口腔領域への異物の迷入は,食事中の食べ物(魚骨),交通事故(自動車のフロントガラス,砂礫)など,医原性のもの(注射針の破折および皮下気腫)などにより起こる. 皮下迷入異物は,そのほとんどが皮下気腫を除いて固形物であり限局性である.
今回,私たちは口腔領域の皮下異物の迷入としては極めて稀な水道水が皮下組織へ広範囲に迷入した症例を経験したので,その概要を報告する.
症例は2歳4か月,男児. 1989年6月13日浴室で遊んでいるとき,水道の蛇口を口にくわえ取れなくなり,母親が外してみると頬部,顎下部,オトガイ部,頸部ならびに前胸部が腫脹していた. 翌日,歯科受診し入院した. 入院時の所見では頬部,顎下部,オトガイ部,頸部ならびに前胸部にかけて腫脹,発赤がみられたが捻髪音は認められなかった. CT scan像から皮下組織内に広範囲にわたる水道水の存在が確認された. 全身的処置として抗生物質および抗炎症剤を投与し,また局所的処置として温罨法と前胸部のマッサージを行った. 入院後,3日目より症状は次第に軽減し,8日目には腫脹も消失し,何ら後遺症や機能障害を残すことなく軽快,退院した.
抄録全体を表示