【目的】
メカニカルストレスは変形性関節症を主とした疼痛や機能障害を伴う運動器疾患の一要因とされている。なかでも関節不安定性が身体組織に影響を与えることを経験的に理解しているものの、関節不安定性が異常なメカニカルストレスになり得るという科学的根拠はない。本研究では、実験モデルを用いて関節不安定性条件とその制動条件を再現し、関節内構成体に及ぼす影響について調査した。
【方法】
膝関節を対象に異なる関節不安定性を再現するため、Wistar 系雄性ラット6 か月齢15 匹を3 群に分類した (ACL 断裂による脛骨前方不安定性を惹起した: ACL-T 群、ACL 断裂後に脛骨前方不安定性を制動したCAM 群、手術を行わないINTACT 群)。
術後12 週で膝関節を採取、凍結切片を作成し、サフラニンO・ファストグリン染色を行った。滑膜、半月板、関節軟骨、骨棘について組織学的分析を実施した。また、滑膜においては炎症メディエータであるTNF- αやIL- βについて、免疫組織学染色(アビジン・ビオチン複合体法)による観察を行った。統計解析は、関節軟骨、半月板、滑膜、骨棘の組織学的スコアについて一元配置分散分析(Tukey 法)を実施した。尚、本研究は本学研究推進委員会の承認を得た。
【結果】
CAM 群の関節軟骨変性が前方・後方部で有意に抑制され(p <0.001)、後方部のACL-T 群に比較してCAM 群で有意に抑制された(p <0.001)。また、半月板においては、ACL-T 群で有意に変性が進行していたが、CAM 群とは有意差は認めなかった。
滑膜組織でも同様に、ACL-T 群で滑膜周囲の細胞増殖や線維層の肥厚を認めた(p=0.018)。TNF- αやIL-βの免疫染色において、ACL-T 群で明らかな濃染を確認した。
【結語】
解剖学的に骨構造が不安定な膝関節において、半月板や靭帯は関節の機能的安定性に重要な役割を果たしている一方、本研究結果は関節の安定性機構の破綻が滑膜炎や骨棘、変形性関節症といった関節内変性に惹起することを示唆した。
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