本稿は、森林をめぐる価値研究の視座から、森林の訪問・体感利用の特徴と、その発展がもたらす社会的な意義・可能性を明らかにする。訪問・体感を通じて直接的に森林と関わる利用行為は、歴史的・社会的な変化を反映してその外延を拡大し、近年では、森林をめぐる人間主体の価値認識の多様化を体現するものともなった。このため、日本では施策「森林サービス産業」の対象となり、その発展によって人間と森林との関わりが密接化し、森林の持続的な利用や効果的な保全が促されると期待される。一方で、その訪問・体感利用をめぐっては、様々な契機から価値が創生・派生し、また、訪問者、媒介者、受入者といった関連主体の価値認識が大きく異なるため、複雑な軋轢・対立が発生するといった特徴も導き出せる。しかし、この軋轢・対立は、関連主体の価値の内実を見極め、適切な相互理解の機会や制度を構築することで、調整・解決に導くことが可能である。このプロセスは、異なる価値や文化的背景をもつ人々が、寛容性を身に着けつつ、調和・共存の術を見いだしていくことに繋がる。すなわち、森林の訪問・体感利用の発展と、その価値への注目は、「多様性の中での持続可能な社会構築」という現代の社会課題の解決に向けて、大きな意義・可能性を提供することになる。
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