【目的】
学校教育における問題を論じるには、学生個人の資質だけを問うのでなく、文化や政策、経済といったその時代の社会背景を踏まえる必要がある。理学療法士・作業療法士養成校(以下、養成校)を高等教育機関とみるならば、ここでの教育問題を検討するには初等・中等教育を踏まえる必要がある。このような観点から養成教育に関する先行研究を見てみると、このことを踏まえて学生がどのような価値観で学院生活を送っているのか検討したものは、筆者の知る限り、希少である。
本校についてみると、平成20年度入学の高卒現役生は、平成14年実施の学習指導要領で新学力観に基づいた実質的な「ゆとり教育」を受けたいわゆる「
ゆとり世代
」である。この「
ゆとり世代
」については、教育機会の不平等や階層格差による学力低下、さらに態度の評価により目立たないが内面にストレスを抱やすいといった問題が指摘されてきた。このことをふまえて、養成校を含む高等教育においては、「
ゆとり世代
」の学生の特徴を理解した教育戦略を構築することが肝要であると指摘されている。
そこで、本校では初等・中等教育を踏まえた学生理解や養成教育を模索するべく、本学院で独自アンケートを作成し、平成20年度に1年次を経験した「
ゆとり世代
」学生における学習や学生生活の意識を調査した。
【方法】
対象は、調査目的と個人情報保護について口頭と紙面にて説明し、同意の得られた学生とした。詳細は、理学療法学科1年生71名、男性46名(うち「
ゆとり世代
」38名)、女性25名(うち「
ゆとり世代
」24名)、平均年齢20.3±3.7歳。作業療法学科1年生29名、男性18名(うち「
ゆとり世代
」11名)、女性11名(うち「
ゆとり世代
」10名)、平均年齢21.3±5.0歳であった。)本調査では、学習と学生生活の意識に関する44項目の質問に4件法で回答する独自作成の質問紙を使用した。これらの結果について、「学習動機」「学業の成果」「学習行動」「学校生活の充実」に関する項目で比較検討を行った。
【結果】
「学習動機」、「学業の成果」、「学校生活の充実」それぞれの間には正の相関が認められた(p<0.05)。一方、「学習動機」と「学習行動」の間に負の相関が認められた(p<0.05)。
【考察】
本調査の結果、本学院に入学してから一年間の学習に肯定的な意識を持つが、一方では学習行動に消極的な意識を持つ傾向を示している。つまり、本学1年生の「
ゆとり世代
」学生における学習に関する意識は、アンビバレンツな傾向があることが明らかとなった。このことは、「
ゆとり世代
」の特徴と似通っていると思われる。
「
ゆとり世代
」学生における学生生活に関する意識は、1年次を終了した時点でもその特徴を持ち続ける傾向にある。つまり、学生の持つ問題は表面化しにくい傾向にあり、我々教員には学生とのコミュニケーションが特に要求される状況であることが示唆された。
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