重症患者を航空機搬送する際に使用する医療機器の電磁適合性について,規制等の現状を通覧し課題について考察した.日本国内においては,航空会社や公官庁による指針は統一されていない.基本的な国際基準としては国際電気基準会議規格(IEC 規格)があり,米国民間航空機や米軍によるより厳格な基準がある.米軍は独自の規格(MIL-STD-461)で個別評価を義務化し公開している.改正薬事法により平成18年9月以降国内で市販された製品はIEC規格に適合しているため,国内航空会社の機内では離着陸時以外すべて使用可能である.陸上自衛隊はMIL-STD-461による地上試験で,海上自衛隊は実機搭載試験で確認しているが,筆者は試験未施行の機器搭載についても許容条件を提案した.海上保安庁も機器毎に搭載試験を実施しているが,未実施機器についても人命救助優先の観点から搭載している.東京消防庁も搭載試験を実施し使用しているが,計器飛行で除細動器通電時に無線標識の誤表示があり,通電時には有視界飛行に移行の上機長の許可を要する.電磁干渉が飛行安全に支障をきたした事例は,機体の大きさを問わず過去に報告されていない.むしろ過剰な制限的観点が包括的対策の阻害因子となり得るため,規制の標準化が必要と思われる.
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