慢性落痛を主訴に山形大学医学部精神神経科と山形県立中央病院精神科を受診し, DSM-III-Rで「身体表現性疼痛障害」の診断基準を満たす患者48名について, 心理検査として「痛みについての質問票」, CMI, MMPIを施行し, その心理特性と治療予後について考察を加えた。1)これら対象に関し, 精神科での診察時の特徴から, 心理的特徴としての
アレキシサイミア
傾向の有無について検討した。その基準として, (1)不安, 抑うつ, 攻撃性などの感情表現に乏しい, (2)身体症状に対するこだわりの強さ, (3)精神療法的介入の困難さ, の3点について検討し, すべてを満たすものを
アレキシサイミア
群, (1)(3)のいずれにも該当しないものを非
アレキシサイミア
群, その他を中間群とした。その結果, 14名が
アレキシサイミア
群, 21名が非
アレキシサイミア
群, 13名が中間群と分類された。2)対象者全員に「痛みについての質問票」の記入を依頼したところ, 48名中46名が質問項目のII-4,5,III-1,2,3のいずれかで高得点を示した。CMIは40名に施行し, I領域が4名, II領域が14名, III領域が10名, IV領域が12名という結果であった。MMPIは28名に施行し, 8名が正常プロフィール, 9名が"conversionV"プロフィール, 9名がその他の神経症スケールの高値を示し, 1名はその他の病的プロフィールを示した。3)「痛みについての質問票」で精神症状を示すIII1,2,3の得点総計を, 身体的苦痛を示すII-4,5の得点総計で割った値(
アレキシサイミア
傾向スコア)を比較したところ,
アレキシサイミア群の平均値は非アレキシサイミア
群の平均値に比べ, 有意に低かった。同様に, CMIでIII, IV領域に属するものの数を比較したところ,
アレキシサイミア
群の数が, 非
アレキシサイミア
群の数に比し, 有意に少なかった。MMPIの"AlexithymiaScaIe"を
アレキシサイミア群と非アレキシサイミア
群で比較したが, その平均値に有意差は認められなかった。4)治療の予後を
アレキシサイミア
群, 非
アレキシサイミア
群で比較したところ, 非
アレキシサイミア
群の方が薬物療法や精神医学的治療に対する反応がよかった。5)各種心理検査, 治療の結果から分かるとおり, 慢性落痛と診断される患者の心理機制は一様ではなく, それぞれの特性に応じた治療技法を考える必要がある。「痛みについての質問票」の結果から得られる「
アレキシサイミア
傾向スコア」は, 慢性疼痛患者の中での
アレキシサイミア
傾向を有する患者の判定に有用であり, 治療法の選択や予後の判定に補助的に用いることが可能と考えられた。
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