1.はじめに
東アフリカ赤道域では,3~6月の期間にある長い雨季と10~12月の期間にある短い雨季があり,それぞれの雨季で異なる経年変化を示すことが知られている.長い雨季の降水量は1980年代以降減少しているのに対し,短い雨季の降水量はわずかな増加傾向にあることが指摘されている(Williams and Funk 2011; Lyon and DeWitt 2012; Nicholson et al. 2018など).
長い雨季の降水量減少の原因として,インド洋中南部における急速な海面水温上昇によるウォーカー循環の西進とそれに伴う東アフリカでの下降気流の強化(Funk et al. 2008; Williams and Funk 2011)や1999年以降の熱帯太平洋西部の海面水温上昇(Lyon and DeWitt 2012; Lyon, 2014)が挙げられる.
短い雨季の降水量変動は
エルニーニョ
・
南方振動
やインド洋ダイポール現象の影響を強く受けるとされており,エルニーニョ期間中のアフリカ東部の降水量の増加と減少の極値はそれぞれエルニーニョ発生年と前年の短い雨季に現れる (Nicholson and Kim, 1997).また,熱帯インド洋西部で海面水温が高くなる正のインド洋ダイポール現象が夏から秋にかけて発生すると,西インド洋での対流活動が活発になり,大雨をもたらす(Saji et al. 1999; Abram et al. 2008).
一方,Morishima(2022)では,それぞれの雨季における700hPa面においてアフリカ大陸の東岸に,風が南北に収束し,東西に発散する領域が存在することが指摘されており,この収束・発散域の位置による海洋から陸域への東風の進入の雨季との関連性が指摘されている.
東アフリカの降水量の変動要因は近年において,海面水温と対流活動が説明されている一方,実際の降水要因となる水蒸気供給など,風系場との関連をインド洋からの東風の流入から理解する必要があると考えられる.そこで本研究では, 1980年以降の東アフリカの長い雨季と短い雨季の降水量変動の特徴と大気循環場との関係を明らかにすることを目的とする.
2.調査方法
今回の解析では,CHIRPSによる1981~2023年の降水量データ(0.05°グリッド)とNCEPによる1981~2023年の700hPa⾼度の気圧,風のデータ(2.5°グリッド)を使用した.雨季ごとの降水量変動を確認するために,それぞれの雨季の合計降水量に対してEOF解析を行った.大気循環場の変動を明らかにするために,等圧面高度場に対してコンポジット解析を行った.
3.結果と考察
長い雨季のEOFの第1モードの寄与率は35%で,検出される空間パターンは領域全体が同符号を持ち,とくにエチオピア高原からケニア山付近にかけて強いシグナルを持つ.時係数のトレンドは2010年を境に減少から増加傾向に転じ,域内の降水量の減少傾向から増加傾向への変化に一致する.短い雨季の降水量の第1モードの寄与率は60%を超え,空間パターンは長い雨季における第1モードと同様に,領域全体が同符号を持ち,全体で強いシグナルを持つ.時係数のトレンドは増加傾向にあり,域内の降水量の増加傾向とも一致する.また,降水量の増加が最も顕著となる年がエルニーニョ現象に対応する.従来の研究では,2010年まで長い雨季における域内の降水量の減少が指摘されていたが,本研究では,2010年以降の降水量変動が変わっていたことが明らかとなった.
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