大気汚染(SO
2)による植物の障害の診断にとつて, SO
2の吸収による植物体内の硫黄の蓄積と害徴の発現の関係を知ることが重要である。
この試験はガスに対して高感受性のイグサ,ソバを用いて,0, 0.065, 0.13,および0.26ppmの各ガス濃度に連続接触させて経時的な硫黄含量の測定と害徴の発現を観察した。その結果いずれもガス接触によつて硫黄含量を増した。またイグサは0.26ppmガス濃度接触では体内の硫黄含量が0.4%位のとき,0.13 ppmガス濃度では0.8%, 0.065ppmでは0.9%のとき,それぞれ葉先枯れが茎長の3%に達する害徴を示した。またソバでは,0.26ppmガス濃度接触では体内の硫黄含量が0.6%位のとき,0.13ppmガス濃度で0.75%, 0.065ppmガス濃度では1.2%位で葉に白色の煙斑があらわれた。ガス接触をしない対照区では硫黄含量は0.2%前後であつた。
以上のように害徴が発現する時期の硫黄含量は低濃度ガス接触区ほど高かつた。
このことから低濃度ガス接触区では植物に吸収されたSO
2がtoxic S化合物から,シスチン,メチオニンのような含硫アミノ酸などのless toxic S化合物へより多く移行するのではないかと推定されたがアミノ酸の定量分析の結果はこのような推定が誤りであることを示した。
植物のSO
2汚染を診断する場合,低濃度による汚染では害徴発現までに多量の硫黄蓄積がみられるので,硫黄分析で容易に診断できる。しかし急性障害を呈するような高濃度汚染では害徴発現時の硫黄レベルが非汚染に近づくので害徴発現後汚染が停止していると,硫黄分析だけでは汚染の判定は困難であると考えられる。
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