど多額となる。

    7)他方、年額2 万7500円の夫婦税額控除に移行すると、全体の32%(1700万世帯)が負担減、16%(850万世帯)が負担減となる一方、残りの52%は負担が変わらない。ここでも負担減となる世帯の方が負担増世帯より多く、中間所得層においても減税組が増税組を世帯数で圧倒している。負担減は大半の共働き世帯に及ぶとともに、専業主婦世帯でも負担減組の方が負担増組より多い。特に世帯年収300万円以上500万円未満の中低所得層に位置する専業主婦世帯では負担減となるケースがほぼ70%となっている。

    8)夫婦税額控除への移行により、有配偶世帯に関するかぎり、配偶者(その大半は女性)の働き方に中立な税制が実現する。

    9)2017年度税制改正大綱はパート主婦が享受している税制上の特権を中間所得層に限って拡大・強化する性格を有し、それは、働き方に中立な税制の実現という改革理念に背馳している。

  • 福山 圭一
    2016 年 5 巻 p. 26-45
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2017/04/06
    ジャーナル オープンアクセス

     EU職域年金基金指令の改正が欧州議会で可決された。ただし、まだ EU理事会での審議が残っており、成立はしていない。改正内容は固まっており、早い段階で成立すると見込まれる。

     予定される改正は、従来の指令を全面的に改める大幅なものである。わが国企業年金への影響という観点から、無視しえないと考えられる。

     中でも、ESG投資関連の事項が多く規定されることが特筆される。ESG 投資に対するこれまでの規制スタンスの変更を加盟各国に迫るものということができる。

     年金基金のガバナンスに関して新たに各種の規制が導入される。具体的には、有効なガバナンスシステムを有するようにすること、ガバナンス方針を文書化すること、リスク管理・内部監査・(DB 年金についての)アクチュアリーが「主要機能」(key function)と位置づけられること、年金基金の運営に当たる主な役職員の人的資質要件を明らかにし、主要機能保有者の適性を加盟国所管当局が評定(assess)すること、年金基金は自らリスクアセスメントを行い文書化すること、運用基本方針を公開することなど、様々な規定が新設される。

     また、年金基金は、加入者・受給者に、積極的かつ幅広い内容の情報提供を行うことが義務付けられる。とりわけ、各加入者に対し、予想年金給付額(経済シナリオによる場合はベストと好ましくないシナリオによる)などを記載した年金給付ステートメントを年に1回提供することが義務付けられる。

     その他、国境を超える年金資産等の移換、監督に関する諸規定など、実施に当たってかなり要求レベルの高いと思われる規定が数多く盛り込まれる。

     単一市場を企図する EUの意欲の表れと見ることができるが、一方で、Brexitなど今後の EUのあり方自体も不透明なところがある。今後の加盟各国での対応や実施状況などを注目していきたい。

補遺
エラータ
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