我が国において抗生物質医薬品の品質管理の指標とされてきた「日本抗生物質医薬品基準」(「日抗基」)は,1969年8月に制定され,2000年7月までの間に4回の大改正が行われてきたが,厚生省の中央薬事審議会(中央薬審)の決定により「日本薬局方」(「日局」)に統合することとされ,統合作業が着手された経緯について前報に著述した。本報では,「日抗基」収載の抗生物質医薬品原薬を「日局」に移行する作業において直面した課題と対応策について調査・解析し,討論を加えた。
厚生省中央薬審の日本薬局方部会では,1998年3月に改正された「日抗基」収載品目の60%以上が有機合成工程を経て製造される高純度な半合成抗生物質であることを鑑みて,抗生物質医薬品を薬事法42条に規定する“基準”の対象品目から除外することを決定した。同部会では,「日抗基」収載の全品目を2001年3月に告示予定の第十四改正「日局」に統合することを意図して日本薬局方調査会の下に“総合第一小委員会”を設置し,1999年3月に統合作業に着手した。当時の「日抗基」は142成分の174原薬と314製剤を収載する基準書であったが,第一段階として原薬の「日局」への移行作業が行われた。抗生物質医薬品製剤に関しては,1999年9月に制定した「日本薬局方外医薬品規格第四部(抗生物質医薬品)」(「局外規四部」)に,「日抗基」収載の製剤全品目を移行する作業を先行して実施した。
従来,「日抗基」の医薬品各条は安全性と有効性を担保するための最小限度の品質規格と試験法を定めた“ミニマム規格”であって,多くの事項が“「日抗基」外規格”と称される品目毎の“承認事項”とされており,「日局」収載品目の医薬品各条が“承認不要”な“フル規格”であることと大きく相違していた。それ故,「日抗基」収載品目の「日局」への移行作業は,「日抗基」の“ミニマム規格”である医薬品各条に品目毎の“承認事項”を加えることにより,「日局」収載品目に相応しい“フル規格”の医薬品各条を作成することであった。抗生物質医薬品の品目毎の“承認事項”は,個別の製薬企業にとっては知的財産と見做される社内規格であり,その開示には紆余曲折があったが,第一段階として第十四改正「日局」に47原薬を“フル規格”の医薬品各条として移行し,18原薬を「日局」独自の“ミニマム規格”の医薬品各条として収載した。
厚生省は,第十四改正「日局」告示の直前の2001年1月に“厚生労働省”に改組され,“総合第一小委員会”も“抗生物質委員会”に名称変更されて作業の進行が加速された。同小委員会の延べ27回の会議を経て,2002年12月に制定された第十四改正「日局」第一追補に「日抗基」より抗生物質医薬品原薬82品目が移行された。その結果,「日抗基」には収載品目が無くなり,「日抗基」は制定から33年間にわたる抗生物質医薬品の品質管理の指標という使命を終えて廃止された。
「局外規四部」に移行された抗生物質医薬品製剤は,“フル規格”の医薬品各条が整備された品目から,順次,「日局」へ移行される作業が進められており,2019年5月告示予定の第十七改正「日局」第二追補までに83製剤が「局方医薬品」として収載されることとされている。
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