日本造血・免疫細胞療法学会雑誌
Online ISSN : 2436-455X
12 巻, 3 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
総説
  • 椎名 隆
    2023 年12 巻3 号 p. 133-140
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     膨大な数のHLA遺伝子型を判定するDNAタイピング(HLA DNAタイピング)は,HLA適合造血細胞移植の実施に欠かせない臨床検査技術である。2010年代に開発された次世代シークエンシング(NGS)技術に基づくHLA DNAタイピング(NGS-HLA)法は,遺伝子全長レベルで既知,新規およびnullアレルを効率よく検出する比較的新しいHLA DNAタイピング技術である。この技術は,現在の主流である高解像度HLA DNAタイピング法(現行法)よりもさらに正確なHLA多型情報が得られるため,造血細胞移植医療分野に新たな有益情報を提供する可能性がある。この優れたタイピング技術は,2020年3月から日本骨髄バンクを介した患者HLA確認検査やドナーHLAオプション検査に導入されており,コーディネート期間の短縮や移植成績の向上が期待されている。本稿では,造血細胞移植におけるNGS-HLA法の利点や将来展望について海外からの最新情報を含めて概説した。

  • 石田 禎夫
    2023 年12 巻3 号 p. 141-147
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     近年の多発性骨髄腫に対する新薬の開発は目覚ましく,現在11種類の新規薬剤が使用可能となった。現在さらに多くの新規薬剤が開発中であるが,治療効果の点から最も期待されている治療がCAR-T細胞療法である。本邦でも治験が行われ治療効果が報告されているものはBCMAを標的としたidecabtagene vicleucelとciltacabtagene autoleucelである。これらの治療は,プロテアソーム阻害剤,免疫調節薬,抗体薬すべてに不応となった患者に対しても高い奏効率と深い奏効が得られている。また,ハイリスクや髄外腫瘤にも有効と報告されている。しかし残念ながら無増悪生存期間のグラフはプラトーにはならず,多くの患者が再発しているのが現状である。今後早期のCAR-T細胞療法やCAR-T細胞療法後の追加治療などにより,さらに有効な治療へと発展することを期待する。

  • 大西 康
    2023 年12 巻3 号 p. 148-156
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     2019年から本邦でもCAR-T細胞治療が施行可能となった。再発・難治性のB細胞性急性リンパ性白血病,びまん大細胞型B細胞リンパ腫,濾胞性リンパ腫,多発性骨髄腫の治療アルゴリズムにCAR-T細胞療法が追加された。しかし,2023年1月時点でいずれかのCAR-T治療を実施可能な施設は43施設(71診療科)にとどまり,血液内科研修施設687診療科と比較して未だ少ない。このため,各地域で紹介元医療機関とCAR-T実施施設の緊密な連携が欠かせない。現時点において,実臨床で押さえておくべきCAR-T細胞治療のポイントを以下のテーマについてまとめた : CAR-T製剤ごとの適応疾患の違い,先行治療からのwashout period,リンパ球アフェレーシス,cytokine-release syndrome(CRS)とimmune effector cell-associated neurotoxicity syndrome(ICANS)の管理方法,遷延性血球減少と低ガンマグロブリン血症,CAR-T後再発と予後因子,長期フォローアップと地域連携。CAR-Tが有効な症例の選択,最適なアフェレーシスと輸注タイミングについてさらなる経験の集積が必要である。

  • 吉内 一浩
    2023 年12 巻3 号 p. 157-160
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     心療内科・心身医学においては,「心身相関」という言葉が用いられることが多い。これは,身体疾患と心理社会的な因子との双方向の関係を示す言葉で,互いに影響し合う状況を表す言葉である。つまり,造血幹細胞移植における心身相関とは,造血幹細胞移植(あるいは治療対象の身体疾患)が心理社会面に影響を与えるとともに,心理社会面も造血幹細胞移植(あるいは治療対象の身体疾患)に影響を与えるという双方向の関連を示す。本稿においては,これまでの研究で,双方向の影響に関連する研究を概観するとともに,著者らが開発した,造血幹細胞移植前の心理社会面の評価方法の日本語版の紹介と,その評価方法を用いて,造血幹細胞移植後の予後が,移植前の心理社会的因子の影響を受けるという研究結果も紹介したいし,よりよい造血幹細胞移植患者のケアに関しても考察したい。

  • 津野 寛和, 香西 康司, 松井 茉里奈, 安藤 萌, 小林 洋紀, 宮城 徹, 大河内 直子, 室井 一男
    2023 年12 巻3 号 p. 161-166
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     CD36抗原は,血小板や単球をはじめ,様々な細胞に発現することが確認されているが,血小板にのみCD36抗原が発現しないⅡ型欠損者と,全ての細胞に欠損するⅠ型欠損者が存在し,Ⅰ型欠損者は抗原感作によって抗体を産生することがある。CD36欠損者は,白人では稀であるが,アジア人及びアフリカ人に多くみられる。CD36抗体は,血小板輸血不応(PTR)や胎児・新生児血小板減少症(FNAIT)など,免疫学的機序による血小板減少症の発症に関与することが確認されている。CD36抗原は赤芽球や骨髄芽球などにも発現することが確認されているが,同種造血幹細胞移植に及ぼす影響等については不明な点が多く,本稿でCD36抗原・抗体の臨床的意義及び同種造血幹細胞移植におけるこれまでの知見について概説する。

  • 迫田 哲平
    2023 年12 巻3 号 p. 167-171
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     急性骨髄性白血病における同種移植後の再発は極めて予後不良であり,大きな臨床的課題である。この再発を早期に予測するためには,測定可能/微小残存病変(measurable/minimal residual disease,MRD)の定量的評価が有用である。European Leukemia Net(ELN)は,マルチパラメーターフローサイトメトリ(MFC)によるMRD評価法を確立した手法と定義しているが,遺伝子変異で定義されるMRDとの関係性や,同種移植後MRDを用いた予後予測法の最適化など明らかにすべき課題は依然として存在する。本稿では,細胞表面抗原によるMRDと遺伝子変異によるMRDの関係性を明らかにするためのシングルセル解析を用いたアプローチ,及び,本邦におけるMFC-MRD評価法の確立に向けたTIM-3を用いた微小残存白血病幹細胞評価法の有用性の検討について報告する。

  • 後藤 秀樹
    2023 年12 巻3 号 p. 172-180
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     再発・難治性のB細胞性急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫(びまん性大細胞型リンパ腫,濾胞性リンパ腫の形質転換など)の予後は不良である。2019年,本邦でもCD19標的キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法が使用可能となり,従来の治療では疾患コントロールが困難な症例の一部に長期寛解をもたらしている。CAR-T細胞療法が奏効する症例がいる一方で,再発もしくはCAR-T細胞療法に治療抵抗性を示す症例も少なくない。高価な治療法であるからこそ適正使用につとめ,CAR-T細胞療法の再発・治療抵抗性のメカニズムやその臨床的特徴を知り,CAR-T細胞輸注前ならびに再発後の治療戦略を考えていくことが重要である。

研究報告
  • 廣瀬 朝生, 中前 博久, 大西 康, 黒澤 彩子, 後藤 辰徳, 後藤 秀樹, 土岐 典子, 橋井 佳子, 藤井 伸治, 森島 聡子, 日 ...
    2023 年12 巻3 号 p. 181-193
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     2017年から利用されている造血細胞移植患者手帳について,患者や医療機関関係者へのアンケート調査を行い,手帳の運用状況の把握とともに,改訂の必要性などを検討した。結果,移植施設アンケートは119施設より,対象者別アンケートは移植医師195人,かかりつけ医17人,看護師134人,患者405人より有効回答を得た。移植医師と看護師では約3/4が手帳を利用していたのに対し,かかりつけ医では1/3と少なかった。「手帳が役に立ったことがある」と回答したのは移植医師47%,かかりつけ医42%,看護師62%,患者47%であった。役に立った内容としては,ワクチン接種に関するものが多かった。手帳の大きさについては,「丁度いい」が多く,手帳の形態変更への希望については「スマホのアプリにする」が多かった。手帳の利用率を上げるには手帳の改訂および使用法に関する患者や医療機関への周知等が必要と考えられた。

症例報告
  • 森 正和, 中瀬 浩一, 渡部 真志, 三瀬 和人, 兵頭 和樹, 上田 怜, 橋田 里妙, 板楠 今日子, 宮﨑 幸大, 名和 由一郎
    2023 年12 巻3 号 p. 194-199
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    [早期公開] 公開日: 2023/04/28
    ジャーナル フリー

     39歳男性。汎血球減少を契機に骨髄異形成症候群と診断された。Azacitidineにより完全寛解に到達し,非血縁者間骨髄移植を受けた。移植後day 4から抗菌薬不応の高熱および皮疹が出現したが,day 9から開始となったhydrocortisoneによって軽快した。この際にサイトメガロウイルス(cytomegarovirus,CMV)感染症の予防を目的としてfoscarnet(FCV)が開始となった。Day 23に全身性痙攣発作をきたしたため,FCVはヒトヘルペスウイルス-6B(human herpesvirus-6B,HHV-6B)脳炎に対する治療量へと増量された。同日に提出されたPCR検査結果は血漿ではHHV-6B DNA陰性で,脳脊髄液からのみHHV-6B DNAが検出されHHV-6B脳炎の診断が確定した。脳脊髄液のPCR陰性化が確認された後,FCVは合計3週間継続して終了となった。

     FCV投与中にHHV-6B脳炎を合併した場合には血漿PCRが陰性化することがあり,血漿検体のみではHHV-6B脳炎を見落とすピットフォールに陥る可能性がある。

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