霊長類には果実食、昆虫食、葉食といった様々な食性をもつ種がおり、その中でも、コロブス亜科の種は複雑な胃や特殊な臼歯をもち、葉食に特化した食性を示す。葉には二次代謝物などの苦味を呈する毒性物質が含まれているため、葉食性のコロブス類の苦味感覚は興味深い。苦味感覚は舌や口腔に発現する苦味受容体TAS2Rが担い、霊長類は20-30種類のTAS2Rをもち、食物中の毒性物質を検出している。我々はこれまでにゲノム解析から、コロブス類の
キンシコウ
は24種類のTAS2Rをもち、近縁種のアカゲザル(27種類)と同程度のTAS2Rをもつことを明らかにした。本研究では、より具体的にコロブス類の苦味感覚の進化機構を評価するために、コロブス亜科に属するジャワルトン(
Trachypithecus auratus)を対象にして苦味受容体遺伝子
TAS2Rの多様性解析を行った。インドネシア・ジャワ島のパンガンダランの個体識別されたジャワルトン8個体のフンよりDNAを抽出し、アカゲザルと
キンシコウ
のゲノム配列を参考にして設計したプライマーを用いて配列解析を行った。現在までに14種類の
TAS2Rの配列を全8個体で決定した。その結果、4種類の
TAS2Rでは機能を消失させるような偽遺伝子化が生じていた。一方で、非同義置換サイト、同義置換サイトの塩基多様度比πN/πSは0.41となっており、同義置換率が非同義置換率よりも有意に高く、浄化選択の傾向が示された。つまり、葉食に特化したジャワルトンでは、少なくとも一部の苦味受容体の機能は進化的に維持されており、苦味感覚を利用して食物選択を行っていることが示唆された。今後、全ての
TAS2Rの多様性を解析し、ジャワルトンの採食特徴を比較することで、葉食性のジャワルトンの苦味感覚の進化過程を考察する。
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