日本造血・免疫細胞療法学会雑誌
Online ISSN : 2436-455X
11 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 内田 直之
    2022 年 11 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

     血縁・非血縁の骨髄・末梢血幹細胞の代替ドナーとして導入された臍帯血移植(umbilical cord blood transplantation,UCBT)は,現在本邦では非血縁ドナーの過半数を占め,他ドナーと比べて同等の成績が報告されるに至った。他ドナーと比べて再発率は低いとされる一方,移植関連合併症に伴う死亡率は高く,UCBT成績向上の大きな障壁となっている。特に生着不全・遅延に伴う感染症や,PIR・急性GVHD等の同種免疫反応に伴う移植後早期の合併症の克服が喫緊の課題である。同種免疫反応は,再発率低下にも寄与するため,疾患リスクに応じた対処が必要である。

  • 荒 隆英, 橋本 大吾
    2022 年 11 巻 2 号 p. 90-100
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

     同種造血幹細胞移植の成功のためには免疫抑制剤を用いた移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療が必須であるが,過度な免疫抑制は感染症や腫瘍の再発を招く可能性がある。同種造血幹細胞移植後には,GVHD標的臓器に本来備わっている,組織障害を軽減し恒常性を保つためのメカニズムが,GVHDや前処置によって障害され,GVHDの増悪・難治性に繋がっている。こうした,組織恒常性を保つためのメカニズムを促進することができれば,免疫抑制を強化することなく安全にGVHDを抑制できる可能性がある。本稿では,主たるGVHD標的臓器である腸管を中心に,GVHDによる組織恒常性維持機構破綻のメカニズムについて紹介し,新たなGVHD予防・治療の標的としての可能性について考察する。

  • 諫田 淳也
    2022 年 11 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

     非血縁者間臍帯血移植は確立した同種移植方法の一つである。日本において臍帯血移植件数は増加傾向にあるが,欧米ではハプロ移植の台頭により臍帯血移植件数は減少している。臍帯血移植成績に人種差の影響があるかを検討するため,日欧で臍帯血移植の予後予測因子を検討したがHLAを除き同等であった。GVHDが予後に及ぼす影響を検討したところ,軽症のGVHDは日本人においてのみ再発リスクを低下させ,良好な生存に寄与することが示された。そのことが日本において臍帯血が好まれて使用される原因かもしれない。近年,再発高リスク造血器腫瘍に対する臍帯血移植の有用性が示された。また,欧米での移植前処置の改良による成績改善や増幅臍帯血のランダム化比較試験の良好な成績を受けて,再び臍帯血移植が注目される可能性がある。

研究報告
  • 菊田 美穂, 敷田 真澄, 渡辺 晶子, 伴 美輝, 森 美都子, 末松 希祥, 松尾 弥生, 吉田 周郎, 衛藤 徹也
    2022 年 11 巻 2 号 p. 108-113
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

     2009年から2019年の間で若年成人期(20歳~39歳)に同種移植を受けた移植後1年以上10年未満の患者の就労状況を後方視的に分析した。30名の調査対象者のうち就労者は24名(80%)であり,同世代一般の就業率とほぼ同等程度であった。移植日を0日とした就労(パートタイム含む)までに要した期間は,中央値410日(90~1,760日)で,24名中8名(33%)が1年以内に,18名(75%)が2年以内に就労していた。就労者のうち,移植後合併症を有する割合は83%(20名/24名)で,継続した受診が必要な状況で仕事を継続していることが明らかとなった。

  • 日野 雅之, 梅本 由香里, 幕内 陽介, 岡村 浩史, 康 秀男, 萩山 恵子, 折原 勝己, 中尾 隆文, 岡田 昌也, 魚嶋 伸彦, ...
    2022 年 11 巻 2 号 p. 114-121
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/15
    [早期公開] 公開日: 2022/02/07
    ジャーナル フリー

     骨髄バンク近畿地区事務局と協力して,現在のコーディネートの問題点を検証し,2017年から各認定施設が事前に採取可能日の情報をWEB入力するシステムを構築し,運用を開始した。その結果,依頼時の断り件数がほとんどなくなり,コーディネート期間はドナー選定から採取までの中央値が,2013年~2016年の70~78日から,システム導入後,2017年~2020年は57~63日と短縮した。患者第一希望週での採取率は2013年~2016年の29~38%から,システム導入後は2017年32%,2018年~2020年は63~73%に向上した。また,採取の効率化や医師の負担軽減のために造血細胞移植コーディネーター(HCTC)の役割が重要であった。一方,採取が効率化した反面,採取件数の施設間格差が生じ,個々の医師の採取経験数が少なくなっている場合もあり,ドナー安全を確保するために採取技術の継承も重要な課題である。

  • 髙徳 正昭, 金森 里英, 田崎 智子
    2022 年 11 巻 2 号 p. 122-133
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    電子付録

     ヒト胸腺細胞で免疫したウサギ由来の抗ヒト胸腺細胞ポリクローナル抗体製剤であるサイモグロブリン®は,造血幹細胞移植の前治療,及び造血幹細胞移植後の急性GVHDの治療の効能・効果で本邦において承認された免疫抑制剤であり,中等症以上の再生不良性貧血,腎移植・肝移植・心移植・肺移植・膵移植・小腸移植後の急性拒絶反応でも承認されている。発売後,本剤適応患者を対象に,使用実態下における安全性及び有効性を把握することを目的に,使用成績調査ならびに特定使用成績調査を実施した。副作用の発現状況について特筆すべき事項はなかったことから,安全性に問題はないことが示された。有効性については,造血幹細胞移植後の急性GVHD及び造血幹細胞移植患者の前治療の調査における奏効率の影響因子の検討により複数の患者背景因子で有意差がみられ,全体として第Ⅱ相臨床試験及び国内臨床研究と一貫した結果が得られた。

症例報告
  • 浅井 愛, 田代 晴加, 岩佐 磨佐紀, 雜賀 渉, 口分田 美奈, 永井 詩穂, 藤城 綾, 西村 理惠, 河原 真大, 南口 仁志, 木 ...
    2022 年 11 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

     肝類洞閉塞症候群は造血幹細胞移植の予後不良な合併症の1つである。今回,速やかなdefibrotide(DF)治療が奏功した2症例を経験したので報告する。1症例目は急性リンパ性白血病の49歳女性。第一寛解期にbusulfanとcyclophosphamideによる前処置で2抗原不一致のドナーから臍帯血移植を施行。移植後27日に臓器障害と体重増加を認め肝類洞閉塞症候群と診断,28日よりDFを投与し54日に軽快。2症例目は成人T細胞白血病リンパ腫の67歳男性。第一寛解期にfludarabineとmelphalanによる前処置でHLA一致ドナーから非血縁者間末梢血造血幹細胞移植を施行。移植後8日に破砕赤血球と輸血不応性血小板減少を認め腹水と肝機能障害が続発し,24日に肝類洞閉塞症候群と診断,同日よりDFを投与し36日に軽快した。DF開始の適切な時期についてさらなる研究が望まれる。

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