第一胃内の細菌によるVFA産生が,飼料を煮沸することにより急速に行なわれ,さらにそのVFA組成にも影響のあることを前報のin vitroの試験で認めた.そこで本報では,我国の肉牛肥育において普通行なわれているような飼料の煮沸処理を行ない,それをめん羊に与えた場合,第一胃内のVFA産生ならびにその第一胃内性状にいかなる影響を及ぼすかを,4頭の去勢成めん羊を用い,3回の試験を行なって,検討した。
1日1頭当りの給与飼料は,第1試験では,ひき割り大麦900g,アルファル
ファミール
100g,稲わら200g,第2試験では,ひき割り大麦700g,アルファル
ファミール
100g,稲わら300g,第3試験では,圧片大麦700g,アルファル
ファミール
100g,稲わら300gであった.それらのうち大麦にだけ煮沸処理をほどこして給与した.
めん羊の第一胃内のVFA総量は,第1,第2試験では,飼料煮沸の影響はなく,第3試験では煮沸により減少する傾向がみられた.このVFA組成は,第1,第3試験では飼料を煮沸することにより,プロピオン酸が減少し,C2/C3が大きくなる傾向がみられたが,第2試験では,煮沸により酢酸が減少し,プロピオン酸が増加し,C2/C3は低下する傾向がみられた.
このように,第一胃内VFAへの飼料煮沸の影響が異なって現われるのは,給与飼料中の穀類配合割合の多少,ことにその粗繊維と可溶無窒素物との量比,ひいては濃厚飼料と粗飼料との量比によるものと考えられた.すなわち,第1,第3試験のように発酵されやすい炭水化物を多量に給与した場合には,煮沸した大麦の投与により,第一胃内でかえって異常発酵をおこし,比較的可溶無窒素物が少なく,粗繊維が多い飼料を与えられた第2試験においては,煮沸した大麦の投与により,第一胃内の発酵がむしろ促進され,in vitro試験におけるとよく似たVFA組成の変化をしめしたものと考えられた.
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