【目的】
Diagnosis Procedure Combination(以下DPC)とは傷病名と入院中の主要な医療手技の組み合わせにより入院医療を受けた患者を区別するための手法と定義され平成15年に特定機能病院から導入が開始されている。日本においては単なる支払い方式と認識されている傾向にあるがDPCの本来の目的は診断群の分類により医療の適正化、標準化、効率化を図り、より質の高い医療を国民に提供することにある。これまでリハビリテーションは急性期介入のEBMが確立されつつある点、また医療機関がリハ整備に消極的になるのを防ぐという点からDPCの包括からははずれ従来どおりの出来高制を堅持したいわば特別扱いであった。本論では今後、急性期医療の主流となるDPCにおけるリハビリテーション部門の現状を客観的に分析し、理学療法士の果たすべき役割について提言を加えた。
【方法】
当院は今年度DPC準備病院から施行病院へと移行した。今回我々はDPCの導入がリハビリテーション部門にどのような影響を及ぼしているのか導入前後の3ヶ月間に対して業績評価指標(以下KPI)を患者の視点、内部プロセスの視点、財務の視点という3つの多次元的視点から比較検証し分析を試みた。
【説明と同意】
本研究は当院倫理委員会及び運営管理会議において承認同意を得て実施されている。
【結果】
今回DPC導入前後のKPIを比較したところ、患者の視点における平均リハ実施期間は-8.9日、FIM改善率は+0.2%、自宅復帰率は+24.0%となった。内部プロセスの視点で病床稼働率は-0.8%、病院全体での平均在院日数は-1.0日、リハ実施患者の一般病床での平均在院日数は-10.4日となり亜急性期病床の平均在院日数は-3.0日であった。また亜急性期病床への転床までの平均期間は-10.1日と短縮された。1患者1入院あたりのリハ平均実施単位数は-15.6単位となった。財務の視点として病院全体の医業収益は-1.9%、リハビリ部門収益は-3.5%となった。
【考察】
急速な少子高齢化の進展に伴い今後、医療・介護を含んだ社会保障費用が爆発的に増大していくことが予想され国家レベルでの早急な対策が求められている。今回とりあげたDPCは医療の質と効率の向上により、より良質な医療を国民が平等に享受できるようにすることを目的としているが同時にそれを実現するためには他の先進諸国に比べ過剰とされる一般病床数の削減が必須とされ、それが機能分化、地域連携を基軸としたDPCの仕組みづくりにおけるもうひとつ目的になっていることは否めない。今回の結果ではDPCの導入後、病院全体の平均在院日数の短縮に伴いリハ実施患者の在院日数も短縮し、結果入院期間に実施するリハ単位数も減少することとなりDPCによる誘導効果が顕著に表されている。リハ従事者の立場として注目すべきはリハ目的の病床である亜急性期病床への転床までの期間が著しく短縮された点でありここには地域での機能分化、連携と同様に院内における機能分化の進展が伺える。もうひとつはFIMの改善率に明確な向上が認められないのにも関わらず自宅復帰率が有意に増加した点である。在院日数短縮への志向が強いために調整期間を要する施設入所よりも在宅を選択する方向にバイアスがかかった可能性があると予想され、この場合、訪問や通所など介護保険分野での継続したリハビリフォローの重要性が今後一層増してくるといえよう。経営面での促しはなくとも救急患者の受け入れ態勢強化、平均在院日数の短縮、病床稼働率の維持というDPCによって課される臨床的課題をクリアするためにはADLの早期再獲得による自宅退院や適切なリハトリアージなどに必然であるリハビリテーション機能の重要性が改めて浮き彫りになった結果ではないかと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近い将来、リハビリテーションがDPCに包括化されていく可能性は高く現在の施設基準の考え方や急性期医療における位置づけがドラスティックに変わっていくことも予想される。このような状況の中、我々理学療法士は急性期、回復期では引き続きEBMに基づいたアウトカムの検証により治療の適正化、標準化、効率化を進めていくことが更に求められるであろう。また、維持慢性期ではEBMのみならず社会学、経済学などの他の学際領域とのクロスオーバーを進め多角的な指標から理学療法の有用性を提示し社会貢献を果たしてことも必要であろう。診療報酬制度をはじめとした制度設計は原則、政治や行政に委ねられるべきものではあるが、我々現場の最前線にたつ理学療法士自身もまた政策動向やリハ医療が提供される仕組みあるいは社会活動における位置づけ、地域におけるリハビリテーションの果たすべき役割について更に理解を深めていくことが臨床的にも職能的にも重要になっているのではないだろうか。
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